3−12:案外、ゴブリンよりもホーンラビットの方に忌避感を抱く人が多い?だけどなぁ……
曲がり角の手前から、大直線通路の様子をそっと窺う。モンスターの数と種類を数えると、手前から順にゴブリン4体、ブラックバット3体、ホーンラビット2体がたむろしていた。いずれの組も通路の奥、かなり遠い場所にいる。
1組はおびき寄せたとはいえ、やはりモンスターの数が少ない。普段ならもう2〜3組くらいは居るはずなのだが、他の探索者が通ってからあまり時間が経っていないようで、モンスターが十分に湧き切っていない。
「……少ないな、3組9体しかいない」
「それなら直線通路は楽そうね。この調子なら、岩だらけの部屋も第4層も簡単に突破できそうだけど」
「まあ、そちらはあまり期待しないでおこう」
特に、第4層の恐ろしさは身に沁みて理解しているつもりだ。
……そして、それは他の探索者にとっても同じだろう。先に進んだ探索者の人も、もしかしたら第4層の手前で態勢を整えているかもしれない。
利益配分がめんどくさいから、できれば先に進んでいて欲しいものだけどな。俺と朱音さんと九十九さんで既に過剰戦力だというのに、そこに藍梨さんと陽向君、更にガードマンの人たちが揃えば戦力としては十分過ぎる。第5層から戻ってくる時でも、九十九さんのあの大火力魔法があれば突破は可能だろう。そんな状態で他の探索者がいても、面倒ごとの種が増えるだけだ。
そこさえ揉めなければ、別に共闘しても問題は無いんだけどな。
「………」
ま、とりあえずは目の前のモンスターを片付けるか。直線通路に他の探索者はいないようだし……よし。
「ここは俺がやりましょう」
「ほう、恩田殿が?」
「ええ、この距離なら一方的に攻撃できますからね」
新魔法もいくつか思い付いたので、せっかくだから少し試してみたい。
こういう、モンスターの集団が点在している時に有効な魔法を、な。
「……"ライトニング・サークル"」
---ゴロゴロゴロ、ピシャッ!
「「「「!?」」」」
直線通路を覗き込み、まずは不意打ちでゴブリン4体組のど真ん中に雷を落とす。彼我の距離は100メートル以上はあったが、ライトニング系魔法の射程距離はかなり長いので余裕で攻撃が届いた。
---ドーン! バリバリバリッ!
「「「「ギァッ!?」」」」
「「ギィィィィッ!?」」
雷撃が地面を伝い、円状に広がってゴブリンたちに襲いかかる。驚いたのはその効果範囲で、なんと着雷点から15メートルほどの位置にいたホーンラビット2体にも攻撃が届いた。拡散したわりには威力もなかなか高く、倒れはしなかったもののそれなりにダメージを与えたようだ。正しく戦闘不能状態と言って差し支えないだろう。
ちなみに、ゴブリン4体はしっかり全員が魔石と武器珠に姿を変えている。魔力消費量もライトニングから2割ほどしか増えていないので、十分に当たりの部類に入る魔法となった。
「「「キィィッ!」」」
そうなると、残る脅威はブラックバット3体のみ。正面から迫ってくるブラックバットなど、今の俺なら特に苦も無く対処できる。
「"ライトショッ"……いや、"サンダーボルト・ブラスト"」
いつもの癖でライトショットガンを選択しかけて、そういえばと新魔法の試射をしてみる。
まっすぐ前に伸ばした手のひらから、拳大の黄色く光る玉がブラックバットに向かって高速で飛ぶ。玉は一瞬でブラックバットの所へとたどり着き……。
---バチッ! バチッバチィッ!!
瞬間、玉が爆ぜ、電撃が周囲に飛び散る。小さな稲光が無数に閃き、悠々と飛ぶブラックバットたちに向けて襲いかかった。
「「「グギッ……!?」」」
雷撃を受け、体を硬直させたブラックバット3体が地面に向けて落下していく。既にダメージは許容量を超えていたようで、着地する頃には3体とも魔石に変化していた。
ライトニング・サークルは中〜遠距離用の対地攻撃魔法で、サンダーボルト・ブラストは近〜中距離用の汎用攻撃魔法だ。どちらも小集団を殲滅することを目的とした魔法で、うまく使い分ければ大抵の相手に対応できるだろう。威力もライトショットガンより遥かに高く、今後の主力となりうる魔法だ。
フレンドリーファイアが怖いので乱戦では使えないが、それは大半の魔法にも言えることだ。ケースに応じた専用の魔法を、別途作ってしまえばいい。
「おお、モンスターが一瞬で全滅したのです」
「いえ、まだホーンラビットが残っています」
警戒しつつ、通路を進んでホーンラビットに近付く。電撃にやられたホーンラビットは、2体とも体が痺れて動けない状態のようだ。
「ギ……ギィ……」
「ギィ……ギィ……」
弱々しい鳴き声を上げながら、潤んだ瞳でホーンラビットがこちらを見上げてくる。これが完全なる初見だったなら、倒すことを躊躇していたかもしれないが……。
「まあ、突進攻撃とか見ちまったからな……」
◯す気満々の全力突進攻撃が最初のご挨拶だったので、俺にとってのホーンラビットはもはや危険物にしか見えなくなっている。ゆえに……。
「"ライトショットガン"」
「「ギッ!?」」
弱っていようが、容赦なく撃ち倒す。ホーンラビット2体は魔石になった。
……そして、これで直線通路のモンスターは全滅した。オートセンシングにもモンスターの反応は無い。
「す、すごいですね」
「うむ、全く躊躇が無かったな」
魔石と武器珠を拾い集めている間に、他の人たちが追い付いてきたようだ。魔石はリュックに放り込み、ゴブリンから1つだけドロップした武器珠を覗き込む。
……残念、ランク1だった。これは第4層の装備珠ランクアップ台座用のタネにしよう。
「出会い頭の突進攻撃でしたからね。弱っていようがなんだろうが、俺にとってホーンラビットはただの危険物です。躊躇う理由がありませんね」
「です」
「ブラックバットにはもろに突進攻撃を食らったことがあるので、こちらも俺にとってはただのモンスターに過ぎませんね。躊躇う理由が一切ありません」
ついでにゴブリンは、見ていると虫酸が走るので張り倒している。こちらも躊躇う理由は全く無い。
「え、恩田さんはブラックバットの攻撃を受けたことがあるんですか?」
陽向君が、少し驚いた様子で俺を見てくる。
「ええ、オートセンシングができたきっかけの出来事ですよ。つい3日前くらいの出来事なのに、なんだか懐かしいなぁ。朱音さんが割って入ってくれたから軽傷で済みましたし、こうして笑い話にできますね」
「ふふん、そうね。でも、感覚的にはむしろ私の方が助けられてばかりな気もするわね……」
「おっと、ならば朱音さんのこれからの働きに大いに期待しておこうかな」
「えー、どうしよっかなぁ〜」
「そこは『はい、頑張ります!』とでも……いや、朱音さんのキャラじゃないわそれ。どちらかと言えば九十九さんが言いそうだな」
「です! 第4層突破に向けて、私も頑張るのです! えい、えい、おー!」
「あっ、じゃあ私も! 頑張るぞ、えいえいおー!」
「無理すんな」
九十九さんが絡むとなぜ無駄に元気になるのだ、朱音さんよ。
「……やはり、恩田さんと朱音さんは随分と気安い関係を築いておられますね、藍梨様」
「……朱音は、直感で相手の気質を見抜くからな。それがあの態度というのであれば、恩田殿は間違いなく……」
後ろでなにやら藍梨さんと陽向君が話していたし、内容も実はほとんど聞こえていたが……聞こえないフリをしておくことにする。
左手の握手が、実はあまり良くない握手だというのは知っていた。藍梨さんが左利きなのはなんとなく分かっていたので、差し引きで契約相手としてはちゃんと信用してくれているのだろう、とは受け取っているが。
「……ふむ、いませんね」
丁字路の右を覗き込み、モンスターがいないことを確認する。左を見ても宝箱は無いので、ここは単に通り抜けるだけだ。
で、結局、丁字路を曲がったあとの通路では一度もモンスターに遭遇することなく。
「着きました、ここが"岩だらけの部屋"です」
第3層2つ目の関門、ゴブリンが奇襲してくる死角だらけの部屋にたどり着いた。
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