3−3:適正な報酬を決めるというのは、なかなか難しいものだと思う
「これがダンジョンか……」
「ここは、第1層と呼ばれているそうです。ブルースライムというモンスターしかおらず、稼ぐには不向きな場所なのだとか」
「強酸性の体を持つのだろう? 武器攻撃をすれば武器を溶かされ、それで得られるのが10円の魔石ではな……」
さすが、藍梨さんも陽向君も予習済か。第1層は完全に練習用フロアなので、稼ぐには向いていない……というわけでは、実はないんだけどな。
……さて、そろそろかな?
「「「「!!」」」」
お、きたか。今、8人の頭の中にはギフトの名前と効果が流れ込んできているのだろう。全員が真剣な表情を浮かべている。
……流れ込んできている、というのは少し変な表現だが。そうとしか言いようのない感覚なので、そう表現しておくことにする。
「ギフトを得ましたか」
「どうやらそうみたいだ。なるほど、これがギフトか……」
「どんなギフトになりましたか? ちなみに俺は……」
人にギフトを聞く時は、まず自分から。そう思って口を開いたが、藍梨さんに止められた。
「待った。なし崩しというのは良くないから、先に正式に依頼させて欲しい。
……恩田殿、どうか我々とパーティを組んで貰えないだろうか? もちろん、今日のドロップアイテム等は全て恩田殿と朱音に渡すつもりだ。我々としては、ダンジョンの生の情報を持ち帰るのが目的だからな」
そういえば、ちゃんとやり取りしないまま一緒に行くつもりになってたな。金髪君のこともあってすっかり忘れていたよ。
しかし、ドロップアイテム全渡しか……。
「そうですね……俺としては、パーティを組むのは全く構わないのですが。ドロップアイテム全てをこちらに渡すというのは、さすがに俺たちが有利過ぎではありませんか?」
「いや、そうでもないだろう。我々はダンジョンの素人であり、恩田殿と朱音は先達だ。ダンジョンが危険な場所である以上、信用できる案内人の存在は非常に貴重だと私は考えている。エベレストで案内人兼荷運び人として、シェルパを雇うのと同じだと思ってもらえばいい。
……そう考えたら、ドロップアイテム全渡しだけでは足りない気がしてきたな。恩田殿と朱音、1人あたり10万円を成功報酬として支払おうと思うが、どうかな?」
貰い過ぎだと言ってみたら、なぜか報酬が上乗せされた件について。しかも、1日本気で頑張っても稼げない額があっさり提示されたでござる。
「……朱音さん、どうする?」
「う、うーん……? 藍梨姉さま、そんなに太っ腹な人だったっけ?」
「朱音、聞こえてるぞ。これは正当な評価だと、私は思うが?」
藍梨さんがジト目で朱音さんを睨みつける。その迫力たるや、下手なチンピラなんぞより圧がスゴい。
……と、そんなことはどうでもいい。報酬は確かに魅力的だが、先達といっても高々数日早く探索者になっただけの人間だ。評価としては過分だと俺は思う。
「……いえ、ドロップアイテム全渡しだけでオッケーです。代わりに皆さんにも戦ってもらうことがあると思いますので、その時はよろしくお願いします」
「む、そうか。ならばよろしく頼む」
藍梨さんは意外とあっさり引き下がってくれた。
……まあ、探索者初日の人たちには酷な話だとは思うが。ダンジョンの情報が欲しいのであれば、地獄の第4層は見てもらわなければなるまい。そこまで連れていく以上、藍梨さんたちに戦ってもらう場面は必ず出てくる。
10万円分とまでは言わないが、皆さんにはだいぶ頑張って貰うことになりそうだな。
「さて、パーティを組むと決めたなら、まずは俺が持っているギフトをお伝えしますね。俺は【資格マスター】というギフトを得ています。日本の国家資格を取得することで、様々な魔法を低コストで扱えるようになるギフトですね」
「藍梨姉さまには昨日伝えたけど、私は【魔槍士】、槍を扱う前衛タイプのギフトよ。魔法も使えるけど、槍に関わるものでないと威力が落ちるみたいね」
「……槍、ですか?」
「槍よ」
「そうですか……」
朱音さんが持つ武器を見て、陽向君は怪訝そうな表情を浮かべる。やはりデ◯ルアーマーの武器っぽいアレを槍と認識するのは、少しばかり難しいらしい。
……まあ、ギフトがアレを槍だと認識しているのだから、何も問題はないのだが。
「あっ、次は僕の番ですね。僕のギフトは【遊撃手】です。弓と短剣が主な装備で、身軽さが増すギフトのようですね」
陽向君のギフトは【遊撃手】というらしい。野球のポジションのことではなく、フットワークの軽い"遊撃兵"といった意味合いが強いのだろう。
機動力に優れた中衛タイプ、という俺の予想はどうやら正しかったようだ。
「ちなみに、武器を2つまで装備できるようです。矢はギフトの効果で、魔力を使って生成できるみたいですね。今の僕の魔力なら……最も低コストの矢で、大体100本くらいは作れるでしょうか?」
100本か、多いようで少ない気もするな。現金的な意味でのコストがかからないのは◯だが。
「次は私か……私のギフトは【軍団長】だな。どうやらゴーレム兵を召喚して戦わせることができるらしい。無尽蔵に召喚できるわけではないのと、クールタイムが存在するようだがな」
それはまた、随分と使いやすそうなギフトだな。ゴーレムなら、いくら壁にしても何の問題も無いし。
「パーティメンバーにバフをかけることもできるが、本人の戦闘力にはほとんど補正がかからないそうだ。私自身の戦闘能力には、あまり期待しないでもらえるとありがたい」
「なるほど、了解です」
藍梨さんは、一番安全な最後衛……だとバックアタックの危険があるから、最後尾はガードマンの人に立ってもらうか。
その後、ガードマンの人たちからも各々のギフトを教えてもらった。全員が前衛タイプのギフトだったので、安心して藍梨さんの護衛を任せられそうだ。
「ところで、パーティのリーダーを決めておきたいのですが……」
「恩田さんね」
「僕も朱音さんに賛成です。恩田さんにお願いしたいです」
「私も賛成だ。恩田殿がやるべきだろう」
……え、俺?
「俺がリーダーで大丈夫ですか? あまりそういうのは得意ではないのですが……」
「これは私の持論だがな。仕事においては、"プレーヤー"、"コーチャー"、"リーダー"、"ボス"は、それぞれ別のスキルが必要になると私は考えている。名選手が必ずしも名監督になるとは限らないし、リーダーシップ溢れる選手が引退してコーチになったらパッとしなくなった……といったことがままあるようにな。
そして、ダンジョン探索のような現場仕事においては、リーダーが最も重要なポジションになると私は考えているが……私の知る限り、私も陽向もリーダーにはふさわしくない」
「僕は確かにそうですね、プレーヤーが一番向いているのではないでしょうか。次点でコーチャーですかね」
「私はボスだろうな。プレーヤーなら多少はできるかもしれないが、リーダーやコーチャーには向いていない自覚がある」
プレーヤーにリーダー……言葉にするのは難しいが、仕事上の役割と人材に関する経営学、といったところか。藍梨さん自身も会社幹部だと言っていたし、そういうものを考える機会が一般人より多かったということかな。
そのことが全く分からない、俺のような人間はこの先マズいのかもしれないが……今までそういうことを考えたことが無かったのだ。今後は少し、そういう本も読んでみようかな。
「……うーん、私はどうだろう?」
そういえば、朱音さんはまだ答えてなかったな。藍梨さんも向いていないとは言ってなかったし、俺としては朱音さんがリーダーでも悪くないと思うのだが……。
「そうだな……例えば朱音、今日の昼食はどうするつもりだった?」
「えっ、あっ……そういえば考えてませんでした」
「まあ、そうだろうな。一方で恩田殿は?」
藍梨さんに聞かれているが……さて、アイテムボックスのことはどうしようか。朱音さんがしきりに目配せしてきているが、まだ隠すべきだろうか。
ただ、あまり悩んでると藍梨さんに怪しまれる。ここはあるがままに答えるか。
「2人分は持ってきてますね」
「ほう、それはどこに?」
「リュックの中に」
一応、2人で食べる分は最初からリュックに入れてきている。土曜日は人が多いと予想できたので、人前でアイテムボックスを使わなくて済むようにするための措置だ。
……お陰でリュックが重い。重みを感じにくい構造のリュックらしいが、それでも重い。特にポータブル電源がメチャクチャ重い。あと、水ペットと電気湯沸かし器がかなり嵩張る。
それでも、アイテムボックスの存在が広くバレてしまうよりは遥かにマシだ。
「とまあ、こういうところだ。私は朱音もリーダーに向いているとは思うが、今は少しばかり経験値が足りない。現時点で比較すれば、恩田殿が最もリーダーに相応しいだろう」
……今日が初対面のはずなのに、藍梨さんの俺に対する評価がなんだか高い気がする。俺、そんな大した人間ではないんだがなあ……。
まあ、任せてくれるなら全力でその役割を全うしよう。
「……では、僭越ながら私がリーダーを務めます。皆さん、よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
俺が頭を下げると同時に、全員が俺に向けて軽く頭を下げてくる。
……昨日は朱音さんと2人、その前は俺1人での探索だったのだが。今日は俺含めて、10人の大所帯だ。そのリーダーを務めるのだから、責任重大だな……。
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