4−89:夜営
結局、階段に設営した拠点は第21層の範囲内だったので、これでは落ち着かないと場所を変えることにした。せめて階層境界は挟みたいと朱音さんが言い、それに俺含む全員が賛同した形だ。
……いくら知性を感じるとは言え、所詮はモンスターの言うことだからな。気まぐれに俺たちを害しないとも限らず、どこまで信じられるか分からない。ある程度距離を開けるのは判断として妥当だろう。
それで、どこに拠点を設営し直したかと言えば……ボスフロアはどうせ通常モンスターがポップしないのだからと、第20層の上り階段寄りにキャンプを設営することにした。もちろん、オノドリムと戦った広場からは十分に距離を開けている。
「……あれは、相当ヤバいよな」
用意した食事を食べながら、嘉納さんがボソッとそう呟く。全員が輪になって食べているが、嘉納さんは俺の隣に座っているのでその声はよく聞こえた。
「ああ、今の俺たちが戦って勝てる相手じゃない。逃げの一択しかなかったが、急に逃げると敵認定されかねなかったから少し様子見させてもらったんだよ」
あの不死者ノ王、階段前広場まで下りてきてから、初めて俺たちの存在に気付いたかのような発言をしていたが……実は、もっと早い段階から気付いていた可能性が高い。なんなら、俺たちが第21層に下りた直後からこちらの存在を感知していたかもしれない。
……そうでなければ、『貴様らは未だ禁忌を侵していない』などとあっさり言えるか? 俺たちの行動を逐一把握していなければ、決して言えない発言だろう。
「それにしたって、平然とし過ぎじゃないかしら? 私は全く何も喋れなかったのに……」
嘉納さんの横で、菅沼さんが体を震わせる。
……ごく自然な様子で、嘉納さんが肩を寄せる。それで菅沼さんの震えは止まり、甘えるように菅沼さんも肩を寄せていった。
「あの不死者ノ王……ああ、呼び名が無いと不便だから、あのアンデッドモンスターを俺は心の中でそう呼んでいたんだが……そいつにも言ったが、ほぼ同格の奴に直接殺意をぶつけられたことがあってな。それで慣れたのさ」
「不死者ノ王も言っていたな。確かスカーレット・ティラノスとかいうモンスターか。あの死神と同格のモンスターが他にもいるなんて、正直考えたくはないな」
嘉納さんが心底嫌そうな顔をしながら、そう言ったが……多分、全部で8体くらい居そうなんだよな。真紅竜と不死者ノ王以外に、あと6体。
具体的には、各属性ごとに対応するモンスターが居そうな気がしている。真紅竜は火属性、不死者ノ王は闇属性に対応していると考えると……他に水・地・風・氷・雷・光属性のヤバいモンスターが居る可能性は十分にある。
「まあ、そう悪いことばかりじゃないさ。有益な情報も得ることができたし。何かしら、ダンジョン内でやってはいけない行動があって……それをやってしまうと、ああやってヤバいのに追い回されるわけだ」
マ◯オUSAに出てくる、カギを持っていると追いかけ回してくる仮面の敵みたいな感じにな。普通に遠距離攻撃持ちな分、真紅竜や不死者ノ王のほうがたちが悪いかもしれんが。
「追われてた人を見ると、正規ルートではない方角からやってきただろ? そこから推測するに、決められた道から大きく外れてしまうとアウトなのかもしれない」
「あれ? でも恩田さん、第5層で亀岡ダンジョンから鶴舞ダンジョンまで来ていましたよね? それはどうなるのでしょうか?」
ここで、三条さんが会話に入ってくる。
確かに1度、俺は第5層で藪を越えて鶴舞ダンジョンに入り込んだことがあり……その時に、たまたま三条さんのパーティを助けたことがあった。その時のことを言っているのだろう。
それに、横浜ダンジョンへ亀岡組を呼び寄せる時もワープを使っている。正規の道から大きく外れ、他ダンジョンの領域まで足を伸ばしているわけだが……それらはアウトにはならなかった。
不死者ノ王と会話してから、なぜだろうかと考えていたが……ある程度の推測は既に立っている。
「ああ、それなんだがな。あの人、外国語を喋ってただろ? 同じ国内ならセーフで、別の国に行ってしまうとアウトなのかもしれない」
俺にはそうとしか考えられないのだ。
「しかし、領土問題がややこしい地域もたくさんあると思うのですが。その場合、どう判定されるのでしょうか?」
「さすがにそこまでは分からんなぁ。案外、そういう係争地にはそもそもダンジョンが無かったりするのかもな」
国によって程度は異なるが、ダンジョン関連の情報は国家によって秘匿されている。ダンジョンがある場所さえ全く分からない国もあれば、ごく一部を機密情報として秘匿している国もある。日本やアメリカは後者のパターンになり、一般探索者によるダンジョン攻略情報の公開については特に制限は掛けられていない。
その日本やアメリカでさえ、自衛隊や軍が実施しているダンジョン攻略情報に関しては機密指定され、厳しく管理されているそうだ。最深到達階層がバレると良くないからだと思うが、俺の勝手な予想なので定かではない。
もちろん、元自衛隊・迷宮探索部隊所属で現亀岡ダンジョン局長の権藤さんなら、詳細な情報を知っているだろうが……機密情報だからな。俺は知りたいとは思わない。
「まあ、ダンジョンにはまだまだ謎が多い。その辺はダンジョン攻略が進んでいけば、少しずつ明らかになっていくだろうさ」
そしていつかは、真紅竜や不死者ノ王をも倒せる探索者が現れるかもしれない。この数十年でどうにかなるとは思わないが、いつかくるであろうその時を楽しみに待つとしようかな。
◇
食事を終え、2人1組で見張りに付く順番を話し合ってから、まずは嘉納・菅沼ペアが見張りに付くことになった。テントがモンスターに襲われないよう、念には念を入れることになったわけだ。
他の全員はそれぞれ2人組を作り、既にテントの中で仮眠を取っている。仲間モンスターはそれぞれの主人に付いて、既にぐっすりお休み中だ。
……最初は男性2人でペアを組もうと考えていたが、意外にも菅沼さんが断固反対した。そのため、俺・朱音ペアと九十九・帯刀ペア、三条・ハートリーペアという区分けになっている。
「……ねえ、高良さん」
「ん? どうしたんだ?」
なかなか寝付けないでいると、隣の朱音さんがそっと話し掛けてきた。
……実は寝袋の数が1個足りず、俺と朱音さんの2人で1つの寝袋に入っている。仲間モンスターの人数勘定を、俺が間違えたことによる失態なのだが……朱音さんが普通に乗り気だったので、一緒に入ることになった。
……フェルを除く全員の目線が、やたらと生暖かかったな。
「真紅竜って、アレと同じくらい強いモンスターだったんでしょ? 話を聞いたことはあったけど、いまいちピンと来てなかったから……ホント、あんなのからよく逃げ切れたわね」
「あの時はもう必死だったよ。閉鎖空間の中で、スカーレット・ティラノスが壁床天井を容赦無くぶっ壊しながら迫ってくるし、道中でハイリザードマンとかが立ち塞がってくるし……」
そういえば、ファイナルアタックの存在を身をもって思い知ったのもあの時が最初だったな。今やメインウェポンになっている【ファイアブレスⅡ】のスキルスクロールも、確かあの時に入手したものだった。ヒナタと出会えたのも、あの試練の間で博愛のステッキを手に入れたからだった。
今思えば、最初の試練の間……あれが、俺の探索者としての大きな転機だったのかもしれない。あの時に得たあらゆるものが、今も俺の探索者人生を支えてくれているからな。
そして、なぜあの試練の間を突破できたかと言えば……。
「……もし【付与魔法】の存在を知らなかったら、多分俺はあそこで命を落としてたと思う」
「えっ?」
「真紅竜の攻撃はどれも強烈だった。防ぐ手立てなぞあるはずもなく、ひたすら逃げることしかできなかった。
……その時、ふと【付与魔法】の存在を思い出した。魔力を振り絞ってクイックネスを唱え、どうにか逃げ切ったからこそ今の俺があるわけだ。プロテクションはプロテクションで、ハイリザードマンの攻撃を防いでくれたしな」
「………」
「……つまりだ。俺が生きてるのは、朱音さんのおかげでもあるわけだ。ありがとうな、朱音さん」
「……ふふ」
寝袋の中で、そっと手を繋ぐ。そのまま、俺と朱音さんの距離は0になり……。
……ちなみに、その後。
俺たちに見張りの順番がやってきた時、テントから出てきた俺たちを前任の九十九・帯刀ペアがものっそい生暖かい目で見てきたことが地味に恥ずかしかった。
朝になって出発する時も、フェルを除く全員から生暖かい視線を向けられたが……俺は気付いてるぞ。
嘉納、菅沼、お前らもこっそりやってただろ? 周りが静かだから、意外と聞こえてくるんだよ。俺たちも人のことは言えないから、あえて何をしてたか明言するつもりはないけどな。
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