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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く

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3−24:ラッシュビートルを圧倒……したように見えるけどな。実はそうでもないってことさ


「……羽?」


 魔石と装飾珠2つをリュックに回収してから、2枚の羽の近くでかがむ。ラッシュビートルの特殊ドロップだろうか、俺の身長くらいの長さがある大きな羽だ。

 そして、向こうが透けるほどに薄い。少し力を加えれば折れてしまいそうなくらいに、その見た目は頼りない。


---スッ


「!痛っ……」


 薄羽のフチに触れた瞬間、鋭い痛みが指先に走る。反射的に手を引いて見ると、指先が切れて血が出ていた。

 ……なるほど、これは下手な刃物よりよく切れるな。紙でもたまにフチで指を切ってしまうことがあるが、それの強化版といったところだろうか。


「"ヒール"」


 とりあえず、回復魔法で怪我を治しておく。それなりに消耗したが、魔力残量は4割ちょっと。まだ少しだけ余裕があるな。


「"アイテムボックス・収納"」


 羽に触れるのは危険だと分かったところで、リュックの中も含めた全てのドロップアイテムをアイテムボックスの中に収めた。

 ……人の身長くらいある巨大アイテムを、嵩張らず安全に運べるのは本当にありがたい。アイテムボックス様々だな。


---ブ……ブ……


 ……ふと、遠くからまたラッシュビートルの羽音が聞こえてくる。音はかなり小さく、十分に距離は離れているようだが……やはり気になるな。


「接近が分かるのはありがたいけど、ちょっと落ち着かないわね……」

「だな……さっさと階段に戻ろうか」

「そうね」

「です!」

「そういたしましょう」


 ラッシュビートルの羽音を背中越しに聞きながら、4人で第6層を後にする。

 ……音がずっと聞こえてくるのは、結構メンタルにクるものがあるな。ラッシュビートルが強敵なので、余計にそう感じてしまうのだろう。

 ただ、いつかは乗り越えないといけないことだ。早めに慣れなければな。






「さて、今日の成果はどんな感じかしら?」

「ちょっと待ってな……"アイテムボックス・一覧"」


 階段を上り、安全を確保したうえでアイテムボックスの中を確認する。



 ☆


・ブルースライムの魔石×15

・ホーンラビットの魔石×72

・ブラックバットの魔石×103

・ゴブリンの魔石×106

・グレイウルフの魔石×9

・ラッシュビートルの魔石×2

・片角兎の大魔石×1


・ブルージェリーの魔石×8


・装備珠(赤・ランク1)×5

・装備珠(赤・ランク2)×9


・装備珠(青・ランク1)×6

・装備珠(青・ランク2)×7

・装備珠(青・ランク3)×1


・装備珠(黄・ランク1)×6

・装備珠(黄・ランク2)×10


・ブルースライムの核×5

・ホーンラビットの角×7

・ブラックバットの翼×1

・ゴブリンの棍棒×2

・ラッシュビートルの斬羽×2

・片角兎の大角×1


 ☆



 食品やら湯沸かし器やらポーションやら、他にも大量の物資があるが……そっちは見ても意味が無いので、ドロップアイテムのみ確認する。


「ラッシュビートルの斬羽、か。やっぱり特殊ドロップだよなぁ」

「羽を折ったのがトリガーだったのかしら?」

「多分な。どうも弱点部位っぽいし、今後も勝手に増えていきそうな気がするな」

「ですです、ドロップが増えるのは良いことなのです!」

「……あの、すみません恩田さん。特殊ドロップとは何でしょうか?」


 ん? 帯刀さんも特殊ドロップを知らなかったのか。まあ、確かに偶然でもなければ気付けないよな、アレは。


「特殊ドロップは、特定の条件下でモンスターを倒した時にのみ落とすアイテム……だと考えてる。検証数が少ないから断定はできないけど、どうも全モンスターにそういうのが設定されてるっぽいんだよ」

「なるほど……それで、ラッシュビートルの場合は羽を折ることが条件になっている、と」

「ま、あくまで推測だけどな。ちなみに、ブルースライム・ホーンラビット・ブラックバット・ゴブリンと特殊ドロップがあることは確認した。ドロップ条件もほぼ絞り込めてるな」


 ヘルズラビットにも特殊ドロップはあるが、条件はホーンラビットと同じっぽいので省略している。

 ……こう考えると、グレイウルフとブルージェリーにも特殊ドロップがありそうだ。今までの傾向から考えるに、グレイウルフは牙で、ブルージェリーは触手だろうか。今度試してみよう。


「なるほど……」

「各モンスターの特徴的な部位が、そのまま特殊ドロップになる確率が高いな。まあ、ラッシュビートルで初めて予想が外れたんだけどね。俺は角が特殊ドロップだと思ってたんだが……」

「あ、それ私もよ。だから角も狙ってみたんだけど、別の場所に当たって弾かれちゃって……」

「集めやすそうな部位で良かったよ。まあ、せっかくだから帯刀さんも覚えておいてな」

「……すみません、貴重な情報ありがとうございます」


 これは、別に隠すようなことでもないからな。

 ……ただまあ、願わくば情報が少しずつ開示されていって、俺たちが十分な利益を得た後にそのモンスターの特殊ドロップがたくさん出回るようになればいいけどな。


「……あ、恩田さんちょっと悪いこと考えてるでしょ?」

「むむ、バレたか。先行者利益を十分確保しながら、特殊ドロップ情報を開示するタイミングをどうしようか悩んでたところだ。権藤さんはもう知ってるらしいから、考えても無駄かもしれないけどな」


 ……おっと、話が逸れたな。閑話休題、閑話休題っと。


「さて、話を戻そうか。今日はドロップ品を分配してるから、第4層の分の収穫がやっぱり少ないな。その分を第5層、第6層で稼げてればいいんだけど……」

「あれだけ強かったですから、ラッシュビートルの魔石はお値段を期待しても良さそうなのです。ヘルズラビットの魔石もあるし、それなりの収益になると思うのです」

「4人で分けて、1人1万円くらいいってくれたらいいんだけどな」


 ……こう言っておいてなんだが、1万円は少し厳しいかもしれないな。装備珠を売りに出さないとすれば、多分8000〜9000円代くらいに収まるのではないだろうか。

 いくらラッシュビートルが強敵とはいえ、通常エンカウントモンスターの魔石売却額がこの段階で4桁いくとは思えないからな。帰り道でもう少しモンスターと戦えば、1万円を超えるかもしれないが……。


「……あの、恩田さん。そのことなんですが……」


 帯刀さんが、おずおずと手を挙げた。相変わらずキリッとした表情ではあるものの、今は心なしか不安げな様子を滲ませている。


「どうしたんだい?」

「私、途中からの参加でしたけど、本当に4等分で貰ってもよろしいのですか? しかも、私が道中1人で倒した分は分配しなくてもいいなんて……」


 ああ、なるほどな。自分に有利な状態で話が進んでしまって、気後れしてたわけか。

 まあ、帯刀さんの不安はもっともだろうし、2人に念押しで聞いてみるか。もっとも、俺が予想した通りの返答になるだろうけどな。


「朱音さん、九十九さん。別に4等分で構わないよな?」

「ええ、もちろんよ。」

「私もオッケーなのです。むしろ私は要らないので、全部せっちゃんにあげて欲しいのです」

「それはダメ、等分はルールだから」

「むぅ……」

「頬を膨らませて怒っても、ダメなものはダメなのです」

「あ〜〜!! 恩田さん、私のアイデンティティを取るなですです!!」


 おいおい、アイデンティティて……ホント見てて飽きないよな、九十九さんはさ。


「ま、それはともかく。俺も等分するのはオッケーだ。俺たち3人が認めているのだから、それでいいさ」

「しかし……」


 帯刀さんはまだ気にしているようだが、俺たちが分配案を受け入れているのはちゃんとした理由がある。

 まず、朱音さんと九十九さんがダンジョンを探索する目的は、お金を稼ぐことじゃない。朱音さんはポーションをたくさん見つけるためにダンジョンへ潜っているし、これまでの口振りから九十九さんも別の目的があるのだろうと俺は考えている。

 一方の俺はというと、昨日の換金でラッキーバタフライの魔石が2個12万円で売れている。それを含めた4日間の収入が20万円を超えているので、普通に生活する分には十分なお金を既に稼げている。藍梨さんからの支払い予定額やオークションに出しているホーンラビットの角もあるので、あまりお金に拘らなくていい状況にある。


 その一方で、帯刀さんには何やら事情がありそうなのだ。午後からしか探索できないことと、早い時間に帰らなければいけないこと……なにより、時期的には既に就職・進学・浪人の別が確定していて然るべき時期にも関わらず、探索者としてダンジョンに潜っている。18歳の子が3月に取る行動としては、一般的なものから明らかに逸脱しているのだ。

 もちろん、無神経に事情を聞くようなことは絶対にしない。本人が話したいと思ったのであれば、しっかりと聞くけどな。


 ……とまあ、そういうわけで帯刀さんは、信用できる実力派探索者として扱うつもりだ。今回の利益等分もその一環と言えるが、帯刀さんが気後れしないようなフォローも必要だな。


「まあ、帯刀さんの戦い振りが良かったからな。【氷騎士】のギフト名に相応しい、守りを中心とした安定した立ち回りを見せられたら……利益等分くらいで顔が繋げるのなら、あまりにも破格すぎる。俺はそう判断したんだよ」

「……あ、ありがとうございます」

「ま、計算がめんどくさいというのも本音だけどな」

「………」


 ……なんだろう、帯刀さんが一瞬ジト目になったように見えた。


「せっちゃん、せっちゃん。恩田さんはちょっと残念な人なのですよ」

「……はい。考えはしっかりした方ですが、余計な一言で損をするタイプの残念な方ですね」

「おい、聞こえてるぞ2人とも。誰が残念だ、誰が」

「「「恩田さん」」」

「うぐっ……」


 なぜか朱音さんも加わり、3人の声がキレイに重なる。確かに、昔からよく残念なやつだと言われ続けてきたが……。


「……でもまあ、良い人なのよね、間違いなく」

「それは同感なのです」

「信用できる人なのは、間違いありませんね」


 ま、どうやら悪感情を持たれてるわけでもなさそうだし、別にいいか。

 それに、色々と有耶無耶にできたからな。帯刀さんがスッキリした表情をしているなら、それでいいさ。


「さて、第4層の台座で装飾珠のランクアップをしてから帰りますか。ランク2の装飾珠も10個になったし」

「あら、もうそんなに溜まったの?」

「ああ、朱音さんにあげるよ」

「ありがとう!」

「「……台座 (です)?」」


 あ、2人は台座のことを知らなかったのか。

 ……まあ、ほとんどの探索者からすれば、第4層はさっさと通り抜けたい階層だろうからな。全域をゆっくりと探索する、という発想にはなかなか至らないんだろう。


「第4層に、低ランクの装備珠10個を1つ上のランクの装備珠1個に変換してくれる台座があるんだよ。金額的には完全に損だけど、今は入手が難しいランク3の装備珠もそれで手に入れられるのさ」

「なるほど……では、朱音さんの防具もそれで?」

「あ、これ?」


 帯刀さんが、朱音さんの鎧に視線を向けながら言う。

 ……朱音さんが一瞬こちらに視線をやってきたので、小さく首を横に振った。


「ええ、その台座でランクアップさせたのよ。見た目より軽くて、本当に使い心地は良いわね」

「そうですか……」


 どこか羨ましそうに朱音さんを見つめる帯刀さんだが……すまんな。本当はラッキーバタフライがドロップしたランク5の防具なんだけど、今それを正直に言うわけにはいかないんだよ。


「まあ、そういうわけなんだ。ランク3の装備珠はなかなか貴重でさ……」


 そこまで言って、少し引っかかることがあった。ランク3の防具珠……あれ、そういえば。


「……"アイテムボックス・一覧"」



 ☆


・装備珠(青・ランク3)×1


 ☆



「あ、ランク3の防具珠がある……?」


 全然気付かなかった。いつ拾ったっけ、それすらも覚えてないな……。


「もしかして、ラッシュビートルかしら?」


 思い返せば、1体目のラッシュビートルを倒した時に防具珠を落としていた。もしかしたら、ラッシュビートルはランク3の装備珠を落とすのかもしれない。

 そう考えると、やはりラッシュビートルは油断ならない相手だ。朱音さんと帯刀さんの猛攻にも耐えていたし、弱点に攻撃を食らってもしっかりと持ちこたえていた。九十九さんの大火力が無ければ倒すのにもっと時間が掛かっていただろうし、いつかは誰かが大怪我をしていたかもしれない。

 ……これはまた、しばらく第6層で足止めだな。ラッシュビートルを余裕で捌けるようにならないと、もはや奥には進めなさそうだ。


「そういえば、1体目のラッシュビートルを倒した時に防具珠を落としてたっけか。あれがランク3だったのか。

 ……で、これどうする?」

「それはもちろん、帯刀さんが使うべきでしょ?」

「え、私ですか?」

「前衛だからな、守りは少しでも固めておいたほうがいい」

「………」


 帯刀さんの視線が、順に朱音さん、九十九さんの方へと向く。その2人が、力強く頷き返した。


「……分かりました、ありがたく頂戴いたします」


 帯刀さんは受け取ってくれる気になったらしい。


「よし、"アイテムボックス・取出"」


 防具珠ランク3を取り出し、帯刀さんに手渡す。帯刀さんは早速念じたようで、防具珠は青い光へと変化して帯刀さんを包み込み……。


―――ゴトン


 元の鎧は地面に落ち、代わりにクリスタルのような装飾が肩にあしらわれた、華やかな見た目の全身鎧姿となった。


「………」


 帯刀さんがクリスタル鎧を眺めている横で、俺はスマホを見る。時刻はちょうど15時30分を指すところだった。

 事前に決めていた、引き上げの時間だ。


「15時半になったな。さ、あまり遅くならないうちに戻ろうか、みんな。

 ……ああ、帯刀さん。その鎧、アイテムボックスにしまっておこうか?」

「……♪」


 キリッとしていた帯刀さんの表情が、少しばかり緩んでいる……それを見て、不覚にもドキッとしてしまった。

 ……いやいや年齢を考えろ俺、倍近く違うじゃねえか。事案だぞ事案、見るな考えるか感じるな俺!


「帯刀さん!」

「……はっ!? はっ、はい、なんでしょうか?」

「15時半になったからそろそろ帰ろう、あとその鎧をアイテムボックスにしまっておこうか?」

「は、はい、よろしくお願いいたします」

「オーケー、"アイテムボックス・収納"」


 地面に落ちた鎧を、アイテムボックスの中にしまった。


「よし、それじゃあ安全に気を付けながら戻ろうか」

「「「了解 (なのです)」」」


 内心をごまかすように、階段の上へと視線を向ける。

 ……無事、ダンジョンを出るまでが探索だ。油断せずに行こう。


(2024.6.1追記)小規模改稿を行いました。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
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[気になる点] ビューマッピングはどこに記録されているんだろうか? スキルとしてでは無く自作の魔法効果な訳だけど、出力せずに貯まって行ってるわけだが 脳内記憶?異空間? スキル内容や魔法行使は脳内で処…
[気になる点] >「さて、第4層で装飾珠のランクアップをしてから帰りますか。ランク2の装飾珠が10個になったしな」 >「あら、もうそんなに溜まったの?」 >「ああ。ランク3のができたら朱音さんにあげる…
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