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【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く

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3−11:感性は人それぞれ、考え方も人それぞれ


 藍梨さんが持ってきたのは、特殊ドロップであるゴブリンの棍棒だった。思い返してみれば、最後のゴブリンはゴーレムが棍棒を奪ってから倒してたっけか……ん?

 ゴブリンが倒された時に棍棒を保持していたのは、確かゴーレムだったな。人間が保持していなくてもドロップするということか。

 そして、1体目のゴブリンは棍棒を弾かれたのにドロップしていない。やはり棍棒をこちらが保持しているかどうかが、特殊ドロップの条件になるということか。


「おお、藍梨さん運が良いですね。まさか特殊ドロップに行きつくなんて」

「「「特殊ドロップ(です)?」」」


 藍梨さん、陽向君、九十九さんの声が綺麗に重なる。藍梨さんと陽向君はともかく、九十九さんもその(特殊ドロップの)ことは知らなかったようだ。

 ま、偶然でも気付いた以上は、誤魔化すようなことはしないでおこう。


「特殊ドロップとは、各モンスターを特定の条件下で倒した時にのみドロップするアイテムのことです。ゴブリンの場合は、"棍棒を奪い、こちらが保持している"時にゴブリンを倒すとドロップするようです。ゴーレムが棍棒を持っていてもいいみたいですね」

「ほう……」


 手元の棍棒を眺めながら、藍梨さんが何かしら考える。

 ……やがて、藍梨さんの目線がまっすぐ俺の方を向いた。


「1点質問なのだが、ゴブリン以外のモンスターにも特殊ドロップはあるのか?」

「ええ、ありますよ。条件もお教えしましょうか?」

「いや、それだけ聞ければ十分だ。装備珠の件と合わせて、情報料はしっかりと精算させて頂こう」


 藍梨さんの言葉に、今度は俺の方が少し考える。


「……いえ、情報料は不要です」


 この程度のこと、いつか誰かが気付くことだ。そもそも、ホーンラビットの角を出した時の権藤さんの反応から、以前にもそういうアイテムを持ち込まれたことがあるのは確実だからな。なおさら情報料を貰うわけにはいかない。

 それに、情報料を貰わないのには別の理由もある。


「迷宮探索開発機構の方に聞けば、すぐに分かることですからね」

「……その、機構の人との繫がりがどれほど貴重なことか、恩田殿は分かっているのか?」

「ええ、もちろんです。()()()()()、俺が情報のやり取りで勝手にお金を貰うわけにはいかないんですよ」

「……なるほど、な」


 ダンジョン関連の事柄は、迷宮探索開発機構が一括で管理している。日本では特に守秘義務等は課せられていないようだが、情報のやり取りによって金銭が動くようなことは基本的に避けたいと考えている。あくまでも、探索者同士の互助関係に基づく情報共有、という形にしたい。

 ……そう考えると、装備珠の融通による金銭のやり取りは大丈夫なのだろうか? 後で権藤さん辺りに聞いてみるか。


「……さて、話が逸れましたが。次は陽向君の番ですね」

「はい、頑張ります」


 とはいえ、今はあまり心配していない。藍梨さんの勇気ある行動が、陽向君の迷いを完全に吹き飛ばしたからだ。ここにゴブリンさえいたならば、陽向君は第1の壁など簡単に乗り越えていたことだろう。

 しかし、残念ながらここにゴブリンはいない。かといって、次の曲がり角の先は大直線通路なので、モンスターの数が多くリスクも高い。ならば、どうするか。


「ふむ、モンスターをおびき寄せてみましょうか」

「へ? そんなことができるのです?」

「ええ、まあ」


 九十九さんがポカンとする。確かに九十九さんのあの火力では、モンスターをおびき寄せるどころか怯えて逃げてしまうかもしれない。実際、第2層でホーンラビットを焼き尽くした後は全くモンスターを見かけなくなったしな。


「じゃあ、いきますよ。"ライトニング"」

---ダァァン!!

「ひゃうっ!?」


 誰もいない所へ、雷撃を1発落とす。僅かに遅れて着弾音……と、誰かの可愛い悲鳴が辺りに響いた。

 一瞬、九十九さんの声かとそちらを見るが、彼女は平然としている。一体誰の声だったのだろうか?


 ……と、曲がり角の向こうから何かが駆ける音が聞こえてくる。

 そして、3体組のゴブリンが角の向こうから現れた。


「……シッ!」


 そのタイミングで、なんと陽向君が短剣を投げた。形状的に投げる用の短剣では無さそうなのに、短剣はまっすぐゴブリンに向かって飛んでいく。


---ザクッ!

「ギャッ!?」


 先頭を走るゴブリンの頭に短剣が深く刺さり、致命打を与えた。その勢いに押されたのか、ゴブリンは弾かれるように後ろへ倒れていく。


「"クリエイト・ウッドアロー・ダブル"……フッ!」


 光の粒子へと還っていくゴブリンを眺めながら、陽向君が2本の木の矢を作り出す。その矢をなんと2本とも弓に番え、同時に放った。


「ギッ!?」


 だが、狙いがやや甘い。1本はゴブリンの右肩に突き刺さり、もう1本も同じゴブリンの左足に突き立つ。ちゃんと当たるのはすごいことだが、1本で確実に急所を狙い撃ちした方がコストパフォーマンスとしては良いかもしれない。

 脚と肩を射抜かれたゴブリンが、痛みに悶絶して倒れ込む。決定打ではないようだが、ほぼ戦闘不能とみていいだろう。

 それを迂回し、未だ無傷のゴブリンが棍棒を掲げて陽向君に飛びかかってきた……!?


 えっ、いつの間にか短剣が陽向君の右手に? さっきゴブリンに投げ付けたはずでは?


「……シィッ!」


 ゴブリンの攻撃を最小限の動きで躱し、すれ違いざまに短剣で斬り付ける。陽向君のカウンター攻撃は見事首元に命中し、ゴブリンに決定的なダメージを与えた。


「ギッ……」


 首を押さえて、ヨロヨロとゴブリンが後ずさる。数秒後、遂に力尽きたのかパタリと倒れ込み……やがて、光の粒子となって消えていった。


「ギャウ……」


 残るは、矢を2本打ち込まれたゴブリンのみ。そのゴブリンが体を震えさせながら立ち上がってくるが、もはや落とした棍棒を拾い直す力も残っていないようだ。足もやられているので、歩くことさえままならないだろう。


「………」


 満身創痍のゴブリンへ、陽向君が短剣を閃かせながらゆっくりと近付いていく。一方のゴブリンは憎悪のこもった目で、ジッと陽向君を見つめていた。


「……シッ!」

「ギァッ!?」


 陽向君が短剣を横薙ぎに振るう。剣閃が白く尾を引き、ゴブリンの喉元がスパッと切り裂かれた。明らかな致命の一撃だ。

 最後のゴブリンが、光の粒子となって宙に解けていく。あとには、魔石と装飾珠が残されていた。


「………」


 陽向君が辺りを見回す。俺が見た限りでは、陽向君は戦闘中も周囲への警戒を怠っていなかった。さっきの教訓は、彼の中で十分に活かされているらしい。

 そうして安全を確認してから、陽向君はドロップアイテムを拾いに行った。




「……ふう、藍梨様のおっしゃる通りでした。あまり気分の良いものではありませんね、これは」

「……そうだな」


 ドロップアイテムを手に、やや苦い顔をした陽向君が戻ってくる。そこでようやく残心を解いたようで、陽向君の口から大きなため息が1つ漏れた。


「恩田さん、どうぞ」

「頂きます」


 差し出された魔石3つと、装飾珠1つを受け取る。


「さて、お2人とも第一の壁は越えられたようですね」

「ああ。だが、やはり躊躇いを完全に無くすのは難しそうだ」

「いえ、お2人はそのままでいいと思いますよ」


 装飾珠を覗き込みつつ、2人のフォローに入る。どうやら装飾珠はランク1のようだ。


「しかし、それではいざという時に危険だろう。ほんの僅かな躊躇が命取りになる場面は、これからきっとあるはずだ」

「確かにそうかもしれませんが、お2人ともやるべき時はきちんとやれています。これ以上を求めるのはさすがに厳しいかと。心を病んでは元も子もないですし」


 ゴブリンを倒せるのなら、それで十分だと俺は思う。

 むしろ俺や朱音さんみたいに、ゴブリンを倒すことに全く躊躇しない人間の方が少数派だからな。人型の存在を攻撃することに抵抗感を覚えるのは、人間の感性としてはごくありふれたものだろう。


 ……そういう意味では、むしろ気をつけるべきは俺や朱音さんの方か。


「あら、私の顔を見てどうしたの?」

「いや、ゴブリンを攻撃することに抵抗感を覚えなくなったら、そのうち人間を攻撃することにも躊躇しなくなるんじゃないかと危惧してた。俺とか朱音さんは、スパッと壁を越えてしまったしな」

「……あ〜、確かにそうね」


 朱音さんが難しい顔をして考え込む。まあ、こうして気にしているうちは大丈夫だろうが……。


「あ、それ私もなのです……。ゴブリンを初めて火魔法で焼いた時も、全く気にならなかったのです」


 九十九さんの場合、ゴブリンを"人型の存在"ではなく"ただのモンスター"として認識しているがゆえの、躊躇いの無さではなかろうか。俺や朱音さんとは、少しベクトルが違う気もする。


「……まあ、まだ起こってもいないことを考えても仕方ないか」


 ダンジョンバリケード前で金髪君に絡まれた時も、鬱陶しいとは思ったけど◯したいとまでは思わなかった。そこで◯害が選択肢に出てこないうちは、とりあえず大丈夫だと考えても良いだろう。


「さて、せっかく装飾珠ランク1が出たので、どなたか使いますか?」

「では、今回は私が貰おう。皆もそれで構わないか?」

「……藍梨様のおっしゃる通りに」


 全員が頷いたので、藍梨さんに装飾珠を渡した。

 装飾珠を受け取った藍梨さんが、そっと目を閉じる。装飾珠が光り輝き、花のような模様が彫られた勲章にその姿を変えた。


「……うむ、似合っているな」


 藍梨さんの格好が、更に軍人っぽくなった。彼女は自画自賛しているが、確かによく似合っているな。


「さて、先に進みましょうか。あの曲がり角の先が第3層最初の関門である大直線通路です。敵が多く出現するエリアになりますが、皆さん準備はよろしいですか?」

「はい」

「です!」

「ああ、いつでも」

「私はオッケーよ」

「……問題無い」


 全員の了解を確認してから、曲がり角の向こうを覗き込んだ。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

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↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] 正直、よくある人型モンスター倒せるか問題て、現代日本だと九十九さんのようにモンスターだと認識する人の方が多そう だって散々なろう系でゴブリンやオーク出てくるもの 逆に猫型とかのがキツイ人多…
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