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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く

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3−18:頭の回転が早いのに、空回りしていてもったいない人ってたまにいるよね


「……な、なんですか、これは」


 昼飯を兼ねた休憩が始まって、1時間と30分くらいが経った頃だろうか。

 階段の上から、透き通った女性の声が聞こえてきた。その声色からは、戸惑う様子がありありと伝わってくる。


 まあ、それも無理ないか。なにせ、


・威圧感マシマシの黒服6人に囲まれて休憩する、無傷の探索者集団

・体のあちこちに包帯を巻いた、傷だらけの探索者集団


 以上の2組が階段にたむろしているのだから、どう見ても只事でない雰囲気しか感じないだろう。実際に異常事態 (ただし、ほとんどの人が想像するであろうものとは大きく異なる事態)が発生していたので、決して間違いではないのだけどな。


「あ、せっちゃんが来たのです!」


 俺が振り向くよりも早く九十九さんが立ち上がり、階段をタタタッと駆け上っていく。

 九十九さんが向かった先を目線で追うと、白い冷気を纏う剣を右手に持ち、全身をフィアリル装備で固めた人が段上に立っているのが見えた。パッと見では俺や朱音さんより少し背が低く、藍梨さんと同じくらいだろうか。ヘルムの隙間から、ストレートロングの黒髪がサラリと流れている。


「えいっ、なのです!」


 その女性に向かって、九十九さんが全力で飛び付いていった。


「えっ、ちょっ、彩夏さん!?」


 彩夏さん……ああ、九十九さんの名前か。一瞬誰のことか分からなかった。

 飛び付かれた女性はとっさに剣を投げ捨て、慌てた様子で九十九さんを受け止める。女性の体幹がしっかりしているのか、はたまた九十九さんが軽すぎるのかは分からないが、女性はふらつくことなく九十九さんを受け止めた。


「急にどうしたんですか?」

「強いモンスターと戦って勝ったのです、それをせっちゃんに報告したかったのです♪」

「強いモンスター……?」


 九十九さんがご機嫌な一方で、強いモンスターに心当たりが無いのか女性が首を傾げる。九十九さんを引き連れながら投げ捨てた剣を拾い、鞘に収めてからも考えていたようだが……表情に浮かぶ困惑の色は、更に強くなるばかりだった。


「あ、そうだ。せっちゃん、みんなを紹介するのです、付いてきて欲しいのです」

「え、あ、ちょっ……」


 九十九さんが唐突に女性の手を引いて、こちらに戻ってくる。九十九さんは小走りだが、女性は普通に歩くくらいに歩幅の差があった。


 それにしても、ニックネーム呼びと名前呼びとは。九十九さんは何回か喋ったことがある程度だと言っていたが、2人はとても仲が良さそうに見える。

 ……というか、九十九さんの方が一回りほど歳上のはずなのだが。九十九さんが妹で、女性が姉の姉妹にしか見えない。口に出しては絶対に言わないが。

 あと朱音さん、心底羨ましそうな顔で2人を見ないでくれ。笑う場面じゃないのに笑ってしまうから。


「恩田さん恩田さん!」

「うん? ああ、どうも」


 気付けば、九十九さんが女性を伴って俺の近くに立っていた。座ったまま対応するのは失礼なので、俺もゆっくりと立ち上がる。

 九十九さんが連れてきた女性と目が合う。ヘルムから覗く顔は明らかな美人系で、切れ長の瞳から射抜くような鋭い視線がこちらに向けられている。


「どうも、この探索者チームでリーダーを任されています、恩田高良といいます。ギフトは【資格マスター】です。よろしくお願いしますね」

「む……」


 何かを言いかけて、女性は口を閉ざす。目も最初こそ合っていたものの、額に皺を寄せてフイと逸らされてしまった。ただ、目線だけはきょろきょろとあちこちを彷徨い、時折こちらにも鋭く飛んできている。


 ……あ、この感じはあれだな。ちゃんと言葉を返したいのに、どう返したらいいか悩んで混乱してしまう……そんな人にありがちな挙動だ。このタイプの人は話そうという意思がちゃんとあるうえに頭も良いので、どちらかと言えばコミュニケーションが取れるタイプの人になる。

 ただし、この子の場合は整った見た目がマイナス方向に働いてしまっている。目力が強いせいで相手が萎縮してしまい、理解される前に誤解されてしまうのだろう。おじさんがこの子を指して"鬼気迫る"と表現したのも、多分そのせいなのかもしれない。

 こういう人と話す時は、絶対に急かしてはならない。急かした瞬間、内心で怖い人と思われて距離を置かれかねないからだ。


「せっちゃん! 恩田さんは良い人なのです。信用しても大丈夫なのですよ」

「それは、その……頭では分かっているのですが……うまく言葉が……」

「いえ、ゆっくりで構いませんよ。魔力空っぽで休憩中でしたので、時間は十分にありますから」


 少しだけ、目線を九十九さんの方にずらす。こういう人はあまりジッと視線を向けられると、強いプレッシャーを感じてしまうことがあるからな。圧を加えていると誤解されてしまう行動は、なるべく慎まなければ。

 九十九さんの言葉と俺の反応で少し安心したのか、視線は余所を向いたままではあるものの、女性が口を開いてくれた。


「……帯刀(たてわき)雪華(せつか)と申します。"たてわき"は、帯に刀と書いて帯刀(たてわき)と読みます。ギフトは【氷騎士】です。彩夏さんがいつもお世話になっております」

「大変お世話になりました、です」

「九十九さん、それお別れの時の挨拶ですよ。帯刀さんが来たから、俺たちはお役御免ってやつですか?」


 せっかく女性……帯刀さんが一生懸命喋ってくれてるってのに、九十九さんはホントにもう……。

 時折、九十九さんは日本語の使い方が微妙にズレるので、すかさずいじっておく。


「え、ち、違うのですよ! 私、そんなつもりはないのですよ!」

「そうですか。冗談ですけどね」

「………」

「まあ、それはおいといて……こちらこそ、よろしくお願いしますね、帯刀さん」

「は、はい。よろしくお願いいたします」


 ぷくぅ〜、と頬をハリセンボンのように膨らませる九十九さんを尻目に、帯刀さんと俺は互いに頭を下げる。とりあえず、第1関門は無事越えられたようだ。


「むぅ、恩田さんは意地悪なのです」

「意地悪であっても、害悪ではないでしょう?」

「そうですけど……そうですけど!」


 九十九さんが、どこか納得できない様子で俺を睨んできている。俺にそんな()はないが、一部界隈では思い切り喜ばれそうな感じの、全く怖くない小動物的な威嚇だ。

 それらをまるっとスルーして、もう一度帯刀さんに話しかける。


「ところで、帯刀さんも第4層の突破を狙っている感じですか?」

「はい、その……もう少しお金を稼げるであろう、深い階層に行きたいと思っているのですが。第4層は、私1人ではどうしても突破できなくて……」

「やはりそうでしたか」

「頼れるのは彩夏さんだけでしたが、これまで全く予定が合わなかったんです。同じ日に来れても、彩夏さんは午前で私は午後しか来れない、とかばかりで……言葉を交わすのが精一杯でした」


 ああ、だから1人で戦っている姿ばかりが目撃されていたわけか。さりとて、九十九さん以外の人に話しかける勇気は無かったと……。


「では、良い機会ですし今日は俺たちと協力しませんか? 恥ずかしながら、俺たちも第4層で足踏みをしていて……」

「いいのですか?」

「ええ、むしろこちらから、ぜひお願いしたいです。お金の分配は……もう面倒くさいから、ヘルズラビットを除いて得た全収益を4等分でいいかな。朱音さん、九十九さん、それでいいですかね?」

「ええ、私は構わないわ」

「私もオッケーなのです」

「……ヘルズラビット、ですか?」


 おっと、帯刀さんは今来たばかりだから、あれを見てなかったっけか。ここは、ちゃんと説明しておかねば。


「ホーンラビットの進化系みたいなモンスターが、この場所に出現していましてね。俺と九十九さん、あとは朱音さんの3人で倒したんです」

「ああ、強いモンスターってそういう……しかし、やはりダンジョンは油断ならない場所ですね。私も気を付けなければ」


 ぜひ、そうであって欲しい。俺たちは探索者であって冒険者ではないのだから、安全マージンを十分に確保したうえで慎重にことを運ぶべきだろう。


「あ、話ついでに自己紹介だけさせてちょうだい。私は久我朱音、ギフトは【魔槍士】よ。よろしくね、帯刀さん」

「私は久我藍梨、朱音の姉だ。ギフトは【軍団長】という。よろしく頼む」

「僕は岩倉陽向、ギフトは【遊撃手】です。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします。朱音さん、藍梨さん、陽向さん」


 全員の自己紹介が終わったところで、こっそり帯刀さんに聞いてみる。


「……帯刀さん、休憩は必要ですか? 問題無ければ、このまま第4層攻略を始めようと思うのですが」

「……はい、全く問題ありません。時間ももう14時近いですし、早速攻略を始めましょう」


 本当に、話が早くて助かるよ。

 周囲を見回しながら、パンパンと手を打ち鳴らす。全員の視線がこちらを向いたタイミングを見計らって、俺は口を開いた。


「さて、そろそろ第4層攻略といきましょうか。とりあえず、先制攻撃は俺に任せて貰えますか? 最低でも半分は持っていきますんで」

「……あ、もしかして。フラッシュからのライトニング・ボルテクスで、先制攻撃を叩き込む感じかしら?」

「朱音さん、ご名答」


 さっきのライトニング・ボルテクスで気付いたのだが、溜め時間が少し短くて済むようになっていた。乱戦になる前に魔法を発動できれば、第4層のモンスター数を大きく減らすことも十分に可能だろう。

 加えて、今の俺にはフラッシュがある。目眩ましで時間を稼ぎ、広域殲滅魔法を発動するというコンボを決めることができれば、モンスターを安全かつ効率良く倒すことができる。

 ……なぜ、昨日のうちに気付けなかったのだろうか、とも思うが。あのモンスターの大群を目の前にして、無防備を晒す方法は簡単に思い付けるものじゃない。


「朱音さんは、俺と一緒に第4層へ先行してほしい。俺がライトニング・ボルテクスを撃つまでの護衛をお願いしたい」

「ええ、任せてちょうだい」


 一緒に第4層のモンスター共と戦った、信頼できる仲間がいてくれるからこその方法だからな。


「九十九さんと帯刀さんは階段で待機していてください。俺たちが戻ってきた後に残敵掃討を行いますので、その準備をお願いします」

「了解なのです!」

「分かりました」

「藍梨さんと陽向君、ガードマンの皆さんは九十九さん方の後ろにお願いします。怪我をした探索者の皆さんは……」

「迷惑をかけるといかんからなぁ。念のために、第3層で退避先の安全を確保しておくわ」

「なら、私たちも第3層の安全確保に回ろう」

「おじさん、藍梨さん、ありがとうございます。ぜひお願いします」


 よし、これで大まかな役割の確認は終わった……あ、そうだ。


「帯刀さん、"目を閉じろ!"と俺が叫んだら、しっかりと目を覆ってください。フラッシュという魔法を撃つ前の合図になりますので」

「はい、分かりました」


 忘れずに、フラッシュを使う前の注意点を帯刀さんに伝えておく。


「……さて、そろそろ行きますかね」


 1時間半の休憩で、魔力も6割くらいまで回復した。ソロでこの状況なら間違いなく危険だが、今の俺には頼れる仲間たちがいる。

 さて、第4層の攻略、始めていきますか。

ちなみに、後でそれとなく九十九さんに聞いてみたことがある。


「朱音さんと帯刀さんで対応が違いますけど、2人の違いはなんですか?」

「そうですね……せっちゃんは、良くも悪くも純粋なのです。好意なら好意で、嫌悪なら嫌悪ですぐ一杯になる子です。私には好意で一杯の感情を向けてくれるですので、素直に受け入れられるのです。

 一方で、朱音さんはですね……その、強い好意は感じるのですけど、同時になんだか邪念も感じるのです。だからつい警戒してしまうのです」

「なるほどね」


 やはり、九十九さんにはお見通しだったようである。


◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 警戒されてるw
[一言] 九十九さん 「です」ポリシー消えてませんか?。
[気になる点] 「そうですね……さっちゃんは、良くも悪くも さっちゃんって…… せっちゃん。
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