3−28:たまにはダンジョンを散策してみよう、思わぬ発見があるかもしれないよ
「………」
階段を下り、第4層フロアの少し手前に立つ。モンスターにギリギリ視認されないよう、フロアから10段ほど上がった辺りの場所だ。
そして、フラッシュをすぐ発動できるように魔力を手に集中させる。元々、フラッシュは溜めがほとんど要らないので、魔力集中という動作をこなしてもコンマ1秒程度の違いにしかならないが……その僅かな差が、もしかしたら明暗を分けるかもしれない。第4層という危険地帯にソロで立ち向かう以上、思い付く限りの準備は入念に行うべきだろう。
よし、魔力集中が完了した。早速第4層へ……とその前に、下りた後の手順を確認しておこう。
フロアに下りたら、当然だがまずはフラッシュを放つ。昨日は俺や朱音さんの影に入って効かなかったモンスターがいたので、俺の頭の真上で閃光が炸裂するように調整する。それで近場のモンスターを制圧したら、ライトニング・ボルテクスをフロア中に放って敵を殲滅する。
昨日はそれでモンスターが全滅したので、今日は階段を上らずにフロアの様子を見ることにする。雷撃に当たらないよう注意しつつ、階段の入口付近に陣取る予定だ。
……まあ、ざっとこんなところか。少しでも危険を感じたら、さっさと階段を上って逃げるとしよう。今なら誰にも迷惑をかけないしな。
「……よし、行くぞ!」
勢い良く飛び出す。5段、10段と階段を飛び下り、フロアへ一気に飛び込んだ。
「「「「……!?」」」」
「食らえ、"フラッシュ"!」
大量のモンスター共の視線がこちらを向く。それと同時に目を閉じ、右手を大きく掲げてフラッシュを放った。
――ピカッ!
「「「「ギッ!?」」」」
「「「「キィッ!?」」」」
「「「「ギャアッ!?」」」」
右手のひらの上で閃光が弾け、モンスター共の悲鳴が響き渡る。オートセンシングですぐに効果のほどを確認したが、どうやら近くのモンスターは全て地面に倒れ込み、のたうち回っているようだ。
光が止んだタイミングで、目を開ける。今回は漏れなく、近くのモンスターを全て行動不能にできたようだ。
「………」
ライトニング・ボルテクスの発動に備え、既に魔力集中を始めている。一応はオートセンシングで警戒しているが、動いているモンスターは既に遠距離にしか居なかった。
……よし、発動準備完了だ。
「"ライトニング・ボルテクス"!」
――ゴロゴロゴロ……
――カッ!!
――ドドドドドドド!!
「「「「ギィィィィッ!?」」」」
「「「「ギャァァァッ!?」」」」
「「「「キィィィィッ」」」」
落雷音を背に、急いで階段へと退避する。そこで振り返って見てみると、無数の落雷に打ち抜かれて魔石化していくモンスターの姿が目に映った。
それから5分、落雷を抜けて襲ってくるモンスターがいないか警戒していたが……ついぞそんなモンスターはいないまま、落雷が止む。
その後には、フロア中に散らばる魔石、魔石、装備珠の数々……まるで満点の星空のように、地面に落ちた色とりどりの石がキラキラと輝いていた。
さて、昨日はドロップアイテムを1つずつ手に取って集めていたが……今日はそんな手間をかける必要は無い。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"……」
アイテムボックス・収納を連発し、ドロップアイテムを道具箱に収めていく。魔法1回で一度に入れられる個数は制限があるのだが、収納できる距離には制限が無いらしい。"そこにある"と認識さえしていれば、200メートル以上離れた場所に落ちている魔石すらも回収することができた。
「……よし、"アイテムボックス・一覧"」
そうしてドロップアイテムを全て回収した後、アイテムボックスの中身を確認する。
☆
・ブルースライムの魔石×18
・ホーンラビットの魔石×113
・ブラックバットの魔石×201
・ゴブリンの魔石×210
・装備珠(赤・ランク1)×17
・装備珠(赤・ランク2)×7
・装備珠(青・ランク1)×17
・装備珠(青・ランク2)×12
・装備珠(黄・ランク1)×20
・装備珠(黄・ランク2)×6
☆
今日は誰も第4層に踏み入っていなかったからか、ブラックバットとゴブリンの魔石数がそれぞれ200個を超えた。ホーンラビットの魔石も合わせれば、これだけで4万5000円近い収入になる。
ちなみに、やはりと言うべきか特殊ドロップは0だった。核を抜く、角を折る、翼を切り取る、棍棒を奪う……落雷攻撃だけで取れそうな物は1つも無いので、当然ではあるが。
「………」
さて、俺は少し迷っている。
すなわち、防具珠ランク3を作るか否か、だ。今なら防具珠ランク3が作れるので、俺の都合だけを考えれば実に良いタイミングと言えるが……一方で、俺の都合だけで考えるのは危険な部分がある。
元々アイテムボックスに入っていた装備珠は、俺1人の力で集めた物ではないからだ。ざっと全体の20%くらいは朱音さん、10%くらいは九十九さん、8%くらいは帯刀さんの貢献で集まっている。なので、昨日の探索メンバー……朱音さん、九十九さん、帯刀さんには話を通しておく必要があるかもしれない (ちなみに、藍梨さんと陽向君はどちらかと言えば雇用主という感じなので今回はカウントしない)。
……ただ、朱音さんと帯刀さんの防具は既にランク3以上になっているが、俺はまだランク2防具を使っている。九十九さんも、おそらくはランク2防具を使っているのだろう。
そして、どちらも後衛で防具の必要性が比較的薄いとはいえ、守りを固めるに越したことはないのも事実だ。俺以外の3人の気質を考えれば、ランク3の防具珠を作成することを反対される可能性は限りなく低いと思う。
よし、今日のところはランク3の防具珠を確保するだけに留めておこう。ついでに、他の装備珠もランクアップさせておこうかな。
◇
台座での用事をサクッと済ませ、第5層に至る下り階段の前に立つ。台座への道中で何度かモンスターがポップしたが、今更苦戦する要素もなく出た瞬間に倒していった。
「………」
さて、この後の方針なのだが。今日は時間が許す限り、第5層をくまなく探索しようと考えている。
……既に、今日の稼ぎは十分だ。むしろ多過ぎるくらいだと思う。思ったより第4層の収穫が多かったのと、オートセンシングの結果から今日は第4層に宝箱が無さそうだったので、探索のしがいが無いなと直感的に思ってしまったのだ。
一方で昨日の第5層の探索は、探索というよりはただの通過だった。なので、未踏破領域がまだまだ多い。だからこそ第4層の台座のように、もしかしたら第5層にも何かしら隠されたものがあるかもしれない、と思うのだ。
ソロゆえ、あまり遠くまで行くつもりはないが、行ける範囲で調べてみようと思う。
「……よし、行くか。第5層に」
帰り道も第4層がモンスターだらけなら、同じようにフラッシュからのライトニング・ボルテクスで対処するとしよう。
◇
階段を下り、第5層に立つ。まるで日本の原風景を見ているかのような、ダンジョンの中とは思えない光景が目の前に広がるが……油断は禁物だ。
現実の野山でさえ、熊や蛇や猪といった危険な野生動物に襲われる危険があるのだ。いわんやダンジョンをや、である。モンスターがいないか、しっかりと確認しながら進んでいこうと思う。
「………」
まずは川に近付いてみる。すると、やはり水中にモンスターの反応があった。
「ブルージェリーかな?」
川面の揺らぎと、ブルージェリー自身の視認性の低さもあってやや分かりにくいが……ざっと7体ほど水中を漂っているようだ。
「"サンダーボルト"」
川に向けて電撃を放つ。着弾とほぼ同時にオートセンシングからモンスターの反応が消え、代わりに石の形をしたものが複数個水底に沈んでいった。
……さすがにスキルスクロールは落とさなかったか。まあ、ドロップ率が相当低いだろうことは推測できるので、欲しいのなら根気が必要になるだろう。今日明日で簡単に出てくれるような、甘いドロップ率ではないだろうからな。
「"アイテムボックス・収納"」
水底の魔石を回収し、辺りを見回す。オートセンシングでも目視でも、モンスターの反応はなさそうだ……。
「……うん?」
岩壁と川の間を眺めていると、そのスペースに道らしきものがあるのを見つけた。
おそらくは第5層の移動可能範囲を示しているのであろう、遠くまで続く高い高い垂直岩壁……それと平行に、かつ階段から離れるように川はほぼ直角に曲がり、その先の下流へと水が流れていっている。
そして、川と岩壁の間に藪が薄くなっているルートがあるようだ。その手前が濃い藪に覆われているからか、昨日は全く気が付かなかった。
「……行ってみるか?」
藪が薄いのであれば、奇襲攻撃を受ける危険性はグッと下がる。道を進むだけなら、ソロでも十分に探索できるだろう。
マップを作りがてら、見つけた道を進んでみるとしようかな。
◇
たまにビューマッピングを使いつつ、川沿いの道を進むことおよそ10分。グレイウルフ3体組に2回襲われたが、相変わらず1体ずつ攻撃してきたので軽く返り討ちにできた。
……なお、ドロップアイテムは魔石だけだった。グレイウルフの装備珠ドロップ率、実はあまり高くないのだろうか……ゴブリンよりは高いと思うんだけどなぁ。
「うーん、歩きやすいのは確かだけど、特に何もなさそうだな……ん?」
生い茂る草木が風でガサリと揺れ、その向こうに白いものが見えた気がして足を止める。もしかして、またグレイウルフだろうか?
グレイウルフの毛並みは名前の通りに灰色なのだが、割と白寄りの色をしている。パッと見では白に見えることもあるので、念のために確認しておく。
「………」
オートセンシング、揺れる草木以外に反応無し。目視確認、動くものは草木以外に無し。白い何かは相変わらず草木の影からチラチラと見えているが、どうやらグレイウルフではなさそうだ。
「……行ってみるか?」
少しばかり道を外れるが、距離はそう遠くなさそうだ。
濃い藪に入り込み、背の高い草を掻き分けて白い何かへと近付いていく。
10秒ほど進むと、急に視界がパァッと開ける。そこだけ円形に草木が無く、広場のような場所になっていた。
……そして同時に、まるで神殿のような白い建物が俺の視界に飛び込んできた。
「……これは」
広場の真ん中まで歩き、そこからじっくりと白い建物を観察する。建物は正面に入口らしき開口部があり、見た限りは全て石でできているようだ。
「………」
更に白い建物へと近付いていく。
そうして開口部を覗くと、やはりそこは白い建物への入口のようだ。20段ほどの下り階段の先に、奥へと進む通路が少しだけ見える。また建物の状態は良好そのもので、蔦や苔に多少覆われているものの、崩壊のおそれは無さそうだ。
……もっとも、ダンジョン内に存在する構造物というだけで、これが尋常の存在でないことは確かなのだが。
「さて、どうするか?」
正直なところ、興味6割、怖さ4割だ。興味の方がやや勝るが、建物の中がどうなっているのか分からないのが怖い。今日はソロなのでなおさらだ。
「……ん? なんだ、文字が浮かび上がってくる……?」
建物の入口付近に、どこからともなく光が集まってくる。その光が文字を構成し、俺に意思を伝えてきた。
「なになに、『先着1名様限定、早いもの勝ちですよ』か……」
いや、特売かよ。そんなことを言われても怖いものは怖いんだよ。
……だが、このまま帰るのもなんだかもったいない気がしてきたな。先に俺が建物を見つけたのに、他の探索者に先を越されるというのはなんだか癪だ。
「……よし」
早いもの勝ちとは書いてあるが、帰れないとは一言も書いていない。そう無理矢理自分を納得させ、覚悟を決めて階段を下りていく。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。それはきっと、少し後の俺だけが知っているんだろうな。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




