5−27:激動の1日を終えて
――ゾクッ
「――!?!?」
全員がエレベーターへと乗り込み、それが地上に向けて動き始めた直後……俺の脳裏を、凄まじいばかりの悪寒がよぎった。
【危機察知】能力でも発動したのだろうか。その危機の発信源は、おそらく今離れたばかりの第10層……そこに、今の俺たちでは手も足も出ないような強敵が現れたようだ。
「きぃ……」
「ぐぁぅ……」
「ぱぁ……」
「……ぴぃ?」
ちなみに、ヒナタとフェル、そしてアキも同じように何かを察知したらしい。警戒した様子で辺りを見回しては、何か言いたげな様子で俺や朱音さんの顔を見ている。
遠目に見たピーちゃんも同じように何かを察知したようだが、気のせいだと思ったのか軽く首を傾げるだけに留まっていた。
「どうしたの、高良さん?」
「……第10層に、特大級のヤバい気配が出現した。ずっと同じ場所に留まっていて、動く気配は無さそうだけどな」
「……!」
朱音さんの表情が一気に険しくなる。彼女は俺の【危機察知】を信頼してくれているから、俺がかなり深刻そうにしているのを見て相当な強敵が現れたのだと察してくれたらしい。
……もっとも、その悪寒源がこちらに向かってくる気配は無い。どうやら、すぐ戦いになるようなことはなさそうだ。
「む、どうしたのだ恩田探索者」
「……今しがた離れたばかりの第10層に、ゴブリンキングを遥かに超える強敵の気配を感じました。俺たちがエレベーターに乗ったタイミングを見計らったかのように出現したので、すぐ戦闘になるようなことは無いと思いますが……」
「……今後、何度かゴブリンキングを討伐した後にそいつと戦うことになる可能性もあるってことか?」
「はい」
俺の報告を聞いた権藤さんが、腕を組んで考え込み始める……が、すぐに結論は出たらしい。
「……その件は留意しておこう。支部にも報告は上げさせてもらうが……」
「基本的には、自己責任ってことですかね?」
「そうだ。その強敵がダンジョンにおける未知の仕様となれば、俺たちではどうにもならないからな。ゴブリンキングに関しては既知の情報である以上、しっかりと責任をもって対応させてもらうが……未知の脅威にまで万全の想定と対策ができるなどと、探索者にそう勘違いされては困るのでな」
人によっては無責任だと言うかもしれないが、俺はほぼ権藤さんの言う通りだと思っている。想定するにしたって、現代ダンジョンは出現してまだ3年しか経っていないのだから情報も不足しているし……仮に想定が立って対策するにしても、予算や人員の兼ね合いがある。そう簡単に実現できることではないのだ。
……なお、俺たちの深刻そうな様子は、どうやら皆には伝わらずに済んだみたいだ。
このエレベーター内は、新規にモンスターがポップしない仕様となっているみたいだからな。ほぼ安全が確保された場所で、ゴブリンキング戦で入手した装備珠やスキルスクロールを使用した後に、その使用感を皆が確かめている。そちらに気を取られたのか、俺たちの様子には気付かなかったみたいだな。
――ゴゴゴゴゴゴ……
「………」
ダンジョンエレベーターは、その間も淡々と上昇を続けていく。この存在が、亀岡ダンジョンの未来をどのように変えていくのか……それは、誰にも分からない。
だがきっと、亀岡ダンジョンを良い方に変えてくれることだろう。そうなるように、俺たちも行動していかなければな。
◇
「……よし、計測完了だ。それじゃあ、ゴブリンキングの大魔石は7500円で買い取ろう。それでいいかな、恩田探索者?」
「はい、オッケーです」
ダンジョンを出た俺たちは買取カウンターまで千鬼王の大魔石を持っていき、そのまま権藤さんに査定をしてもらう。結果として出た7500円は、今まで売った魔石の中では最高額となった。
……まあ、大魔石はほとんど仲間モンスターに食べさせてるから、売却機会がほとんど無いのが原因だったりするけどな。そこには大魔石の入手難易度の高さと、それに見合わない売却額の低さが理由としてあったりするわけだ。
大魔石を1個売るより、オークやリザードマン辺りの魔石を10個売る方が普通に稼げるし、入手難易度も遥かに低い。むしろ大魔石を売ることで仲間モンスターの成長を阻害し、敵モンスターを効率良く倒せなくなることによる悪影響の方が大きいのだ。
ならば、強敵の魔石を売ることに全く意味が無いのかと言われれば……決してそんなことは無い。ただしその場合、モンスターの強さを測るバロメータとして機能させるために、魔石の売却額を知る意味合いの方が遥かに大きくなるだろう。
例えば、第20層のボス・オノドリムの魔石の売却額を嘉納さんに聞いたのだが、そちらは4500円だったらしい。一方のゴブリンキングは7500円なので、単純計算でゴブリンキングはオノドリムの1.67倍ほど強いと推測できるわけだ……まあ、絶対的な基準が存在しない以上、あくまで金額は強さの目安でしかないがな。
……ちなみに、魔石の売却額はどうやらエネルギー含有量の多寡で決まっているらしい。どうやってそんなものを測定しているのかと言うと、専用の測定器が迷宮開発局に配られているらしいのだが……なんと、権藤さんでさえその動作原理は知らないそうだ。東京本部で作られた物とのことだが、詳細はその一切が伏せられているという。
理系の端くれとしては、どうやって測定しているのかその原理が気になるところだが……同時に、俺の【危機察知】が激しく警鐘を鳴らしている。あまり深入りするのは危険なようだ。好奇心は猫をも◯すと言うし、便利な道具があるんだな、ぐらいのところで留めておこうと思う。
「……ところで、恩田探索者よ。そのカブトムシの角を大きくしたような物体は、もしかして……」
「ええ、権藤さんのお察しの通りです。ラッシュビートルと戦闘になった時に、伸子さんがへし折ってくれました」
「へへ……っす」
折れないものだとばかり思っていた大角が、実は折ることができるのだという事実にも驚いたものだが……同時に、伸子さんが内に秘める限りないパワーにも驚いた。
技も何も無い、ただ水属性を乗せただけの振り下ろしの拳で、ゴブリンキングをほぼ一撃で叩き潰す――そんなこと、嘉納さんでも実行不可能だろう。もしかしたら、倉敷ダンジョンの木野局長は伸子さんの秘めたる才能に気付いていたのかもしれないな。
「……というわけで、これはオークションに出しておいてください。売却金は全て伸子さん宛に送金をお願いします」
「うぇ!? そりゃないっすよ恩田さん、ボクだけ貰うのはなんかおかしいっすよ!?」
「俺はラッシュビートルの特徴を軽く教えただけだ。これは全て、伸子さんの実績で間違い無い」
俺らじゃ絶対に無理だもんな、あんな芸当は。大角を無理に狙うよりも、さっさと奥に行ってリザードマンやオークから魔石を集めた方がよっぽど効率良く稼げるだろう。ラッシュビートルに跳び乗って大角をへし折るのは、伸子さんだからこそ実現可能な荒業なのだ。
……ただ、伸子さんはあまり納得していない様子。これは、少し譲歩が必要かな?
「……とはいえ、それだと伸子さんが納得しないんだろう? だから……そうだな、1割だけ貰ってもいいか? それを朱音さんと分けるからさ」
「むむぅ……」
「ダメだ、これ以上はさすがに貰えんよ」
伸子さんが目で訴えてくるが、その目をジッと見返す。さらに目で圧を加えてくるが、決して目を逸らしたりはしない。
……普通は、自分の取り分が少ないという理由で揉めるものだがな。そこが逆になる辺り、伸子さんも律儀な人だな。
「……うう、分かったっすよ。ボクの負けっす」
……そうして、先に根負けしたのは伸子さんの方だった。
「今回はそれで手を打つっす。でも、次はたくさん受け取ってもらうっすからね!」
「さぁて、それはどうかな?」
「むぅ、恩田さんはいじわるっす!」
「はっはっはっは!」
とまあ、そんなやり取りがありつつも……今日の探索は、これにて無事終了した。伸子さん留学にダンジョンエレベーター出現、ゴブリンキングとの再戦に謎の強敵の存在発覚と、随分盛りだくさんな内容だったな。
実は、高城さんパーティに【ファイアブレスⅠ】のスキルスクロールを融通するのを忘れていた (ダンジョンエレベーター出現のシステムアナウンスが衝撃的過ぎて、すっかり忘れていた)のだが……まあ、彼ら彼女らと会う機会はまたあるだろう。その時に渡せればいい。
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