3−16:激闘の後、思わぬ収穫と出現理由の考察
「……ふぅ、なんとか勝てたか。"オートセンシング・フォー"」
追加のモンスターが現れないことを確認してから、そっと息を吐く。
魔力切れでオートセンシングが勝手に解除されてしまったが、少しだけ魔力が回復したのですぐかけ直しておく。自然回復速度の方が上なので、また魔力切れになることは無いだろう。
「私たちの勝利なのです、ブイ!」
「おっ、ビクトリーってな!」
---パチン!
近くにいた九十九さんとハイタッチを交わす。最後、突進軌道を修正された時は少しばかり肝が冷えたが……無事、全員が無傷で強敵討伐を終えることができた。念のためのプロテクションだったが、無駄になって本当に良かったよ。
「……恩田さん」
「うん? どうしたんだい、朱音さん?」
「……私、あまり活躍できなかった……」
朱音さんともハイタッチしようとしたのだが、見るからに朱音さんが落ち込んでいる。ヘルズラビットに攻撃がほとんど通じず、ヘイトも全く稼げなかったことを気にしているらしい。
ただ、あれは仕方ないことだ。ヘルズラビットが物理攻撃に高い耐性を持つことは、途中から分かっていたのだから。
ゆえに、朱音さんはダメージソースとしてではなく、俺たちのサポート役として立ち回ってくれた。結果的にはうまくいかなかったが、良い部分も確かに垣間見えた。
「そんなことはない。朱音さんの援護があったからヘルズラビットに大きな隙が生まれたし、余裕をもってフラッシュを差し挟むことができた。攻撃が効きづらかったのは、単にヘルズラビットと相性が悪かっただけだ」
「……恩田さん」
「逆に、魔法耐性の方が高いモンスターが今後は出てくるかもしれない。その時は、朱音さんだけが頼りになるからな」
「恩田さん……!」
朱音さんの表情がパッと晴れる。一切の偽りを含まない、俺の本音だからな。それが少しでも伝わってくれればいいのだが。
「いいですね、いいですね、てぇてぇなのですね」
「……九十九さん、それはちょっと違う気がするぞ」
どちらかといえば、九十九さんの存在自体がてぇてぇな気がするけどな。考え方は立派な大人のそれなのだが、何をしてもその言動と見た目で、小学生の子が一生懸命背伸びして頑張っているようにしか見えないし。
「………」
「……なんですか、その生暖かい目は、です」
「いや、なんでも?」
「むむむ、怪しいのです」
まあ、口には決して出すまい。九十九さんも、余計な詮索はしない方が良いと思うぞ?
……それにしても、ヘルズラビットはとんでもなくタフだったな。あれだけ雷撃を浴びせられて、なお暴れ回るほどの体力が残るとは。朱音さんの攻撃もほとんど効いていないようだったし、物理攻撃に加えて風属性あたりにも耐性があったのかもしれないな。
そして、ヘルズラビットは火属性が弱点だったようだ。獣は火に弱い、という命題が必ず成り立つわけではないだろうが、少なくともヘルズラビット相手には成り立った。また戦う機会があるかは分からないが、次はもう少し楽に倒せるだろう。
「……ふふ」
いやあ、いいねぇこの感じ。これまでのモンスターはあまりに弱すぎて、属性相性を考えなくとも容易に蹴散らせたのだが。ヘルズラビットが相手だと、さすがにちゃんと考えて準備をし、パーティで連携しなければ容易には勝てない相手だった。今も何かを間違えていれば、誰か (十中八九、俺だったろうけど)が突進攻撃の餌食になっていただろう。
探索者になってほんの数日しか経っていないクセに、早くもモンスターを舐めてかかってる部分が俺の中にあったからな。こういう強敵が急に出てくることもあるのだと、気を引き締める良い機会になった。そういう意味では、ヘルズラビットに感謝しなければな。
「……恩田さん、不気味なのです」
「……私からはノーコメントで」
「こら、聞こえてるぞ。不気味なのは否定しないが」
まあ、口に出しながら引いてくれるだけまだマシだけどな。これ、無言でそっと離れていかれる方がよっぽどキツいのよ。
「そういえば九十九さん、エンチャント・ファイアの効果はどうでしたか?」
「クリムゾン・フレアを使ったのは3回目ですけど、威力がすごく上がっていたのです。普段の1.2倍くらいは火力が出ていたのです」
「だいぶブーストが効いたようですね」
しかし、あのタフなヘルズラビットを跡形も無く消し去ってしまえるとは。元の火力が高いだけに、2割増でも相当な威力アップになったのだろうな。
「……それにしても、色んな物をドロップしたものねえ」
「さすがは強敵ってところかな。リスクは大きかったが、リターンも相応に大きくてなによりだよ」
そう言いながら、まずは魔石を手に取る。薄く緑がかり、拳大より一回りほど大きな魔石だ。ラッキーバタフライの魔石は例外なので省くとして、過去最高の売却額4桁は普通にいきそうな見た目をしている。
俺たちでもなんとか倒せたくらいの強さから勘案して、大体2000円〜3000円くらいだろうか。換金所に提出するのが楽しみだ。
次に、ヘルズラビットの大角を手に持つ。明らかにホーンラビットの角より太く、そして重い。強度も確実にホーンラビットの角より上だろう。希少度だけで言えば、ポーションを遥かに凌ぐ逸品であるのは間違いない。
多分オークションになるとは思うが、需要の少なさゆえに飛び抜けた高値は付かないだろう。それでも、どんな値が付くのかこちらも楽しみだ。
そして、武器珠と装飾珠。1体のモンスターから装備珠が2つ以上、同時にドロップするのを見たのは初めてだな。ヘルズラビットの強さもあって、高ランクが期待できそうだ。
まずは、装飾珠を拾って覗いてみる。
「装飾珠は……ランク3か、中々良い物を落としてくれたな」
「まあ、ヘルズラビットも強かったものね。妥当なんじゃないかしら?」
「ああ、俺もそう思うよ」
第4層までのモンスターからはドロップした事のない、ランク3の装備珠を入手することができた。ラッキーバタフライのそれと比べれば確かに劣るが、ヘルズラビットの強さを勘案すれば相応しいドロップだと言えよう。
さて、もう1つの武器珠の方は……。
「……あ、ランク4だコレ」
「です!?」
「あら」
なんと、もう1つはランク4の装備珠だった。これは予想外だったな。
「……もしかして、ヘルズラビットの強さって結構上だったりするか?」
「かもしれないわね」
どこまで深く潜れば、ヘルズラビットと互角の強さを持つモンスターが出てくるようになるのだろうな。ランク4だから……2桁層くらいから、かな? あくまで予想だが。
「さて、ランク4の装備珠にも驚いたが……まだ本命が残ってるぞ」
「ですです、私は初めて見たのです」
これで、ヘルズラビットのドロップは最後だ。おそらくは、この中で最も価値が高いであろうアイテムになる。
「スキルスクロール……なんのスキルだろうな?」
紐で巻かれた羊皮紙のような見た目のそれを、そっと手に取ってみる。
---特殊モンスター"片角の大兎"討伐成功を祝福いたします
---全世界で28番目、日本では初の討伐者となります
---スキル【チャージ】を覚えられますが、スキルスクロールを使用しますか?
ヘルズラビット、正式名称は片角の大兎か。見たまんまな気もするが、ひねった名前を付けられるよりは遥かに分かりやすいな。しかも、俺たちが日本で初の討伐者なのか。
……ただ、それ以上に気になるワードが今のシステムアナウンスに含まれていたな。
「"特殊モンスター"ねぇ。特殊ドロップと同じように、特殊モンスターの出現には何かしらの条件があるんだろうな」
ホーンラビットの角を折ってから倒さずに何日か放置するとか、な。人間に対して深い恨みを抱いていたようだし、ヘルズラビットがそういう目に遭っていたとしても何らおかしくはない。
故意に特殊モンスターを作ろうと思えば、条件さえ分かればおそらくはできるのだろう。ドロップも非常に豪華だし、倒せる実力があれば物凄い稼ぎになる。
だが、元のモンスターと比較すると特殊モンスターは桁違いに強いし、攻撃性も大幅に増していた。こんなものが浅い層にウヨウヨいたら、確実に死人が出てしまう。
……うん、やはりナシだな。モンスターに出くわしたら、確実に倒し切る。これを徹底していかなければ。
「ねえ恩田さん。それ、なんのスキルだったの?」
「ああ、【チャージ】って名前らしい」
「持ってみてもいいかしら?」
「どうぞ」
朱音さんにスキルスクロールを渡す。俺と同じシステムアナウンスを聞いているようで、少し驚いているようだ。
「私たち、日本初のヘルズラビット討伐者なのね」
「どうやら、そうみたいだな」
「です、私も持ってみたいのですスキルスクロール」
「ええ、どうぞ♪」
九十九さんにスキルスクロールを渡す……どさくさ紛れに九十九さんを捕まえようとしていたので、朱音さんに頭チョップを食らわせておく。
「痛っ!? ちょっと恩田さん、今のは未遂でしょ!?」
「未遂ってことはやろうとしてたってことだろ?」
「そ、そんなことは……無いことも無いことも無いことも無いけど」
「………」
目が泳ぎまくってるぞ〜、朱音さん。
「です、ありがとうなのです」
「どうも」
「……ガーン」
九十九さんからスキルスクロールを受け取る。そのまま流れるようにして、九十九さんが俺の後ろに隠れた。
「さて、朱音さん、九十九さん。楽しい楽しい、分配のお時間がやってまいりました」
「いえーい、なのです!」
「お、おー……」
九十九さんはノリが良いな、そして朱音さんはテンション低いな。
1人で滑った時が本当に地獄だから、反応を返してくれるのはとてもありがたいことだが。
「じゃあ、まずは俺から。せっかくだから、俺はこのデカい角を選ぶぜ?」
「? ええ、どうぞ」
「………」
なんか小首を傾げながらも、普通に朱音さんに返されてしまった。
まさか、こんなどうでもいいことでジェネレーションギャップを感じるとは。界隈ではそこそこ有名なセリフの、ちょっとしたオマージュなんだけどな……。
「……ドンマイなのです、恩田さん」
「……言わないでください、九十九さん。なんというかアレなので……」
「???」
慰めは要らんのですよ、九十九さん……。
「ではでは、私は装備珠2つを所望するのです」
そんな俺を無視して、話は進んでいく。九十九さんは装備珠を所望して……え?
「いいのですか、九十九さん?」
「いいのです。【チャージ】の効果がどんなものなのかは分からないですが、魔法職かつ高火力で燃費が悪い私では、きっとうまく使いこなせないと思うのです。それなら、装備珠を貰っておく方が確実に役立つのです」
「……分かりました」
金額ではなく、ダンジョン探索に役立つかどうかで判断しているわけか……欲が無さ過ぎではなかろうか。まあ、本人が納得しているのならそれでいいのだが。
「なら、朱音さんが【チャージ】のスキルスクロールだな。さ、どうぞ」
俺は既に【空間魔法】と【闇魔法】のスキルを得ている。そして俺も魔法職である以上、【チャージ】の効果を十分に発揮できない可能性は高い。
九十九さんが装備珠を選んだ以上、必然的に【チャージ】のスキルスクロールは朱音さんのものになる。
「え? でも……いいのかしら?」
「いいっていいって、サクッと使ってよ」
「ですです!」
「なら、遠慮なく……」
スキルスクロールを受け取り、朱音さんが念じる。紐が解け、羊皮紙が眩く光りだし、球状に集まった光が朱音さんの体の中へと入っていった。
「では、私もなのです」
続けて、九十九さんが装備珠2つに念じる。武器珠の光は杖の形に、装飾珠の光は手袋の形に、それぞれ変わっていき……。
太陽の意匠が象られた杖と、オレンジ色の鮮やかな手袋にそれぞれ変化した。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




