4−77:思わぬ影響がこんな所にも
「うーん、完全に逃げられたか」
「……戻ってこないわね」
「炎にビビったのか?」
フォレストスパイダーが消えていった藪の方を見ながら、そっとため息をつく。1分ほど様子を見ていたが戻ってくる気配は微塵も無く、どうやら完全に逃げられてしまったようだ。
……これまでに戦ったモンスター共は、どちらかが全滅するまで戦闘行動を続けるヤツばかりだったからな。通常モンスターより賢いはずの特殊モンスターでさえそうだったのだから、まさかフォレストスパイダーに逃げられるとは思わなかった。
「……まあ、手負いじゃないだけマシか」
逃げていったフォレストスパイダーには、こちらの攻撃が一発も当たっていない。炎熱の余波くらいは軽く受けた可能性があるが、手負いでないのは確かだろう。モンスターに火事場の馬鹿力的なものがあるのかは不明だが、わざわざ手負いのモンスターを放置する意味が無い。
……それに、これまで数多の特殊モンスターを見てきたからこそ思うのだが。特にヘルズラビットなんかは、明らかに手負いの獣感があるんだよな。
特殊モンスターが生まれる条件に、もしかしたら手負いの状態で放置されることが含まれているのかもしれない。もしそうなら、中途半端にモンスターへダメージを与えるのは危険だということになるのだから。
「逃げられてしまったものは仕方ないか。サクッと切り替えて、道なりに進んでいこう」
「道なりに進んでいくのですか?」
「ああ、第5層とはモンスターが違うからな」
「……なるほど、確かにそうですね」
第5層に出てくるモンスターの耐久力なんてたかが知れていたが、ここはそうではない。フォレストスパイダーやステルスネークはともかくとして、リザードマンやオークは藪払いのファイアブレスで雑に倒せるようなモンスターじゃないのだ。
三条さんも疑問に思ったようだが、すぐに俺の考えていることに思い至ったらしい。納得したような表情で軽く頷いていた。
「よし、それならこっちだな」
「ああ、先導は嘉納さんに任せるよ。俺が検知できる範囲内にモンスターは居ないみたいだし、そこは安心してくれ」
「了解。ほんと、安心感が全然違うな。俺も索敵くらいできたら良かったんだが、武器を振り回すしか能の無いギフトでな」
「尚毅……」
「言っとくが、遥花は1ミリも悪くないぞ。俺がこれまで、どれだけ遥花の攻撃魔法に助けられてきたか。その貢献を見ずに責めるなんざ、あってはならないことだからな」
「………」
少しチャラく見えても、嘉納さんは一廉の人間だ。その考え方には、歳下ながら学ぶべき部分がかなりある。
……彼が"日本一の一般探索者"と呼ばれ、広く受け入れられているのにはそれ相応の理由があるわけだ。本人が気付いているかはともかく、人として尊敬できないような輩には決して掴めない称号なのだから。
「……とは言え、やはり斥候は必要かもな。ずっと2人でやってきたが、探索者チームとしてステップアップするなら外せない役割だろう」
「……そうね、でもそんなに都合良く斥候の素質を持つ人がいるわけが……」
「あ、居ますよ?」
ここで、思わぬ所から声が掛かった。朱音さんだ。
「朱音さん、どういうことですかね?」
「最近、姉様の会社の支社がこちらにもできまして。"ダンジョンシーカーズ"はご存知ですか?」
「ああ、そういえば持永局長が言ってたな。最近、探索者を従業員として雇う会社と提携したって……え、まさか?」
「はい、私の姉様――久我藍梨が設立した会社です。本社は京都に置いていますが、日本一の横浜ダンジョンにも関わりたいと横浜支社を設立したそうです」
さすがは藍梨さん、決断力と行動力が半端ねえな。まだできて1ヶ月も経ってない会社だぞ? フットワーク軽すぎるだろ。
「そこに最近、斥候の素質がある方が入社されまして。本人は攻撃を非常に苦手としていて、ゴブリンさえまともに倒せないそうですが……代わりに回避能力と索敵能力、そして隠密能力は一級品です。姉様曰く『ソロではほとんど力を発揮できないが、実力のある探索者と組ませれば化ける』と判断して雇用することにしたそうです」
そこまで能力がサポート寄りだと、確かにソロでは厳しいだろう。モンスターを倒せないのでは魔石が手に入らず、お金も手に入らないのだから。
パーティを組むにしても、特に探索者なりたての者からすれば火力の無さは致命的だ。序盤で索敵に苦労するモンスターがブラックバットくらいしかおらず、そのブラックバットも大して強くないとなれば、殲滅速度が最重要視されがちだからだ。
……だが、嘉納さんと菅沼さんに関してはその限りではない。火力は2人とも十二分にあり、3人目の仲間にそこまでは求めないだろうからだ。
「……ちなみに男性? それとも女性?」
「女性です」
「朱音さんから見て、遥花とは気が合いそうか?」
「ええと、そこまで主張の強い方ではないそうなので、お2人と性格面で衝突することはないと思いますよ」
「……そうか、地上に戻ったらその方とコンタクトを取れないか? ぜひ遥花と3人で会って話がしたい」
「分かりました。
……それでは、先に進みましょうか?」
「ああ、そうだな」
改めて、嘉納さんを先頭に道の先へと進む。道幅はそれなりに広く、警戒は必要だが藪から奇襲を受ける可能性は低いだろう。
……木が大量に生えていること以外は、やはり第5〜9層と地形的な特徴は同じだな。見た目は完全に新しい階層だけど、なんかうまく使い回ししたような印象も受けるな。ダンジョンマスター的な存在がいるとすれば、案外面倒くさがりな性格をしているのかもしれないな。
「……それにしても、斥候の情報なんてよく知ってたな、朱音さん?」
隣を歩く朱音さんに話しかける。
「姉様にリストを見せてもらったのよ。もちろん、従業員の方本人の承諾が得られた分だけね。その中にちょうど良い情報があったから伝えただけよ。
……とはいえ、横浜支社はまだ4人しか採用できてないらしいわ。姉様もこちらに来る頻度を増やして、採用活動を強化していく予定なんだって」
「俺からすると、もう4人も採用したのかって感じなんだけどな」
さすがは横浜ダンジョン、探索者の質が高いだけあるな。
「あ、もちろん無報酬じゃないわよ? ちゃんと紹介人数に応じて、ダンジョン・シーカーズからお金を貰ってるわ。姉様がそこを蔑ろにするわけがないじゃない」
「まあ、そりゃそうだよな。あの藍梨さんが『妹なんだからタダで』とか言う姿が全く想像できない」
人は何かしらの利が無ければ、簡単には動かない。藍梨さんはそのことをよく分かっている。やりがいがどうとかいうような詭弁でごまかしたり、もっともらしい建前を口にしながら自分の利益だけを追求するような人じゃないからな。
……そして、そのことを理解できる人としか藍梨さんは懇意にしない。表面的な付き合いに留め、決して距離を詰めさせないのだ。朱音さんはそういう人を完全拒否するが、藍梨さんはその辺強かな人なのだ。
「その斥候の人、うまくいくといいな」
「大丈夫でしょう、姉様が直接会って採用を決めた人なんだから」
「それなら大丈夫だな」
藍梨さんが常駐する京都本社の方でさえ、まだ10人くらいしか採用してないらしいからな。それだけ狭き門を通り抜けた人たちが、能力面でも性格面でも問題があろうはずがない。
きっと、嘉納さんと菅沼さんにとって大きなプラスとなるはずだ。
「なあ、帯刀さん?」
「ふふ、そうですね」
なにせ、その恩恵は俺たちも大いに享受しているのだから。帯刀さんもダンジョンシーカーズ・京都本社に所属する探索者で、俺たちのパーティには欠かせない存在なわけだしな。
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