3−9:袖振り合うも多生の縁ってやつか、それとも……パート2
「……私は九十九彩夏といいますです。ギフトは【焔の魔女】です。集団に驚いてつい隠れてしまって……誤解させて本当にごめんなさいです」
そう言って、九十九さんは頭を下げた。
【焔の魔女】……うん、見た目通りかつ予想通りのギフト名だな。九十九さんの格好を見て、これほど想像しやすいギフトも他に無いだろう。
それに、集団に驚いて隠れたというのも理由として納得できる。探索者の集団がゾロゾロと10人、しかもゴツい黒服の人たちが6人もいる状況で、全く気にせず行動できる人なんてそういないからな。
「九十九さんはいつも1人で探索を?」
「です。ちょうど2週間目なのですが、ずっと1人探索なのです」
「……です?」
「はい、という意味なのですよ」
そ、それはなかなかに特徴的な返事だな。こんな感じの返事をするキャラが、アニメとかに居そうだ……というより、実際に居たような気がする。
「……ま、まあ、伝われば別に何でもいいですが」
「です。これが私のポリシーなのですよ」
九十九さんが両手を腰に当て、ふんすと鼻息荒くドヤ顔を披露してくる。子供なのか大人なのか、天然なのかしっかりしてるのか……なんともよく分からない人だ。悪い人ではないことと、ポリシーという言葉の使い方が間違っていることだけは確かだったが。
……さて。朱音さんの時も同じ事を思ったが、袖振り合うも多生の縁と言うしな。これでハイサヨナラというのもなんだか寂しい気がするので、九十九さんにも探索に同行してもらえたらと考えている。
ふと振り向くと、藍梨さんと陽向君が小さく頷いてくれた。ガードマンの人たちは無視して周囲に警戒の視線を飛ばしているが、これは"九十九さんに対する警戒の必要無し"という遠回しな肯定の意思表示である (と、藍梨さんにこっそり聞いた)。
ちなみに、なぜか分からないが朱音さんの様子がちょっとおかしい。見るからにテンションが高く、九十九さんをジッと見つめて目をキラキラさせている。まあ、向けているのが負の感情でないことは確かなので、気にしないでおこう。
さて、九十九さんの意思も確認せねば。
「九十九さん」
「です?」
「九十九さんがよろしければ、俺たちと一緒に探索しませんか? 成果は、換金後に俺、朱音さん、九十九さんの平等配分でいきたいと思っていますが……」
「えっ、いいのですか!? むしろ私から、ぜひお願いしたいのです!」
魔法職とは思えないほど俊敏な動きで、九十九さんがいつの間にか俺の手を取っていた。
……ただ、その弾んだ声とは裏腹に。九十九さんの表情は、少しばかり暗かった。
「私1人じゃ、第4層突破に何ヶ月かかるか分からなかったのです。本当に嬉しいのです。周りは『ダンジョン探索なんかより投資した方が儲かるし、そっちの方が楽じゃね?』みたいな考えの人ばかりですし、おかげで誰も探索者になってくれないですし……」
それはまあ、確かにな。今の時期、元手があるなら投資した方が儲かるのかもしれない。
ただ、それは最大瞬間風速的なモノの見方でしかないと、俺は思う。今、追い風が吹いているのはコレなのだから、今後もその風に乗り続ければいいという考え方だ。
……その風が、追い風の間はいいのだが。急に向かい風に変わった時、風が強い分だけ悲惨な目に遭うとは思わないのだろうか。それで痛い目を見たのがバブル崩壊であり、あるいはリーマンショックではなかったのか、と俺は思うが。
閑話休題。
「これは、俺の持論ですがね。先行者というのは理解されにくいものですし、先行者利益というのは今この時点では見えにくいものです。焦らず、じっくり行きましょう」
早くに動画配信サービスへ目を付け、大成功を収めたあの人のようにな。まあ、あの人は本人の品格の高さもあって、今もトップを走っているわけだが。
そして、これは俺の直感でしかないのだが……ダンジョン探索は、これから大きく伸びる分野だと思っている。その価値に多くの人が気付く頃までには、決して埋められないリードを取っておきたいところだ。
「おーい、朱音さん。朱音さんも自己紹介を」
「はいはーい!」
「……うん?」
待ってましたとばかりに、ガチャガチャガチャと朱音さんが駆け寄ってくる。そういえば、やけにテンションが高かったよな……などと思い返す間も無いまま。
気が付けば、朱音さんが九十九さんの手を取って……いや、握りしめていた。
「よろしくお願いしますね! 私、久我朱音と言います! ギフトは【魔槍士】です!」
「うぇっ!? よ、よろしくなのです、久我さん」
「ここには姉さまもいますから、私のことは朱音と呼んでください!」
「で、です……?」
「ちょい待て、朱音さん押しが強すぎる。もう少し抑えてくれ」
大歓迎なのは分かったから気付け、九十九さん愛想笑いしながら引いてるぞ。朱音さんが女性だからまだいいが、男がやったら即事案だぞそれ。
ちなみに、視界の端で藍梨さんと陽向君が苦笑いしている。どうやら、朱音さんにそういう嗜好があることを2人は知っていたみたいだ。
「だって、九十九ちゃんかわいいんだもん!」
「かわっ!?」
抑えろと言っているのに、いつの間にやら九十九さんを後ろから抱きすくめてニッコニコだ。
……その一方で、これが漫画なら 『ガーン』という効果音がデカデカと出そうなくらいに、九十九さんがショックを受けている。朱音さんに捕まっていなければ、今頃orz状態になっていたのではなかろうか。
いや、朱音さんそれ禁句だから。既にやらかした俺が言えた義理ではないが……つうか、どさくさ紛れに"ちゃん"付けすな。
「おいおい、"さん"を付けて呼びなさい朱音さんや」
「え、私24歳よ?」
「年齢の問題じゃねえっての」
というか、初めて聞いたわ朱音さんの年齢。そも、それが事実だとしてだ。
「九十九さんの方が先輩だろうが」
「なに言ってるのよ恩田さん。かわいいは最高、かわいいは愛でるべき、かわいいは正義なのよ? 年齢なんて些末事よ!」
「いや、朱音さんの方がなに言ってるんだ?」
ダメだこりゃ、話が通じん。それに、あんまりかわいい連呼してると九十九さんが完全に萎れちまうぞ……。
「……うん、もういいや」
ラチがあかないので、強制執行だ。今もしっかりと九十九さんを抱きすくめる手を、問答無用で引き剥がす。
「ああっ、ちょっとなにするのよ!」
「話が進まんから。藍梨さんも陽向君もガードマンの皆さんも待ってくれてるし、強制執行だ」
「………」
朱音さんの魔の手から逃れた九十九さんが、なぜか俺の後ろに隠れる。俺の服の裾を握り締め、背中越しに朱音さんを警戒する姿はどこからどう見ても小学生にしか見えない。
……だが、もう失言はせんぞ。思っても口には出さんからな。
「さて、九十九さん。俺の【資格マスター】は、俺やパーティメンバーが持っている資格に応じた魔法を低燃費で使うことができます。汎用性の高いギフトですが、決定打に欠ける部分がありますね」
「あ、え……私は、火属性魔法の威力と攻撃範囲には自信があるのです。でも、燃費が悪くてあまり数が撃てないのですよ。あと、火属性以外の属性がとても苦手なのです」
「はいはい、私の主武器は槍です! 基本は接近戦ですが、武技で遠距離攻撃もできます!」
「む、これはそういう流れか? 私は久我藍梨、ギフトは【軍団長】だ。ゴーレムを操って戦うが、私自身にはあまり戦闘能力が無い。探索者初日の初心者だが、よろしく頼む」
「僕は岩倉陽向、ギフトは【遊撃手】です。藍梨様の部下で、藍梨様と同じく探索者初日です。よろしくお願いしますね、九十九さん」
「……はぅあ〜」
と、今度は九十九さんが陽向君を見て目を輝かせている。
「すごいのです、僕っ娘さんなのです、かっこ美しいのです」
「かっこ美しいって……」
まあ、気持ちはすごくよく分かるが。陽向君、男とは思えないほど綺麗だし、でもかっこいいし。俺も初見で女性と間違えたしな。
「ああ、ちなみに陽向君は男性ですよ?」
「……です?」
俺を見て、陽向君を見て、九十九さんがポカーンとする。
やめろやめろ、くたびれたおっさんと本物の男前を見比べるなっての。顔面偏差値の差がエグいから。
「まあ、それはともかく……"ライトショットガン"」
「「キィィッ!?」」
「!?」
魔法を真上の方向へ急に放った俺を見て、九十九さん含む全員が驚いて目を丸くする。一拍おいてブラックバットの断末魔が響き、2つの魔石が俺たちの前にポトリと落ちてきた。
実はずっと、天井付近に張り付いていたブラックバット2体の存在が気になっていたのだ。なぜか攻撃してくる気配が無かったので放置していたが、そろそろ俺たちも移動再開になりそうなので処理することにした。
「道中の細々としたザコ戦はお任せを。奇襲も全て俺が潰しましょう」
これで、多少は俺の能力も伝わっただろうか?
「………」
処理能力の限界を超えたのか、九十九さんがフリーズしていた。
「まあ、一緒に探索してもらう以上、決して損はさせませんよ」
「……は、はい。よろしくお願いしますです」
フリーズから復帰した九十九さんを連れて、第3層の階段に向けて移動を始める。朱音さんを先頭に、俺、九十九さん、陽向君、藍梨さんと続く隊列に自然と移行していた。
「……もしかして私、実はすごい人と組めたのです?」
道中で九十九さんが何かを呟いていたが、俺にはよく聞こえなかった。
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