3−29:ヒミツの神殿探索道中
――コツーン、コツーン、コツーン……
「……結構響くな、足音」
背伸びして手を伸ばせばギリギリ天井に手が届き、3人並べば道が塞がってしまうくらいに通路が狭いせいだろうか。シンと静まり返った大神殿の通路に、自分の足音だけが高く響き渡っている。
その歩みは、我ながらとても遅い。早く進みたい思いを必死に抑えつつ、罠やモンスターを警戒しながら一歩一歩慎重に進んでいるからだ。しかし、上も下も横も前も視界のほぼ全てが白亜一色に染まりきり、閉塞感や圧迫感が俺の焦りをことさら助長してくる。
それでも、焦りは絶対に厳禁だ。ただでさえ何が起こるか分からない場所だというのに、冷静さや慎重さを欠いた状態になってしまったら……ひとたび何かが起こった瞬間、致命的な結果を招きかねない。慎重に慎重を重ねて、歩を進めなければ。
幸いだったのは、光源らしきものが見当たらないのに通路が明るいことだ。わざわざ魔法で照らす必要が無く、また一本道なのでビューマッピングを使う必要もない。大神殿へ入る前に使った魔力の消耗分を取り戻す勢いで、今も魔力は回復し続けていた。
「………」
まるで螺旋形スロープのように、大神殿の通路はややきつめに左へカーブしながら、地下へと少しずつ潜っていく。通路を歩き始めて既に10分……果たして、この先に何が待ち受けているのだろうか。
特に何も起こらないまま、ただただ時間だけが過ぎていく……かと思っていた、その矢先のことだった。
「……うん? 部屋か……」
全く代わり映えのしなかった風景に、ある意味で待ち望んだ変化が訪れる。相変わらず全方位が白亜色に染まっているものの、第2層のプチモンスターハウスくらいには広い部屋が俺を出迎えてくれた。
「………」
身を屈め、警戒しながら部屋の中を覗き込む。しかしモンスターの姿は部屋のどこにも無く、俺がいる場所のちょうど真反対には次の通路が顔を覗かせていた。
……一見すると何も無さそうに見えるが、油断はできない。風◯のシ◯ンみたいに、部屋に不可視の罠が仕掛けられている可能性だってあるのだ。
一歩、二歩、様子を見ながら慎重に部屋を横断していく。少しでも変化があれば、すぐにきびすを返して走り抜けるつもりで。
何事もなく、無事に部屋を通り抜けることができた。次の通路に入り、一息つく。
「……って、いや何も無いんかい!」
いやいや、普通あるやろ何か。モンスターが召喚される罠とか、矢が飛んでくる罠とか、岩が転がってくる罠とか……こう、あんだけあからさまやったら何かあるやろ普通。
とても意味ありげな部屋だっただけに、見事な肩透かしを食らってしまった。
「………」
……まあいいか、別にどこか怪我したわけでもないし。勝手に俺が警戒して、勝手に俺が勘を外しただけだ。何も起こらなかったのなら、それでいいか。
その後も、左カーブする螺旋の道を下っていく。道中にまた部屋が3個ほどあり、毎回警戒しながら横断していったが……結局、どこも何も起こらないままに通過できた。
そんなこんなで、そろそろ白亜一色の風景を見飽きてきた頃だった。
「……おっ?」
明らかに雰囲気が違う、とても大きな部屋へと辿り着く。他の部屋と違って奥に続く通路は無く、代わりにその部屋には……。
「……祭壇と、小さい神殿か?」
とても立派な、それこそ南米アステカ文明にでもありそうな、大から小へ台形を4つ重ねたような形の白い祭壇。その上にパルテノン神殿小型版みたいな構造物があり、その構造物の入口へ向けて一直線に階段が伸びている。
「………」
"ここにスゴいものがあります!"と全力で主張してくるような神殿の威容に、警戒度を数段上げる。こういう時に後先考えず突っ込むと、大抵ロクなことにはならない。そういうことを今まで何度か経験してきたからな……。
祭壇まで警戒しながら近付き、階段を一段ずつ慎重に上っていく。何かあれば、すぐに階段を駆け下りて防御体勢をとれるように。
……階段では何も起きず、祭壇の頂上に到着する。目の前には、思ったよりも大きなパルテノン神殿ミニスケールバージョンが鎮座していた。
そして、そのミニ神殿の中には……。
「……宝箱だ」
白色の宝箱が、燦然と輝いていた。
「………」
それを見て、更に警戒度を数段引き上げる。あの万能パンフレットによれば、宝箱には木、石、鉄、銀、金、ダイヤモンドというランクがあるらしいが……あそこに置いてある宝箱は、そのどれにも当てはまらないように見える。強いて言うなら銀ランクに近いのだが、あれは俺の知っている銀の輝きではない。
……ランクには無いのだが、プラチナだろうか? 少なくとも金属製であることは間違いなく、それはイコール高ランクの宝箱の証となる。
そうなると怖いのが、罠の可能性だ。銀ランク以上の宝箱は罠付きのパターンがあるとのことなので、あれにヤバい罠が仕掛けられている可能性は大いにある。
「………」
それでも、勇気を出してここまで来たのだ。手ぶらで帰るわけにはいかない。
ミニ神殿の中に入り、ゆっくりと宝箱の横まで移動する。
「"プロテクション"、"クイックネス"」
魔力消費量が跳ね上がっていることは承知のうえで、付与魔法2つを行使する。たったこれだけで最大魔力の1割がもっていかれたが、何があってもすぐ逃げられるよう準備しておくに越したことは無い。
改めて宝箱の横に立ち直し、ゆっくりと蓋を開ける。そうして蓋を開けた後、離れた場所に急いで退避した。
……特に何も起こらない。どうやら罠は無かったようだ。
慎重に近付き、宝箱の中をそっと覗き込む。果たして、中には一体何が入っているのだろうか……。
「……なんだコレ?」
中に入っていたのは、謎の白い棒状の物体だった。ただ、棒とは言っても武器として使うにはあまりに短く、長さは40センチくらいしかない。
そもそも、武器は武器珠から出てくるのが基本のはずだ。つまりこれは、武器でない可能性が非常に高い。ならば、これは一体なんなんだ?
「………」
白い棒状の物体を手に持つ。物体は木のような手触りをしており、重量をほとんど感じない。システムアナウンスが流れるということもなく、やはり用途は全く分からない。
……なら、ここは名前確認だな。
「"アイテムボックス・収納"……"アイテムボックス・一覧"」
白い棒状の物体を一旦アイテムボックスに収め、名前を確認してみる。
☆
・博愛のステッキ×1
☆
「名前を見ても効果が全く分からんな……」
博愛……確か、"誰に対しても優しい"というような意味だっけか。ちょっと違うような気もするが、大筋では間違っていないだろう。
そんな言葉を名前に冠する、効果不明な謎のアイテム……なんだか胡散臭いよなあ。
――ドン……ドン……
「……!?!?」
足下から、重い音と振動が響く。
背筋に凄まじい悪寒が走る。
神殿を一目散に飛び出し、祭壇を全力で駆け下り、通路へとしゃにむに飛び込んだ。
その直後だった。
――ドガァァァァァァァン!!
――ガラガラガラ……
「なっ!?!?」
凄まじい破壊音がして後ろを振り向くと、ミニ神殿が派手に崩れ落ちていくのが見えた。下から"何者か"に強烈に突き上げられ、崩壊に至るほどの致命的な打撃を受けてしまったようだ。
その"何者か"の姿は、砂埃に隠されてシルエットしか見えない。見えないのだが…………本能は、激しく警鐘を鳴らす。
あれに追い付かれたら、一巻の終わりだと。
「!!」
脇目も振らず、通路を全速力で駆け上る。行きは10分ほどかけて慎重に進んだ道を、クイックネスのスピードによりたった20秒で走破した。
そして、最深層から見て一番最初の小部屋に入る。あのヤバそうなやつは、どうやら追ってきてはいないようだ――。
――ドガァァァァァァァン!!!
「!?!?」
部屋の真ん中辺りの床が激しく吹き飛び、"何者か"が部屋に飛び込んでくる。飛び散った瓦礫が天井に当たって粉々になり、欠片が部屋中に降り注いできた。
……ダンジョンの床や壁、あるいは台座といったダンジョンオブジェクトは、ブルースライムの酸でも溶かせない特殊な物質でできているはずだ。俺や九十九さんの魔法が直撃しようとも、ヘルズラビットが全力で突進しようとも一切削れない、圧倒的な強度を誇る物質でできているはず。
なのに、コイツはその全てを破壊する。神殿を壊し、床をぶち抜き……俺を追いかけてきた。
「…………」
「…………」
遥かに高い位置から俺を見下ろす、ソイツと目が合う。
その体色と同じ、紅く光る爬虫類のような目に俺の姿がくっきりと映った。
「グォォォォォォォォ!!!」
「……っ!!」
部屋の高さ一杯、およそ6メートル近い体長を誇る、四足歩行の肉食恐竜のようなモンスターが咆哮した。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




