表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記  作者: SUN_RISE
第3章:流星閃き、道は拓く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/215

3−8:お金の問題は本当に怖い、きっちり押さえておきましょう


 改めて、装備珠を藍梨さんに差し出す。果たして今度は受け取ってくれるだろうか。


「そういえば、元はその話だったな。分かった、その厚意に感謝し、ありがたく受け取らせてもらおう」

「分かって頂けてなによりです」

「だが、当然タダというわけにはいかない。通常の買取価格に、1割を上乗せして後で精算させて欲しい」


 うーん、藍梨さん律儀だなぁ。別に、戦いで返してくれたらそれでいいのに。

 ……と、俺は思うのだが。そこは藍梨さんなりの考えがあるのだろう。契約内容に含まれない取引を持ち掛けているわけだから、なあなあでは済ませたくないのかもしれないな。


「1割の上乗せは不要だと思いますが?」

「教導の対価としての1割だ。足りなければ2割でも3割でも、なんなら2倍でも構わないぞ?」

「いえ、なら1割でいいです」

「そうか、では交渉成立だな」


 自然と出された藍梨さんの左手に、俺も左手で握手する。

 あまり大袈裟に持ち上げられても、返せるものが無くて俺が困ってしまうからな。元社畜ゆえ、もはや自分を安売りするつもりは無いが、それでも謙虚さは失わないようにしたい。それゆえの1割妥結だ。


 ……というか、普通は立場が逆なんじゃないか? お金を貰う側の俺が対価を吊り上げようとして、お金を出す側の藍梨さんが出し渋るのが常だと思うのだが。

 もっとも、これはこれで非常にやりにくくもある。もし、俺のそんな考えすらも織り込み済みなのだとしたら……うん、交渉事で藍梨さんに勝てる気が全くしねえわ。


「さて、ランク2の装備珠2つで6000円、1割増しで6600円だったな。後ほど、確実に精算させてもらおう。

 ……よし、武器が出る方の珠は陽向が使ってくれ。ギフトで武器を2つ装備できるのであれば、そこは早めに揃えた方がいい」

「分かりました」


 陽向君が武器珠を受け取る。すぐに光り出した武器珠が、小振りな武器へと変化していき……やがて、短剣へと姿を変えた。

 鞘入りのそれを、陽向君が抜き放つ。その刀身は、俺の杖などと同じく青みがかった色合いを醸していた。

 フィアリルダガー、と呼ぶべきそれを陽向君は鞘に収め、腰に差し直す。弓と短剣が揃い、ここからが【遊撃手】の本領発揮といったところだろう。


「うむ、よく似合っているぞ、陽向。

 ……さて、装飾品が出る珠は瀧野瀬(たきのせ)、君が使ってくれ。瀧野瀬のギフトは【重装盾士】、守備の要だからな。強化は必須だろう」


 瀧野瀬? それって一体誰のこと……ってああ、ガードマンの人のことか。


「……お呼びでしょうか、藍梨様」


 藍梨さんに呼ばれて出てきた人は、ガードマン6人の中で唯一の女性だった。ガードマンの中では一番小柄な人でもあるが、それでも朱音さんや俺と同じくらいの身長がある。

 まっすぐな黒髪は肩口あたりまで伸び、切れ長の瞳が怜悧で厳正な印象を周りに与える。総じて、抜き身の刀のような鋭さを感じさせる人だ。

 そして、彼女の装備はかなり異質だ。身を守る用と思われる巨大な盾(タワーシールド)を左手に、なにやら棘が生えた攻撃用と思われる盾(スパイクシールド)を右手に持っている。重厚な鎧も当然のように着込んでおり、現時点で比較しても朱音さんより守備力が高そうだ。

 ……【重装()士】、そのギフト名に違わぬ鉄壁さを感じさせる佇まいである。


瀧野瀬(たきのせ)(かえで)に命ずる。この装備珠を使い、防御力を更に高めるのだ」

「……かしこまりました、頂戴いたします」


 藍梨さんのやけに仰々しい物言いと共に、装飾珠ランク2が瀧野瀬さんに手渡される。装飾珠は瀧野瀬さんの手に渡った瞬間、眩く輝き始めた。

 ……やがて、光は青っぽいヘルムへと姿を変える。ランク2なので、装備名はフィアリルヘルムといったところだろうか。これで更に守りが堅くなったに違いない。


「……とてもしっくりきます。感謝いたします、藍梨様」

「うむ。その新たな力で、ぜひとも皆を守ってやってくれ」

「……何を差し置いても、藍梨様の守護が最優先です。それが我々の職務ですので」


 それだけ言うと、瀧野瀬さんは下がっていった。

 ……なんというか、口数は少ないし態度も素っ気ない人だ。あまり人付き合いが得意ではないのだろうか。

 代わりに、プロ意識の強さをヒシヒシと感じる。藍梨さんを守ると言った以上、きっと瀧野瀬さんは自身の命が尽き果てるまで藍梨さんを守り続けるはずだ。彼女が職務を放棄して無様に逃げ惑う姿を、俺は全く想像できない。


「……もう少し気楽にしてくれても良いのだがな、楓」


 そんな瀧野瀬さんの後ろ姿を眺めながら、藍梨さんは寂しそうにそう呟いていた。



 ◇



「十字路に到着しましたね。皆さんご無事ですか?」

「あ、ああ。ゴーレム操作には苦戦したが、怪我は一切無い」

「僕もです、傷1つありませんよ」

「私も平気よ。……だって私、モンスターと戦ってないからね」

「………」


 特に危険な場面など無いまま、第2層の途中、十字路の手前までやってきた。確認も兼ねて声を掛けてみたが、2人からは全く問題無いとの返事がきた。朱音さんはモンスターと戦えなくて不満そうだが。

 あと、若干1名(藍梨さん)は疲れ切った声だった。傷こそ負っていないものの、ゴーレム操作は精神的な負担がかなり大きいのかもしれない。

 なお、瀧野瀬さん含むガードマン6人は小さく頷き返してくれた。もちろん、全員が健在である。


 ちなみに、道中ではモンスターと2回遭遇した。先に出てきたホーンラビットは藍梨さんのゴーレム2体が、次に現れたブラックバット3体は陽向君とゴーレム、そして瀧野瀬さんがそれぞれ対処していた。

 ……ホーンラビットの方は、だいぶかわいそうだったな。ゴーレムに突進攻撃を仕掛けたものの軽く防がれ、隙だらけのところをもう1体のゴーレムに捕まって抑え込まれ、槍で何度も刺されてたっけか。

 『ぐぅ、うまく狙えんな……』と必死の形相でゴーレムに攻撃を繰り出させる藍梨さん、急所を外された攻撃を何度も受けて『ギィィィィィ!?』と悲痛な叫び声をあげるホーンラビット……喜劇や悲劇を通り越して、それはもはや軽くホラーな光景だった。本人たちは至極必死なのが、余計に恐ろしさを醸し出していたな。

 一方のブラックバットも、陽向君の弓と短剣のコンビネーションで仕留められた個体はともかく……体当たりしたところをゴーレムに捕まって押し潰された個体と、瀧野瀬さんのスパイクシールドバッシュで全身串刺しにされた個体は中々に悲惨だった。許容量を超えるダメージを受けたモンスターはすぐに光の粒子となって消えるのだが、ダンジョンがそういう場所で良かったと本気で思うくらいに強烈な光景だった。


「さて、ここを右に行けば第3そ……誰だ、出て来い!!」


 十字路の全方向を見渡せる位置に立ったところ、すぐさまオートセンシングに反応があった。洞窟マップゆえに存在する岩陰に、サッと隠れる何者かの動きを検知したのだ。

 それは、明らかにモンスターの動きではない。ブルースライムならもっと鈍いし、ホーンラビットは絶対に逃げない。ブラックバットやラッキーバタフライなら空を飛んでいるはずだ。であれば、この反応は探索者のものということになる。

 その怪しい存在がいる方向---プチモンスターハウスに繋がる通路の方を向いて、やや厳し目に言葉を飛ばした。


「うえぇ、なんで分かったのですか〜?」


 そんな言葉と共に岩陰から出てきたのは、小学校高学年くらいの女の子だった。右手に赤い珠が付いた杖を持ち、身長は145センチほど。炎のような赤系グラデーションがかかったローブに橙色のとんがり帽子と、見るからに火属性魔法が得意そうな格好をしている。

 小さな絆創膏を横一文字に鼻背へと貼り、腰あたりまで伸びたサイドテールをユラユラと揺らして……って、いやいやちょっと待て。

 自分には関係無かったのでうろ覚えだが、探索者になれるのは確か18歳以上のはず。それ未満の子には探索者証が発行されないし、入口で止められるのでダンジョンに立ち入ることもできない。つまり、この女の子は……。


「……成人?」


 ポツリ、と口から漏れた本音。それを魔女っ子は聞き逃さなかったようだ。


「あ〜〜〜!! いま私のこと小馬鹿にしたのですか!? そうですよね!? ちっこいとか小学生みたいとか思ったのですよね!? これでも私28歳なのですよ!? それをみんなみんな合法ロリだの見た目お子ちゃまだの言いたい放題なのですよ!? そんなのあんまりじゃないですか〜〜〜!!」

「………」


 うわぁ、うっせぇ。声がやけに甲高いもんだから、閉鎖空間で余計に響く。火種は完全に俺なので、抗議は甘んじて受け止めさせて頂くが……モンスターが来てしまうので、騒ぐのはできればやめて欲しい。


 ……ただ、その顔と体格を見て思い出した。

 確かこの人、俺がダンジョンバリケード前で金髪君に絡まれた時に、助けに入ろうとしてくれた人たちの中の1人だ。100%信頼できる、とまでは言わないが、ある程度は信用できる人だろう。


「そういえば。貴女(あなた)は入口で、あの金髪君とのイザコザに割り込もうとしてくれた方ですよね?」


 俺のその言葉に、あれだけ喚いていた声がピタリと止んだ。


「……え、気付いていたのですか?」

「ええ、気付いてましたよ」

「……すごいのです、一瞬のことなのによく見てるのですね」


 そう言うと、魔女っ子は空いている左手で髪先を掴み、指にクルクルと巻き付け始めた。


「見た目で侮られることが多いのですよ、私。だから助けるか一瞬迷ったのですが、迷うくらいなら行動すべきだとすぐに思い直したのです。職員さんに先を越されちゃいましたですけどね」


 無意識に出る癖なのだろう。サイドテールの髪先をクルクル、クルクルといじくり回しながら、どこか不安気な様子で魔女っ子は言う。

 だが、正直な人だ。決して自分を飾らず、"迷った"というマイナスの情報も素直に出している。判断もそこそこ早そうだし、一緒にダンジョン探索をするならこういう人がいいな。隠蔽とか欺瞞とか絶対にしなさそうだし。

 まあ、その辺は朱音さんも同じだけどな。やや無理しがちなところだけ、もう少し俺を頼ってくれればいいんだけど……もしかしなくても、俺の頼りがいがまだ全然足りてないのかもしれないな。もっと精進せねば。


「俺は恩田高良、ギフトは【資格マスター】です。貴女は?」

「……え?」

「探索者流に自己紹介をするなら、名前とギフトの合わせ技が一番かと思いましてね」

「あ……」


 俺の一言で、特に悪感情は持っていないことを悟ってくれたのだろう。やや申し訳なさそうな様子で、自己紹介を返してくれた。


「……私は九十九(つくも)彩夏(あやか)といいますです。ギフトは【焔の魔女】です。集団に驚いてつい隠れてしまって……誤解させて本当にごめんなさいです」


 そう言って、九十九さんは頭を下げた。



◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇


 なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。


 皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。

 ☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓新作始めました
魔法に傾倒した大魔法士、転生して王国最強の魔法士となる ~ 僕の大切に手を出したらね、絶対に許さないよ? ~

まだ始めたばかりですが、こちらもよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
[一言] >自然と出された藍梨さんの左手に、俺も左手で握手する 右手では無いんですね。 って事はまだ双方の間では『信用』はあっても『信頼』はないと… これからの進展、とても楽しみです♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ