4−76:ダンジョン第15層
第13層、第14層と全く代わり映えのしない山道を登り切った俺たちは、第15層へと繋がる階段を下りていた。
「よし、ここまでは順調に来れたな」
「しばらく恩田さんが居なかったから、こんなに楽なダンジョン探索は久し振りかも」
「上を一切気にしなくていいので、とても楽だったのです」
「人というのは、上からの攻撃に弱いそうですからね……そこをカバーして頂けるのはありがたいです」
「きぃっ!」
「ぱぁっ!」
「ぐぁぅっ!」
俺が話せば、朱音さん、九十九さん、帯刀さんが応えてくれる。三条さんやハートリーさんとも最近はだいぶ息が合ってきたけど、亀岡ダンジョン組はやはり俺にとって特別な存在だ。もちろん、仲間モンスター3人もな。
「それにしても、途中からなんだかダイブイーグルが可哀想に思えてきました」
「試練の間を思い出したヨ。あれが入れ食い状態ってやつカモネ?」
「ひゅいっ」
「ざぶぅっ」
三条さんが微妙な表情を浮かべれば、ハートリーさんにシズクとコチはちょっと楽しそうに答えを返していた。
第13層はそれほどでも無かったが、第14層では結構な頻度……それこそ、倒したそばから湧いて出てくるような勢いでダイブイーグルの襲撃を受けた。ウインドブレスも度々吐かれたが全て防壁で完璧に防ぎ、業を煮やしたダイブイーグルが急降下突進攻撃を仕掛けてくれば、防壁に当たって地面に落下する。そこを三条さんたち4人で処理していく流れが、第14層の間中ずっと続いた。
単に性質が違うだけで、第14層も結構な魔の階層だと思ったのだが……嘉納さんと菅沼さん曰く、自分たち2人で来た時はそこまで襲撃頻度は高くなかったそうだ。やはり人数が多いと目立ってしまうのだろうか。
「恩田さん、ここからまた階層の雰囲気が大きく変わるぞ」
「モンスターの出現パターンも変わるから、警戒は必要ね」
嘉納さんと菅沼さんによれば、ここから先の階層は新しい風景が広がっているらしい。
もちろん、新しいモンスターも出てくる。俺が連れて来られた最大の理由、視認が困難な蛇型モンスターであるステルスネークも第15層から現れるそうだ。他にもフォレストスパイダーという、名前通りの見た目をした蜘蛛型モンスターも出てくるらしい。
オークやリザードマン、ダイブイーグルも引き続き登場するが、特にダイブイーグルは脅威度がガクッと落ちるそうだ。理由は、第15層に下りればよく分かるそうだが……。
「……へえ、これが第15層か?」
「森林地帯、といった感じかしらね? 地面の様子は第5層辺りに似てるけど、とにかく木が多いわね」
階段前広場に立って辺りを見回しながら、初めての第15層の感想を朱音さんと交わす。
朱音さんの言う通り、第15層は鬱蒼と生い茂る森林地帯のような風景が広がっている。シンプルに第5〜9層に大量の木々を追加したかのような感じで、濃い藪となっている場所や道になっている場所、小川が流れている点もほぼ同じだ。
……だからだろうか。とにかく見通しが悪く、足場も凹凸があって決して良いとは言えない。ここに足を踏み入れた探索者にとって、マイナスのフィールド効果が重くのしかかってきている。
「……いるな」
そして、オートセンシングに引っ掛かるモンスターの存在。そちらを目視で確認しても、何もいないように見えるが……しかし、確かにそこにはモンスターが居るのだ。どうやら背景の色と同化して、姿を巧みに隠しているらしい。
そのモンスターは細長い体を持っており、器用にも木々の枝に体を巻き付けてぶら下がりながら、こちらの隙を伺うように見つめている。背景と同化する能力を持っていることから、これが嘉納さんと菅沼さんを苦しめた毒蛇モンスター"ステルスネーク"なのだろう。
……なるほど、確かにこれは厄介だな。フィールド条件があまりにも探索者にとって不利すぎる。そしてこれほどの悪条件下、まともな索敵方法を持たないまま第18層にまで到達した嘉納さんと菅沼さんは、紛うことなき日本最強の探索者なのだろう。
「"ライトニング・クイックボルト"」
――カッ!
――ドゴォォッ!
――ジュッ……ボフッ
見えない敵に向けて雷撃を叩き込み、何かが焼けたような音が響く。そのまま辺りに白い粒子を撒き散らしながら、ドロップアイテムが地面へと落ちていく。
「……なるほど、あそこにステルスネークがいたのね。全く見えなかったわ」
「この距離でステルスネークを察知できるのか。やっぱり、恩田さんを連れてきて正解だったな」
「今回はうまくいったけどな。場所によっては、三条さんやハートリーさんの方が察知しやすいかもしれないぞ」
見通しの悪い所では、オートセンシングの効果は十分に発揮できなくなる。弱いレーザー光を用いているので、直線的にしかモンスターを検知できないからだ。
今回は階段前広場だったから、視界が開けていてオートセンシングの効果を十分に発揮できたが……道を進むとなるとそうはいかないだろうさ。
「ねえ、恩田さん。ここも防壁で守りながら歩いた方がいいんじゃないかしら? ほら、ステルスネークからの不意打ちも防げるし」
「ああ、それは俺も考えた。でもちょっと現実的じゃないな」
「え、なんで?」
「あそこを見てくれ」
藪が薄く、道になっている場所を指差す。
「あそこ、木から張り出した大量の枝がアーチみたいになってるだろう? その高さが、少し屈まないと頭に当たってしまうくらいに低い。これに防壁がつっかえてしまうんだよ」
「あ〜、確かにそうね……」
モンスターなら防壁で弾き飛ばせるが、木や枝はダンジョンオブジェクトなので排除は難しい。仮に藪と同じように、ファイアブレスなんかで焼き払えるとしても……毎回そんなことをしていれば、魔力消費量がシャレにならないレベルになってしまう。それなら丁寧に索敵しつつ、慎重に先に進んだ方が良い。
……それにしてもまあ、なかなかに悪辣なフィールドだとは思う。ステルスネークというモンスターがいることが分かっていても、木や枝の近くを避けて移動することができないようになっているのだから。ここまでの階層では、ダンジョン環境が探索者に牙を剥いてくることはほとんど無かったが……ここからは、そうもいかないのだろう。
地の利は徐々にモンスター側へと傾いていく、ここからがダンジョン本番ってことなのかもな。
「菅沼さん、階段の方角ってどっち? あ、道は無視して純粋な方角だけで示してもらえるか?」
「ああ、それならこっちね」
菅沼さんが指し示した方向を見る。そこは背の高い藪に覆われていて、見通しが非常に悪くなっていた。加えて、道の向きからは50°くらいズレている。
……このズレの分だけ遠回りするってことか。第5〜9層は、ラッシュビートルを除いて大したモンスターはいなかったが……ここには、厄介なモンスターがかなりたくさんいる。道なりに進む方がいいのか、藪漕ぎをしながら進む方がいいのか迷うな……。
――ガサガサガサ……
「……ん?」
少し考えていると、藪が擦れる音が聞こえてきた。ちょうど俺が見ている方向、階段があると思われる方の藪が揺れている。
――ガサッ!!
「……ギチチチ」
「ギチ……ギチ……」
そしてそこから、八本足に大量の毛を生やした蜘蛛が2体現れた。緑色をした体の高さは人間の胸くらいまであり、黒く丸みを帯びた8つの複眼がしっかとこちらを見据えている。一対の牙が口と思われる部位から生えており、軽く反っていて太くて鋭い。
「随分とでっかい蜘蛛だな」
「こいつがフォレストスパイダーだ。素早いがそこまで固くない。こいつも毒を持ってるから気を付けろ」
「了解っと」
嘉納さんの説明からして、フォレストスパイダーは高速アタッカー……いや、違うな。毒を持っていて素早く動き、体を緑色にして背景に多少紛れるような効果を狙っているのだとすればアサシンタイプのモンスターということか。今は普通に藪の中から飛び出してきたが、もしも木に登る能力があるとすれば最悪の場合木の上から飛び掛かってくる可能性もある。
ステルスネークとフォレストスパイダー、2種類とも不意打ちが得意な毒持ちモンスターという辺りに第15層以降の厄介さがよく表れてるな……。
「……それにしても、動く気配が無いな」
「「ギチギチ……」」
不思議な鳴き声を上げながら、フォレストスパイダー2体はやや遠巻きにこちらの様子を伺っている。見た感じ、何かを警戒しているのは分かるのだが……具体的に何を警戒しているのかがイマイチよく分からないな。
とりあえず、ここで睨み合っててもしょうがない。時間だけが無為に過ぎていくが、その時間が俺たちにとっては貴重なのだ。
「ぐぁぅっ!」
「きぃっ!」
――ゴォォォッッ!!
さあ、どう攻めかかるかと考えていたところに、ヒナタとフェルがいきなりファイアブレスを吐き出した。
ダブルで放たれたファイアブレスが重なり合い、激しい炎の渦となってフォレストスパイダー共に迫っていく。
「「ギチィッ!?」」
それを見たフォレストスパイダーが、俺たちに背を向けて一目散に逃げ出していく。虫のわりに知能は高いみたいだが、その挙動で火属性攻撃が弱点であることがよく分かった。
……そして、逃げるフォレストスパイダーの移動速度よりもWファイアブレスの飛翔速度の方が速い。
――ゴォォォッッ!!
「ギチィィィ!?」
ファイアブレスに追い付かれ、断末魔の叫びを上げながらフォレストスパイダー1体が炎の海に沈む。
……だが、倒せたのはそこまで。もう1体のフォレストスパイダーは炎に巻き込まれることなく、藪の中へと姿を消していった。
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