5−29:亀岡ダンジョン・森林エリア
「よし、ようやく来れたな、亀岡ダンジョン第15層に」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
第11層〜第14層、山道エリアをサクッと通り抜けた俺たちは、第15層・森林エリアの入口へとたどり着いた。横浜ダンジョン以来の第15層に、ヒナタとフェルのテンションが否応なしに高まっていく。
もちろん、俺もそうだ。今までずっと足踏みが続いていた分、進捗があった時の達成感はクセになるほど心地良いものだ。
……いくらリザードマンやオーク、ダイブイーグルと戦ったところで、今さら新鮮味は無いものな。爬人隊長ことハイリザードマンが出てきてくれれば、まだ多少は面白くなるが……そちらも既に対応策が煮詰まっていて、ヒヤッとする場面に遭遇することも無くなった。RPGのレベル上げのように、ただ機械的にモンスターを倒していくだけの状況だった。
今回の探索でも、山道エリアで特筆すべきことは何も無かった。唯一語れることと言えば、道中で遭遇したダイブイーグルがいずれもかわいそうな末路を辿ったことくらいか。ヒナタとフェル (小型サイズ)とピーちゃんに囲まれては、さすがのダイブイーグルも……いや、仮に特殊個体の飄嵐大鷲であったとしても抗えるはずがない。3人から文字通り十字砲火を食らい、抵抗する間もなく一瞬で倒されていた。
以前は空中型モンスターへの対応が難しく、ブラックバットやダイブイーグルには苦労させられたものだが……今ではむしろ、敵の方が可哀想になるくらい空中戦には強くなった。おかげで山道エリアの探索もだいぶ楽になったし、制空権の掌握がどれほど重要なことか身をもってよく分かったよ。
……しかし、ここからは新しいエリアに入る。今までとは打って変わり、森林エリアでは索敵能力の有無が探索難易度を大きく左右していくこととなる。
「どこかに潜んでるのかしら、ステルスネークが……」
「私たちでは、どこに居るのか全く分かりませんね」
「ヘビは苦手っす……」
「安心するのです、伸子ちゃん。ヘビが好きな人はそうそう居ないのです」
森林エリアにおける探索難易度を、大きく上げている最大の要因。それが、ステルスネークというモンスターの存在だ。
ステルスネークは木の上に潜むヘビ型モンスターで、牙に毒を持っている。加えて名前の通り、まるで迷彩のように自身の姿を森林に溶け込ませるので、捕捉するのが非常に難しいのだ。ゆえに不意打ちを食らいやすく、毒持ちであることも相まって森林エリアの探索を困難なものにしている。
後の階層にグリズリーベアやヘビータートルといった強モンスターが出てくるが、それらよりも遥かに厄介な存在だ。森の中にある道を通る限り、頭上からの奇襲に常時警戒し続けなければいけないのだから。
……と、ここまでステルスネークの手強さをつらつらと語ってきたわけだが……俺たちは既に対策済だったりする。
「安心してくれ、既に捕捉済だ。正面の道の両脇にある大木、その枝に2匹ずつ計4匹がぶら下がってる。迂闊に進めば左右から挟み撃ちだろう」
「あ〜、やっぱり居るのね。目視だと全然分からないわ」
「俺もだ。迷彩ってのは、ここまで恐ろしいものなんだな……」
さすがのステルスネークも、"オートセンシング"と"エアサーチ"を併用した索敵から逃れることはできない。姿を周囲の風景に溶け込ませることはできても、存在そのものまで消せるわけじゃないからだ。
……だが、迷彩の効果とその恐ろしさは十分に伝わってくる。そこに居るはずなのに、何度見直しても分からないというのは本当に怖い体験だ。下手なホラーよりも恐ろしいよ。
「……おっと、忘れないうちに地図を作っておくか。"ビューマッピング"」
早速、魔法で階段前広場をマッピングする。
……なるほど、やはりここも他の階層と同じか。今回マッピングした範囲とは別に、既にマッピングした横浜ダンジョンの位置がマップ上に示されている|。第15層〜第19層の森林エリアでも、道を無視して突き進んでいけば別ダンジョンに到達できるかもしれないな。
まあ、横浜ダンジョン第21層で見たように、ヤバいモンスターに追い回される事態にならないとも限らないけどな。どこまで許されてどこから許されないのか、その境界線がハッキリしない以上はやめておいた方が賢明だろう。なんとなく、国を跨がなければ大丈夫な気はしているが……さすがに試す勇気は無いな。
さて、こんな所で立ち止まってても仕方ない。さっさと道を切り拓いて、先へ進むとしようか。
「"サンダーボルト・スパークウェブ"」
――パチパチパチパチ……
電撃を圧縮して作った玉を、広場から延びる道の入口辺りに投げつける。玉は狙い通り、2本の大木のちょうど中間辺りに着弾した。
――バヂバヂバヂバヂバヂバヂッ!!
「「「「ギッ……!?」」」」
その玉から、電撃の網が放たれる。電撃網は大きく広がって大木を灼き、そこに潜んでいたステルスネーク4匹を一網打尽にした。
ステルスネークは隠密性に優れる分、耐久力は非常に低い。多分、ゴブリンとほとんど変わらないんじゃないだろうか? こういうちょっとした範囲攻撃でも一撃で倒せるので、捕捉できればそこまで怖い相手ではない。
「"アイテムボックス"」
落ちてきた魔石は、アイテムボックスで回収しておく。
……非火力型の魔法士である俺からしたら、打たれ弱いステルスネークはリザードマンやオークよりも戦いやすい相手だ。それにも関わらず、ステルスネークの魔石 (1500円)はリザードマン (900円)やオーク (950円)よりも高く売れる。俺にとっては美味しいモンスターなのだ。
そうなると、ステルスネークの特殊個体が出てくれば簡単に稼げそうな気がしてしまうが……一体、どんなモンスターなんだろうな? 特殊個体らしく、戦闘能力が大幅に強化されたモンスターとなるのか……あるいは逆に、隠密性が更に強化されるのか。
前者なら純粋に手強さが増すし、後者もオートセンシングやエアサーチをくぐり抜けるほどの隠密性を獲得してしまったら苦戦は免れないだろう。ステルスネークは毒持ちなので、その毒が強化される可能性もあってかなり厄介な存在になるのは間違い無い。
……ちなみに、アキからの情報によると毒系状態異常は全部で4種類あるらしい。弱い方から順に毒・猛毒・劇毒・致死毒となっていて、特に致死毒は非常に危険な状態異常だが、使ってくるモンスターはほとんど居ないそうだ。
その4種類の毒のうち、ステルスネークが持っているのはおそらく普通の毒だろう。これが特殊個体になると、猛毒に変わる可能性は十分にある。本当に特殊個体が出てくるかは分からないが、警戒するに越したことは無いだろう……とか言ってると本当に特殊モンスターが出現しかねないので、この話はここで終わりにしておく。
ちなみにアキは、レベルが上がれば致死毒まで扱う自信があるらしい。まあ、ほぼ上限までレベルを上げないと無理だとも言ってたそうなので、実現するにしても当分先のことになるだろうけどな。
「………」
ふと、『わざと毒を食らいまくったら【毒耐性】みたいなスキルが生えてくるんじゃないか?』と考えてしまった。
探索者はその行動により、どのパラメーターが成長するのかが変わる――例えば、ダメージを受ければ素の防御力が上がりやすくなり、魔力を大量に使えばMP的なものの上限が増えやすくなる――という俺の仮説に基づけば、スキルの発現や成長にも同じ法則が適用される可能性はある。何度も毒を食らっていると、免疫ができて毒になりにくくなる……みたいなことは十分あり得るわけだ。
1度思い付いてしまうと、すぐ試したくなってしまうのが俺のサガなのだが……ここは、グッと抑える。試すのは絶対に今じゃない、できるだけ安全な場所……最低限、ダンジョン第1層でないと危険すぎる。
だが、試さないという手は無い。スキルスクロール無しでもスキルを習得できる可能性があるのだから、今度アキにも手伝ってもらって自らを被検体に実験してみるか。ド◯クエで言うところのキア◯ーの魔法を練習する、良い機会にもなりそうだ。
……まあ、確実に朱音さんには怒られるだろうけど。機嫌を直してもらうの、結構大変なんだよな……主に体力的な面で、さ。
「……さて、もうステルスネークは居ないみたいだな」
オートセンシングにもエアサーチにも、もちろん目視確認でも敵の姿は見当たらない。広場から道まで、見える範囲内での安全は確保できた。
あとは、ひたすらこれを第20層にたどり着くまで続けるだけだ。こういうのをクリアリングと言うのだろうか、俺はやったこと無いが緊張感マシマシのサバゲーみたいだな……。
「きぃ?」
「ぐぁぅ?」
「ん? ああ、2人の出番はもうちょっと先だ。第18層まで我慢してくれるか?」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
ダイブイーグル戦はすぐ終わってしまったからか、不完全燃焼だったみたいだが……第18層からはグリズリーベアが出現するようになる。あれほどの強敵なら、ヒナタとフェルも十分満足できるはずだ。
その先には、ボス戦も控えている。ゴブリンキングほど手強い相手ではないが、それなりには2人も楽しめるだろうさ。
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