2−19:よし、これで3種類目だな
「第3層を突破してから、昼休憩にしましょう」
ほぼ予定通りに第3層への下り階段に到着し、朱音さんに昼休憩をどうするか聞いた答えがこれだった。
まあ、俺もそうしたいなとは思ってたが……。
「12時は確実に回るけど、大丈夫か?」
「ええ、問題ないわ」
朱音さんが、大刃の付いた槍を掲げる。道中、2人合わせてホーンラビット4体、ブラックバット7体を狩ってきたが、槍の取り回しは中々に良さそうだった。
突いてよし、払ってよし、斬ってよし。遠近両方に対応できるが、刃が大きい分片手で振るうにはやや重いのがネックだと言っていた。まあ、それも能力が上がれば問題無くなるだろうけど。
「それで、休憩場所なんだが……第4層への下り階段で休憩しようかな、って考えてる」
「あら、でも階段って確か……」
「ああ、完全な安全地帯ではないな」
階段は安地ではない。昨日の第4層モンスターパレードの時に、そのことは十分思い知った。それでも、階段で休憩するのが一番安全だと判断している。
それは、なぜか。
「だけど、相対的に一番安全な場所だと思う。なんせ、モンスターが1体もポップしなかったからな」
昨日、第3層への下り階段でとった休憩の時も、第4層への下り階段でとった小休止の時も、階段には一切モンスターがポップしなかった。ポップ率が極端に低いだけかもしれないが、少なくとも通路や部屋よりは安全だと言える。
「あ、だから今日はポップ率なんて気にしてたの?」
「まあ、それもあるけどな……いずれにせよ、落ち着いて休憩できる場所を見定めておくのは重要だぞ?」
人間、気を張りっぱなしでは疲れてしまうからな。長いダンジョン探索を無理なくこなすために、より休憩に適した場所を見繕っておくのは必須だろう。
……辛く苦しい元社畜の経験が、まさかこんな形で役に立つとはな。あの頃は、ほんの僅かでも肩の力を抜ける場所を確保しておかなければ、気が保たなかった。それが理由で、無意識の内に落ち着ける場所を探す癖が付いていたようだ。
それが上手くできない人から、心身を壊して辞めていったからな……頑張るべき時にしっかり頑張るのは大切なことだが、何事にも限度がある。気を抜く時はちゃんと抜かなければ、いつか暴発してしまいかねない。
「……? どうしたの、恩田さん?」
……おっと、表情に出てしまっていたか。
「会社勤めだった時のことを思い出してた。あの時は毎日が地獄のようだったけど……その経験が今になって活かされてるなって、ちょっと実感してた」
「………」
無駄に時を過ごしたと思っていても、そこには確かに学びがあったということだな。
「ま、過去は過去だ。どんな嫌な過去も、今の肥やしにできるなら悪くないな。さて、さくっと第3層を抜けてしまおうか」
「ええ、そうね」
どこか沈鬱な雰囲気になりかけたのを無理矢理断ち切り、朱音さんと並んで階段を降りる。ここからがようやく探索本番だな。
◇
「第3層に降りてきたが……階段前には何もいないな」
階段を降りてすぐ、周りをオートセンシングと目視で確認する。第3層に来たのはこれで3度目だが、やはりモンスターは階段前にはいない。
……ちなみに、今日は第2層入ってすぐのホーンラビットの出待ちも無かった。あれは固定湧きだと思っていたのだが、偶然だったのだろうか。あるいは、誰かが先に倒していたとか……?
まあ、今考えても詮無いことか。
「で、曲がり角の向こうは……っと、いたいた」
「……ゴブリン4体組が2組ね」
「……天井にブラックバット3体組もいるな」
壁の影から向こうを覗き込むと、短い通路にゴブリンが8体たむろしていた。更に、オートセンシングが天井に逆立ち掴まりしているブラックバット3体の存在も教えてくれている。
「……さて、どうするかな」
極論を言えば、俺が前に出てライトショットガン・ダブルを乱射すれば簡単に全滅させられる……が、それでは俺が1人で探索するのとなんら変わりない。今後も2人で探索を進めていくのだから、そろそろ連携の練習をしていきたいところだ。
天井のブラックバットは、初撃で3体とも俺が撃ち落とすとして……朱音さんに先制攻撃でゴブリンを倒してもらい、残ったゴブリンを2人で倒す流れがベストか。
「……俺が最初に上のブラックバットを倒す。朱音さんはゴブリンに先制攻撃を」
「……了解」
意思疎通を素早く行い、右手を大きく天井に向けて掲げる。
「"ライトショットガン・ダブル"」
「「「キィッ!?」」」
「……っ!」
光の散弾が撃ち出されるのとほぼ同時に、朱音さんがゴブリンに向けて駆け出す。魔法の詠唱と朱音さんの足音、ブラックバットの魔石が落ちる音で、ゴブリン達はこちらの存在に気付いたようだが……。
「はっ!」
ゴブリン達が臨戦態勢を整えるより先に、朱音さんが槍を横に振りかぶる。大刃の部分を剣のように使い、ゴブリンを斬る構えのようだ。
だが、その攻撃方法ではリーチが足りない。おそらくだが、刃が届くゴブリンは1体だけになってしまうだろう。
「"ライトバレ---」
「"弧月"!」
射線が被らないように斜め後ろへ立ち、フォローの準備をしていると朱音さんが武技を発動した。そのまま、朱音さんが槍を振るう。
---ズバッ!
「ゲフッ!?」
ゴブリン1体を袈裟懸けに斬り捨てた……!?
---ザシュッ!
「「「ゲハッ!?」」」
なんと数瞬遅れて、刃が届いていないはずのゴブリン3体も胴体を深く斬り裂かれた。その一撃が決定打となり、ゴブリンは4体とも魔石に姿を変える。
……弧月とは、もしかして飛刃の亜種版みたいな武技か? 飛刃より射程距離が短い分、横の攻撃範囲に優れた技なのかもしれない。
現に、10メートルくらい離れた場所にいたゴブリン4体組は無傷だったからな。
「"ライトバレット・ツイン"」
「ガッ!?」
「グッ!?」
そのゴブリン達に向けて、光の弾丸を2連射する。そのうち1発はゴブリンの右足に命中して貫通し、もう1発は別のゴブリンの左足に命中して貫通した。
どちらも胴体を狙ったつもりだったが、2連射となるとやはり命中率がガクッと落ちてしまうな。それでも、これでゴブリン2体はほぼ戦闘不能状態になった。
「グゲェ!」
1体のゴブリンが棍棒を掲げて奇声を発し、俺に向かって飛び掛かってくる。
……なにげに、ゴブリンから攻撃されるのは初な気がするな。ほぼ近寄らせずに倒していたから、攻撃を受ける機会が無かった。
ホーンラビットの攻撃は中々重かったし、ブラックバットの不意討ちはなかなか効いたが……さて、ゴブリンはどうか。
「ガァッ!」
---ガギィ!
「………」
光の盾でゴブリンの攻撃を受け止める……やはり攻撃が軽い。どう考えても、ホーンラビットの一撃の方がずっと重い。
ただ、それだけでは敵の強さは測れない。
「ガァッ! ガァッ! ゲェッ!」
---ガギン! ガギン! ガギン!
無茶苦茶に振り回してくる棍棒を、盾で順次受け止めていく。
ホーンラビットの攻撃は、速度を乗せるからこそあの威力が実現できている。ゆえに連撃ができず、攻撃後の隙も大きい。予備動作も分かりやすいので、一度見れば避けるのはそう難しくない。
しかし、ゴブリンの攻撃は一発一発は軽いものの、連撃ができ隙も小さい。ホーンラビットに比べれば予備動作も少なく、隙を突くのは簡単ではない。
……ただまあ。
「隙を突けないなら、隙を作ればいいよ……な!」
---ガッ!!
「ゲッ!?」
ゴブリンの打撃に合わせて、盾を強く突き出す。ブラックバット相手の時にもやったシールドバッシュで、攻撃に集中するゴブリンを弾いた。
盾に押されて大きく体勢を崩したゴブリンが、持っていた棍棒を取り落とす。……あ、もしかして。
「おりゃぁっ!」
---ガツン!
「ギァッ!?」
大きく踏み込んでもう1発シールドバッシュをかまし、ゴブリンを吹き飛ばす。そうして無手となったゴブリンを尻目に、盾を持った方の左手で棍棒を拾い上げた。
「すまんな、"ライトバレット"」
「ガッ!?」
慌てて立ち上がろうとするゴブリンを光の弾丸で撃ち抜く。頭を貫かれたゴブリンはパタリと倒れ伏し、やがて魔石と防具珠に変化した。
「………」
そして俺の手元には、ゴブリンが使っていた棍棒がしっかりと残っている。
ゴブリンの特殊ドロップが、これで確定した。
「……そうだ、朱音さんは?」
ふと朱音さんを探すと、ライトバレット・ツインで撃ったゴブリンにトドメを刺すところであった。
「はっ!」
---ズバッ!
「ギァ……!?」
倒れ伏すゴブリンを斬り、魔石化させた。他にモンスターがいないところを見ると、どうやら朱音さんがゴブリン3体を倒してくれたようだ。
「ふぅ……あ、恩田さん。ゴブリンの攻撃を受け止めてたみたいだけど、大丈夫かしら?」
「ああ、問題ない。大きな収穫もあったしな」
散らばったアイテムを拾ってリュックに入れつつ、さっき手に入れたばかりの棍棒を朱音さんに見せる。
「あ、それってゴブリンの棍棒? もしかして、ホーンラビットの角と同じ特殊ドロップかしら?」
「ご名答。これで3体分の特殊ドロップが確定したわけだ」
棍棒をリュックに入れつつそう言うと、朱音さんの目線がゆっくりと上を向く。何か引っ掛かることでもあったのだろうか?
「……あれ、3体分?」
「ああ、ホーンラビットにゴブリン、あとはブルースライム……あ、そういえばブルースライムの特殊ドロップのことは言ってなかったな」
昨日、ブルースライムの核を手掴みで引き抜いた話を朱音さんにする。朱音さんは、どこかあきれた様子で俺の話を聞いていた。
「……手、痛かったでしょ?」
「ああ、メチャクチャ痛かった。訓練だと思って我慢したが、あまりやりたくはないな」
まあ、回復魔法が使えるならまたやるかもだけど。能力アップの検証にもなるしな。
「うーん。まあ、あまり無理しないでくださいね」
「あいよ」
若干納得がいっていないようだが、とりあえずは容認してくれたようだ。
「さて、お次は長〜い通路だ。今度もしっかり真正面から突破してみようか」
「ええ」
第3層の第1の鬼門、長い直線通路に差し掛かる。さて、今日はどれくらいモンスターがいるかな……。
念のため補足しますと、階段のモンスターポップ率は0%です。階段にモンスターが湧いて出ることはありません。
また、モンスターは階段へ自発的には近付きません。ただ休憩するだけであれば、階段は非常に安全な場所になります。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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