2−20:コウモリって全部超音波を出すものだと思ってた……
「……おお、居るな居るな入れ食い状態だ」
「……それ、表現として合ってるのかしら……?」
壁際に寄り、長い直線通路の様子をこっそりと確認する。予想通りモンスターがそこそこ発生しており、手前からゴブリン4、ゴブリン4、ブラックバット3、ホーンラビット2、ゴブリン3、ブラックバット3、ゴブリン4、ホーンラビット2と並んでいる。総勢8組、25体のモンスターが直線通路にたむろしていた。
特に厄介なのが、中間と最奥にいるホーンラビット計4体だ。どちらも突進攻撃に速度が乗るには、十分な距離がある。
「しかし、どうするか……」
「……25体はちょっと多いわね。しかも集団同士が微妙に離れてるから、先制攻撃で多くは削れないし……」
ついでに、この状況ではダークネスが使えない。オートセンシングが使える俺はともかく、朱音さんの視界を0にしてしまっては危険だからだ。かといってダークネス無しで攻撃すれば、25体全てをまとめて相手することになりかねない。
どうにか相手を足止めできないものか。全員でなくてもいい、せめて半分でも……あ。
「……朱音さん、ちょっといいか?」
「……なにかしら。あ、良い案思い付いた?」
「……ああ」
俺が考えついた作戦を、朱音さんに伝える。
「……それならいけそうね」
小さく頷いて、賛同してくれた。
ただし、これはタイミングが重要だ。朱音さんにもそれを伝達しなければ、作戦は失敗に終わってしまう……どころか、朱音さんを危険にさらしかねない。
「……やる時は、右手を大きく掲げる。それを見たら……頼むよ」
「……了解」
「……オッケー、んじゃ1、2の、3で飛び出すよ」
姿勢を低くし、足に力を込める。
「さぁ、行くよ……1、2の……3!」
あえて大声を出し、敵の注目を集めるように通路へと飛び出した。予想通り、奥の敵まで全ての視線が俺達に注がれている。
「"ライトショットガン・ダブル"!」
「「「「ギガッ!?」」」」
「「「「ギッ!?」」」」
「「「キィッ!?」」」
すぐにライトショットガンを放ち、直近にいたゴブリン4体を撃ち倒す。流れ弾がもう一つ奥のゴブリン4体、ブラックバット3体にも少しだけダメージを与えたが、戦闘不能にまでは至らなかったようだ。
まあ、ここまでは想定内だ。
「「ギッ!!」」
と、近い方のホーンラビット2体が猛然と突進してくる。その奥にいるモンスター達も、全員が俺達の方を向いた。
「今だ!」
右手を大きく掲げる。それを見た朱音さんが、目を腕で覆い隠した。
「"フラッシュ"!」
光魔法といえば定番中の定番、目眩ましの強烈な閃光を放つ。自爆しないように俺も目を思い切り瞑ったが、それでも少し目が痛くなるほどの光量が辺りを覆い尽くす。
「「「「グアッ!?」」」」
「「「「キィッ!?」」」」
「「「「ギッ!?」」」」
短い悲鳴と共に、バサリバサリと床に倒れ込む音が連続する。
光が止んだ直後、すぐに目を開けて辺りを見回す。通路にいる全てのモンスターが目を塞ぎ、あるいは倒れ込んでジタバタしていた。
「……あれ、効果バツグン過ぎた?」
ゴブリンやホーンラビットには効くと思っていたが、まさかブラックバットにも通じるとは。ダークネスが効かなかったので、ブラックバットは全て超音波で敵の位置を把握しているのだと思っていたが……どうやらそうではないらしい。
視覚があり、加えて超音波探知能力もあるということだろうか。それならジタバタしていないで、超音波でエコーロケーションなりすればいいと思うのだが……目が痛くてそれどころじゃないのかもしれないな。
「……倒そうか」
「……ええ」
動けなくなったモンスター達を、1体ずつ丁寧に倒していく。戦闘能力を完全に削いだわけではないので、手痛い反撃を受けないよう距離を取って攻撃していった。
およそ2分ほどで、全てのモンスターの討伐が終わる。魔石に加えて、武器珠1個、防具珠2個がドロップした。リュック内のアイテムと合わせて、ここでアイテムボックスに全て入れておく。
「掃討完了っと」
これで、通路もしばらくは安全になるだろう。
「ねえ、恩田さん」
「ん、なんだい朱音さん?」
「ダークネスって、確かブラックバットには効かなかったのよね? フラッシュがあれば、ダークネスは要らないんじゃないかなって思って……」
「あ〜……」
まあ、確かにな。フラッシュは【資格マスター】の効果が適用されてるから、ダークネスに比べて魔力消費量も圧倒的に少ないし。感覚的に、フラッシュを20回使ってようやくダークネス1回分の魔力消費になるくらいには差がある。
……ただし、ダークネスの方が有利な点ももちろんある
「効果時間がなぁ。フラッシュは一瞬光って終わりなんだよ。ダークネスの方はしばらく残るから、トラップのようにあらかじめ仕掛けておけるんだよな」
加えて、ダークネスが作用するのは空間に対してなので避けようがないが、フラッシュは光を遮れば避けられてしまう。例えばモンスターが次々と押し寄せてくるような状況の場合、前のモンスターが壁になって後ろのモンスターにフラッシュが届かない、というような可能性は十分にあるのだ。
「状況次第ってとこかな。どちらでも良い状況ならフラッシュ1択だけどさ」
第4層は……どうだろう? モンスター軍団を階段におびき寄せてフラッシュを放てば、前のモンスターにつっかえて後ろのモンスターの動きも止められるかもしれない。
ただ、階段前にダークネスを張っておけば確実にブラックバットだけを釣り出せる。一度に相手する数を大きく減らせるのは、かなりでかい。
……うーん、ここは合わせ技が一番いいか? ダークネスでブラックバットだけを釣り出して殲滅し、後から来るホーンラビットとゴブリンの集団はフラッシュで動きを止める。これで試してみよう。
「……よし、第4層突破に向けた作戦が整ったよ」
「あら、それは興味深いわね。また休憩の時にでも聞かせてよ」
「了解。さて、直線通路を抜けてしまおうか」
「ええ」
長い直線通路を2人で歩いていく。
やがて丁字路に差し掛かったので、そっと左の行き止まりを覗いてみるが……。
「……まあ、さすがに無いか」
「昨日はここに宝箱があったのね?」
「ああ。さすがに今日は無いらしい」
「あらら、それは残念ね」
宝箱は無かった。毎回見つかってもそれはそれで不安になるが……まあ、今日は縁が無かったということだな。
その場で振り向き、右の道を覗く。オートセンシングで分かってはいたが、目視でもやはりモンスターの姿は見当たらなかった。
「朱音さんは、確かここからは初探索だったよな?」
「ええ。この先はどうなってるんだったかしら?」
「この道をしばらく行くと、大部屋があってな。岩だらけで死角が多い部屋なんだ。その岩影に結構な数のゴブリンが潜んでるから、普通に行くとかなり厄介だと思う」
「なるほど。で、恩田さんはどうやって突破したの?」
"普通に行くと"の部分をあえて強調してみると、朱音さんが食い付いてきた。
「力技。岩影全部に雷撃を落として、ゴブリンを全滅させた」
「うわぁ……魔力消費量を軽減できる【資格マスター】だからこそのゴリ押しって感じね」
「発想の勝利ってやつだな」
本来は、岩影に潜むゴブリンの奇襲をいなしながらゆっくりと進むんだろう。それを無視してゴブリンを殲滅できるわけだから、【資格マスター】、とりわけ第二種電気工事士の資格には感謝しないとな。
「……そういえば、あの岩壊せるのか?」
無意識に不壊オブジェクトだと思い込んでいたから、あえて攻撃はしなかったが……試してもいいかもな。ライトニング・ボルテクスでも壊れなかったから、普通に不壊か極端に壊れにくくなっている気はするが。
「あ、それ私が試してもいいかしら?」
「朱音さんが?」
「ええ」
……なんだろう、このやり取りデジャブなんだが。具体的には、ほんの30分くらい前に似たやり取りをした気がする。
「……無理するなよ?」
「善処するわ」
うん、自重しないやつだなコレは。まあ、まだ余裕のある階層には違いないし、大部屋の後は階段まで大して長くない。今のうちに、試せることは何でも試すべきだろう。
「"アイテムボックス・一覧"」
☆
・ブルースライムの魔石×5
・ホーンラビットの魔石×36
・ブラックバットの魔石×60
・ゴブリンの魔石×23
・ラッキーバタフライの魔石×2
・装備珠(赤・ランク1)×4
・装備珠(赤・ランク2)×1
・装備珠(青・ランク1)×5
・装備珠(青・ランク2)×2
・装備珠(黄・ランク1)×3
・ブルースライムの核×1
・ホーンラビットの角×5
・ゴブリンの棍棒×1
・アイアンランス(破損:小)(久我朱音用)×1
・フィアリルハルバード(破損:大)(久我朱音用)×1
・アイアンアーマー(久我朱音用)×1
・見習い魔法士のローブ(恩田高良用)×1
・ポーション×2
・宝の地図(No.335524)
・ポータブル電源(満充電)×1
・電気式湯沸かし器×1
・カップ麺(醤油味)×11
・カップ麺 (そば)×12
・ミネラルウォーター(2リットルPET)×11
☆
アイテムボックス内もだいぶゴチャゴチャしてきたな。ただ、これだけ持っていても重さが0なのは実に素晴らしい。今後も有効活用させてもらおう。
さて、武器珠は……お、ランク2があるな。仮に朱音さんが武器を壊しても、どうやら予備はありそうだ。
「武器珠ランク2がアイテムボックスに入ってるから、武器のことは気にしなくて大丈夫だぞ」
「了解」
右の道に入り、奥へと進んでいく。さて、朱音さんは今度はどんな技を見せてくれるんだろうか。
随分と流行に乗り遅れましたが、ラ◯ズ・サン◯レイクで久々にモン◯ンを楽しんでいます。フラッシュ云々のあたりは、その時に思い付きました。
久々にやると、なんだか別世界に来たような感覚になりますね。見える場所のほとんどに行けると知った時は驚きました。また時間を見つけて、少しずつ進めていきます。
また、本話をもちまして総文字数が10万文字を超えました。ここまで続けられたのも、皆様の応援があったからこそだと考えております。
本当にありがとうございます。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




