4−90:第20層到達報告
ダンジョン探索は、地上に帰るまでが探索だ。登山で登頂した後は下山しなければならないのと同様、ダンジョンも潜った分だけ道を戻らなければならない。
そしてほとんどの場合、帰途の方が遥かに危険だ。行きで体力を消耗しており、かつ既に目的を達成していることで、気分的にも緩みが出がちだからだ。一流の登山家はその辺うまくコントロールできるのだろうが、所詮は一般人に過ぎない俺たちに一流登山家と同等のメンタルを求めるのは、さすがに無理があるだろう。
……ただ、そのほとんどの場合に全く当てはまらないのが、今回の帰り道だったりする。
「モンスターは居ません、この先は安全です」
「「「「了解」」」」
「3時方向からグリズリーベアです。皆さん、迎撃の準備を」
「「「「了解」」」」
「ガァァァァァッ!」
「"フレイムセイバー"!」
「"イグニッション"なのです!」
――バゴォォォッ!!
「ガァァァッ!?」
「左の木、手前から4本目、下から7つ目の枝の付け根付近にステルスネークがいます」
「了解だ、それっ!」
――ブンッ!
――ズバァッ!
「ジッ……!?」
もはやモンスター絶対検知するウーマンと化した三条さんが、中列から一言指示を出せば……全員がそれに追随し、速やかにモンスターを片付けていく。
……そう、戦うとか倒すとかそういう次元ではなく、文字通りモンスターを片付けていくのだ。強敵グリズリーベアでさえ一切何もできず、一方的に火属性魔法を撃ち込まれて倒されたのを見た時は思わず笑いそうになってしまったほどだ。
一事が万事こんな調子なので、油断や隙など微塵も存在せず、行きよりもむしろ安定して早く帰ることができている。どこかで抜けがあればフォローするつもりでいたが、ここ第15層に到着するまでには1度も俺の出番が無かった。
……それだけ、不死者ノ王との遭遇が衝撃的だったのだろう。確かに、第20層ボスを倒してちょっと浮かれ気分だったところに、あんな強烈な冷や水を浴びせられれば……油断が死に直結するというダンジョンの怖さ、もはや忘れている暇なんざ無いだろうさ。
こうして、第20層を突破したこと以上の学びと経験を得た俺たち一行は、森林地帯をガンガン突き進んでいく。一部、どうしてもヘビータートルの湖だけは避けようが無かったが……そこはハートリーさんの力を借りて、ヘビータートルの注意をうまく逸らしてもらってからサッと通り抜けることができた。
……そうして俺たちは、行きよりも遥かにスムーズかつ安全に地上へと帰還することができた。
◇
「……ふむ、そうか。第20層の攻略、成ったか」
「はい、これが証拠の品です」
無事にエントランスへと戻ってきた俺たちは、装備を着替える前に持永局長へと報告に来ていた。
持永局長の広い執務机の上には、オノドリムを倒して得た魔石が鎮座している。ヘラクレスビートルの大魔石よりは少しだけ小さいが、色味も大きさもボスモンスターに相応しいものを持っていた。
……単純比較はできないが、どちらかと言えばヘラクレスビートルの方が手強くて戦いにくい相手なのは、俺も確かにそうだと思う。搦め手を使わなければ到底太刀打ちできないほどの、圧倒的な攻撃力と防御力を持つヘラクレスビートルと比較して……オノドリムはそこまで攻撃力や防御力に秀でたモンスターじゃないし、向こうがむしろ搦め手を使ってくるタイプのモンスターだ。それさえ気を付ければ、わりとゴリ押しでも勝てるのがオノドリムというモンスターだった。
脳筋戦法が通じる相手は、どうしても弱く感じてしまう。普通にRPGゲームをやる層の人なら、納得してもらえるのではないだろうか。
……しかし、そういう相手ほど特定の状況下ではやたら手強かったりする。通常プレイでは楽に突破できるボス敵が、低レベル攻略では途端に鬼門と化すことがあるのによく似ているな。
再生能力を持つオノドリムも、こちらに火力担当が潤沢に居なければ苦戦していたはずだ。今回わりと簡単に倒せたのは、明らかに嘉納さん・菅沼さん・九十九さん辺りの攻撃力がズバ抜けて高かったからであり……オノドリムの弱点をうまく突いて、再生能力を遥かに上回るダメージを叩き出すことができたからだ。
脳筋戦法が通じる相手は、逆に言えば脳筋戦法でしか倒せないことも多い。第15〜19層にステルスネークという、火力担当の地位を大きく低下させるようなモンスターを配置しておいて……その後すぐに火力が無いと倒せないボスモンスターを配置するのは、ダンジョンを作った存在の底意地の悪さが透けて見えるな。
「それともう1つ、お伝えしたいことがあります」
「……ふむ、聞こう」
ちょうど良いタイミングなので、第21層で遭遇した不死者ノ王……その情報を持永局長に伝えておくことにした。
「……なるほど、そのようなモンスターが第21層に居たのか。そして、外国語を喋る者がそのモンスターに追われていた、と」
「はい、その通りです」
「ふむ……」
持永局長に伝えると、何やら腕を組んで考え始めた。
……そうして、しばらく。ずっと静かだった持永局長が、遂に口を開いた。
「……不死者ノ王、だったか。【鑑定】を使える状況ではなかったから、正しい名前は分からないと聞いたのだが……恩田殿がそのように名付けたのには、何か理由があるのかね?」
「はい。姿は見えずとも近くに居ることがすぐ分かるほどに、とんでもない殺気を感じたからです。あれがアンデッドの王でないとすれば、あれ以上のモンスターとは一体どんなモンスターなのか……全く想像が付きませんでした。それゆえの、不死者ノ王という名付けです」
「確かにあれはヤバかったな。どこか浮ついてた気分が、あれで完全に消え失せたよ」
嘉納さんがそっと補足を入れてくれた。
……持永局長の目線が、嘉納さんの方を向いた。
「……嘉納」
「無理だな、何もできずにやられちまうよ」
「……まだ何も言っていないのだが?」
「俺と遥花なら勝負になるか、勝てる可能性はどれだけあるか……局長はそれを聞いておきたいんだろう? ダンジョンにヤバいモンスターが現れたなら、うちの探索者に通達を出さなきゃならないからな。
だから、俺も真面目に答えよう。仮に、何度死んでも万全な状態で蘇るというチート能力を授かった俺と遥花がペアを組んで、回復無しの不死者ノ王と無限に戦ったとして……まず間違い無く、先に俺たちの心が折れて終わる。それくらいの実力差はあったように思う」
「はい、私も同意見です。まるで勝負にならないでしょう、戦うこと自体が間違っています」
「……そうか」
嘉納さんと菅沼さんの言葉で、不死者ノ王の強さがある程度持永局長に伝わったようだ。
……そうして、持永局長は机の引き出しを開けて薄赤色の紙を取り出した。
「……ならば、横浜ダンジョンの探索者にはこう通達を出そう。『正規の道を大きく外れてはならない。探索者に死をもたらす最悪のモンスターが、どこまでも追いかけてくるかもしれない』とな。危険度は赤、レベル5で出すつもりだ。
そのうえでなお、通達を無視する者は残念ながら自己責任だ。嘉納の言葉を参考にすれば、そのようなモンスターを前にしては救助なぞ不可能なのでな。私とて、いたずらに死者を増やしたくはない」
「妥当だな。しかし、危険度レベル5の通達は初めてじゃないか?」
「……今までの最高危険度レベルは3、ブルースライムの変異個体が第1層に出てきた時だった。レベル5はおろか、レベル4以上ですら初だ」
「マジか……」
ちなみに、この"通達"というのは横浜ダンジョン独自の取り組みらしい。ダンジョン内で通常とは異なる事象が観測された際に、所属する探索者へ注意を促すための仕組みなんだそうだ。紙の色で危険度を表していて、それぞれ青・緑・黄・橙・赤の順となっている。
ただ、そう頻繁に出てくるものではない。俺が横浜ダンジョンに留学してから、今日でおよそ2週間……その間に出された通達は、確かレベル1が1回だけだった。ダンジョン内で何かが起きており、かつ同一内容の報告が複数の探索者パーティから寄せられた場合にのみ、通達が出されるからだ。
今回は嘉納・菅沼パーティ、亀岡パーティ、留学組パーティのそれぞれから報告があったという扱いなんだろう。大半が嘉納・菅沼チームの信用で成り立っているとは思うが、"複数パーティから同一内容の報告があった場合"という条件をきちんと満たしているわけだ。
「……さて、有益な情報には有益な情報で返礼するのが横浜ダンジョン流だ。特に留学組の皆には、かなりの借りがあるのでな。少し気の早い話にはなるが、第21〜29層までの情報提供と……とある噂について、伝えておこうと思う」
居住まいを正した持永局長が、そんなことを言った。
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