1−4:空飛んでるモンスターは、面倒なやつが多い気がする
「「キィ!キィ!」」
ブラックバットが2体、宙から俺に向けて接近してくる。第2層から出現するモンスター2種類といきなり連戦とは、俺もついてないな。やっぱり【空間魔法】のスキルスクロールで運を使い切ったんだろうか。
ブラックバットは、攻撃力と耐久力はあまり高くないらしい。実は素早さもそこまでではないらしいが……空を飛んでいるせいで、とにかく攻撃が当てづらいのだとか。
確かに、まだ遠くに見えるブラックバット2体はやや不規則な軌道を描きながら、高さ4メートルくらいのところをパタパタと飛んでいる。近接武器では手が届かないし、銃や魔法なんかの遠距離攻撃も見上げて放つのでは、慣れていないとなかなか当たらないだろう。俺もライトショットガン以外で撃ち抜ける自信はちょっと無い。
まあ、だからこそ。
「"ライトショットガン"、もう一つ"ライトショットガン"!」
先手必勝、距離があるうちに空に向けて光の散弾を撒き散らす。まだ戦いに慣れていない以上、早いところサシの状態に持ち込まなければ。
やや範囲を広めに設定してばら撒いたからか、光弾が疎らに飛んでいく。それも見越して魔法を2つ重ねたのだが、距離が遠い分だけ弾の密度は低くなっていく。
そのせいで1体には当たらなかったが、もう1体のブラックバットは両翼を貫かれたらしく、地面に落ちていった。まだ生きてはいるみたいだが、飛び立てないところを見るにこちらはほぼ戦闘不能とみていいだろう。
これで、1対1だ。
「キィィィ!」
仲間を落とされて怒ったのか、相変わらず不規則な軌道を描きながらブラックバットが空から突撃してくる。迎撃の魔法詠唱は……間に合うか微妙なタイミングだな。
なら、盾でしっかり防いでから反撃しよう。ホーンラビットよりは攻撃力も低いだろうし、向きさえちゃんと合わせれば十分防げるはずだ。
そう考え、光の盾をブラックバットに向けて構える……だけというのも芸が無いな。そうだ、もし衝突の瞬間に盾をブラックバットに叩き付けたら、どうなるだろうか?
じっとタイミングを見計らう。まだだ……まだだ……よし、今だ!
---ガツンッ!
「キィッ!?」
接敵の瞬間に、盾を強く前へと押し出す。ブラックバットにとっては予想外の衝撃だったのか、悲鳴を上げながら地面にポトリと落ちてしまった。脳震盪でも起こしているのか、ピクリとも動かない。
思い付きだったが、どうやらうまくいってくれたようだ。
「"ライトバレット"、もう一つ"ライトバレット"」
まずは、落としたばかりのブラックバットを片付ける。光弾で撃ち抜かれたブラックバットは、ホーンラビットと同じく白い粒子となって消えていった。
次に、離れたところでもがいているブラックバットにも光弾を飛ばす。エイム力を鍛える意味でも、あえて近付かずに遠くから仕留めたいところだ。
だが光弾はブラックバットには当たらず、だいぶ手前に着弾してしまった。距離はたかが30メートル程度だと思うのだが、案外当たらないものだな……。
「うーん、外したか。狙いを修正して……"ライトバレット"」
2発目のライトバレットは、今度は通路の遥か向こうに飛んでいってしまった。む、難しいなこれ……。
「………」
いくら倒せば消えるとはいえ、いつまでも苦しませるような事はしたくない。3発目は確実に当てる。
……ブラックバットに照準を合わせるイメージで撃てばいけるか?
「ロックオン……"ライトバレット・スナイプ"」
照準の中心にブラックバットを捉え、光弾を放つ。光弾は寸分違わずブラックバットを撃ち抜き、ブラックバットは白い粒子となって宙に溶けていった。
「……ふう、何とかなったか」
ブラックバット2体相手にも、危なげ無く勝利できた。早めに1対1へ持ち込めたのが勝因だったな。
……今回はたまたま早く見つけられたが、もし発見が遅れてブラックバットに接近されていたら、もっと苦戦していたかもしれない。【索敵】スキル、欲しいよなぁ……まあ、いくらなんでも高望みし過ぎか。
さて、今日のところはこれで撤退しよう。まだ2時間も経っていないが、ダンジョンに入った時間を考えるとお昼は完全に過ぎてしまっている。そろそろお腹も減ってきたし、ダンジョンを退出するにはちょうどいい。
さて、戦果を確認して……ん?
「あれ、なんか奥にも落ちてるな……」
すぐ足下に魔石が1つ、ちょっと遠くに魔石1つと赤っぽい珠が1つ。ここまではブラックバット2体のドロップ品だと分かる。
ただ、その少し奥にもなんか3つほど落ちている。光弾の流れ弾でたまたま仕留めたっぽいけど、見た限りではモンスターはいなかったはずだけどなぁ……。
「"アイテムボックス・収納"」
近付いて拾うのもいい加減面倒だったので、落ちているものをまとめて指定してアイテムボックスに放り込む。そこそこ距離が離れていたのでどうかなと思ったが、消費魔力は変わらなさそうだ。
「さて、帰るか」
ここに居ては、またブラックバットやホーンラビットに遭遇しないとも限らない。成果物を確認したい欲求は一旦忘れて、さっさと階段を登ることにする。
◇
「……はぁ、なんか疲れたな」
無事、ゲート前広場まで戻ってきたところで……ドッと疲れに襲われた。初ダンジョンなのにイベント盛りだくさん過ぎだろ……まあ、ケガは無かったからいいけどさ。
帰り道でブルースライムを3体狩ったので、これでブルースライムの魔石は計9個になった。いい加減ポケットがジャラジャラしてきたので、全てアイテムボックスに入れてある。
……そして、いつの間にか魔力が最大値の半分くらいまで回復している。あれだけ魔法を連発してこれは、【資格マスター】の消耗度合い軽減効果を加味してもちょっとあり得ないな……。俺が持ってる装備の中に、魔力の自然回復を促す効果があるものでも混ざってるのか?
まあ、試すのは今度だ今度、今日はもういいや。ダンジョンのドロップアイテムはダンジョンバリケード内のどこかで換金できるらしいから、成果品を確認してさっさと退ダンしよう。
「"アイテムボックス・一覧"」
☆
・ブルースライムの魔石×9
・ホーンラビットの魔石×1
・ブラックバットの魔石×2
・ラッキーバタフライの魔石×1
・装備珠(赤・ランク1)×1
・装備珠(青・ランク5)×1
・ポーション×1
☆
……えぇ、嘘だろ。一番下になんかとんでもない物が見えてるんですが。
ファンタジーの定番回復アイテム、ポーション。RPGゲームであれば、中盤以降は袋の肥やしになるのがお約束の下級アイテムだが……現代ダンジョンにおいては、だいぶ事情が異なる。
ポーションの効果がめちゃくちゃ高いのだ。使用者曰く『失った手足が新たに生えてきた』だの『難病が影も形も無くなった』だの『致命傷から生還した』だの……信じられないような報告が幾つも寄せられているらしい。しかも、それが事実だとちゃんと確認されているので、ポーションの需要は常にものすごく多いのだ。
その一方で、供給量は非常に少ない。年に2個出れば多い方だろう。なぜ元一般人だった俺がそんなことを知っているかと言えば……出れば即全国ニュースになるからだ。それくらいにポーションは注目度も高い。
そういった理由で、ポーションは最低でも1,000万、大概はその数倍以上の値が付くという超高級品なんだとか。同時にそれを巡って強盗事件や、誰かが命を落とすような事件が起きる曰く付きの品でもある。
……よし、いつか来るかもしれない危機に備えて、ポーションはアイテムボックスにしまい込もう。お金は大事かもしれないが、命に勝るほど大事なものではないからな。
気を取り直して、アイテムボックスの一覧を見る。
「ラッキーバタフライ、ねえ」
ポーションと防具珠(ランク5)を落とした魔物だろうか。姿が見えなかったが、多分ステルス能力でも持ってたんだろう。第2層にそんなモンスターがいたんだな。
とりあえず、防具珠(ランク5)は今度使うとして……ラッキーバタフライの魔石、換金しても大丈夫だろうか?
怖いのは、ラッキーバタフライ討伐→ポーションと繋がってしまうことだ。ダンジョンが出来てから2年半以上経っているので、過去に討伐記録があってもおかしくない。そこに、ポーションを落とすなんて記載があったりしたら……。
うん、これも然るべき時まではアイテムボックスの肥やしだな。俺のアイテムボックスが、いきなり表に出せない秘密で埋め尽くされてくな……。
そういう意味では、【空間魔法】スキルのこともなるべく隠すべきか。どのくらい希少なスキルかは分からないが、ブルースライム100万体目討伐記念で貰ったものである以上、ありふれたスキルではないのだろう。ちょうどギフトの方は報告する義務があるらしいので、【資格マスター】のことだけ報告すればいいか。
……ただ、今日は何も考えずに空間魔法使いまくってたからなぁ。他の探索者がいたかどうかは最低限しか確認してなかったし、誰かが見ていてもおかしくはない。ポーションしまうとこ、見られてないよな……。
そうそう、【資格マスター】で思い出したが、どうやらギフトが成長したらしい。基本情報技術者の効果の強化はまだみたいだが、資格を2つまで付けられるようになったようだ。忘れないうちに第二種電気工事士の資格をセットしておく。
☆
セット:第二種電気工事士
☆
これで、次回は雷魔法も使えるな。
……さて、と。最後に、売るやつをまとめておくか。
まず、ブルースライムの魔石が1個10円、計9個で90円。ホーンラビットとブラックバットの魔石は1個100円、計3個で300円。武器珠(ランク1)は1個1000円で売れるらしい。
売るものは以上なので、合計1390円。売るものを全部ポケットに移しておく。まあ、電車賃と朝飯代くらいにはなったか。
さて、そろそろゲートをくぐって退ダンするか。この紫のモヤモヤをくぐる感覚、あんまり好きじゃないんだよな……。
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