4−104:強い炎の気配、その正体見たり
「ピィ、ピィ!」
吹き抜けの最上階から俺たちを見下ろす、炎を纏う小さな鳥。吹き抜けの縁で小さな翼を一生懸命羽ばたかせているが、体が宙に浮く気配は無い。どうやらまだ飛ぶことはできないようだ。
幸い、その小鳥の近くにはガーゴイルが居ないので、誰からも攻撃されずに済んでいるが……少しでも、あの小鳥が吹き抜けの縁に沿って移動してしまったら。あるいは、吹き抜けから飛び下りてしまったら。たちまちガーゴイルの餌食となってしまうだろう、それだけは絶対に避けなければならない。
なにせ……。
「明らかに雛鳥だな。それなら、親鳥が必ず近くにいるはずだ」
雛鳥の体はとても小さく、比例して纏う炎も小さい。それにも関わらず、微かな熱気がここまで伝わってくるほどに雛鳥の炎は力強い。
あれほど幼い雛鳥でさえそうなのだから、成鳥はもっと強烈な炎を身に纏っているはずだ。そんなモンスターが俺たちに敵対してきたら、ただでは済まない。
そして、俺の予想が正しければ……。
「……もし雛鳥が倒れたら、親鳥が俺たちを仇と勘違いして攻撃してくるかもしれない」
「……ちょっと勝てるか分からないわね」
「ああ、絶対に無事では済まないだろう。戦いは確実に避けたいところだ。そのためには、雛鳥の保護はマストになる」
「ぐぁぅっ! ぐぁっ!」
あの雛鳥が出てきてから、急にフェルの落ち着きが無くなったからな。『我に比肩する白き気配を感じる』とか言ってるし、フェルとほぼ同格の火属性……いや、光属性か? とにかく、強いモンスターが近くにいるのは間違いない。
……ホント、妙なギミックを用意してくるな、ここの試練の間は。敵かどうかも分からない、しかしひ弱なモンスターを保護しないと……ヤバいモンスターに襲われるかもしれない、なんてさ。
「あとは、どうやってあの雛鳥を保護するかだが……」
1番手っ取り早いのは、フェルにガーゴイルを全て殴り倒してもらうことだ。脅威を全て排除してしまえば、雛鳥が傷付く可能性は大きく下がる。
……ただ、脅威がガーゴイルだけではない可能性もある。現状はオートセンシングと【風魔法】による探知だけが頼りなのだが、その方法では吹き抜けの近くは探知できても、吹き抜けから離れた場所に何が居るのかまでは分からない。もしそこに、未知の脅威が潜んでいたら……。
「フェルにひとっ飛びしてもらって、雛鳥を保護してもらうか?」
「ぐぁぅ?」
最小サイズに戻ったフェルを頭に乗せながら、もう1案出してみる。吹き抜けホールの最下層には明確な脅威が見当たらないので、どうにかここまで雛鳥を連れて来られれば、ひとまず安全は確保できるはず。
「でも、それもリスキーなんじゃないかしら? 下手に雛鳥に触ると親鳥に見捨てられてしまう、なんて話もあるし」
「うーん……」
どの鳥のことだったかは忘れたが、人が雛鳥に触れることで異質な匂いが付いてしまい、親鳥が雛鳥の世話をしなくなってしまうことがあるという。可哀想に思って保護したつもりが、逆に雛鳥を死に追いやってしまうことになりかねないのだ。
……とはいえ、あの雛鳥にそれが適用されるかと言えば。
「……炎を纏ってるから、雛鳥に匂いが付いても燃えて消えるんじゃないか?」
「あ、確かにそうですね」
「それなら触っても大丈夫だろう。
……というわけで、雛鳥はフェルに保護してもらおうかな。フェル、頼めるか?」
モンスターを探して倒し回るより、さっさと雛鳥を保護してしまうのが手っ取り早いと判断してフェルに救出を依頼する。果たして、フェルはどうするのか……?
「ぐぁぅっ!」
――グググ……
俺の頭から飛び下りたフェルが、ぐんぐん、ぐんぐんと大きくなって……!?
「……って、いきなり最大サイズかよ!?」
「ぐぉっ!!」
『飛ぶよりこの方が楽だ!』と、身も蓋もないことをフェルが言う。確かに吹き抜けは、俺たちがいる階層を1階だとすると4階までしかないが……いささかパワープレイ過ぎやしませんかねフェルさんや!?
「ピ、ピィ!?」
案の定、雛鳥はフェルの威容にビビってしまっている。ただ、その場で立ったまま固まっているので、吹き抜けから落ちたりしなかったのは幸いだった。
「……ぐぁぅっ」
雛鳥に向けて、フェルがそっと右手の人さし指を伸ばす。左手のひらを吹き抜けの下で広げているので、そこに雛鳥を落とし込む作戦なのだろう。
……だが、フェルの動きはとてもゆっくりだ。最大サイズ15メートル近いフェルが、その100分の1程度の大きさである雛鳥を扱うとなれば……やはり、慎重にならざるを得ないのだろう。
「ピッ!?」
――ポスンッ
そうしてフェルは、慎重に慎重を重ねながらも雛鳥を指でそっと押し出し、広げた手のひらの中に無事収めた。そのままフェルは左手で軽く雛鳥を覆い、少しずつその手を下げてくる。
――ガガガガガッ!!
――ゴォォォォ!!
そして予想通り、吹き抜け通路に立ち並ぶガーゴイルからは総攻撃の嵐だ。遠距離物理攻撃やファイアブレスが、フェルの全身にガンガン叩きつけられていく。
しかし、フェルは微動だにしない。左手にもいくつか流れ弾が飛んでいくが、全てフェルの鱗が弾き返していく。フェルを傷付けるには、明らかに攻撃力が足りていないのだ。
「……ぐぉぉぉぉぉぉぅっ!!」
――ガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!
しかし、それでも止まない攻撃にフェルの我慢が限界に達したようだ。空いている右手を大きく振るい、吹き抜け通路に裏拳を叩き込み始める。
元はガーゴイルだったのであろう、砕けた石が飛び交う中で……それでも、左手だけは穏やかに下りていった。
やがて、フェルの左手が地面へと付く。パッと広げられた手のひらの上には、顔を伏せてプルプルと震える雛鳥の姿があった。
「……うわぁ、すっごくかわいいのです」
「ちょい待ち、九十九さん」
九十九さんが駆け寄ろうとするのを、とっさに止める。
「小さいとは言え、あの莫大な熱量だ。危険なモンスターであることに変わりはない。雛鳥を必要以上に怖がらせることもないし、慎重に近寄っていこう」
「……うう、その通りなのです。分かったのです、ゆっくりそっと……」
「きぃ」
さっきより距離が近くなった分、体感熱量も大きく上がっている。さすがに服へ引火するほどではないが、暑さで汗が少しずつ滲み出してきた。
ヒナタもそこは同じで、若干の不快感を覚えているらしい。普段より少しだけ、声に元気が無かった。
「暑い……」
「ぱぁ……」
俺やヒナタで暑いということは、汗かきの朱音さんはもっと暑く感じているはずだ。そう思って朱音さんをふと見ると、額に玉のような汗を浮かべてキツそうにしている。
今は朱音さんの右肩に乗っているアキも、同じく暑さにゲンナリしている……というより、雛鳥の炎を嫌がってるなコレは。アキは『強い炎の気配がする』と言っていたが、おそらくこの炎を纏う鳥のことを言っていたのだろう。そこから少しでも距離を取ろうと、朱音さんの陰に隠れたりしている。
「"クーリング・エリア"……どうでしょうか、朱音さん?」
「……あ、すごく楽になったわ。ありがとう、帯刀さん」
「ぱぁ!」
しかしそれは、帯刀さんのおかげで事なきを得る。帯刀さんの【氷魔法】は攻撃に使おうとすると極端に弱くなるが、それ以外の用途であれば効果は落ちない。今回は炎熱を打ち消すために魔法を使ったので、補助魔法と判定されて通常通りの威力が出たようだ。
「………」
一方で、九十九さんは最初から暑さをものともしていない。炎を纏う雛鳥をジッと見据え、その距離をジリジリと詰めている。さすがは【焔の魔女】といったところか。
「……ピィ?」
ここで、震えていた雛鳥がふと顔を上げた。そして、そのつぶらな瞳で近くにいた俺と九十九さんを見比べて……。
「……ピィッ!!」
――パタパタパタパタ!
九十九さんに視線を固定しながら、雛鳥が翼を羽ばたかせつつフェルの手の上を駆けてくる。だが、フェルの手は表面がゴツゴツしているので……。
――ガッ!
「ピィッ!?」
雛鳥はバランスを崩し、派手にすっ転んでしまう。
「ピィ……ピィ!」
それでも、雛鳥は即座に立ち上がる。また九十九さんを目指して駆け出しては、足を取られて転倒し……すぐに立ち上がり、また九十九さん目掛けて走り出す。
雛鳥は少しずつ、少しずつ九十九さんに近付いてくる。
「……恩田さん、私泣きそうなのです。あの鳥さん健気すぎるのです、応援したくなるのです」
「確かに、な……」
炎を纏う鳥と、【焔の魔女】。互いに何かしら惹かれ合うものがあるのかもしれないな。きっと九十九さんの頭の中では、某番組の最後に流れるあの曲が再生されているに違いない。
……最後まで雛鳥は諦めなかった。5回転んでも5回立ち上がり、10回倒れても10回立ち上がり……そして、遂に。
「ピィッ!」
九十九さんの所へ、雛鳥が到達した。
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