3−36:今日の探索はこれにて終了……あれ、そういえば何か忘れてるような?
「……ああ、本当にもったいなかったな」
ブツブツとそう呟きながら、階段を下りて第5層に戻る。亀岡ダンジョンではない、日本のどこかにあるダンジョンの第4層で探索者を助け、良い事をして気分は良いのだが……それとこれとは話が別だ。
「ラッキーバタフライ、せっかく見つけてたのにな……」
未だに、俺はラッキーバタフライと戦えなかったことを未練がましく引きずっていた。これが亀岡ダンジョン第4層で起きていたら、どれだけよかったことか……。
そんな益体もないことを考えること、既に10回以上。幸いにもモンスターとは遭遇しないまま、さっきファイアブレスで道を開いていた場所あたりまで移動した……つもりだったのだが。
「……ん? あれ、道が無い?」
そこに道は無く、あるのは背の高い藪だけ。炎で切り開いたはずの道は、もう高い藪に覆い尽くされてしまっていた。
一面の草壁が風に揺られ、ザワザワとざわめいている。
「おいおい、またファイアブレスで道を開く所からスタートか」
愚痴が思わず口を衝いて出てしまったが……しかし、道が塞がるのも仕方ない部分はあるだろう。道がいつまでも残ったままでは、別ダンジョンとの行き来が簡単にできてしまうのだから。さすがにそれは許さない、というダンジョンからの意思表示なのかもしれない。
この場を離れていたのは、大体30分くらいだろうか。ダンジョンの草木とは、相当な繁茂力を持っているようだ。
「………」
時刻が気になってスマホを見ると、午後3時まであと2分くらいだった。ここから亀岡ダンジョン第5層の領域まで移動するのに、おおよそ1時間弱。更に地上へ戻るのに、もう1時間弱かかると見積もれば……午後5時くらいにはダンジョンゲートに到着できそうか。
ただ、今日はかなり歩き詰めだったせいか、体力面での疲れも少し出てきた。都度ヒールで回復したつもりが、あれは栄養ドリンクみたいなものだったか……疲れを消し去るのではなく、一時的に持ち越してただけっぽい。
亀岡ダンジョン側の第4層に行く前に、少し休憩を取ってもいいかもしれないな。
「【ファイアブレスⅡ】」
――ゴォォォォォ!!
スマホをしまい、藪に向けて炎を吐く。俺の地図魔法に、自身の位置や向いている方向を示すような機能はさすがに無いが……大岩の開口部の向きと道が延びている方向を併せて考えれば、帰りの方角はおおよそ特定できる。多少のズレはあるかもしれないが、1時間進んで見つからなかったらまた考えよう。
「よし、どんどん進んでいこう。【ファイアブレスⅡ】」
――ゴォォォォォ!!
「ギャッ!?」
「ワゥッ!?」
「やっぱりいたか。"アイテムボックス・収納"」
藪を焼き払うと、そこからゴブリンやグレイウルフの悲鳴が聞こえてきた。帰りも相変わらず藪に潜み、俺の命をつけ狙う戦法をとっているようだ。
まあ、ならばこちらもやり方を変えず、距離をとって藪を炎で焼き払うだけだがな。単に行きと同じことが繰り返されるだけだ。
個人的にはとてもありがたいが、探索者としては実に退屈な仕様だと思う。少しくらいは変化があっても良いと思うが、浅い層でそれは難しいのかもしれないな……。
◇
50分ほどかけて、4キロほどの道のりを戻ってきた。幸いにも向きのズレはほとんど無く、下り階段の広場を掠めるように到着できた。
行きに比べるとモンスターの数がやや少なく感じたが、あれだけ倒したのでまだポップしきってなかったのかもしれないな。
「"ビューマッピング"……うん、変わらないな」
念のためビューマッピングで確認したが、亀岡ダンジョンで間違い無いようだ。ならば、あとはもう地上に帰るだけだ。
「………」
さて、ここからどのルートを通って行くか。濃い藪を突っ切るか、遠回りでも道を進むか。川沿いの道……は体力的にキツいので、今日はやめておくことにした。
……よし、決めた。せっかくだから、今日は藪を焼いて最短ルートを進むぜ。
「【ファイアブレスⅡ】」
――ゴォォォォォ!
「ワウッ!?」
ゴブリンやグレイウルフの悲鳴をBGMに、藪を焼き分けて進んでいく。
そして、5分も経たないうちに上り階段が見えてくる。そのまま階段を上り、第5層を立ち去る……前に、一度フロアの方へと振り向いた。
「………」
今日は、本当に色々なことがあった。博愛のステッキなる物を入手し、真紅竜や爬人隊長に襲われてどうにか生き延びて、他のダンジョンにワープ?して、若き探索者たちを救援して……一生に一度体験するかどうか、みたいなことが立て続けに起こった。
第5層、通過するだけのつまらない階層かと思ったのだが。ほんと、良い意味でも悪い意味でも期待を裏切るような出来事が満載だったな。
「……疲れた」
だからこそ、体力的に今もの凄くしんどい。真紅竜の時は全力疾走しまくり、午後は午後で往復10キロ近い距離を歩いたからだろう。
ヒールで強制的に回復させてもいいが、後の反動が少し怖い。今でさえ、午前の分の疲れも一緒に来た感じで足が若干ガクガク状態になってしまっているというのに……。
地上へ帰るために、次は第4層を突破する必要がある。万が一がある以上、やはりここで一度休憩を入れておいた方が良いかもしれないな。
「………」
現在時刻は、午後3時58分。帰りはもう全力疾走したくないので、地上までざっと1時間弱かかると仮定して……まあ、30分くらいは休憩してもいいか。30分でどこまで体力を取り戻せるかは分からないが、不安材料を抱えたまま第4層に突入するよりはよっぽど良い。
ゆっくりと階段を上り、第5層を後にする。階段の中腹くらいまで上がったあとは、モンスターが来ていないことを確認してスマホでアラームをセットし、横になった。
熟睡はしない、目を閉じるだけだ……じゃあ、おやすみなさい。
――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……
「……ん、30分経ったか」
30分が経過したことを告げるアラームが鳴り響き、階段に寝転がらせていた体をゆっくりと起こす。寝る前は体が重く感じていたが、今はだいぶ軽い感じになった。
……なんだか今日は寝転がってばかりだな、俺。でもさ、魔力の回復効率がすっごく良いんだよコレ。
今だって、たった30分の休憩で2割近く魔力が戻ったし。昼の時は2時間休憩して9割近く魔力を回復できたので、時間が長くなると効率も若干良くなるみたいだな。
……さて、と。体力も魔力も思ったより取り戻せたし、いい加減出発しなければダンジョンを出るのが遅くなってしまう。
「………」
階段の上をじっと見据える。他のダンジョンにお邪魔するという予想外の出来事が起こったため、本日3回目の第4層突入だ。昨日みたいに、他の探索者が第4層の掃除をしてくれてたら楽なのだが……そちらはあまり期待しないでおこう。
階層境界の近くまで移動する。そこで、フラッシュを放つ準備をして……よし、フロアに突入だ!
「チェック!」
第4層に上がり、素早く周囲を確認。探索者無し、モンスター多数。
今日は第4層まで来た探索者がいなかったのか、結構な数のモンスターが湧き直しているようだった。ちょっとだけ少ないようにも見えるが、これだけモンスターが居ては誤差の範囲でしかない。
まあ、それならそれでいつもの戦法が効くんだけどな!
「"フラッシュ"!」
「「「「ギャッ!?」」」」
「「「「キィッ!?」」」」
「「「「ギィィッ!?」」」」
フラッシュを放ち、モンスター共の動きを止める。あとはもう、おなじみの流れだ。
……よし、魔力充填完了。食らえ!
「"ライトニング・ボルテクス"!」
――ゴロゴロゴロ……
魔法を放ち、すぐさま階段を10段ほど駆け下りる。
――カッ!!
――ドドドドドドド!!
その直後、第4層のフロア中に無数の雷が降り注いできた。
「……ま、こんなもんだよな」
落雷が止んだタイミングを見計らい、再び第4層へと上がる。モンスターは既に全滅しており、ドロップアイテムがそこかしこに散乱していた。
魔力残量は、ちょうど7割くらい。余裕は十分過ぎるくらいにある。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"……っと、今回は3回でいけたな」
ドロップアイテムの数は、そのままモンスターの数に繋がる。目測で予想はしていたが、やはり今回はモンスター数が少なかったらしい。
「……台座に寄ってから帰ろうかな」
明日は休日にする予定なので、今のうちに装備珠のランクアップを済ませておくことにした。
「………」
道中でポップしたモンスターを倒しつつ台座に立ち寄り、用事を済ませたらさっさと第3層への階段を上っていく。これで手持ちのランク3の武器珠が1つ、防具珠が1つ、装飾珠が2つになった。
さて、後はもう地上に帰るだけだ。第3層の階段部屋がすぐそこに見え……。
「……!?」
何者かに見られた気がして立ち止まり、ふと顔を上げる。
「「………………」」
……ああ、そうだった。あまりにも色んなことがありすぎて、その存在をすっかりと忘れていた。
行きの道中で遭遇した、あの不思議なブラックバット。それが今、強い存在感を放ちながら第3層で俺を待ち構えていた。
「……もしかして、ブラックバットの特殊個体か?」
こちらをじっと見つめる、つぶらな双眸。そこに深い知性の輝きと、ドス黒い憎悪を確かに感じる。色合いや体の大きさは、元のブラックバットと全く変わらないが……それだけに、見分けが付きにくいという恐ろしさも兼ね備えている。
爬人隊長もそこは同じだったが、あいつの場合は更に厄介だった。普通のリザードマンも知能が高く、その点からの判別が非常に難しかったからな。戦闘が終わってドロップアイテムを確認してから、ようやく判別できたくらいだった。
それと比べると、ブラックバットの特殊個体……いや、言いにくいな。
「……ダークネスバット」
「……キィ」
そう、ダークネスバットは普通のブラックバットと比べて、明らかに挙動が違う。ブラックバットは待ち伏せをしないから、その時点ですぐに見分けが付くわけだ。
……まあ、だからといって戦いを避けられるわけではないのだけどな。未知の特殊モンスターに背中を見せるのは危険だし、ここは戦うほかないだろう。
「"プロテクション"」
魔力を5%ほど使い、プロテクションを唱える。ダークネスバットは、その間も天井から逆さにぶら下がりながら、こちらをじっと睨み付けていた。
「……よし、勝負だ!」
「キィッ!」
意を決して第3層に飛び込む。さあ、ダークネスバットよ。俺と勝負だ!
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