3−23:強いと思った相手にも、楽な戦い方はあるものだ
「………」
魔石と防具珠を拾い上げつつ、じっと耳をすませる。羽音は聞こえてこないので、ラッシュビートルのお代わりが来ることは無さそうだ。
……とはいえ、ラッシュビートル以外にもモンスターは居るだろう。音が聞こえないからと、油断しないようにしなければ。
「……恩田さん、ごめんなさい。モンスターを簡単に通してしまって……」
「私も、申し訳ありません……」
「いやいや、2人とも頭を上げてください。あれを止めるのは無理ですって」
朱音さんと帯刀さんが頭を下げて謝ってくるが、素の状態であの突進を止めるのははっきり言って不可能だ。ホーンラビットの突進攻撃が児戯に思えてくるぐらいに、ラッシュビートルの突進攻撃はものすごく重かったのだから。
……そも、俺がラッシュビートルに弾き飛ばされたのは、俺自身の油断が原因だ。安易に突進攻撃の軌道上で雷魔法を放ったあげく攻撃を弾かれ、あ然と棒立ちになった俺が全面的に悪い。朱音さんや帯刀さんに責任は無い。
「九十九さんはちゃんと避けた、俺は避けられなかった、ただそれだけです。朱音さんも帯刀さんも一切悪くない」
「でも、攻撃を当てたのに傷一つ与えられなかったわ……。ヘルズラビットはともかく、ラッシュビートルは普通に出てくるモンスターなのに……」
「攻撃を当てさえすれば、傷を負わせられる……ラッシュビートルはそんなヤワなモンスターじゃない、ということなんだよ朱音さん。そのことを、誰も大した傷を負わずに学べたんだからさ。まずは結果オーライだと思おうよ」
ダンジョン第1の壁たるゴブリンが弱いモンスターだっただけに、俺も含めて全員が心のどこかで油断してしまっていたのだろう。ダンジョン第2の壁と呼ばれるのには、それ相応の理由があるということを安い授業料で知ることができたわけだ。
「……よし、謝り合いはこれで終わりにしましょう。それじゃあ、階段に戻って一旦反省会といきますか」
「「「反省会 (です)?」」」
「そう、反省会です。ラッシュビートルとは今後も何度か戦うことになるでしょうから、次に戦う時の動き方をみんなですり合わせておきましょう」
このまま適当に流してしまっては、チームとしての成長の機会を逃してしまう。鉄は熱いうちに打てと言うし、記憶が鮮明なうちに議論の時間を取ることで、建設的な意見も出やすくなるだろう。
「……うん、そうね。私は賛成よ」
「私も賛成なのです」
「はい、私からもよろしくお願いいたします」
特に異議は出なかったので、探索を一旦切り上げて階段に撤退することにした。
……階段を上り始めたくらいのところで、遠くから虫の羽音が聞こえてきた。その音が、階段を上るたびに段々と大きくなっていく。
幸いにも、階段までは入り込んでこないようだが……もしもあと30秒間、あの場に留まっていたならば。ラッシュビートルと再びの戦闘状態に突入していただろう。随分な強敵の割には、出現率もそこそこ高いようだ。
その後、階段の中ほどまで戻った俺たちは対ラッシュビートルとの戦い方を議論……しようとした時。
九十九さんが、ゆっくりと手を挙げた。
「恩田さん。私、ずっと気になっていたことがあるのです」
「なんでしょう、九十九さん?」
「恩田さん、話しにくくないです? 敬語と普通の話し方が入り混じって、すごく大変そうに見えるのです」
「あ〜、うん……まあ、そうですね」
正直に言えば、確かにめちゃくちゃ話しにくい。ただ、こっちから『敬語外していいですか?』と聞くのもな〜、って感じで流していた。おかげで言葉遣いが安定せず、かなり変な感じになってしまったが……やはり気になってたか。
「私に対しては、敬語は要らないのです。むしろ普通に話して欲しいのです」
「なるほど、ね。帯刀さんはどうですか?」
「実は、私もそこが気になっていました。私の時も普通の話し方でいいですよ」
俺としても、その方がありがたいな。
「……分かった。じゃあ、俺はこの話し方に統一させてもらうよ。九十九さんと帯刀さんはどうする?」
「私はこれが素なのです」
「私も、このままの方が話しやすいですね」
「了解」
なんとなくそんな気はしていたので、2人にはそのまま話してもらうことにした。
その後は、ラッシュビートル戦の反省と対策を4人で話し合った。やはりと言うべきかほとんど帯刀さんの意見が採用されたが、要約すると、
・突進軌道の真正面には絶対に立たない
・最初に攻撃してきた相手をターゲッティングするらしいので、それを前提に行動する
・飛翔時に羽を広げて飛んでいたが、その剥き出しの羽や羽の付け根辺りが弱そうなので狙ってみる
・足関節や腹部など、装甲の薄そうなところを狙ってみる
・困ったら最後は力で解決! (中途半端な威力の攻撃はしない、という意味なのだが……随分と脳筋な表現になった。ちなみに、この表現は九十九さんの強い提案の賜物である)
ということになった。ヘルズラビットのような単発型強モンスターではなく通常のエンカウントモンスターなので、付与魔法などは基本的に使わない方向で考えている。
……さて、と。
「早速、試してみるか?」
今降りれば、ラッシュビートルがもしかしたら近くにいるかもしれない。いれば戦えばいいし、いなければそのまま帰ればいい。
時刻的にも15時を既に回り、タイムアップが刻々と近付いている。おそらく、これが今日最後の戦いになるだろう。
「やりましょう、虫には決して負けません」
「ええ、私の手でラッシュビートルを叩き落としてみせるわ」
「今度は一撃で落としてやるのです」
3人が口々に気合を入れる。俺も負けてはいられないな。
「さて、それでは最後に虫退治といきますか!」
「「「はい!」」」
掛け声一つ、4人で階段を下りていく。川が流れる音に入り混じって、虫の羽音らしき音が段々と大きく聞こえるようになってきた。
……そして階段を下りきり、辺りを見回す。
「あそこにいるぞ!」
森の木に、ラッシュビートルが1体留まっている。さっきのラッシュビートルが留まっていたのと同じ木だ。やつらのお気に入りなのだろうか?
ちなみに、こちらの存在には既に気が付いているらしい。しっかりと臨戦態勢を整えて、準備万端で木にジッとしがみついている。
「展開!」
「「「!!」」」
右利きの帯刀さんが左前方、左利きの朱音さんが右前方、魔法砲台の九十九さんが俺の後ろに、それぞれサッと移動する。
そうしてから、俺が開幕の攻撃を行う。なんだか野球の始球式みたいだな。
「"ライトバレット"」
もはや当たっても効かないことは分かっているので、普通に光の弾丸を撃ち込む。光の弾丸は、狙いを少し外して首辺りに着弾した。
---パチン!
あれ、少し効いたか? 弾丸の当たった所が僅かに焦げている。
有効打には正直程遠いが、とにかく俺にヘイトを向けさせるには、十分な効果があったようだ。
---ブブブブブブ!!
ラッシュビートルが両羽を広げ、木を離れて俺に飛翔突貫してくる。けたたましい羽音が響き渡り、その主が徐々に俺の方へと近付いてくる……!
「セイヤッ!」
「ハアッ!」
すれ違いざま、帯刀さんと朱音さんの斬撃がラッシュビートルに向けて繰り出される。それぞれの近い方にある剥き出しの羽に、両方の攻撃が見事クリーンヒットした。
---パキッ! パキパキッ!!
帯刀さんが攻撃した方の羽は、霜が付いて動きが鈍くなり……一方の朱音さんが攻撃した羽は、なんと根本からへし折れて地面に落ちた。
---ズウゥゥゥン!
片羽を凍り付かされ、片羽を折られては、さすがのラッシュビートルも飛翔状態を保てないらしい。超重量の体が猛スピードのまま墜落し、地面を滑ってこちらまでやってきた。
もちろん、突進軌道からはとうの昔に退避している。地面に落ちたラッシュビートルに当たることは無かった。
「よし、"ライトニング・ハンマー"!」
完全に凍り付き、しまえなくなった羽を狙って強烈な雷撃をお見舞いする。既にダメージを負っていた羽はその一撃に耐え切れず、根本から折れて地面に落ちた。
これではもはや、ラッシュビートルも飛翔できまい……と油断するようなメンバーはこの中にはいない。
「凍り付け!」
「食らいなさい!」
両方の側面から、帯刀さんと朱音さんが交互にラッシュビートルを斬りつける。
カブトムシのような外見から、真正面は角による突き上げ攻撃を仕掛けられる可能性がある。それゆえの、側面攻撃だ。
---ガギッ!
---ギギッ!
しかし、やはりラッシュビートルは固い。刃は黒い装甲の上を滑り、受け流されて傷一つ付かない。
それでも、2人は気にせず攻撃を加えていく。
---ズッ!
と、帯刀さんが振るう両刃剣の先が、ラッシュビートルの体内に刺さった。羽を覆っていた装甲の隙間に、偶然にも剣先が入り込んだらしい。
弱点を見つけたとばかりに、帯刀さんと朱音さんは装甲の隙間を狙って攻撃を加えていく。隙間が小さくて入らない場所もあったが、それでも半分くらいの攻撃が装甲の中へと入り込み、柔らかい身に傷を刻んでいく。
---グッ……
ラッシュビートルが姿勢をグッと低く沈めた。あまりにも露骨な、何かしらの攻撃の予備動作だ。
「2人とも下がれ!」
「「!!」」
俺の声に反応した2人はすぐに攻撃を中断し、バックステップで大きく距離を取る。
---ブンッ!!
その直後、2人の目前を黒い角が通り過ぎる。ラッシュビートルが自身の体をコマのように回転させ、角を使って周囲を薙ぎ払ったようだ。こんな攻撃も持ってるのか……。
「九十九さん!」
「よしきたのです!」
やはり、ラッシュビートル相手に近接攻撃は分が悪そうだ。トドメの一撃は九十九さんにお願いする。
既に準備を終えていたようで、九十九さんはノータイムで魔法を発動した。
「"フレイムピラー"!」
巨大な炎の柱が、ラッシュビートルを包み込む。
……その炎が消えた後には、魔石と装飾珠が2つ。そして……。
巨大な2枚の薄羽が残っていた。
読者の皆さま、いつも本小説をお読みくださいまして、誠にありがとうございます。
ふと、最近見ていなかったアクセス解析を覗いておりましたら、ちょうどPVが200万を超えていたことに気付きました。
200万……大きすぎて、全く想像できないというのが正直な感想です。約半年で200万回ということは、本小説は平均して1日に1万回以上も開かれているわけで……それだけ、多くの方に読んで頂ける小説になったのだなあ、と感慨深い気持ちになります。
今後もペースは落とさず、小説投稿を続けていきたいと思います。皆さま、本当にありがとうございます!
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




