3−2:噛ませ犬にも五分の魂って言うでしょ?……え、言わない?
「おいおいおっさんよ、お前鏡見たことあんのか? お前みたいな冴えない底辺野郎が探索者なんかやってんじゃねえよ」
前回のあらすじ。なんか面倒くさそうなのに絡まれた。
以上。
「8時58分か、あと2分で開場だな。なあ朱音さん、今日はどこを目標にする?」
「え? えーっと……とりあえず、今日は第5層を見てみたいわね」
「……おい」
「だよなぁ。今日くらいは帰りを気にせず行けるかな?」
「人も多いし、多分行けるんじゃないかしら」
「おい、無視すんじゃねえよクソが!」
金髪君をスルーして朱音さんと話をしていると、金髪君がブチギレた。最初はニヤニヤ顔だったのが、無視していると困惑顔から顔をしかめだし、今は火でも噴きそうなくらいに顔を真っ赤にして怒っている。
「……ねえ、恩田さん。少しは相手してあげた方がいいんじゃないかしら?」
「なんのことだ?」
「なんのことって……えっと、そこにいる人のこと」
「そこにいる人?」
チラリと金髪君の方に目を向けて、すぐに視線を元に戻す。
「知らんな、そこに人がいるのか?」
「テメェェェェェ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、金髪君が俺に殴りかかってきた。
……まあ、残念ながら予想通りだ。予想が当たってホッとしたと言うべきか、外れて欲しかったと言うべきか。大変に複雑な気分だ。
「……"プロテクション"」
付与魔法を唱え、防御力をアップさせる。ダンジョン外だが、魔法は問題なく発動してくれた。
大きく振りかぶった右拳が、俺の顔面目がけて飛んできて……。
---ガッ!!
一番固い、額で受け止める。多少の衝撃は感じたが、痛みなどは全く感じなかった。プロテクション様々である。
「ギィ゙゙ッ!? ィ゙デェェェッ!?!?」
だが、それが意図せずカウンターになってしまったらしい。殴ってきた金髪君の方が右拳を押さえて、ヨロヨロとうずくまっていく。
……確かに、カッタい魔法の壁を思いっ切り殴ってるからな。そりゃ痛いよな……。
「おい、貴様何をしている!」
と、なんと澄川さんがどこからか飛び降りてきた。ある程度は事情を察しているようで、まっすぐに金髪君の方へと向かっていく。
「あ゙あ!? なんだテメェ、こっちは被害者なんだよ! 見ろよこれ、アイツは無傷で俺は怪我人、どう見てもアイツが悪いだろうが!」
「へぇ、ならばどうしてお前は拳を怪我しているのだ? 腕や顔や胴体ではなく、拳を怪我している理由。ぜひ教えてもらおうか?」
「うぐっ、そ、それは……」
俺に絡んで自爆したことがよほど恥ずかしかったのか、金髪君は俺に罪?をなすり付けようとしたようだが……速攻で澄川さんに見抜かれ、狼狽えている。残念ながら、この金髪君は劣勢になると途端に弱気になってしまう人種らしい。だったら最初から無理しなければいいのにな……。
「嘘をつくのなら、もう少しそれらしいことを言うんだな。
……まあ、お前の右拳が砕けた以外に被害は無いようだから、今回は大目に見てやろう。探索者として上を目指したいのなら、もっと精進した方がいいとは思うがな」
「ぐっ……」
金髪君が悔しそうに俺を睨んでくる……ふむ、まだ舐められているな、俺。これは、日を改めてまた絡んでくる流れかもしれないな。面倒くせえ……。
……ん? そういえば、ダンジョン内のアレって全部事故扱いだったっけか。今後、もし金髪君から何か仕掛けてくることがあるのなら……ははっ、その時が実に楽しみだ。
「恩田探索者」
「なんでしょうか?」
内心で嗤いを押し殺していると、澄川さんが歩き寄ってくる。そうしてから、俺に小さく頭を下げてきた。
「本当に申し訳ない、割って入るのが少し遅くなってしまった。本来、ダンジョン外の公共の場でのギフト・スキル使用は厳禁なのだが……攻撃を企図してのものではなかったので、恩田探索者のそれは法に該当しないということで報告させてもらう」
「それはありがたい」
どうやらお咎めなしにしてくれるようだ。公共の場でギフトやスキルを使用するのは、一応は法律に抵触する行為だからな。
……まあ、『相手への威嚇や物的・人的被害が出ることを企図した使用は禁止』と書いているようなので、プロテクションはギリギリセーフだったのだろう。金髪君の右拳がダメージを受けたのも、結局は自業自得なのだから。
と、そうこうしているうちに開場時間を迎えたらしい。閉まっていた重厚な扉が大きく開き、他の探索者たちがバリケード内へと入っていく。
ちなみに、他の人の中には俺と金髪君とのいざこざに割って入ろうと、構えていた人たちが何人かいた(藍梨さん配下のガードマン含む)。最終的に澄川さんが出てきたので、彼ら彼女らの出番は無かったわけだが……皆が無視していたわけではないことは、しっかりと認識しておく。
まあ、全員が全員、俺の味方だというわけではないかもしれないがな。
「………」
「さて、朱音さん行こうか」
「……ええ、そうね」
うん? なんだろう、朱音さんの機嫌があまり良くないような気がする。腕を組み、誰かを睨んでいるようだが……。
「……あっ、ご、ごめんなさい恩田さん。恩田さんに対して怒ってるわけじゃないから、気にしないで」
「お、おお、そうか」
……怒ってるのは怒ってるんだな。誰に対してだろうか……やはり金髪君か? ちょうど睨みつけてた方向にいるし。
「さて、こんなのは放っておいて中に入りましょうか、皆さん」
「そうだな。全く、時間を無駄にしただけだったな」
「うぐっ……」
藍梨さんと陽向君から、トドメの口撃が金髪君に向けて放たれる。そのまま金髪君には目もくれずにバリケード内へ入っていくので、俺たちもその後を追った。
「クソが……今に地獄を見せてやる……」
「………」
やはり全く懲りてないな、この金髪君は。しかしまあ、地獄を見ることになるのは果たしてどちらかな?
◇
「ようこそ、亀岡ダンジョンへ。恩田さん、久我さん、いつもありがとうございます」
「どうもです」
「お疲れ様です」
俺と朱音さんは探索者証を持っているので、受付嬢に提示して先に進んでいく。
……その後ろから、受付嬢と藍梨さんの会話が聞こえてきた。
「すまないが、探索者証の発行を8人分お願いしたいのだが」
「はい、探索者証の発行を8人分ですね……えっ、8人分?」
亀岡ダンジョンバリケードでも探索者証の発行はできるんだな。ハロワで発行したから知らなかった。
……で、一度に8人分の申請なんてのは多分予想外だったのではなかろうか。振り返って見てみたが、受付嬢さんの笑顔が若干引きつっているような気がした。
「色々と事情がありまして……。お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします」
「は、はい、かしこまりました。それではまず、こちらの用紙に記入の方をお願いいたします」
「分かりました」
陽向君が用紙を受け取り、全員に配る。大きめの記入台も用意されているようで、そこで皆がサラサラと用紙への記入を進めているようだ。
「恩田さん、あんまり遅いと置いてっちゃいますよ?」
「ああ、ごめん朱音さん」
ロッカールームに向かい、装備を取り出して身に付け始める。今日は他の探索者の人たちもいたが、全員が黙々と準備を進めていく。
準備が済んでカウンター近くに戻ると、ちょうど藍梨さんたちが装備珠進呈の儀式を受けているところだった。ガードマンの人たちは6人全員が朱音さんとほぼ同じ前衛用装備を身に着けており、武器だけが6人それぞれで異なるようだ。
そして、次は陽向君の番らしい。
「………」
陽向君の持つ装備珠3つが光りだし、彼の身を包んでいく。見た感じは軽装寄りだが、形状からしてどうも魔法タイプではなさそうだ。
……そして、光が収まる。動きやすさ重視の軽鎧に手袋、取り回しの良さそうな弓を装備した陽向君がそこに立っていた。
「おや、武器はこちらになりましたか」
「最近は弓を持つ機会の方が多かったのだろう? そのせいではないか?」
「確かに、そうかもしれませんね」
……なにやら藍梨さんと会話しているが、内容にそこはかとない怖さを感じる。これは、聞かなかったことにしよう、うんそうしよう。
ちなみに陽向君の装備構成だが、あまり弓が大きくないので、後衛というには射程が短い気もする。中衛といったところだろうか、どちらかといえば機動力で勝負するタイプに見える。
……矢筒的な物が無いのが気になるな。矢はどうやって用意するのだろうか?
「さて、私も念じてみよう」
藍梨さんが目を閉じると、彼女の持つ3色珠が光りだす。その光が装備に姿を変えていくが、こちらはシルエットから察するに、どちらかと言うと魔法タイプ寄りの装備のようだ。
「………」
やがて光が収束し、弾ける。藍梨さんの装備は、なんだか軍の上級士官の正装みたいな見た目になった。
指揮棒に帽子、白地に金色の装飾が施された上下の軍装……藍梨さんのギフトが何なのか、これで分かったような気がする。
「ほう、なかなか良い感じではないか」
クルンとその場で1回転し、藍梨さんが自身の格好を確かめている。どうやらかなり気に入ったようで、その顔はニヤリと笑っていた。
「恩田さん……あ、全員の準備が終わったのね」
「ああ、どうやらそうみたいだ」
そこに、準備を終えた朱音さんも合流。藍梨さんや陽向君の様子を見て、全ての準備が終わったことを察したようだ。
「では、藍梨姉さま。早速ダンジョンに入りましょうか」
「うむ」
朱音さんを先頭に、俺、陽向君、藍梨さん、その周りにガードマンと続いて階段を降りる。
そうして立ったダンジョンゲートの前で、俺たちは一度立ち止まった。
「……なんとも不思議な見た目ですね。とてもこの世のものとは思えません」
「だが、現実にそれはここにあるのだ。果たしてこれは、令和の世に現れた新たな金鉱山なのか。あるいは我々を貪り喰らおうとする、悪魔の巣窟なのか」
「……藍梨姉さま」
「ふっ、まあ良い。早速中に入ってみるとしよう」
ガードマン2人を先頭に、藍梨さんがダンジョンゲートを潜る。続いて陽向君、残りのガードマン、俺、朱音さんと続いた。
……ちなみに、藍梨さんは気付いていなかったようだが。
朱音さん、なんか呆れたような目で貴女を見ていましたよ?
少しばかり思うところがあり、2ー30の後半(朱音と藍梨が車移動している場面)に更に加筆修正を行っております。3章の見方が多少変わると思いますので、よろしければご一読ください。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。