4−91:機密情報と、噂
「さて、まずは第21層以降の情報についてだが……一部、各国の未公開情報や機密情報が含まれている。他言は絶対無用でお願いしたい」
「「「「……!」」」」
持永局長が何気なく言った言葉に、一同の間に緊張が走る。第21層からは、海外の一般探索者でさえ攻略に年単位で手こずる難関ゾーン……その情報には、各国の軍隊や自衛隊から得られた情報も多分に含まれているのだろう。
仮に、外でうっかり喋ったらどうなるか。岩守総理に付き従っていた、黒い服を着た自衛隊上がりのSPさん辺りに消されてしまうのだろうか……。
「……不安なら、今のうちに退室することをお勧めするが」
「ねえ、ワタシ、居ても大丈夫ナノ?」
「……ハートリー殿なら大丈夫だ」
ハートリーさんが珍しく不安そうに確認するのを、なぜか持永局長はあっさり許可した。
日本でダンジョンを統括する立場の人から、アメリカの探索者が各国の機密情報の暴露を受ける……うん、間違いなく大問題だ。しかし、持永局長は大丈夫だと言う。
一体、どういうことなんだろうな?
「……退室者は居ない、ということでよろしいか?」
「「「「………」」」」
そんなことを考えているうちに、どうやら退室可能時期を過ぎたようだ。
まあ、俺は最初から聞くつもりだったので別にいいのだが……まさか、誰も退室しないとは。不死者ノ王に遭遇した影響か、みんな随分と肝が据わったな。
「……では、情報提供を始めよう。まずは第21層から第24層についてだが、既に見た通りこのエリアは砂漠地帯になっている。
昼は灼熱、夜は極寒……とまではいかないが、かなり寒暖差が激しいエリアだ。さらに地面が柔らかい砂地になっており、足を取られてとても歩きにくくなっている。これまでのエリアとは、大きく異なる特徴を持ったエリアとなるな」
「なるほど……」
あれだけ高い所から飛び降りた人が、傷1つ負わずに埋まってしまうほどだものな。相当歩きにくいであろうことは容易に想像がつく。
「……主な出現モンスターは4種類。サボテンのような見た目のニードルカクタスは昼夜問わず出現し、サソリのような見た目のデススコーピオンと砂漠の空を支配するデザートコンドルは昼間のみ出現する。そして……」
そこで、持永局長が一旦言葉を切る。
……砂漠地帯にも居るんだな。グリズリーベアと同じ、強敵枠が。
「体長20メートルを超えるという巨大なモンスター、サンドワームは夜間にのみ出現する。常に砂地へ潜行しながら出現し、見た目通りのパワーとタフネスを持ちながら【アースブレスⅠ】や【地魔法】をも行使する強敵だ」
「……うわ、マジかよ」
あのまま迂闊に進んでいたら、そんなヤバいモンスターと遭遇したかもしれないのか。不死者ノ王に遭遇していなかったら、多分そっちに遭遇してたに違いない。
……それにしても、昼と夜で出てくるモンスターが切り替わるエリアか。なかなか面白いギミックだと思うが、そうなると夜はかなり移動しにくいな。体長20メートルってちょっとしたビルの高さに匹敵するぞ、そんなのが襲ってくることを考えたら……ちょっと、いやかなり戦いたくないよなぁ。
一方で、昼は暑さと上空からの攻撃に悩まされて、思うようには進めないと。サソリ型モンスターなら毒も持っていそうだ。
「……そして、こちらも公開されていない情報になるのだが。砂漠地帯を抜けた先、第25層から第29層はピラミッドのような建造物の中を進んでいくエリアとなっている。
出てくるモンスターはアンデッド系ばかりで、大まかにスケルトンとマミー、ゴーストの3体となるが……スケルトンは持っている武器の違いでソードマン・ランサー・アーチャーの3種類、そこにマジシャン1種類を加えた計4種類に分かれる。マミーは完全な武闘派で、徒手空拳のパワータイプと短剣二刀流のスピードタイプ、大盾装備のディフェンスタイプという3種類に分かれるそうだ。
ゴーストは【闇魔法】と【氷魔法】を使ってくるタイプの1種類のみだが、壁を抜けて奇襲攻撃を仕掛けてくるという話だ」
「なるほど……」
砂漠地帯を抜けた先にピラミッド、か。確かに、その情報は俺も見聞きした記憶が無いな。
そのエリアがアンデッドモンスターだらけなら、第30層のボスもアンデッド系モンスターである可能性は非常に高い。それがスケルトンキングみたいなモンスターになるのか、マミーの親玉みたいなモンスターになるのか、はたまた不死者ノ王の劣化版みたいなモンスターになるのかは不明だが……。
「あ、ワタシその話知ってるヨ〜。確か、マークのチームがそんなコトを言ってたハズ」
ここで、ハートリーさんが話に加わってきた。マーク……おそらく、マーク・グレンヴィル氏のことかな?
マーク・グレンヴィル氏はアメリカの一般探索者で、アメリカでもトップクラスの探索者チームに所属する人物だ。彼のチームは半年ほど前に第20層を突破しており、そろそろ第30層へ手が届くのでは、と噂されている。
グレンヴィル氏の性格は豪放磊落で自信家、良くも悪くも典型的なアメリカ人のイメージそのままな人物……かと思いきや、実は撤退の判断はグレンヴィル氏が一番タイミングが早いそうだ。そんな彼の判断をチームメンバーも支持しており、おかげで致命的な状況を免れたことも多々あるという。
まあ、猪突猛進な人が長生きできる環境じゃないからな、ダンジョンという場所は。それでいてグレンヴィル氏の戦い方は豪快そのもので、なんとゴブリンジェネラルを手で掴んで投げ飛ばしたこともあるとか……。
……ちょっと想像ができないな。一体何をどうしたら、あんなデカブツを投げ飛ばせるのやら。
「……ハートリー殿は、直接の知り合いだったのか?」
「ウン、同じダンジョンの探索者ヨ?」
アメリカダンジョン界隈の話については、当然ハートリーさんの方が詳しいとは思うが……なにせ、アメリカはとてつもなく広い。国土の広さもダンジョンの数も、日本の何十倍とあったはずだ。
そんな中で、偶然にもとある探索者と同じダンジョンを攻略している確率が、どれだけ低いことか。その探索者と知り合いである確率となれば、なおさら低くなるだろう。
だが、ハートリーさんはグレンヴィル氏を名前で呼び捨てできる程度には仲が良いようだ。日本の感覚とアメリカの感覚では、その辺の人間関係的な事情もまた違ってくるのだろうが……少なくとも、嫌い合うような仲でないことだけはハートリーさんの様子から分かる。
「マーク・グレンヴィル氏ってどんな人なんだ?」
「マークって脳筋のおバカだケド、本能で危険が分かるビーストみたいな人でネ。『第25層は骨野郎と包帯野郎しか出なかったから余裕でぶん殴って倒したが、第26層の半透明野郎はぶん殴れなかったから、すぐにヤバいと思って引き返した』って言ってタ」
「………」
なんというか、俺が抱いてたイメージまんまの人だな。骨野郎と包帯野郎と半透明野郎って……翻訳の綾と言われたらそれまでかもしれないが、ハートリーさんのことだからそこまで外してはいないはず。
ただ、かなり有益な情報が聞けた。ゴースト系のモンスターには、予想通り物理攻撃が全く通じないようだ。
アンデッドには様々な種類があるが、いわゆるレイスやゴーストといった幽霊タイプのアンデッドモンスターはRPGゲームでも総じて物理攻撃が通りにくい。中には物理完全無効の場合もあるが、現代ダンジョンのゴーストはそのパターンのようだ。
そして、魔法攻撃しか効かないとなると魔力残量の管理が非常に重要となってくる。魔力が尽きた状態で遭遇すれば、対抗手段が無くて詰む可能性もあるからだ。
……いや、待てよ? 別に魔法攻撃だけが対抗手段でもないような。光属性エンチャント辺りを掛ければ、物理専門の探索者でも対抗できるだろうし……そもそも……。
よし、良いことを思い付いた。また機会があれば、試してみるとしよう。
「……私が言いたかったことは、全てハートリー殿が代わりに言ってくれたな。今後の探索の参考として欲しい。
あともう1つ、これはあくまで噂でしかないのだが……話半分程度に聞いておいて欲しい」
話半分、ね。
……本当にそうなら、わざわざここで言わなくてもいいはずだが。
「……実は、ロシアのとあるダンジョン内にエレベーターが存在するという噂があるのだ」
「え?」
ダンジョン内にエレベーターだって? しかし、ロシアならそれもあり得るか……?
ロシアと言えば、ダンジョン関連の情報統制が特に厳しい国の1つだ。軍によるダンジョン攻略情報はおろか、一般探索者による攻略情報さえまともに外へは流れてこない。そも、一般探索者という区分けがあるのかどうかすらも不明なのだ。
「……無論、確証を得たわけではない。ロシアの情報統制はほぼ完璧に近いのでな、探るのは命がけらしいのだ」
「まあ、確かにそうですね……」
国の防諜体制的な理由に加えて、単純に現地環境が過酷すぎるのだろう。ダンジョン第1層に町を築いた方が幾らかマシなんじゃないか、と思うくらいには外の寒さが厳しいわけだ。それでは情報を探るのも命がけだろう……。
「……そのような中で、僅かに漏れ出てきた情報を総合すると……ロシアのどこかのダンジョンに、エレベーターが存在する可能性があるそうなのだ」
「なるほど、道中をスキップして深い階層から探索を始められるのか。そりゃ凄いアドバンテージだよな……本当にあれば、の話だけどな」
嘉納さんは、さすがに眉唾ものだと考えているようだ。
……だが、あり得ないなどと決め付けるのは、それこそあり得ないことだ。そういうギフトやスキルが存在している可能性があるし、あるいは宝箱や試練の間の報酬としてエレベーターそのものが得られる可能性だってある。
俺ですら別階層への移動はできなくとも、別ダンジョンの同階層へのワープはできるようになった。しかも同行者を数名連れて、だ。実現可能性は、決して0ではない。
「……まあ、頭の片隅にでも置いておいて欲しい」
……これは、持永局長は明らかに俺に向けて言ってるな? 『君なら、もしかしたら実現できるのではないかね?』と、遠回しに聞かれているわけだ。
うん、面白いな。なんせ、もう日帰りではダンジョン探索が厳しくなってきたところだったからね。道中をパスできる方法があるなら、俺も探してみたい。
……よし、次の目標は決まったな。亀岡ダンジョンでの第20層突破と、ダンジョンエレベーターの実現。おそらく、前者が先になると思うが……やってやろうじゃねえか。
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