2−26:灯台もと暗し、とは昔の人はよく言ったもんだ
「大丈夫だな……よし、"アイテムボックス・収納"」
脇道に入り、周りに朱音さんしかいないことを確認してから自分の装備品を全てアイテムボックスに入れる。ブルースライムさえいないのは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……。
まあいいや、まずは装備の確認からだな。
「"アイテムボックス・一覧"」
☆
(略)
・フィアリルワンド(恩田高良用)×1
・フィアリルローブ(恩田高良用)×1
・試製マジックシールド(恩田高良用)×1
・ホーリィバングル(恩田高良用)×1
・フィアリルレガース(恩田高良用)×1
・ウォーターベレー(恩田高良用)×1
(略)
☆
"フィアリル○○"という装備が半分を占めている。朱音さんが最初に使っていたランク2の武器も"フィアリルハルバード"だった。
……ということは、ランク2の装備珠で出てくる装備群の構成金属が"フィアリル"という名前なのか。名前の雰囲気がどことなくミスリルに似ているが、関係があるのだろうか?
で、腕輪の名前はホーリィバングルか。確かこれもランク2の装飾品だったはず。テイ○ズ的発想であれば、これに体力自動回復機能が付いている可能性は高い。俺がダンジョン内で疲れを感じにくいのは、もしかしたらこの腕輪のお陰かもしれないな。
ウォーターベレー……ランク5の装備だな。名前からして水属性耐性はほぼ間違いなく付いているし、火属性耐性もおそらく付いているだろうが、他にも効果があるかもしれない。ランクも高く、しばらくはこの装備のお世話になりそうだ。
そして、よく分からないのが光る盾……おっと、正式名称は"試製マジックシールド"か。ダンジョン攻略を始めるより前、受付カウンターで最初に貰ったランク1の装飾珠から出た装備のはずなのだが。それにしては性能が高すぎる気がするのだ。
軽くて頑丈で、魔力を込めれば守備範囲が広くなる。あとこれは推測だが、魔力回復速度が早いのもこの盾のお陰なんじゃないかと思っている。
なにせ、最初に貰った装備の中でまだ残っているのはこの盾だけだからだ。ダンジョン内での魔力回復速度が最初から物凄く早かったのと、ダンジョン外ではそこまで回復速度が早くなかったことからの推測になる。そんな高性能な盾が本当にランク1の装備なのか、少し疑問に思えてきたのだ。
見た目もあまりに異質すぎる。ランク1といえば、アイアンシールドのような全金属製のシンプルな盾となるのが普通なように思うが……試製マジックシールドはむしろ金属製の部分の方が非常に少ない。白く光る部分が占める割合の方が圧倒的に多いのだ。
一方で、ならばこれはランクいくつの装備なのか、と問われると答えに窮するのも事実ではある。あの時、装飾珠の中に浮かんでいた数字は確かに"1"だったのだから。
……考えれば考えるほどに謎が深まる。何か、重要なことを見落としてはいまいか。そう、例えば装飾珠の数字が……。
「………♪」
「……えーっと、朱音さん?」
ニコニコしながらこちらを見つめる朱音さんの姿が目に入り、思考の海から強制的に引きずり上げられる。
「あら、どうしたの恩田さん?」
「んーっとさ、朱音さんめっちゃこっち見てくるじゃん? すんごい気になるのさ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ……」
34歳年齢=彼女いない歴で枯れかけのおっさんだからこそ、笑顔の美人さんにじっと見つめられると超緊張すんのよ。嬉しいを通り越して、それはもはや恐怖なのさ。
……まあ、だからこそ朱音さんに負の感情が無いことも分かっちゃうんだよなぁ。ただ楽しんで見ているだけってのが、なんとなく分かってしまうのですよ。
「……女性の笑顔は破壊力がすごいってことだ。それくらい自覚してくれ……」
こう言うのが、俺の精一杯だ。
「ふふ、了解よ♪」
そう言いながらも、朱音さんは流し目で変わらず視線を送ってくる。
……何がそこまで楽しいのだろうか? 俺みたいな平凡な人間の顔なんぞ、見たところで何も面白くなかろうに。
「ねえ、恩田さん」
「……なんだい?」
「それ、私にもやってくれないの?」
「それ?」
それ、とは一体なんのことだろうか?
「装備の名前確認」
「……あ〜、確かにそれはやっておいた方がいいかもしれないな」
命を預ける装備品だもんな。当然だが、情報は多い方が良い。
「じゃあ、一旦装備を外してもらって……」
「あら、アイテムボックス・収納で無理矢理剥ぎ取ってくれてもいいのよ?」
「おい、なんてこと言うんだ」
やらんわそんなこと。何かの間違いで服まで剥ぎ取ってしまったら、俺には責任取りきれんって。
……というか、第1層に戻ってきてから絶好調だな朱音さんよ。この短い時間に何があったんだ……。
「冗談よ、ジョーダン♪」
「ったく……」
完全にからかわれてるなぁ、俺。まあ、朱音さんが楽しそうだからいいんだけどさ。
「"アイテムボックス・取出"」
朱音さんが装備を外している間に、俺の方は改めて装備をし直しておく。第1層とはいえ、危険が0というわけではないからだ。
一応、朱音さんの方は見ないように背を向けておく。オートセンシングで危険は察知できるので、問題は無い。
「恩田さん、外し終わったわよ」
「了解。"アイテムボックス・収納"」
声が聞こえたので、朱音さんの装備一式をアイテムボックスの中に収める。
「振り向いても大丈夫か?」
「ええ、いいわよ」
許可を貰ったので振り向くと、朱音さんはジーパンに薄手の上着という格好で立っていた。共同探索初日に見たのと同じ服装だ。
「じゃあ、"アイテムボックス・一覧"」
とりあえず、装備品を確認するとしますかね。
☆
(略)
・フィアリルソードスピア(久我朱音用)×1
・朱魔銀の重鎧(久我朱音用)×1
・アイアンシールド(久我朱音用)×1
・フィアリルグリーブ(久我朱音用)×1
・フィアリルアームガード(久我朱音用)×1
(略)
☆
「ん?」
装飾品枠の装備が3つしかない。装飾品の同時装備数の最大値が4つ以上なのは、俺自身の装備状態からほぼ確定している。せっかくだから、枠数一杯まで使った方がいいかもしれない。
「なあ朱音さん、装飾珠ランク2使っとく? 装備枠がもう1つくらいは余ってると思うけど……」
「ん? あ〜、そうねぇ……」
朱音さんは少しだけ考えるそぶりを見せていたが、すぐに返答がきた。
「今はやめとくわ。どうせなら、ランク3に上げてからの方が良いと思うの。今の装備でも十分戦えてるし」
「そうか」
例の、第4層の台座のことを指して言っているのだろう。確かに、ランク2の装備珠が1個足りなくてランクアップできません、とかいう状況になったらちょっとダサい感じはする。
まあ、ランク3の装飾珠ができたら朱音さんに渡そうと思っていたので、朱音さんがいいのであれば俺にも異論は無い。
「で、装備品の方は……」
朱音さんにアイテムボックス一覧表は見えていないので、なるべく声に出して説明する。
「あ、武器はフィアリルソードスピアで合ってたのか」
「フィアリルって?」
「あ、朱音さんには説明してなかったっけ。多分だけど、武器を作ってる金属の名前だと思う」
「へえ、なんかミスリルに近い響きの名前ね」
俺と同じような感想を朱音さんも漏らす。2人ともそう思うってことは、やはりフィアリルとミスリルは関係があるのだろうか?
「……で、防具の名前は朱魔銀の重鎧か」
朱魔銀か、確かに鮮やかな赤色をしていたな。ランク5の装備なので、それなりに高位の金属である可能性は高い。何かしらの特殊効果も持っているはずだ。
「そういえば、これ装備した時に『力が湧いてくる』みたいなこと言ってなかったっけ、朱音さん?」
「あ、そうなのよ。装備した瞬間に持ってる槍が軽く感じるようになったわ」
「なら、力に常時バフがかかる効果があるってことか」
他にも何かしらの効果がありそうだ。例えば、色合い的に火属性攻撃への耐性が付くとか。
……まあ、その辺はあまり積極的に試すことでもあるまい。運良く【鑑定】のスキルを手に入れるか、敵の攻撃を避けきれなかった時に偶然見つけられれば御の字くらいに思っておこう。
「……それ以外の装備は普通だな」
残りはフィアリル装備に、アイアン装備しかない。ランク3の装備珠ができた暁には、優先的に朱音さんへ回すことに決めた。
まだ2回しか一緒に探索していないが、朱音さんは大切な仲間だ。怪我をするリスクが減らせるのなら、それに越したことはない。
「あら、ブルースライムだわ」
と、広場の方からブルースライムが這い寄ってくる。相変わらずこちらの存在を認識していないようで、俺達を掠めるように見当違いな方向へ向かっているようだ。
「核を取ってみるか……"プロテクション"」
昨日はそのまま手を突っ込んだが、今日はプロテクションを掛けて核を取ってみる。果たして、どれほど変わるだろうか?
「それっ」
---ジュッ!
ブルースライムの体内に手を入れる……全く痛くない。何かが灼けるような音は聞こえたが、プロテクションが効果を発揮してくれているようだ。
そのまま核をガシッと掴み、勢い良く引き抜く。核を奪われたブルースライムは苦しそうにのたうち回り……そのまま溶けて地面へと消えていった。後には手の中の核と、小さな魔石だけが地面に残っている。
「おお、全然痛くないな」
「………」
と、朱音さんがジト目でこちらを見ていることに気付いた。急にどうしたのだろうか?
「……恩田さん、もしかしてご自身を実験台にしてはいませんか?」
「……?」
実験台、実験台……ああ、確かにそうかもしれないな。だけど、それは。
「安全マージンは十分取ってるし、回復魔法が使えるから大丈夫---」
「ダメです。クイックネスの時もそうでしたけど、私に声掛けもなく危険なことを確認するのはやめてください。『万が一、どちらかが倒れたら大変なことになる』、他でもない恩田さんが仰ったことですよ?」
「うっ……」
そ、それは確かにそうだ。
「わ、分かった。今後はちゃんと相談するよ……」
「……ふふ、分かってもらえたのならそれでいいわ」
朱音さんがまた笑顔に戻る。
……あ〜あ、まさか自分より若い人に諭されるなんてなぁ。でも、ちゃんと言ってもらえてるだけ感謝だな。
「ありがとうな」
「いいえ、どういたしまして」
……さて。
「ところで、もう少しブルースライムの核を集めようと思うんだが。朱音さんもやってみるか?」
「あら、やらせてくれるの?」
「当然、朱音さんがやりたいならサポートするよ」
「……ふふ。ええ、やってみたいわ」
「了解、じゃあ"プロテクション"と」
朱音さんにプロテクションを掛ける。
「では、ブルースライム探しといきますか」
「ええ」
脇道を出て、ゲート前広場に戻る。周りを確認すると、ブルースライムが2体ほど這いずっているのが見えた。
……さあて、今日はブルースライムの核を提出してみるか。換金所のおっちゃんがどんな反応をするか、少し楽しみだな。
アイテムボックスで装備の名前確認、ようやく小説に出せました。ずっと前にご感想で頂いていたネタだったのですが、なかなか出すチャンスが無くこんなに遅くなってしまいました……。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




