3−37:戦闘、凶黒蝙蝠(ダークネスバット)
不意に遭遇した、ブラックバットの特殊個体――ダークネスバットとの戦い。
その戦いで先手をとったのは、俺ではなくダークネスバットの方だった。
「キィッ!」
天井から鳴き声と共に飛び立ったかと思えば、凄まじいスピードで俺に向かって飛んでくる。その速さはブラックバットの比ではなく、黒いモヤのようなものを纏って突進してくるその姿は、さながら黒い弾丸のようだった。
「ギッ!!」
――ガギィッ!!
「ぐっ……!」
ダークネスバットの攻撃に盾を合わせられたのは、偶然だったのか必然だったのか。ただ、爬人隊長戦で不意打ちファイアブレスを食らった経験が活きたのは間違いなく、自画自賛になってしまうがまさに完璧な防御だった。
……にも関わらず、なぜか左腕全体に微かな痛みが走る。一体どういうことだ?
「……血?」
腕を確認してみると、なんと左腕の上腕辺りから僅かに出血し、ローブを内側から赤く染めていた。左腕の動きにほとんど支障は無く、かすり傷程度のダメージでしかないようだが……なぜだ?
「キィッ!」
おっと、考え込んでる暇は無いな!
「"ライトショットガン"!」
――パァンッ!
攻撃後に一旦距離を開け、再度突撃する構えを見せたダークネスバット。その突撃が始まった瞬間に合わせて、ライトショットガンを撃ちかける。
もちろん、これで倒せるとは微塵も思っていない。これまで戦ってきた特殊モンスター……といってもヘルズラビットと爬人隊長しかいないが、いずれもライトショットガンはほとんど効かなかった。ダークネスバットも同様だとは思うが、せめて牽制になれば――
――バチィィッ!!
「ギィッ!?」
光弾を受けたダークネスバットが、派手な破裂音と共に大きく体勢を崩す。ブラックバットと違って耐久力はあるようで、大したダメージにはならなかったようだが……どうやら、突進攻撃をキャンセルすることができたらしい。
もしや、ダークネスバットは光属性が弱点なのか? よし、それなら俺の得意分野だ!!
「"ライトショットガン・ダブル"、"ライトショットガン・ダブル"、"ライトショットガン・ダブル"」
――バチィン! バチィン! バチィン!
「ギッ!? ギィッ!? ギィィッ!?」
ライトショットガン・ダブルを3連射し、ダークネスバットを攻撃する。光弾が直撃する度にダークネスバットの体が大きく揺れ、弾き飛ばされた。
……よし、これはかなり手応えアリだな。幸い、爬人隊長よりは強くなさそうだし、このまま一気に押し切ってしまおう。
「"ライトショット――」
「――キィッ!!」
魔法が放たれるよりも早く、ダークネスバットが一際大きく鳴いた。その次の瞬間だった。
ダークネスバットの姿がぶれ、フッとかき消えた。
「……へ?」
オートセンシングの検知にも、ダークネスバットは引っ掛かっていな……いや、違う!
「後ろげふぉっ!?」
「キィィィッッッ!!」
オートセンシングがダークネスバットを捉えた時には、ダークネスバットは既に俺の背後へと肉薄していた。防御態勢をとることもできず、背中へまともに突進攻撃を食らってしまう。
幸い、プロテクションのおかげで突進攻撃そのもののダメージは大幅に軽減できたが……。
「ぐぅっ……」
やはり、と言うべきか。盾で攻撃を防いだ時と同じく、背中に鈍い痛みが走る。背後ゆえ直接確認することはできないが、おそらくは出血しているのだろう。
……やはり、ダークネスバットには防御を貫通してダメージを与える能力があるらしい。1つ1つは大したダメージではないが、"塵も積もれば山となる"のことわざ通り何度も受けるのは危険だろう。あのスピードで、この特殊能力……本当に厄介極まりないな。
「キィッ! キィッ!」
一方のダークネスバットだが、ライトショットガンで与えたはずの傷がいつの間にか癒えている。再生能力を持っているのか、あるいは通常攻撃にHPドレイン効果的なものが付いているのか……いずれにせよ、ダークネスバットは翼をパタパタとしきりに羽ばたかせて、元気一杯空中を飛び回っている。
……あ〜、これは正直初動をマズったな。爬人隊長よりは弱いだろう、ブラックバットのように耐久力は大したことないだろう……と侮った俺の、明確なミスだ。
今日だけで何回ミスしてるんだか、俺。
だから、ここからはもう侮らずにいく。魔力の節約だとか、相手が強いとか弱いだとか……そういう余計なことは一切考えずに、全力で戦おう。
「"オートセンシング・シクスティーン"」
まずは、オートセンシングに使う光の走査線の本数を16本に増やす。元々は4本で探知していたので、単純に4倍増となる。
……小さな体躯にあのスピードで飛び回られては、走査線4本では検知が全く追い付かなかった。そのせいで攻撃直前に気付くことになり、回避行動なり防御体勢なりをとる時間的猶予が無かった。それでは全く意味が無いので、先に手を打っておく。
「"エンチャント・ライト"、もう1つ"エンチャント・ライト"」
ついでに、光のエンチャントを武器と盾に追加しておく。
最初に突進攻撃を仕掛けてきた時に、ダークネスバットが纏っていた黒いモヤの正体……俺の推測が正しいかどうか、これでハッキリするだろう。
ちなみに、クイックネスは使わないことにした。いくら早く動けても、あのスピードに対抗しようとすると俺の動体視力が追い付かなくなるからだ。そんな状態では攻撃を当てられないので、魔力の無駄遣いとなる前にやめておく。
「キィィィィッ!!」
大きな鳴き声と共に、ダークネスバットの姿が再び掻き消える。
……だが、オートセンシングの走査線を16本に増やしたことで、ダークネスバットの動きをほぼ完璧に捉えることができている。ほんの一瞬だけ、スピードが3倍くらいになっているようだが……やはりこれも、ダークネスバットの特殊能力というわけか。
そして、今度は俺の背後ではなく、頭上から突進攻撃を食らわせようと迫ってきているようだ。同じ手を使わず、攻め方を少しずつ変化させる……やはり、特殊個体は元のモンスターと比べると知能が格段に高い。
しかしまあ、想定の範囲内ではあるがな。
「キィッ!」
――ガギッ!
「おっも」
ダークネスバットの突進噛みつき攻撃を、盾を掲げてしっかりと受け止める。さっきはこれで防御を貫通し、左腕にダメージが入ってきたが……。
「……よし、やはりノーダメージだな」
今度は何も起きなかった。やはり、俺の推測は正しかったようだ。
ダークネスバットの攻撃は、闇属性を帯びている。それが浸透し、防御を無視してダメージを通していたようだ。今回は光属性のエンチャントを盾に付与していたので、闇属性の魔力が打ち消されて浸透しなかったのだろう
ダークネスバットが纏っていた黒いモヤのようなもの=闇属性の魔力ではないか、と推測したのだが……見事に正解を引き当てることができたようだ。
「キィ?」
攻撃の手応えの無さに違和感を感じたのだろう。ダークネスバットが空中で首を傾げている。
そんな暇は無いというのにな。
「"サンダーボルト・スパークウェブ"」
雷属性の魔力でできた拳大のボールを、ダークネスバットに向けて投げつける。何かを察したダークネスバットが、回避行動をとろうとするが……それより数瞬早く、雷ボールが爆ぜた。
――バチン!
電撃でできた網がボールから飛び出し、一気に広がる。その勢いのまま、電撃網は空気抵抗を完全に無視して、ダークネスバットを捕らえるべくもの凄いスピードで飛んでいった。
――バチバチッ!
「ギッ!?」
広がりきった網を避けきれず、ダークネスバットの左翼に電撃網の端が引っかかった。それを足掛かりに左翼全体へ網が巻き付き、激しく焼き焦がしていく。
「ギィッ!!」
――バチン!!
しかし、左翼が焼き切れる前に電撃網を振り払い、天井近くまでダークネスバットが舞い上がっていった。やはり特殊モンスター、一筋縄ではいかないか。
だが、その飛翔スピードは明らかに落ちている。飛び方もやや不安定で、どこか頼りない感じだ。左翼にダメージを受けているのは間違いない
よし、間髪入れず追撃だ。翼の傷が癒えてしまわないように、更に負荷をかけてやろう。
「"ルビーレーザー・トラッキング"」
――ビッ!
ダークネスバットに向けて、1本のレーザーを発射する。その弾速は遅く、当然ながらダークネスバットはレーザーを避けるが……ここからが、この魔法の真骨頂だ。
――グゥィン
「キィッ!?」
レーザーが宙空でクルンと曲がり、ダークネスバットへと向き直る。そして再び、ダークネスバットを狙って直進し始めた。
トラッキングという名の通り、この魔法は弾速を犠牲に、込められた魔力が霧散しきるまで獲物を追尾する。今回込めた魔力量は、エンチャント分も含めて5分ほどダークネスバットを追尾し続けられるように設定した。
「"ルビーレーザー・トラッキング"、"ルビーレーザー・トラッキング"、"ルビーレーザー・トラッキング"……」
――ビッ! ビッ! ビッ!
――グゥィン ビッ! ビッ! グゥィン
同じ魔法を立て続けに3連射し、計4本の追尾レーザーがダークネスバットを追い回し始めた。そのレーザー群を、ダークネスバットは回避していく。
「"ライトショットガン"」
――パァン!
「キィッ!?」
時折こちらを狙おうとしてくるので、ライトショットガンで適度に牽制しておく。自分が撃った魔法同士は干渉しない……この法則のおかげで、レーザーが飛び回る中でも気にせず他の魔法を放つことができている。
そうして、最初こそ余裕をもってレーザーを回避していたダークネスバットだったが……360°全方位から飛んでくるレーザーを避け続けるうちに少しずつ疲弊し、動きが鈍くなってきた。
「キッ、キッ、キィィィッ!」
気合を入れるように、ダークネスバットが大きな鳴き声をあげる。
……これは、スピードアップ能力を発動して俺に高速突進攻撃を仕掛けてくる合図だな。己の劣勢を察したのか、どうやら一発逆転を狙ってくるようだ。
「"ルビーレーザー・ディフュージョン"」
よろしい、ならば迎撃だ。ライトショットガンでは威力が足りないようなので、より強力な広範囲攻撃魔法を撃ち込んでやろう。
右手から光の玉を出し、空中に静止させる。さあ、ダークネスバットよ。大量の光線を潜り抜けて、ここまでやってこられるかな?
――バチィン!
――ビビビビビビビ!!
「キィッ!? キィッ! キィッ! キィィィッ!」
設置した光玉が破裂し、無数の光線がダークネスバット目掛けて放たれる。ディフュージョンの名の通り、拡散されたレーザー群がダークネスバットを襲う。
ちなみに、自分の方にはレーザーが飛ばないように調整している。大きく動かなければ安全だ。
――ビシュッ!!
「キィッ!?」
無数に飛び散った光線のうち、一筋の光線がダークネスバットの右翼を撃ち抜く。
その痛みからか、ダークネスバットは大きくバランスを崩したが……一瞬で体勢を立て直し、レーザー乱れ撃ち攻撃から最後まで逃げ切った。おお、すごいすごい。
「【ファイアブレスⅡ】」
――ゴォォォォォ!!
「キィッ!?」
さて、お次はこれだ。空中にいるダークネスバットを炎ブレスで狙う。
両翼にダメージを受けて飛翔速度が落ちた状態で、果たしてどこまで避け続けられるかな?
「【ファイアブレスⅡ】、【ファイアブレスⅡ】、"ライトショットガン"、"ライトショットガン"」
――ゴゴゴゴゴォォォォォォォォォ!!!
――パァン! パァン!
ちなみに、ファイアブレスは同時に複数発発射することができる。他の魔法を併用することもできるので、このようにライトショットガンで弾幕を張りながら、安全に炎で相手を狙うこともできる。
炎に追われ、光の散弾を撃ちかけられ、更に追尾レーザーにも追い回され……さて、ダークネスバットよ。ここからお前に、逆転の芽はあるのか?
――バチッ!
「ギッ!?」
――ゴゴゴゴゴ!!
――ビシュゥッ!!
「ギィィィィィィッッ!?」
光の散弾に引っかかり、ダークネスバットの体勢が揺らぐ。そこに、炎と追尾レーザーが殺到した。
炎の中から、ダークネスバットの悲鳴が聞こえた……その直後、俺が放っていた全ての攻撃が消える。そこから、ダークネスバットが地面へと落ちていくのが見えた。
遂に、黒き蝙蝠を地上へと墜とすことに成功した。
「………」
慎重に、ダークネスバットへと近付いていく。ダークネスバットは必死に顔を上げて、こちらを睨み付けているようだが……もはや、再度飛び立つだけの余力は残っていないようだ。
「"ライトニ"……?」
あまり放置しても、良いことは何も無い。トドメを刺そうと、杖を掲げて雷魔法を唱えようとした……その時だった。
――お待ちなさい……
……まただ。博愛のステッキが俺の杖と同化した時に聞こえた声が、また俺の頭の中に響く。同時に、詠唱が強制的にキャンセルされた。
……そう、俺自身の意思によってではなく、不思議な力で魔法を掻き消されたのだ。
――最後は、その杖でもって凶黒蝙蝠を倒すのです……
そして、不思議なシステムアナウンスがこんなことを言ってきた。凶黒蝙蝠とは、おそらくダークネスバットのことだろう。
魔法ではなく、杖で直接? 一体全体、どういうことだろうか……?
まあ、やってみれば分かるか。
「……強かったよ、ダークネスバット。最後は、手ずからトドメを刺してやる」
「キィ……」
杖を大きく振り上げ……ダークネスバット目掛けて、勢い良く振り下ろす。その杖が、ダークネスバットに当たった……。
その瞬間だった。
「キィィィッッ!!」
「なっ、なんだ!?」
杖から眩い光が放たれ、辺りを包み込んだ。
やがて、光が止む。フラッシュかと見まごうくらいに強い光だったが、不思議と優しさも感じる光だった。
「おいおい、一体何が起こって……?」
ゆっくりと、目を開ける。
真っ白なコウモリが、そこに佇んでいた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




