2−18:強い技には、それなりの反動があるものだ
「"飛突・斬風"!」
裂帛の気合と共に鋭く放たれた一閃から、螺旋状に回転する烈風が吹き荒れる。烈風は勢いそのままに猛然と突き進み、ほとんど拡散することなく部屋へと到達した。
---ゴオォォォォ!!
「ギィッ!?」
部屋の入口近くで唖然と立っていたホーンラビットが、哀れにも風に巻き込まれてズタズタになる。烈風は、どうやら巨大な鎌鼬だったようだ……などと分析する間もなく。
なんと烈風がいきなり弾け、無数の小さな鎌鼬となって四方八方へ飛び散った。しかも、ちゃんと制御しているのかこちらへは1つも飛んでこない。
---ヒュッ、ズバッ!!
「ギッ!?」
「ギィッ!?」
---ヒュンッ、スパッ!!
「「キィッ!?」」
「キィィィ!?」
風の刃が何かを切り裂く音と、連続して響き渡るモンスターの悲鳴。ホーンラビットもブラックバットも(もしかしたらブルースライムも)関係無く、斬風に巻き込まれたモンスター達が次々と魔石に姿を変えていく。
……やがて、荒れ狂う暴風が止む。
完全な静寂が、この場に訪れた。
「あ、あれ? 私、やり過ぎた?」
「……お、おう。どう見てもオーバーキルだな」
あれだけド派手に技を放ったのだから、モンスター達はとっくに俺達の存在に気付いているはず。
……だというのに、辺りはシンと静まり返っている。ブラックバットが羽ばたく音も、ホーンラビットが威嚇する声も全く聞こえてこない。部屋の中のモンスター、もしかすると全て倒してしまったのでは……?
少なくとも、見える範囲内にモンスターはもういない。
「「………」」
朱音さんと2人で目を見合わせてから、慎重に部屋の入口へと近付いていく。盾を構えて、モンスターが出てきてもすぐ対応できるように。
……だが、心配は杞憂だった。入口から部屋全体を覗き込んでみたが、そこには魔石と装備珠しか無かった。目視確認でも、オートセンシングの検知でも、モンスターの反応は一切見つからなかった。
ザッと数えて、魔石の数は30個くらい。装備珠の数は3個で、赤、青、黄と綺麗に3色に分かれている。
「"アイテムボックス・収納"」
拾い集めるのは面倒なので、まとめてアイテムボックスに放り込む。ついでに、リュックの中へ入れていたドロップアイテムもまとめて収めようとしたが、一度では入れきることができなかった。どうやら総数が50個を超えてしまったらしい。
「"アイテムボックス・収納"」
再度魔法を唱え、全てのドロップアイテムを収納する。魔力消費量はたかが知れているので、問題は無いだろう。
「あっ……」
と、装備を点検していたらしい朱音さんが何かに気付いたのか、声を上げる。モンスターは特にいないようだが、何かあったのだろうか?
「朱音さん、どうした?」
「えっと……」
おもむろに、朱音さんが左手に持ったハルバードを見せてくる。刃の色はややくすんだように見えるが、他に変わったところは……。
「……うん? あれ、よく見たら槍がボロボロじゃん」
よく見ると、細かい傷や小さなヒビが槍の至る所に入っている。まだ武器としての機能は保っているが、いつ折れるか分からない不安感を煽ってくるような状態だ。
なぜ急にこうなったのか。どう考えても、理由は1つしか無い。
「なるほどな。武技は、武器の耐久値を消耗して発動させてるわけか」
ただの飛突や飛刃ならともかく、飛突・斬風は見るからに強力な技だ。何のリスクも無く使えるワケが無い。
個人的には、いわゆる体力やスタミナといったものを消費して武技を発動させているのだと思っていた。だから、朱音さんの様子には気を配っていたのだが……いや、結論を出すのはまだ早いな。
「ところで朱音さん、ちょっと疲れてない?」
隠しているようだが、心なしか朱音さんの表情が冴えない気がする。思えば、口調もどこか弱々しい。
「えっと……いえ、大丈夫です」
ほらね。
「ダメだ、無理はさせないよ。疲れたら遠慮無く言って欲しい。2人で探索してるんだから、どちらかが倒れたら大変なことになる」
本人も、周りの人も、みんな不幸になる。もし、そういうことを言い出しにくい雰囲気を俺が出しているのであれば、早めに訂正しておかなければいつかとんでもないことになる。
……それ、少し前の俺に言ってやりたいな。あの時は目の前の仕事をこなすのに必死で、他事を考える余裕が無かった。あの状況がもう少し続いていたら、俺も壊れてしまっていたかもしれないな。
思えば、疲れたとか大変とか言っても『みんな大変なんだよ』とか『効率良く仕事をこなせばいいじゃないか』とか『仕事をやり遂げるのは社会人として当たり前だろ』とか、そんなことを言われるような職場だったな。
モヤモヤしながらも仕事を続けていたが、ついぞそのモヤモヤの正体が掴めないまま失職してしまったわけだが。今なら、なんとなくモヤモヤの正体が分かってきたような気がする。
まあ、相変わらずうまく言語化はできないんだけどさ。
「……はい。ちょっと、疲れました」
「よし、よく言えました。じゃあ見張りは俺がするから、ゆっくり休んでな」
「はい……」
少し通路側に入ると、朱音さんが壁にもたれて座り込む。やはり無理をしていたらしい。
強力な技は、反動も相当に大きいみたいだな……。
◇
「ぅん〜〜〜っ! はぁ」
ポップしてきたモンスターを倒しつつ、辺りを見回すこと約30分。朱音さんが大きく伸びをしてから、スッと立ち上がった。
顔色は良くなり、表情も元の明るいものに戻っている。もう大丈夫そうだ。
「お、完全復活かな?」
「ええ。ごめんね、待たせてしまって」
「いや、俺もビューマッピングで魔力が減ってたからな。ちょうどいい休憩になったよ」
ちなみに、休憩している間に部屋のビューマッピングは済ませている。これで第2層の地図は完成したと言っていいだろう。
……そういえば、ポップしたモンスターを倒していて気付いたことがある。俺の見える範囲内では、通路よりも部屋の方が圧倒的にポップ率が高いのだ。
この30分間で、通路でポップしたモンスターの数はホーンラビット1、ブラックバット2。どちらも魔石だけをドロップした。
対して、部屋でポップしたのはホーンラビット6、ブラックバット10、ついでにブルースライム2。それぞれの魔石と、武器珠ランク1が1つドロップした。ポップ数だけを見れば、部屋の方が6倍も多い。
これが、具体的にどのような法則に基づいてポップしているのかは不明だが……いずれにせよ、この部屋の入口でモンスターがポップするのをひたすら待って倒せば、それだけで時給3000円以上がほぼ確定するというわけだ。2人で割っても時給1500円なので、第2層の狩場として考えればなかなかに美味しい。
「あら、今度はどんな考察をしてたの?」
「ん? ああ、モンスターのポップ率について、ちょっとな」
「ああ、なるほどね。確かに、部屋の方がモンスター湧き直すの早かったわよね?」
「そうそう。それがこの部屋だけの特徴なのか、部屋っぽいところは全てそうなのかちょっと考えてたところだ」
……そういえば、第3層にも岩だらけの部屋があったな。思えば、あっちはそこまで湧き直しは早くなかった。"モンスターポップ率が高い"というのは、特定の部屋にのみ適用される特徴なのかもしれないな。
「さて、そろそろ第3層に……あ、そうだ、忘れるところだったよ。"アイテムボックス・取出"」
さすがに、いつ折れるかも分からないような槍のまま朱音さんに戦わせる訳にはいかないからな。
アイテムボックスに収めていたランク1の槍……ではなく、武器珠を取り出して朱音さんに渡す。
「あれ、武器珠? ランク1の槍あったでしょ?」
「ああ、それランク2の武器珠だよ。飛突・斬風の一撃で倒したモンスターが落としてた」
「あら、そうだったの?」
俺には必要無いし、そういう意味でも朱音さんが使うべき武器珠だろう。
「そういうことなら、遠慮なく……」
武器珠に念じる朱音さん。眩く光り出した武器珠は、先ほどと同じくハルバードに……ならなかった。
「……ん?」
え、なんだコレ。ハルバードのように、突く用の刃と切る用の刃が付いているが……切る方の刃の部分が柄の半分近くまで伸びていて、2箇所が膨らんだ3の字を描いている。でもこれ、似たような形をどこかで見たような……。
……あぁ、あれだ。ドラ◯エに出てくるデ◯ルアーマーだっけか、あれが持ってる武器によく似てるな。
「ハルバードだと接近戦がちょっと弱いかしら、って考えてたらこの形になったわ」
「へぇ」
武器珠にそんな機能があるとは、初めて知ったな。
でも、これは槍か、と言われると俺としては少し疑問だが……まあ、ギフトが発動してるのなら問題ないだろう。
「よし、じゃあ今度こそ第3層に向かおうか」
「ええ、そうしましょう。第3層の奥には行ったことが無いから、ちょっと楽しみだわ」
「運が良ければ、宝箱が見つかるかもな。"ライトバレット"」
「ギッ!?」
通路側に湧いたホーンラビットを、ポップした瞬間にライトバレットで狙う。光の弾丸はホーンラビットの正中を綺麗に撃ち抜き、きっちりと魔石化させた。
さて、さっさと第3層に行こうかな。時間的に、第3層への下り階段に着いたら11時半くらいか……先に食べるか、探索をするか朱音さんと相談しないとな。
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