2−17:朱音さん本領発揮、の巻
ーーーズバッ!
「ギィッ!?」
20メートルほど離れた所にいたホーンラビットが、見えない刃によって胴体を真っ二つに斬り裂かれる。その一撃が致命打となり、あっという間に魔石へと変化していった。
もちろん、これは俺の攻撃ではない。
「絶好調ね!」
俺のすぐ近くには、ハルバードを振り抜いた体勢の朱音さんの姿が。新たに使えるようになった武技"飛刃"で、今しがたホーンラビットを仕留めたところだ。
第2層に入ってから、朱音さんの快進撃が止まらない。ホーンラビットは距離があるうちに飛刃で仕留め、ブラックバットは距離があるうちに飛突で落とし……ついぞ俺の出番がオートセンシングしか無いまま、十字路のところまできた。
ここまでで朱音さんが倒した数は、ホーンラビット3体にブラックバット6体、ついでにブルースライム1体。魔石の他に、ランク1の防具珠が1つだけドロップした。今は全てリュックの中に入れてある。
「結構連発してたけど、体は大丈夫か?」
「ええ、今のところは問題無いわね」
少し気になって聞いてみたが、むしろ調子は良さそうだ……とはいえ、万が一もある。急に疲れがくるかもしれないし、朱音さんから目を離さないようにしよう。
「さて、十字路のところまで来たわね。恩田さん、マップができてないのってどの道だったかしら? ……"飛刃"!」
「ギッ!?」
タタタッと十字路の真ん中に立った瞬間、朱音さんが左の道に向けて飛刃を放つ。俺の位置からはちょうど見えていないが、多分そこにホーンラビットがいたのだろう。
「ちょうどホーンラビットがいた方向の道だな」
「オッケー、じゃあ左に行きましょうか」
朱音さんと並んで左の道に入る。40メートルくらい進んだ所に、ホーンラビットのものと思われる魔石が落ちていた。
飛刃の射程距離は、少なくとも40メートル以上か。ライトバレット・スナイプで100メートル以上あることを考えれば、有効射程はもう少し長そうな気もするな。
「よし、"ビューマッピング"」
やはり道が緩やかに左へ曲がっていたので、マップが途切れたくらいのタイミングでビューマッピングを行使する。
……この感じだと、今の俺の最大魔力量はビューマッピング20回分くらいか。成長量はビューマッピング4回分で、探索2日目→3日目で成長した量とほとんど変わらない。
探索2日目より3日目の方が、それこそ倍以上は魔法を使ったはずだが。能力値が上がるほど成長しにくくなっているのか、1日に成長できる量にキャップがあるのか。あるいは、家で魔力を使い切るトレーニングが効果を発揮しているのか。
いずれにせよ、少しずつでも成長しているのは確かだ。急いては事を仕損じると言うし、一歩ずつ着実に進んでいくとしよう。
「……"ライトバレット"!」
「キィッ!?」
オートセンシングに引っ掛かったブラックバット1体を、ライトバレットで撃ち落とす。狙いが外れて左翼に当たったが、飛び立てなくなったようなので戦闘不能扱いでいいだろう。
……しかし、まだまだエイムが甘い。今のは距離30メートルくらいだったが、この程度の距離でいちいちスナイプモードなど使っていられない。誤射が怖いライトショットガンに頼らずとも戦えるようにしておかなければ、ダンジョンの奥地には進めないだろう。
「本当にモンスター探知が早いわね」
「はは、オートセンシング様々ってね。消耗も少ないし、我ながらすごい魔法を編み出したもんだ」
そう言いながら、ブラックバットに歩み寄る。ブラックバットはキィキィと悲痛そうに鳴きながら、再び飛び立とうともがいていた。
「………」
ふと、その大きな翼に目がいく。左の翼は大穴が空いて動かせなくなっているが、右の翼は元気に羽ばたいている。浮力が足りないのか、飛び立つまでは至っていないようだが。
「恩田さん、どうしたの?」
「……いや、なんでもない。"ライトバレット"」
胴体を撃ち抜き、今度こそブラックバットを倒しきる。ブラックバットは魔石にその姿を変えた。
……モンスターを見ると、つい特殊ドロップのことを考えてしまうな。ブルースライムは核、ホーンラビットは角、ならブラックバットは? と考えた時、一番目立つ部位と言えばやはり翼なのだ。翼を切り取れば、特殊ドロップになる可能性は高い。
だが、ブラックバットは耐久力が低い。試してみなければ分からないが、翼を切っている間にダメージが許容値を超えて、条件を満たせずに魔石化してしまうかもしれないな。
……まあ、時間もかかるし検証はまた今度だな。
「じゃあ、先に進もうか」
「ええ」
魔石を拾い、リュックに入れて先に進む。まあ、これまでの傾向を鑑みるに第2層はそこまで広くない。この道も、すぐ行き止まりにあたるだろう。
◇
……そう思っていた時期が俺にもありました、ってこれ2回目だな。
「……全然、奥に到達しないわねぇ」
「……だな」
かれこれ20分、一本道を歩き続けているが未だに最深部へ到達しない。道は右へ左へグネグネと曲がり、使ったビューマッピングの回数はここまで計4回。自然回復分を計算に入れて、魔力残量は85%といったところか。
朱音さんがホーンラビット3体、俺がブラックバット5体を道中で仕留めたので、時給換算ではそこそこの稼ぎにはなっているが……第3層の方が確実に収入は多い。ここの探索をさっさと終わらせて、早く第3層に向かいたいところだ。
「"ライトバレット"!」
「キィッ!?」
オートセンシングに引っ掛かったブラックバットを、即ライトバレットで撃ち抜く。今度は胴体にヒットしたようで、一撃で魔石化して地面にポトリと落ちた。
これで、ライトバレットでブラックバットを撃ち抜くこと7体目。検知と同時にライトバレットを撃つパターンで攻撃したのだが、胴体への命中率は7回中1回、約14.3%とあまり芳しくはない。
ブラックバットが空中で細かく動き回るのが最大の原因ではあるが、狙った通りに弾が飛べば一撃で仕留められたパターンも3回ほどあった。この辺は、まだまだ練習が必要だな。
「あら、ここまで全部単発弾の魔法ね。でも急にどうしたの?」
「あ〜、いつの間にかライトショットガンばかり使ってたことに気が付いてね。エイム力を鍛えるために、素のライトバレットでモンスターを倒す練習中なんだよ」
「へぇ〜……"飛刃"!」
「ギィッ!?」
魔石を拾いつつ、朱音さんと話す。直後、通路の先にホーンラビットの姿を認めた朱音さんがハルバードを振るい、真空の刃を飛ばして両断した。
……うーん残念、落ちたのは魔石だけか。
「さすがに、ホーンラビット1体では苦戦しなくなったわね。1日目よりも体が軽いし、武技も使えるようになったし」
「後は第3層で、ゴブリンやらホーンラビットやらが複数出てきた時にどうなるか、だな。まあ、朱音さんは1日目でもゴブリンを圧倒してたし、大丈夫だとは思うけどな」
やはり、朱音さんも成長を実感しているらしい。方向性は俺とは違うようだが、より近接戦闘に特化した方向へ能力が伸びていくのだろうな。
「……おっ、ようやっと最奥部に着いたみたいだな」
そして、ここでようやく終点が見えてきた。通路はやや広めの部屋に繋がっており、そこには……。
「1、2、3……10体、いや、天井にブラックバットが5体張り付いてるから15体だな」
見える範囲内では、ホーンラビット7体、ブラックバット8体が部屋にたむろしている。ただ、ここからでは部屋の半分くらいしか見えていないので、もしかしたら30体以上はいるかもしれない。
「プチモンスターハウスってやつか」
第3層の岩だらけ部屋ほど厄介な地形ではなく、また第4層の大部屋ほどモンスターが多くはなさそうな場所だ。俺らみたいな駆け出しの探索者が稼ぐには、ちょうどいい場所かもしれないな。
「第4層の予行演習ってところかしらね」
ハルバードを握りしめながら、朱音さんがニヤリと笑みを浮かべる。その目線は、のんびりとうろつくモンスター達の方を向いていた。
どうやら、モンスター達はまだこちらの存在に気付いていないようだ。
「作戦は?」
「とりあえず、通路におびき寄せるのは確定だな。部屋で戦うと囲まれかねない」
「ええ」
第4層攻略を見据えての練習なら、そうした方が良いだろう。
「あとは、モンスターに先制攻撃を仕掛ける。最初の一撃でなるべく敵の数を減らしたいところだな。まあ、それは俺が……」
「あ、それ私がやってもいいかしら?」
朱音さんがスッとハルバードを掲げる。朱音さんが何をしたいのか、それでピンときた。
「……武技か?」
「そう。飛突の派生技なんだけど、試したいのが1つあって。今ならリスクもあまり無いし、広範囲遠距離攻撃っぽいからちょうどいいかなって」
これは良い誤算だ。朱音さんも対多数用の技が使えるのであれば、第4層の突破はもっと楽になる。
「よし、なら朱音さんに任せるよ」
「オッケー、ミスったらフォローお願いね」
「任せてくれ」
朱音さんが小さく頷いた。
「さて、方針としては以上だが。何か質問はあるかい?」
「大丈夫よ」
「よし。それじゃあ、朱音さんの攻撃と同時に戦闘開始だ」
俺のその言葉と同時に、朱音さんは左手に持ったハルバードを、柄を軸に器用に回転させ始めた。その回転が段々と早くなっていき……これ以上は早くならない、というくらいに早くなったところで。
朱音さんが一気に飛び出し、槍を部屋に向かって鋭く突き出した。
「"飛突・斬風"!」
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