4−113:探索者同士の騙し合い(前編)
「さぁ〜て……余計な動きをすればぁ、この鳥の命はあ〜りませんよぉ?」
――ギリギリギリ……
「ピギュゥッ……!?」
ピエロ男がニタニタ嗤いながら、虹雛鳥を掴む力を強める。握り締められた虹雛鳥は苦しそうな声を上げながら、その力に抗うように体へ必死に力を込めている。
……まあ、ピエロ男も当然気付いてるよな。俺たちが虹雛鳥を助けようとしていることに。探索者がモンスターを助けようとするなど、普通に考えればあり得ないと思うだろうが……俺たちが虹勾鳥の近くに居て、それなのにお互いいがみ合う様子が無いのを見ればすぐに察するだろう。
「怪しいやつめ、さっさとその子を離すのです!」
「ピィィィッ!!」
加えて、九十九さんと虹雛鳥がピエロ男に向けて一緒になって吼えている。これでは『私と虹雛鳥、超仲が良いのですよ!』と声高々に宣言しているのと同じである。
……まあ、別に間違いじゃないからいいけどな。それに、その方が俺にとっては都合が良い。ピエロ男の意識が、そちらの方に向くからな。
「あはははぁ、滑稽ですねぇ馬鹿ですねぇ! 探索者がモンスターの味方をするなどぉ、実に愚か愚かぁ! さっさと倒してドロップ品を得ればいいのですぅ!」
「無駄に敵対したくないだけだ。戦わずに済むならそれでいい」
「ぐぁぅっ!」
一応俺はそう返したが、それを言うならピエロ男こそさっさと虹雛鳥を倒して、ドロップ品を得るべきだろうに。すべきはずのそれをしていないのは、虹雛鳥を害した瞬間に肉盾を失い、ここにいる全員から総攻撃を食らうのが分かっているからだろう。
そうなった場合、こちらは9人で向こうは1人だ。これでまともな戦いになるはずもなく、ピエロ男に勝ち目はほぼ無い。虹雛鳥を無事救出するため、俺たちが攻撃の手を止めているからこそ今は無事なだけだ。
「………」
……あれ? そう考えると、なぜピエロ男はそもそも虹雛鳥を捕まえるような真似をしたんだろうか? 何かしらの目的があってそうしたのは間違いないと思うのだが……どう考えても、自ら危険の真っ只中に飛び込んできたようにしか見えない。
この状況を打開できるような、強力な奥の手を用意しているのだろうか? あるいは、俺たちから確実に逃げ切れるような手段でも持っているのだろうか? いずれにせよ、十分警戒しておいた方がいいな。
「………」
……それにしても、探索者相手の戦いはもの凄くやりにくいな。以前、不良探索者2人を懲らしめた時は迷宮関連基本法が施行される前だったから、何も気にせず攻撃を仕掛けていたが……今は法律が施行され、探索者のダンジョン内における行動に一定の制限が設けられている。モンスターが相手なら制限は一切無いのだが、同じ探索者が相手だと迷宮関連基本法のダンジョン内条項が適用されるので、やってはいけないことが結構あるのだ。
ダンジョンという極限環境で法律もへったくれも無いとは思うが、俺たちの方はまだ余裕がある。法に反しないよう、最大限努力するつもりだ。
「……高良さん、どうするの? 今は法もあるし、打つ手は限られるわよ?」
「状態異常に陥らせるつもりだ。睡眠か、麻痺か、脱力か……相手にダメージを与えず、動きを封じるタイプの状態異常をピエロ男に掛ける」
ダメージさえ与えなければ、大抵の行動は許されるからな。なので状態異常を付与して、無力化してしまえばいい。あの時も最後は状態異常で対応したし、今回も同じようにするつもりだ。
……ダメージを与えてはいけないから、毒は使えないんだけどな。【鑑定】結果から虹雛鳥に毒が効かないのは分かってたから、それを使えたら楽だったんだが……。
「それならここは、アキの出番かしら?」
「もちろんだ。活躍に期待してるぞ、アキ」
「ぱぁっ!」
相手を傷付けない前提であれば、アキは凄くやる気を出してくれる。それでいて絶対に無茶はやらないから、こういう場面では本当に心強いよ。
「……くははっ」
……さて、ピエロ男がこちらを見て嗤ってるな。俺の顔を見ただけで名前を言い当てたくらいだから、俺を含めパーティメンバーの情報はキッチリ押さえてるだろうし……当然、アキのことも知ってるはずだ。だからこそ、対策が難しいアキのことは最大限警戒してくるはだろう。
それゆえに、突き刺さる策もある。人と人との戦いは心理戦……どちらがより相手の隙を多く突き、どちらがより相手に隙を見せず行動できたかで勝敗は決まる。今回は人数が多い分、こちらが圧倒的有利な戦いだ。
そして、俺は既に4つほど策を仕込んでいる。そちらが仕掛けた罠も、2つは既に見抜いているぞ。
「……さあ、そろそろ行くか」
他に何か仕掛けているかもしれないが、今の状況ではさすがにこれ以上読み取ることはできない。このまま待っていても、無駄に時間が過ぎていくだけだ。
だからこそ、そろそろ一当てしてみようか。他に策を仕掛けているのか、これで分かるだろう。
「よし、フェル! ピッタリ合わせろよ!」
「ぐぁぅっ!」
フェルに声を掛け、攻撃準備を始める。それを見たピエロ男は、笑みを更に深くした。
「おやおやぁ〜? よろしいのですかぁ、火はワタクシには効きませんよぉ? それともぉ、この鳥を巻き込んじゃいますかぁ? あははははぁっ!!」
「ピギュゥ……」
ピエロ男が、虹雛鳥を前に突き出す。さすがに体力を消耗しているのか、そろそろ虹雛鳥の限界が近そうだ。
……もちろん、見捨てやしないさ。いくらモンスターとはいえ、敵意が無いうえに手助けまでしてくれた相手を見捨てるほど、俺は人として腐ったつもりは無い。
「ははっ、火が効かないってか? 何事も試してみなけりゃ分からねえだろう? お前がやせ我慢してるだけかもしれんしな!」
「ぐぁぅっ!」
「食らいなピエロ男、ヘルファイアブレス!」
――ゴォォォォッッッ!!!
そんな小っ恥ずかしいセリフを吐きながら、俺とフェルで【ファイアブレスⅡ】をピッタリ重ねて叩き込む。スカーレット・ティラノスのファイアブレスには遠く及ばなくとも、【ファイアブレスⅢ】に匹敵するほどの火力を叩き出す合体技だ。なお、技名はフェル考案である。
ちなみにフェル曰く、3人で重ねたら"ゴッドファイアブレス"らしい。4人で重ねたら、フェルはどういう名前を付けるんだろうな。
「くははぁ、これはなかなか強れ――」
――ゴォォォォッッ!!
爆炎の中に、ピエロ男が飲み込まれていく。飲み込まれる直前に見えたその顔が、少し苦々しげに歪んでいたのは……おそらく、そこまでやるのかという本音が露わになった結果なのだろう。
もちろんやるよ、俺たちはね。火が効かないんだったら、本気で攻撃を叩き込んでやろう。
「くはははぁっ! 無駄無駄ムダァってやつですねぇ!!」
炎が晴れた後には、予定通り無傷のピエロ男が立っていた。本人が言った通り火属性攻撃は効かないらしく、相変わらず小憎たらしい笑みを浮かべている。
「そぉ〜んな無駄な攻撃してぇ、もう手詰まりなのですかぁ!?」
「………」
「ぐぁぅぅぅ……」
――ギリギリギリ……
調子に乗ってガンガン煽ってくるピエロ男に、フェルが怒って低く唸っている。それでも我を忘れるほど怒ってはいないらしく、フェルは俺の頭に取り付いたままだが……うん、とても理性的でなによりだよ。ちょっと爪が食い込んで痛いけどね。
まあ、本当の目的はこれで1つ達成できた。
「ピィィィィィッッ!!」
「ぐぬぅっ!? ちょっとぉ、暴れるんじゃなぁいよぉ!」
ファイアブレスをたっぷりと浴び、体力が回復した虹雛鳥がピエロ男の魔の手から逃れようと暴れ始める。それをなんとか押さえ込むピエロ男だったが、思った以上の力強さにかなり手こずっているようだ。
虹雛鳥の火属性に対する耐性は、無効ではなく吸収だ。火を嫌がり遠ざける人間と、火を己が力へと変換する虹勾鳥……その差は、どうやら意外と大きかったみたいだな。
「よっしゃ、フェル! ガンガン炎を浴びせまくるぞ!」
「ぐぁぅっ!!」
うまくいったことは、うまくいかなくなるまでひたすら続けることにする。仲間モンスター……正式名称は"迷宮探索開発補助動物"だが、そうでないモンスターが探索者を傷付けることは別に違法ではないし、それを助長したことによる罰則も特に規定されていない。なので、虹雛鳥が暴れた結果負った傷はピエロ男の自業自得になる。
さあ、2発目のファイアブレスだ。思った以上の抵抗に苦戦するピエロ男へ、再び炎を浴びせてやろう。
「さあ食らえ、煉獄の火炎! ヘルファイアブレ――」
「――おっと、それ以上はさせんぞ」
突如として、俺の目の前に全身黒ずくめの忍者のような探索者が現れた。
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