3−21:忘れちゃいないかい、ここはダンジョンの中だよ?
☆
(前略)
・ブルージェリーの魔石×8
(中略)
・スキルスクロール【水中呼吸】×1
(後略)
☆
ブルージェリー……ジェリーフィッシュという意味なら、やはりクラゲか? 光を半透過半反射するなら、多分そうなんだろう。
ただ、クラゲって淡水にも居るものなのか? 仮にいたとして、これだけ流れが激しい所に棲めるのか? 急流をものともせずに漂っていたし、生態があまりに謎すぎる。
……ダンジョンって、本当に不思議な場所だよな。
「ねえ恩田さん、アイテムボックス、なんて書いてあったの?」
「ん? ああ、ブルージェリーの魔石だってさ。クラゲタイプのモンスターかな?」
「クラゲ……うわあ、なんか毒とか持ってそうね」
「確かにな。今後、川はなるべく避けていこう。入らざるを得ない時は要注意だな」
ブルージェリーは半透明で見分けにくいし、念のため川には足を踏み入れない方がいいな。被害が出る前に気付けて良かったよ。
……さて、と。そろそろ本題に入るとしますかね。
「そういえば、スキルスクロールも拾った。【水中呼吸】のスキルだってさ」
「「「!?!?」」」
川に流されそうになっていたドロップアイテムは、どうやらスキルスクロールだったようだ。よく見ていなかったが、確かに茶色っぽい色をしていた気がする。
「"アイテムボックス・取出"」
【水中呼吸】のスキルスクロールを取り出し、右手に持つ。システムアナウンスらしき声が、いつもの通りに頭に響くが……。
---スキル【水中呼吸】を覚えられます
---スキルスクロールを使用しますか?
【チャージ】を手にした時のような前置きが、この【水中呼吸】には無い。スキルを覚えられます、使用しますか、というシンプルな問い掛けのみだ。つまり、これは……。
「このスキルスクロールは確率ドロップだな。さっきのクラゲ、結構良いものを落とすみたいだ」
今は調べられないが、売ればそれなりのお値段になるだろう。確率ドロップなら7桁は行かないだろうが、人気が高ければ6桁後半はかたいだろうな。
「そういえば、聞いたことがありますね。世の中には"水中型ダンジョン"と呼ばれるダンジョンがあって、そこでは【水中呼吸】のスキルスクロールがほぼ必須なのだそうです。ここからの最寄りが関西国際空港ダンジョンになるくらいには、水中型ダンジョンは更に数が少ないそうですが」
「なるほど…………ん?」
さっき倒したブルージェリー……あの見た目で陸に上がれるとは思えないし、多分水中型モンスターだよな? で、明らかに動きは鈍そうだったから、水中版ブルースライムと考えてもいいだろう。
そうすると、だ。
①最弱の水中型モンスターがドロップするのだから、水中型モンスター全般が【水中呼吸】のスキルスクロールをドロップする可能性があると推測
②水中型ダンジョンに入るには【水中呼吸】が必須だが、それさえ覚えていれば水中型モンスターと多く戦う機会が得られる
③ゆえに【水中呼吸】のスキルスクロールを度々入手するが、既に覚えているので売るしかない
④結果として売却数が多くなりがちで、需給バランスが乱れて値崩れを起こしやすい
この論法が成り立つのではないだろうか? 水中型ダンジョンを進むのに【水中呼吸】のスキルが必須で、しかしそれは水中型モンスターを倒さなければ入手できない、というジレンマはあるものの……それさえ乗り越えてしまえば、【水中呼吸】のスキルスクロールは逆に余り物となる。
①の仮定が成り立たなければ②〜④も成り立たなくなるが、少なくともブルージェリーが【水中呼吸】を確率ドロップすることは分かった。討伐を重ねればまた入手できるだろう。それなら今使っても、さして変わらないのではないだろうか。
「使うか」
水中型ダンジョンに潜る時が、いつかくるかもしれないからな。
「恩田さん。もしかしたら、ですが……売ってもあまり高くなさそう、という結論になられたのでは?」
「お、帯刀さんもですか?」
「はい。ブルージェリー以外のモンスターのドロップ次第ですが、それでも余りますよね?」
付け加えられた一言で、帯刀さんが俺と全く同じ流れを想像していたことが分かった。
さて、そうなるとこれを誰が使うか、なのだが……。
「……決めました。これは帯刀さんが使ってください」
「えっ? わ、私ですか?」
「はい」
朱音さんには【チャージ】を譲ったばかりだし、九十九さんはそもそもギフトが水中ダンジョンに向いてなさすぎる。俺は俺で、【資格マスター】にこんな資格がある。
☆
資格名:潜水士
効果:水属性魔法を使用可能 水中呼吸可能 泳力上昇
☆
【水中呼吸】の効果を含み、更には水属性魔法使用可能と泳力上昇の効果も付くため、完全な上位互換になる。
ちなみに、前に調べたことがあったのだが、潜水士の合格率は70〜80%とかなり高かった。実技が無いタイプの試験なので、勉強さえきちんとすればそう難しい資格ではないだろう。
……さすがに、勉強無しで合格できるほど甘くも無いだろうけどな。合格率7割ということは、3割の人は落ちているということなのだから。
「私も、せっちゃんが適役だと思うのです!」
「私は別のスキルスクロールを貰ってるから、これ以上は貰い過ぎになってしまうわ。だから、帯刀さんが使ってちょうだい」
朱音さんと九十九さんの同意も得られた。あとは帯刀さん次第だ。
スキルスクロールを手に帯刀さんをじっと見ていると、根負けしたように小さく息をついた。
「……分かりました。謹んでお受け取りいたします」
帯刀さんがスキルスクロールを受け取る。頭に響いたであろうシステムアナウンスに少し驚きつつ、帯刀さんが羊皮紙を開こうと……ん?
「帯刀さん、"使います"と口に出すか、装備珠と同じように念じたらいけますよ」
「えっ、そ、そうなんですか? 知りませんでした……」
帯刀さん、スキルスクロールを使うのは初めてか。第4層まででスキルスクロールを手に入れる機会はほとんど無かっただろうし、さもありなんといったところか。
……今思い返せば、俺のビギナーズラックは中々に凄まじかったらしい。初手【空間魔法】なんて、一生分のダンジョン運を使い切ったのではないだろうか。
「………」
スキルスクロールを両手で包み込み、帯刀さんが目を閉じる。どうやら彼女は念じることにしたらしい。
しばらくすると、スキルスクロールが解けて光に姿を変える。その光が、帯刀さんの体へ吸い込まれていった。
「……特に変化は感じないのですが、これで大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、もう使えるようになっていると思いますよ。試すのはちょっと危険ですが……」
試してみたい気持ちは察するものの、今は少し危険だ。ブルージェリーが水中にいるかもしれないし、もしかしたら他のモンスターも……。
---ガサリ……
「あっち、モンスターだ!」
「「「!!!」」」
草を踏む音が聞こえたのと、オートセンシングがモンスターの存在を検知したのはほぼ同時だった。モンスターが現れた方角を指差し、即座に全員へ注意を促す。
位置関係的には、ちょうど川を背にして戦うことになる。まさに背水の陣というやつだが、逆に言えば後ろをあまり気にしなくても良いということなので、帯刀さんも前に出て戦闘態勢を取った。
「「「グルルル……」」」
森の深い藪を掻き分けて、灰色の狼のようなモンスターが3体現れた。大きさはいずれも中型犬くらいだろうか、生では初めて見るモンスターだ。
……そう、初心者御用達のあのパンフレットに、絵と一緒に名前が書いてあった。
「グレイウルフだ! ホーンラビットの強化版モンスターだぞ!」
「グルァッ!」
俺が大声を出したと同時に、一番前にいたグレイウルフが一直線に飛び掛かってきた。ホーンラビットのような溜め動作も無く、0から一気にトップスピードへと加速して襲い掛かってくる。
狙いは……帯刀さんか!
「ガァァッ!」
「帯刀さん!」
「……ふっ!」
---ガキィン!
---ピキキキ……
「ギャウ!?」
グレイウルフの飛び掛かり噛みつき攻撃を、帯刀さんは冷静に盾で受け止める。その直後、なんと盾の表面が凍りだした。
大口を開けて盾に食らいついていたグレイウルフは、そのまま盾と共に凍りついていく。
……やがて、オオカミの全身氷像が1体出来上がった。氷像は盾の表面の氷ごと剥がれて、地面へと落ちていき……。
---ガシャァン!
落下の衝撃で、粉々に砕け散る。後には魔石と、装飾珠がドロップした。
「"アイスシールド"の魔法です。直接攻撃を盾で受け止めた時に、カウンターで相手に氷属性のダメージを与えます」
「すごいな……」
ただ敵の攻撃を受け止めるだけでなく、カウンターでダメージを与えていく攻防一体型の魔法か。しかも、グレイウルフを一撃で倒すくらいの威力はあるようだ。
「ギャウ!」
と、次のグレイウルフが飛び掛かってくる。今度の狙いは朱音さんのようで、まっすぐそちらに向かっていった。
……同時に来られるとかなり厄介なのだが、なぜかグレイウルフは1体ずつ攻撃を仕掛けてくる。集団で現れた割に、群れで戦うことがあまり得意ではないのだろうか?
「……はっ!」
案の定、準備万端待ち構えていた朱音さんに攻撃を避けられ、カウンターで横に一刀両断されている。ここで残った2体が同時にかかっていれば、少しは手こずったかもしれないのに。
……見た目は全く違うが、ホーンラビットの純粋な強化版、といった感じかな。良くも悪くもな。
「"ライトニング"」
---ドン!
「ギャッ!?」
そろそろ飛びかかってくるかなと思い、最後の1体にライトニングを叩き込む。やはり突撃態勢を整えていたようで、避ける間もなく最後のグレイウルフに雷が直撃。そのまま魔石へと姿を変えた。
「……"アイテムボックス・収納"」
後続のモンスターが来ないことを確認して、アイテムボックスにドロップ品を収める。
第5層で最初の戦いは、こちら側の圧勝に終わった。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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