4−78:試練の間以来の遭遇
「着いたぞ、ここだ」
第15層を歩くこと、数十分ほど。それほど苦労することなく、嘉納さんの先導で下り階段前広場へとたどり着いた。
第15層の道中でステルスネークと4回、フォレストスパイダー2体組と3回、その他5回と遭遇したが全て無傷で殲滅している。ステルスネークの出現頻度がやや高いように感じるが、第15層の造りからして出現率がわざと高く設定されている可能性はある。誤差とも言えそうなくらい微妙な差なので、断定はできないけどな。
ちなみに、その他5回の中には対ダイブイーグル戦1回が含まれているのだが……今回はわりと楽に戦うことができた。第13・14層と違って上空に枝葉が多くあり、ダイブイーグルの動きが大幅に制限されていたからだ。空中型モンスターは空が広い場所で戦うと厄介だが、上空に障害物の多い場所では力を発揮できないようだ。
「……本当に楽だったな。今までステルスネーク相手に神経を擦り減らしながら、第20層に挑戦していた日々は一体なんだったんだろう?」
「まあ、そこは相性というやつだろう。今までと同じ探索方法では苦戦するぞってことなんだと思う」
「そうだよなぁ……」
思い返すに、第14層まではわりとゴリ押しでも何とかなる部分があった。第4層のモンスター軍団や対ラッシュビートル戦、イレギュラーに発生する特殊モンスター戦はさすがに多少頭を捻る必要があるが、他は力押しでも対処可能なレベルだったからな。
……だが、ここからはそうもいかないだろう。ステルスネークという隠れることに特化したモンスターが出てきてしまった以上、もはやゴリ押しではどうにもならない。まさか敵が居るかどうかも分からないような場所に、都度広範囲攻撃を叩き込むわけにもいかないしな。
隠密性に優れ、奇襲攻撃を仕掛けてくるモンスターをしっかりと見つけて的確に仕留めていく。ここからの探索には、そういった細やかさが必要になってくるのだろうさ。
「斥候役は超重要だ。攻撃力が無いことなんて、何のデメリットにもならないぞ」
「オゥ、だから私に水蒸気探知法を教えてくれたのデスカ〜?」
「私の空気探知法もでしょうか?」
「それもあるけど、元の意図は別にあった」
三条さんは探索者として伸び悩んでいたし、ハートリーさんはどこか危なっかしかった。一緒にパーティを組むにあたって、そういう不安要素を極力無くしたかっただけだ。
「2人の潜在能力が高かったから、予想以上の結果になっただけだ」
「……むぅ」
「こらこら朱音さん、そこで嫉妬しない。朱音さんは魔力が大きく伸びただろう? 俺とのトレーニングでさ」
「え゛っ、た、確かにそうだけど……」
【闇魔法】で魔力を吸収させてもらうことを考えると、朱音さんの保有魔力量が多いのは良いことだ。朱音さんの【魔槍士】ギフトはバフ・デバフやエンチャントなどの付与魔法使用時にプラス補正が掛かるらしいから、その点でも魔力量が多くて損は無いだろう。
……まあ、あまりこういう場で言える内容のトレーニング法ではないんだけどな。だからこそ、朱音さんも狼狽してるわけだし。
「……まあ、それはともかく。ササッと次の階に進もうか、そろそろ時間のことも気になってきたし」
「そうですね」
外では、ぼちぼち夕方に差し掛かる頃だ。時間の余裕はかなりあるが、ダンジョンでは何が起こるか分からないので悠長にはしていられない。長時間の探索は疲労からくる集中力の欠如にも繋がりかねないからな。
全員で階段を下りていく。さて、次の階層はどんな場所なんだろうな?
◇
……で、結局俺たちは何事も無く第16・17層を突破して、第18層へとやってきた。
第16・17層はオークやリザードマン、フォレストスパイダーの同時出現数が若干増えた程度で、特に変わりは無かった。おそらくはステルスネーク対策をしていない探索者を、長時間の探索で疲れさせるための階層だったんだろう。ほぼ第15層と同じ感覚で突破できた。
……ただ、第18層に足を踏み入れた時点で明らかに空気が変わった。
「……なんか、獣臭いな?」
何となく、そんな気がした。
「そりゃそうだろうさ。なにせ、第18層からは――」
「――ヴゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
――ガサ……ガサ……
嘉納さんが言い終わらないうちに、正面の藪の奥から低い唸り声が聞こえてくる。これは、もしかして……。
「……このモンスターとステルスネークを同時に相手取るのは、さすがに危険だと判断したのよ。だからここでやむなく撤退したのよね」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
菅沼さんの言葉に、皆の警戒度が更に高まったのを感じた……仲間モンスター組は、なんかウキウキしだしたけど。
そうして、藪の中から姿を現したのは……。
「……グォッ!? グオォォォォォォッッ!!」
「なるほど、ここでコイツが出てくるわけか」
体長3メートル以上はある、巨大な熊型モンスター。茶色の体毛に覆われており、隆起した全身の筋肉はコイツが生粋のパワーファイターであることを物語っている。ラッシュビートルよりも、そしてオークよりも更に大きな体躯からは、なかなかの威圧感が放たれていた。
……そして、俺はこのモンスターのことをよく知っている。
「試練の間以来の遭遇だな、グリズリーベア」
「グォォォォォォッッ!!」
以前戦った時のことを思い返す間もなく、グリズリーベアが俺めがけて猛スピードで走り込んでくる。現実の熊も自動車に負けないくらい速く走ることができるが、グリズリーベアはそれ以上の速度を出すことができるわけだ。
「盾展開」
――ブォン
……ただ、なんでだろうな。動体視力が上がったのか、多少モンスターが速くてもちゃんと目で追えるようになった。今も四足で走り込んでくるグリズリーベア、その筋肉の隆起や体毛のたなびきすらも鮮明に見えるほどだ。
「グォォォォォォッッ!!」
「……!」
だから、余裕をもって盾を構えられる。俺には既に、グリズリーベアが振り下ろしの右爪攻撃を仕掛けようとしているのが見えていた。
「防壁変化」
――ブォン
――バヂヂヂヂッ!!
「グオォォッ!?」
防壁の角度を瞬時に変え、グリズリーベアの振り下ろし爪攻撃を右下に受け流す。多少は圧力を感じたが、うまく受け流せたようで半歩後ろに押される程度で済んだ。
……そして、攻撃を流されたグリズリーベアが前のめりに体勢を崩している。最初の勢いが良かった分、体勢を立て直すのが遅れてしまっているようだ。
その隙を逃すつもりは無い。圧倒的な攻撃力を持つグリズリーベアを相手に、受け身へ回るのは愚策中の愚策だ。隙を見つけたら一気に畳み掛け、反撃の余地も残さずに倒し切るしかない。
「食らえ!」
――ゴォォォォッ!!
間髪入れず、【ファイアブレスⅡ】をグリズリーベアの顔面に向けて撃ち込む。そうなれば、当然……。
――ジュウゥゥ……
「ギャォォォッ!?」
予想通り、火属性攻撃が苦手なグリズリーベアは咄嗟に右腕で炎をガードする。ただ、それだけでファイアブレスを止め切れるはずもなく……右腕に当たって散開した炎が、グリズリーベアの全身に着弾してその身を焼いた。
こうして、グリズリーベアの注意が俺たちから逸れたところで……。
「ヒナタ、フェル、ひたすらグリズリーベアの顔めがけて炎を吐きかけるんだ」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
――バサァッ!
ヒナタとフェルが力強く飛び立ち、グリズリーベアの顔へと近付いていく。
――ゴォォォッ!!
そうして、グリズリーベアが腕を伸ばしても届かない絶妙な距離感で周囲を飛び回りつつ、顔を狙って炎を吐きかけ始めた。ヒナタは【ファイアブレスⅠ】だが、フェルは【ファイアブレスⅡ】を使えるので火力も高い。
「ギャォッ!?」
――ブォンッ! ブォンッ!
右腕で必死に炎をガードしていたグリズリーベアが、羽虫を振り払うかのように左腕を振り回す。しかし、ヒナタとフェルには当たらなかった。
――ジュゥゥゥゥッ!
「ギャォォォッ!?」
むしろ、体勢が変わったことで右腕のガードがずれてしまい、余計に炎を浴びる結果となってしまっていた。身体能力が高くともやはり獣、そこまで賢くはないな。
「「"フレイムセイバー"!」」
その様子を見ていた九十九さんと菅沼さんが、火属性の攻撃魔法を重ねて放つ。フレンドリーファイアを避けるためか、爆発系ではない魔法を選択してくれたようだ。
――ドスドスッ!
――ゴゥゥゥッ!
「ギャォォォッ!?」
腰辺りに刺さった2本の炎剣が、激しく燃え上がってグリズリーベアを包み込む。悲痛な叫びを上げるグリズリーベアだが、こちらの攻撃の手はまだ緩まない。
「うぉぉぉぉぉぉっっ!!」
――ブォンッ!!
嘉納さんが、手に持っていた大戦斧をなんと思い切りぶん投げた。斧はクルクルと水平に回転しながら、グリズリーベアの足へと一直線に飛んでいき……。
――ズバッ!!
「ギャゥッ!?」
――ズゥゥゥン……
グリズリーベアの両足を切り裂き、派手に転倒させた。
……これはもう、勝負あったな。まだ体力は残っているみたいだが、近接戦闘型モンスターが機動力を奪われてしまっては、もはや勝ち目は無いだろう。
そして結局、グリズリーベアはほとんど何もできないままドロップアイテムへと姿を変えた。これだけ戦力が揃っていれば、そうもなるよな……。
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