1−3:地図を整えるのは大事、超大事
結論から言おう。
右の道はハズレだった。曲がってすぐに行き止まりだった。こういう時、RPGなら宝箱が置いてあったりするものだが……この行き止まりには、そういった様子も無い。完全なる、ハズレの行き止まりだった。
そもそも、第1層に宝箱は出ないらしい。出るのは第3層以降だけなんだとか。
「やっぱり、さっきので運使い切ったかな、俺……」
ついでに、続けて入った左の道もハズレ。ブルースライムとの遭遇すらなく、ただ時間を浪費するだけに終わった。成果といえば、第1層の脳内地図の完成度が高まったことぐらいだろう。
早くも計3回目のビューマッピングを使用してしまったがな。
……そうなると、正面の道が正解だったのか。ブルースライムもそちらから出てきてたし、最初からこちらに行くべきだったかもな。
正面の道に入る。最初の角を左に曲がると、本日4体目のブルースライムを発見した。
「よし、"ライトバレッ"……いや、待てよ?」
すぐにライトバレットで処理しようとして、すんでのところで思い留まる。
次の階層で出てくるブラックバットとホーンラビットは、どちらも魔法攻撃を当てにくいモンスターらしい。いくら弾速が速いライトバレットでも、確実に当たるとは限らない。
ルビーレーザーもそこは同じで、特に素早い敵なんかを捉えるのは簡単なことではない。前衛職なら敵の攻撃を防いでからカウンター、という戦法もとれるかもしれないが……この光る盾がどれぐらいの強度を持っているか未知数なうえ、杖で殴ったら白い宝玉っぽいのが割れてしまいそうだ。カウンターで魔法は、さすがに詠唱が間に合わない。
なら、どうするか。
点や線ではなく、面で攻撃すればいい。RPGなんかでは素早い敵は脆いことが多いので、威力はそれなりで大丈夫だろう。仕留めきれなくともダメージさえ与えられれば、機動力は十分に奪える。
そして、速さも大事だ。詠唱後すぐに広範囲を攻撃でき、素早い敵を捉えられる弾速も必要になる。
……となれば、これしかないな。
「"ライトショットガン"」
杖をブルースライムへ向け、ライトバレットを放つ。そのライトバレットの弾を途中で破裂させ、数百個の小さな光の粒弾をブルースライムに向けて降り注がせる。着弾範囲はブルースライムを中心とした、半径1メートル以内に設定した。
光の散弾、それが俺の答えだ。光弾を複数発浴びたブルースライムはハチの巣になり、やがて地面に溶けるようにして消えていった。新しい魔法がまた1つ完成したな。
「……さて、と」
この先は、緩く右に曲がっていく感じの一本道だ。曲がり角で一応ビューマッピングをしておいてから、先へ進むこととしよう。
◇
「……思ったより簡単に見つかったな、下り階段」
最初の広場以外に分岐路は無く、ビューマッピングもまだ6回しか使っていない。だと言うのに、一本道を2分ほど進んだ先であっさりと第2層への階段を見つけた。ついでにブルースライム2体も見つけたので、ライトショットガンでまとめて撃ち倒している。
第1層で仕留めたブルースライムの数は、これで6体。歩いた距離の短さを考えると、遭遇率はそこそこ高そうだ。これが第2層以降も続くのであれば、より慎重に探索した方がいいかもしれないな。
「………」
そっと階段下を覗く。シンプルな石段が緩やかに続いているが、下の方は暗くてよく見えない。降りてみなければ様子は分からないか。
「ふむ……」
さっきビューマッピングを使っていて気付いたが、魔力が少しだけ回復していた。どうも歩いている間に自然回復したようで、ビューマッピング1回分くらいは余裕ができたように感じる。
……であれば、だ。少しだけなら、第2層を覗いても問題無いのではないだろうか。第1層の地図はちゃんとあるし、モンスターもここにはブルースライムしかいないのだから。
「……よし、行こう」
30段ほど階段を降りたところで、第2層に到着した。同じく洞窟タイプの階層のようで、階段前は分岐路の無い普通の通路になっている。
「ギィィィィィィィ!」
そして通路の先で、立派な一本角の生えたウサギが俺を見上げながら威嚇していた。思ったよりも体が大きく、一本角の先まで含めれば俺の膝上ぐらいの高さはあるのではないだろうか。
なるほど、こいつがホーンラビットか。第2層から出現する、素早さと攻撃力が高いアクティブモンスターらしいが……。
「……ギッ!」
じっと観察していると、ホーンラビットが深く伏せる。そこから立ち上がる勢いのまま、後ろ脚で地面を蹴って勢い良く走り込んできた。一角は、一直線に俺のお腹の方を向いている。
素早いという前情報はあったが、実際の速度は思っていたよりも速い。詠唱は……間に合わないな、これは。避けるタイミングも少し逸してしまっている。
ならばと、ブルースライム戦では出番の無かった盾を前に構える。盾は相変わらず光を発し、比較的広範囲を守ってくれている。
その盾に向けて、ホーンラビットが一角を閃かせて飛び掛かってきた。
---ガギィン!
「くっ……!」
盾の光の部分で角を受け止めたが、なかなかの衝撃が体に伝わってくる。それでも盾そのものは凹みすらしなかった。どうやら強度は十分に高いらしい。
攻撃を防がれたホーンラビットは、反動で少し離れた場所に着地したようだ。
「ラ、"ライトショットガン"!」
お返しとばかりに、光の散弾をホーンラビットに撃ち込む。当然、ホーンラビットはそれを跳んで避けようとするが……。
「ギッギィィィ!?」
降り注ぐ高速の弾丸を避けきれず、数発がホーンラビットを貫く。その内の1発が後ろ脚を撃ち抜いたらしく、ホーンラビットは完全に身動きが取れなくなっていた。
それでもブルースライムよりは耐久力があるらしく、まだ倒れてはいない。
「ギィィィ……」
「……"ライトバレット"」
動きが止まったホーンラビットに、光の弾でトドメを刺す。正中を撃たれたホーンラビットはぐったりとし、無数の白い粒子となって宙に消えていった。死体が残らないのは精神的にありがたいな……。
後に残ったのは、ブルースライムのものよりも少しだけ大きな魔石が1つ。それと、黄色の小さな珠が1つだった。
「ふぅ〜……おっ、装飾珠か」
不意の遭遇に動揺したが、ゆっくり落ち着いてから魔石を拾ってポケットに入れ、装飾珠も拾って中を覗く。中では"2"の数字が揺らめいていた。どうやら、最初に貰った装飾珠よりも良い物が出そうだ。
(俺に、モンスターから身を守るすべを)
装飾珠に念じると、装飾珠が光に変化して俺の右手首辺りを包み込む。その光が晴れた後には、何やら幾何学的な模様の描かれた白い腕輪がはめられていた。
「……なんだろうな、これ?」
装飾珠から出たものだから、少なくとも悪いものではないはずだが。どんな効果があるのかは分からない。【鑑定】スキルがあればいいんだが、スキルスクロールなんて狙って手に入れられるもんじゃないからなぁ……。
【資格マスター】で鑑定能力を持つ資格を探すにしても、俺が所持していない資格では消耗度合い軽減効果が発動しなくなる。24時間縛りもある以上、迂闊に資格を付け替えるわけにはいかない。
……うーん、色々試して効果を見極めるしかないか。何だか不◯議のダンジョンをやってる気分だな、俺は死んだらそこで終わりなんだが。
「………」
これでライトショットガンの有効性の検証と、ホーンラビットの強さの確認は済んだ。ホーンラビットにライトショットガンは有効だが、攻撃を盾で防いでから撃った方が一番安定して戦えそうだ。当初の目論見からは外れたが、まあ何とか戦えそうなので少し安心した。
……さて、ここからどうするか。とりあえず、第2層用の地図を無限空間に改めて用意して……と。
「"ビューマッピング"」
本日7回目のビューマッピングで、階段と一本道を地図に転記する。道は緩やかに右へ曲がっているらしく、最奥までは見通せず地図に転記できなかった。洞窟型ダンジョンだからなのか、まっすぐな道が本当に少ないな。
「……うん?」
その道の先を眺めていると、何やら黒い影がこっちに向かってきて……!?
「黒いコウモリ……ブラックバットか! しかも2体かよ!」
「「キィィィ!!」」
ホーンラビットを倒したばかりなのに、すぐにブラックバット2体との連戦になった。
ここで、今の主人公の装備をまとめておきます。【鑑定】スキルを持っていない主人公は何も知りませんが、効果も併せて記載しておきます(アイテムボックスに入れれば名前は確認できますが、効果までは確認できません)。
ちなみに、"1"の数字が浮かんでいる装備珠からは、ランク1の装備のみが出てくる感じです。
武器:白玉の杖(ランク1)
特殊効果:光魔法使用時の威力を1割増
防具:見習い魔法士のローブ(ランク1)
特殊効果:受ける魔法ダメージ3割減
装飾品1:試製マジックシールド(ランク10)
特殊効果:魔力を込めると守備範囲が広くなる 魔力が自動的に回復する(回復速度:遅)
装飾品2:ホーリィバングル(ランク2)
特殊効果:体力・疲労が自動的に回復する(回復速度:遅)
装飾品3:なし
装飾品4:なし
なお、ホーリィバングルは売ると10万円ほどになる高級品です。ランク2の装備の中ではダントツの最高額ですね。
……ちなみに、どことは言いませんが誤字脱字ではありません。
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