2−24:激闘の後、第4層探索
「……うわぁ」
「……すごい」
第4層に降り立つと、そこはとてつもなく開けた空間だった。まさに大空洞、第2層の大部屋や第3層の岩部屋など比較にならないほどの広さがある。視界を遮るものも一切無く、そこら中にブルースライムが這いずり回っているのが見える。
昨日はモンスターに追われて、ゆっくり見る余裕が無かったが……いや、これはすごいな。どこだったか、凄まじく広い洞窟があるという話を聞いたことがあるが……そこも、これくらい広いのだろうか?
「ギィィッ!」
「"ライトバレット・スナイプ"」
「ギッ!?」
「"アイテムボックス・収納"」
ビューマッピングをしたいところだが、まずは威嚇してきたホーンラビットをノールックで撃ち抜く。ドロップした魔石はすぐにアイテムボックスへ収納した。
「「キィィィィ!」」
「"ライトショットガン"」
「「キィッ!?」」
「"アイテムボックス・収納"」
ブラックバット2体が上空から迫ってきていたので、ライトショットガンで撃ち落とす。こちらも魔石だけドロップしたので、アイテムボックスに入れた。
……ある程度予想はしていたが、やはり第4層はモンスターの湧きが物凄く早い。あれだけの数を倒したにも関わらず、第4層にはまだたくさんのモンスターがいる。
「"ビューマッピング"」
近くにモンスターがいないことを確認してから、ビューマッピングを使用する。残り魔力は35%くらいで、ソロなら完全に危険水域へと突入している頃だ。
しかし、今日は隣に朱音さんがいる。互いにフォローしあえる人がいるというのは、なかなかに心強い。
「……ん? あれ、階段がこんな近くにあるのか」
新たに作成されたマップを脳内で追っていると、50メートルくらい先に下り階段があることに気付いた。大部屋が直径500メートルくらいあるので、階段間の距離はかなり近い。
下り階段に向けて数歩、歩みを進めて……ふと立ち止まる。
「……? どうしたの、恩田さん?」
「………」
おもむろに後ろを振り向く。大空洞の壁の一部が開き、そこに上り階段が付いている……が、もちろん気になるのはそこではない。
「……アレ、なんだ?」
「アレ?」
「ほら、上り階段の真上くらい。窪みがあるだろ?」
「えーっと……あ、本当ね。言われないと気が付かないわね」
ずーっと上空へ垂直に伸びている、大空洞の巨大な岩壁。その高さ15メートルくらいのところに、人がかがんで入れる程度の断面積をもつ窪みがあるのだ。壁の色が一様なので、意識して見ないと確かに見つけられないだろう。
……ビューマッピングは、三次元の地図を作り出す魔法だ。壁や天井の細かい形も正確にプロットできる。正直、ここまでは要らないかなと思っていたが……なかなかどうして、そのお陰で面白いものを見つけることができた。
ちなみに、似た窪みが実は第4層に複数ある。見通しのあまりの良さゆえに、ビューマッピング1回でほぼ全域の地図ができたわけだが……その窪みの奥だけマップが途切れているのだ。場所が場所だけに、奥に宝箱などがあってもおかしくない。
「でも、すごく高いわね。手が届かなさそうよ?」
「それなんだよなぁ……」
朱音さんの言う通り、あそこに辿り着く方法が無いのがネックだろう。15メートルといえば、現実ではビル4〜5階建てぐらいの高さに相当する。気軽に行けるような高さではない。
「足場も見当たらないし、向かうのはまた今度にしようか。ちょっと方法を考えておくよ」
「お願いしますね、恩田さん」
今は様子見しかないか。何か良い方法が思いついたら、試してみるとしよう。
「……さて、どうしようか。"ライトショットガン"」
「「「グギッ!?」」」
「"アイテムボックス・収納"」
急にポップしたゴブリン3体をまとめて撃ち倒し、ドロップアイテムを回収しつつ朱音さんに確認する。モンスターに言っても仕方ないが、もう少し空気を読んで出てきて欲しいものだ。
……まあ、ポップ率が高いであろう第4層でお喋りしてる俺達も俺達なんだけどな。
「ねえ、ここって宝箱あるのかしら?」
「宝箱か? うーんと……」
朱音さんに聞かれてマップを確認すると、不自然な形をした物影が第4層に全部で9つほどある。目視でも見えないことはなかったが、ちょっと遠過ぎてぼんやりとしか見えないものもあったので、オートセンシングを併用して詳しく確認してみると……。
「……怪しいのが2つくらいあるな」
「あら、本当?」
9つのうちの7つは、明らかに箱っぽくない形をしている。おそらくはモンスターか、地面の大きめな凹凸にビューマッピングが引っ掛かって変な影になったのだろう。
しかし、残り2つは宝箱の可能性がある。影の形が四角形で、大きさもそれっぽいからだ。遠目で見ると片方は茶色っぽくて片方は白っぽいが、木製と石製の宝箱……だったりするのだろうか?
俺達の現在位置と2つの物体が、互いに300メートルずつぐらい離れているので移動するのはかなり手間だが……確認する価値はあるだろう。
「よし、じゃあ宝箱っぽいものは確認するとして……第5層はどうする? 試しに行ってみるか?」
目の前には、下の階層に続く階段。ここから先の情報は、初心者用パンフレットにもあまり載っていなかった。かろうじて一部のモンスターが紹介されていたくらいだ。
第5層がどんな場所なのか……興味があるかと言われれば、当然あるに決まっている。
だが、第5層探索に踏み切るのは今はリスクが高過ぎるのだ。
「そうしたいところなんだけど……帰りも戦わないといけないのよね? あの大群と」
「うーん、そうなんだよなぁ……」
行きがあれば、当然帰りがある。第5層に行けば帰りも第4層を通過し、そこでまたあのモンスターの大群と矛を交える可能性がある。
それだけだったなら、十分に休憩してから挑戦すれば倒し切ることも不可能ではないだろうが……。
「しかも、待ち伏せもできなくなるからなぁ……」
「……そうなのよね」
階層境界が階段の最上段付近にあるので、帰りは階段にモンスターを引き込んでの待ち伏せ戦法が使えなくなる。階層を跨いだ攻撃は無効なので、必然的にモンスターに囲まれながらの強行突破を敢行せざるを得なくなってしまう。地の利を全く活かせない状況での戦いを強いられるのだ。
それを無事に切り抜けられるか、と言われれば……今の俺では、ちょっと自信が無い。見れば朱音さんも自信は無さそうで、やや渋い表情をしていた。
「サクッと第5層を見て戻ってきたら、どうかしら?」
「うーん、それだと……"ライトショットガン"」
「「キィッ!?」」
「"アイテムボックス・収納"」
ポップしたばかりのブラックバット2体を仕留め、魔石2つと装備珠1つをアイテムボックスに収める。
第4層のモンスターポップ率は、おおよそ30秒に1回くらいか。なぜか俺達の近くに出てくるのは……目視している範囲内ではモンスターポップしないようなので、視界外の範囲が俺達の直近以外にほとんど無いのかもしれない。第4層はすごく見通しが良いのでさもありなん、だ。
とりあえず、1分に2回、1時間に120回のスピードでモンスターがポップし、一度のポップで平均2体くらいのモンスターが出てくると仮定すれば……。
「1分間で4体くらいポップすると仮定したら、30分間目を離したら120体のモンスターが湧く計算になるな」
「うわぁ……」
それを地の利も無しに倒し切る? 無理に決まってんだろそんなもん。どうにかしてモンスターと戦わずに済む方法を考えないと、このまま進むのは非常に危険だ。
「ここは、宝箱だけ確認して退くのが吉だな」
「……そうね、そうしましょうか」
第5層の探索は諦め、宝箱と思しき物の正体を確かめるために第4層の探索を始める。魔力残量はやや心許ないが、さすがに第4層の探索中は保つだろう。
◇
「つ、疲れるなコレ……」
「え、ええ。思ったよりモンスターの数が多いわね……」
疲れた体を引きずるようにして、2つ目の宝箱と思しき白色の物体に向けて歩みを進めていく。
……正直、第4層のモンスター出現率を舐めていた。たった600メートルを歩く間に、モンスターに襲撃されること実に28回。ホーンラビット18体、ブラックバット29体、ゴブリン35体を仕留めている。
ちなみに、宝箱と思しき物体2つのうち、最初に向かった茶色のものは木の宝箱だった。朱音さんが喜び勇んで開けて……中から装備珠ランク2の3色セットが出てきた時はガックリしていたな。
で、もう1つの宝箱らしきものの場所まで到達したのはいいが……。
「これ、なんだろう?」
「何かの台座かしら? 面白い形してるわね」
そこには幾何学的な模様がビッシリと彫り込まれた、円柱型の台座のようなものが鎮座していた。確かにこれなら、影の形は四角形になる。遠目からでも石製だということはすぐ分かったので、石の宝箱かと少し期待したのだが……少し残念だ。
ただ、それならそれで謎が残る。台座が無事に存在するということは、これがダンジョンオブジェクト的なものであることは間違いないからだ。
……人工物なら、ブルースライムに全部溶かされてしまうからな。それがないということは、この台座がダンジョンに守られた特別な存在であることを意味している。
「………」
台座をじっくり観察する。俺の杖やダンジョンゲートと同じような、魔術的幾何学模様が台座に彫り込まれている。
……よく見ると、台座の上に窪みがある。ちょうど装備珠をはめられそうな小さな窪みが10個、台座の外周に沿うように等間隔に並んでいる。
「"アイテムボックス・取出"」
試しに、防具珠ランク1を10個取り出す。モンスターの大群やら何やらと戦っていたら、気付けばランク1の装備珠が10個以上溜まっていたのだ。使う予定が無く売却するつもりだったので、無くなってもあまり惜しくはない。
「……"ライトバレット・スナイプ"」
「ギッ!?」
「"アイテムボックス・収納"……よし、全部はまったな」
こんな時でも遠慮なく出てくるモンスターを処理しつつ、防具珠ランク1を窪みに10個はめ込む。
……うーん、何も起きないな。意味ありげに置いてあるが、本当にただの置物---!?
「えっ?」
「へっ?」
台座全体が青く光り出す。同時に、窪みへはめた防具珠10個が溶けるように台座へと吸い込まれた。
……青い光が台座中を駆け巡り、幾何学模様を淡く浮かび上がらせていく。やがて、青い光は台座の中心に集まり---収束した青い光が、防具珠に姿を変えていく。
「………」
出来上がった防具珠をつまみ上げ、中を覗く。そこには"2"の数字がユラユラと踊っていた。
「ねえ、どうだったの?」
「これ、どうやら装備珠のランクアップができるみたいだな。ランク1の防具珠10個でランク2が1個できた」
「あら、それはなかなか良さそうね」
さすがに、ランク2の装備珠は10個もないので試せないが……多分、ランク3の装備珠も作れるのだろう。もしかしたら、もっと上のランクの装備珠も作れるのかもしれない。ランク3以上の装備珠はラッキーバタフライを倒さなければ入手できなかったが、この台座があれば理論上はいくらでも高ランクの装備珠を量産できる。
ただし、個数比が10:1なのが微妙だ。ランク1の装備珠が1000円で売れるのに対して、ランク2は3000円なので金額的にはかなり損をする。ランク3装備珠の売値がいくらなのかは分からないが、まあ10000円は超えないだろう。高ランクの装備品が欲しい時にだけ使うべきだろうな。
「朱音さん、武器珠と装飾珠もランク2に変えとく? どっちも10個あるから、ランク2に上げられそうだけど」
「売値のことを気にしてるのね? それならランクを上げたいわ。良い装備品があれば、第4層の本当の攻略に近付けるかもしれないし」
「よし、了解だ。両方ともランク2に上げておこう」
武器珠と装飾珠も台座を利用し、ランク2の装備珠に変換する。武器珠をはめた時は赤色に、装飾珠をはめた時は黄色に、それぞれ台座が光るのがなかなかに印象的だった。
「じゃあ、そろそろ上り階段まで戻ろうか」
「ええ」
2人で上り階段まで戻る。道中でモンスターに11回遭遇し、ホーンラビット4体、ブラックバット10体、ゴブリン17体を倒して無事に上り階段まで戻ってくることができた。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
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