3−38:白い翼の、元ダークネスバット
「……きぃ?」
ダークネスバット改め、ホワイトバットが辺りをキョロキョロと見回している。見た目はただ白くなっただけのブラックバットだが、もしかしたら新種の強力なモンスターかもしれない。
「"プロテクション"」
とりあえず距離を置き、ホワイトバットの様子を観察する。効果が切れたプロテクションも再度掛け直し、何が起きてもいいように備えた。
……さあ、どうくる?
「きぃ?」
と、ホワイトバットの双眸が俺の方を向く。その瞳にドス黒い感情は見当たらず、もはや憎悪の色は無いように見えた。
「きぃ!」
ホワイトバットが軽やかに羽ばたき、フワリと宙に浮いた。そのまま、俺に向けてパタパタと飛んでくる。すわ攻撃か、と一瞬身構えたが……どうも違うように見えるな。
これが攻撃なら、速度を上げて弾丸のようにまっすぐ飛んでくるはずだ。現にダークネスバットの攻撃は、スピードを活かした突進攻撃を主体としていたからな。
だが、目の前のホワイトバットはパタパタと羽ばたき、俺を見据えながらゆっくりと飛んできている。とても攻撃をしてくるような雰囲気ではない。
……まあ、何かあってもプロテクションがある。もう少しだけ様子を見てみるとしよう。
「きぃっ!」
ホワイトバットは、そのまま俺の左肩にトンと乗っかってきた。着地の衝撃は多少あったものの、とても軽く痛みは無い。
そして、己の存在をアピールするかのように、左の翼をバッと上げた……うん?
そういえば、両翼の傷がいつの間にか無くなってるな。ホワイトバットに変化した時に、自動的に治ったのだろうか?
「きぃ♪」
「………」
少し考えごとをしていると、ホワイトバットがスリスリと体を擦り寄せてきた。お日様の香りがやんわりと漂い、左頬に温もりを感じる。
……え、なんですかこれ、めちゃくちゃ可愛いんですけど。邪気も全く感じないし、本当にモンスターなのかこいつ?
「………」
――ナデナデ
「きぃ♪」
試しに頭を指でこちょこちょしてみると、ホワイトバットが満足そうな鳴き声をあげた。どうやらお気に召したようで、もっともっととねだるように頬擦りをしてくる。
……あ、これはヤバい。表情筋が緩むし、沼るかも。思わず語彙力が低下してしまうくらいに、ホワイトバットが可愛く見える。
「……!」
オートセンシングが、モンスターの接近を検知する。ホワイトバットの鳴き声を聞きつけてきたのだろうか、なんともタイミングの悪いことだ。
「ギッ!? ギィィィィッ!」
通路の向こうからやってきたのは、ホーンラビット1体だった。こちらの姿を見つけたようで、姿勢を低くして激しく威嚇してくる。これはもう戦うしかないな。
……ただ、実は魔力残量がかなりマズい。さっきのプロテクションで残りが2割弱まで減ってしまい、地上まで保つか怪しいレベルにまで消耗してしまっている。
ダークネスバット戦、確かに侮らず本気でいったが……少しやり過ぎたか。
「きぃっ!」
ふわり。
ホワイトバットが左肩から飛び立った。そのままホーンラビットの側面を狙える位置に向けて、ダークネスバットと遜色ないくらいの速度で飛んでいく。
「ギィ……」
ホーンラビットの視線が、移動するホワイトバットを追いかけていく。
……あれは、もしかして警戒してるのか? 確かに、ホワイトバットは俺に懐いてくれているが……モンスターだぞ? モンスターの立場から見て、ホワイトバットは警戒すべき敵である、ということか?
よし、試してみようか。
「らぁっ!」
「ギッ!?」
あえて大きな声を出し、数歩走り寄ることでホーンラビットの注意をこちらに引く。
「きぃぃぃぃぃっっっ!!」
――ドガッ!!
「ギイィィッ!?」
その隙を突いて、なんとホワイトバットがホーンラビットに向けて突進攻撃をかました。しかも、ホーンラビットの角に刺さらないようしっかりと側面を狙って。
横合いから体当たりを食らったホーンラビットは、まるでスーパーボールのように跳ねながら転がっていき……そのまま壁に激突して、角が圧し折れた。
「ギッギィィィィ……」
「きぃっ!」
――ガブッ!
「ギッ!?」
追撃とばかりに、ホワイトバットがホーンラビットの背中に噛みつく。ホーンラビットは振り解こうと必死に暴れるが、ホワイトバットはがっちりとしがみついて離れない。
やがて、ホーンラビットの動きが段々と鈍くなっていき……体力が尽きたのか、その場に倒れ込む。そのまま、ホーンラビットの体は光となって消え去り、後には魔石と角が残された。
そのドロップしたアイテム2つを、ホワイトバットが口に咥えて戻ってくる。自然な様子で俺の左肩に着地したホワイトバットが、アイテムを俺に渡してくれた。
「きぃっ!」
「……おいおい、マジかよ」
もはや、疑いようもないだろう。
この白いコウモリは、俺の味方だ。モンスターが俺の仲間になったのだ。
「………」
とりあえず、ホワイトバットからドロップアイテムを受け取る。同時にホワイトバットの頭を指で軽く撫でると、ホワイトバットは気持ち良さそうに俺へと擦り寄ってきた。
「きぃ♪」
「………」
……なるほど、これが博愛のステッキの力というわけか。RPGではロマンともいえる、モンスターを仲間にできる効果を持ったアイテムというわけだ。そりゃ真紅竜みたいな超強力なモンスターが守護するわけだよ。
でも、これさえあれば夢の仲間モンスター軍団を作りあげることも……。
「……ん?」
あれ、なんか杖に引っ付いてる博愛のステッキの様子がおかしいな。真っ白な色をしていたはずが、今は完全に黒色に染まっている。
……嫌な予感がする。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス一覧"」
ステッキをアイテムボックスに収納し、一覧を見てみることにした。
☆
・ブルースライムの魔石×31
・ホーンラビットの魔石×276
・ブラックバットの魔石×443
・ゴブリンの魔石×579
・グレイウルフの魔石×89
・リザードマンの魔石×2
・爬人隊長の大魔石×1
・ブルージェリーの魔石×7
・装備珠(赤・ランク1)×4
・装備珠(赤・ランク2)×5
・装備珠(赤・ランク3)×1
・装備珠(青・ランク1)×8
・装備珠(青・ランク3)×1
・装備珠(黄・ランク1)×5
・装備珠(黄・ランク2)×3
・装備珠(黄・ランク3)×2
・ブルースライムの核×5
・ホーンラビットの角×9
・ブラックバットの翼×2
・ゴブリンの棍棒×2
・憎悪のステッキ
・ポーション×1
・宝の地図(No.335524)
☆
ついでだし、ステッキ以外のアイテムも順番に見ていこうかな。
まず、魔石の数がえぐいことになっている。特にゴブリンの魔石は、いつものことだが数が一番多い。500個を超えるのはすごいな……り
あと、ホーンラビット角が増えたのでついでに確認してみたが、特殊ドロップ品が結構溜まってきている。アイテムボックスの容量的には問題無いが、そろそろ処理方法を考えていかないとな……。
……まあ、今はそんなこと、大した問題ではないか。
「憎悪のステッキ……?」
博愛のステッキだったはずが、名前が変わっている。見た目も黒くなっていたし、一体どういう……あ、いや、そういうことか。
「………」
「……きぃ?」
多分だが、博愛のステッキがダークネスバットの憎悪の感情を吸い取ったんだろう。それで、ダークネスバットはホワイトバットに変化して俺の仲間になり……代わりに博愛のステッキは憎悪を吸収して黒く変色し、憎悪のステッキへと変化したわけだ。
このままじゃ使えない……いや、それどころの騒ぎじゃないかもしれないな。
「モンスターを特殊個体化させたり、仲間モンスターを敵に戻したりできてしまうかもしれないな……」
「きぃっ!?」
俺の独り言に反応したのか、ホワイトバットがイヤイヤと首を横に振る。
薄々、そうじゃないかなとは思っていたが……どうやら、ホワイトバットは人間の言葉が分かるらしい。誰に学んだわけでもないのに、だ。
不思議な話だが、ダンジョンならばさもありなん、だろう。あまりホワイトバットを不安にさせてもしょうがないし、これからは滅多なことは言わないようにしよう。
「いやいや、お前にそんなこと絶対にしないって。安心しなよ、ホワ……」
とりあえず安心させようと、頭を撫でながら声をかけ……ふと、言葉が止まる。
せっかく仲間になってくれたモンスターを種族名やらお前呼びというのは、なんとも寂しい。やはり、ここは名前を付けてあげるべきだろう。
しかし……うーん、どうしたものか。俺のネーミングセンスなんて、たかが知れてるからなぁ。それでも、俺自身の手で名付けをしてあげたい。
「元はダークネスバットだったから、◯ス……はちょっと安直すぎるし色々ヤバそう。かといって、バットとかシロとかはもっと安直過ぎるし、色繋がりでブラン……はちょっとイメージに合わないしなぁ。うーん……」
「きぃ」
なんとなくだが、この子には日本風の名前をつけてやりたいところだ。
白、白……雪、ユキ、も悪くはないのだが、やはりちょっと安直な気がする。他に白いものといえば、米、塩、砂糖……うーん、それはちょっと違うよな。
「空を飛ぶ、白いコウモリ……あ」
そういえば、太陽も地球から見る分には白色だったよな。コウモリのイメージにはあまりそぐわないが……まあ、そもそも全身真っ白なコウモリというのが、まず居ないからな。
……よし、決めた。
「お前の名前は"ヒナタ"だ。よろしくな」
そう言いながら、ヒナタの頭を優しく撫でた。
その時だった。
「きぃっ!!」
「な、なんだなんだ?」
ヒナタの鳴き声と同時に、ヒナタの体が淡く光りだす。ただ、その光はすぐに収まっていき……入れ代わるようにして、システムアナウンスが脳内に鳴り響いた。
――名付けを行ったことで、"ヒナタ"は正式に貴方の使い魔となりました
――今後は魔石を食べさせることで、使い魔を強くできます
――正式な使い魔となったモンスターは、階層境界やダンジョンゲートを跨いで移動可能となります
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




