4−69:【空間魔法士】の力
とりあえず、ブルースライムが出てきたならちょうどいい。ここで岩守総理の初実戦といこうじゃないか。
「今しがた出てきたブルースライムですが……岩守総理、早速倒してみませんか?」
「む? しかし、【空間魔法】で倒すと言ってもだな……まずもって、魔法の使い方がまるで分からん」
「魔法とは、第一にイメージが大事です。やりたいことを強く鮮明に思い浮かべることで、魔力を消費してそれを実現できるのです。もっとも、やりたいことと【空間魔法】スキルがうまく適合していないと、魔法そのものが不発になってしまいますが……」
『はえ〜、そうなんだ』
『そうそう、そうなんだよな』
視界の端で、菅沼さんがうんうんと頷いているのが見える。他にも視聴者さん含めて何名か同じような反応を返している人がいるので、この辺は共通認識ということで良さそうだ。
ちなみに、イメージが大事なのは確かにそうだが、後者も実は相当重要だ。例えば、風の刃を撃ち出したいのなら【風魔法】スキルを使うべきであり、【闇魔法】や【火魔法】スキルを使っても風の刃は出てこない。平たく言うとそういうことなのだ。
当たり前のことに思えるかもしれないが、これが【空間魔法】となると非常にイメージがしづらいのもまた事実だ。応用範囲がとてつもなく広いことは肌感で分かるのだが、あまりに広すぎて具体的にどんなことができるのか未知数な部分が多い。俺も検証を進めてはいるが、一生かかっても完全に解き明かせる自信が無いのが正直なところだ。
ただ、ある程度検証を進めて"やれる"という手応えを掴めたものもある。それを岩守総理に教えていこうかな。
「ブルースライムの体内に、丸い物体が浮いているのが分かりますか? あれがブルースライムの核です」
「む? あの球状のものがそれか?」
「はい、そうです。あれがブルースライムの弱点になりますので、例えば核を空間ごと斬り裂く、あるいは空間を固めて押し潰すようなイメージで【空間魔法】を使ってみてください」
『……ん?』
魔法初心者の岩守総理に、魔法の使い方をなるべく詳細に教えていく。
……空間を操って対象を斬り裂いたり、潰したりする魔法は俺も実行可能だ。【空間魔法】の可能性を探る中でたまたま編み出した魔法だが、某伝説のポケ◯ンの技などに倣って名前を付けようとしてもしっくり来ず、単に"空間断裂"や"空間圧潰"とかいうセンスの欠片も無い名前で呼んでいる。
そして、まるで制御が利かないのが難点でもある。どちらも目の前の広範囲を問答無用で攻撃してしまうのでフレンドリーファイアが怖いうえ、まだ【闇魔法】の"ブラッディシックル"を連発する方がマシなくらいに大量の魔力をもっていかれる。出力調整もままならないまま俺の最大魔力量の9割くらいを持っていかれるので、それこそゴブリンキングやインフェルノワイバーンクラスの強敵相手に撃たなければ割に合わないロマン砲と化している。撃てばほぼ確実に相手を仕留められるので、切り札としては最高なんだが……もっと魔力量が増えないと練習もままならないので、現在は塩漬け状態となっている。
俺では実用に耐えない魔法だが、上位互換であろう【空間魔法士】のギフトを持つ岩守総理なら使えるかもしれない。それを試してもらおうというわけだ。
「ふむ、やってみよう……」
岩守総理が目を大きく見開き、ブルースライムを凝視する。じっくりと狙いを定めて、イメージを固めて……という作業を脳内で一生懸命やっているのだろう。
『あ〜、そうそう最初はこんな感じだったわ〜』
『イメージ固めるのはわりとすぐ慣れたけど、狙いを定めるのに時間がかかるんだよね。焦って撃つと魔法があさっての方向に飛んでったり……』
『それで、第2層に出てくるのがホーンラビット (速くて小さい)とブラックバット (空飛んでるし小さい)だからな。どんだけ後衛型にスパルタなんだよ、先にゴブリン出せよと何度思ったことか……』
『でもさ、そこさえ乗り越えればあとは大体なんとかなるんだよね』
『まあ、確かにな』
後衛型探索者であろう視聴者さんのコメントに、俺も内心深く同意する。俺
……まだ3ヶ月ぐらいしか経っていないのに、なんだかすごく懐かしいな。俺も最初は命中精度が安定しなくて、今ではほぼ使わなくなったライトショットガンで誤魔化してたっけか。序盤のモンスターはどれも耐久力が低かったので、それだけでも何とかなっていた。
大きく潮目が変わったのは、多分あの時かな? 初めて特殊モンスター、ヘルズラビットと遭遇し激戦を繰り広げたあの時……あいつにはライトショットガンがまともに効かなかったので、より強力な魔法に切り替えざるを得なかった。そういう魔法はしっかり狙って当てる必要があったから、以降は自然と命中精度を意識するようになっていったっけか。
今ではもう、ブラックバットもホーンラビットも特に狙いを定めることなく、偏差撃ちで仕留められるようになった。慣れって恐ろしいもんだな。
「むむむ……見えたっ!」
たっぷり15秒ほど、ブルースライムを凝視し続けた後……岩守総理が叫んだ。どうやら感覚が掴めたらしい。
「いくぞ、"空間転移"!」
右手をブルースライムに向けてかざしながら、岩守総理が魔法名を口にする。
――ズッ!
瞬間、ブルースライムの核だけが綺麗に消えた。どこに行ったのかと探してみると、ブルースライムから少し離れた場所に核だけが落ちている。
……まさか、そちらの方法で攻撃を仕掛けるとはね。
――グネグネ
さすがに核を失えば、ブルースライムに生き残る術は無い。グネグネと苦しそうに体を歪ませた後、ブルースライムは溶けるようにして地面へと消えていった。
もちろん、その後にはブルースライムの魔石と――
「――むっ?」
SPの人たちが、地面に残ったブルースライムの核を見て驚きに目を丸くする。亀岡ダンジョン初ライブ配信時に、特殊ドロップの存在は世に開示したはずなんだが……まだ情報がそこまで浸透していないのだろうか? あの動画、もう結構な再生回数になっているのだが。
まあ、自衛官探索者の目的はダンジョンの秘密を解き明かすことではないからな。情報収集と安全確認が主たる探索目的で、個々のモンスターを深く調べることはしなかったのだろう。
「なぜ、ブルースライムの核が地面に残っているのだ?」
「ああ、そこは亀岡ダンジョンチャンネルの過去動画をご覧ください。各モンスターに、そういう特殊条件ドロップがあるんですよ」
「それは、既知の情報か?」
『既知も既知、大既知よ』
『でも、案外知られてないもんなんだね〜』
『情報がだいぶ出揃ってきて、オークションに出てくる数も増えてきたんだけどなぁ』
SPの人の言葉に、何を今さらといった感じで視聴者さんが返していた。
視聴者さんが言っている情報サイトは俺も見たが、第9層までに出る通常モンスターの特殊ドロップ情報は全て揃っていた。おそらくは検証大好きな人たちが日本各地に居て、その人たちの知恵を総結集したのだろう。この調子なら、いつか特殊モンスターを含めた全ての情報が出揃う日も来るのかもしれないな。
『ところでさ、少し前に大量の特殊ドロップ品をオークションに一気に流したのって恩田氏でしょ? ラッシュビートルの斬羽300枚とか、ホーンラビットの角100個とか……一体どこに、そんな大量のアイテムを貯めこんでたのさ?』
「それはもちろん、アイテムボックスの中ですよ。ドロップしたそばからアイテムボックスに放り込んでいたら、いつの間にかそれだけ貯まっていたというワケです。このまま入れっぱなしではアイテムボックスの肥やしになるだけなので、情報開示してしばらく経ったタイミングで全放出したわけです」
『へぇ……うん?』
流れに任せて言ってみたら、わりとスラスラと口に出せた。
『恩田氏、今サラッと"アイテムボックス"って言わなかった?』
「言いましたよ、なんせ私も【空間魔法】持ちなので。岩守総理のギフトが【空間魔法士】でなければ、まだ黙っているつもりでしたが……まあ、ここらが潮時だったということでしょうかね」
『えっ? えっ? どういうこと?』
「ところで総理。初モンスター討伐を行ったご感想は、いかがでしょうか?」
俺の言葉で視聴者さんが混乱している隙に、岩守総理へ初モンスター討伐の感想を聞いてみる。
「ふむ、【空間魔法】とはすごいものだな。素早く狙いを定めるには、今しばらく練習が必要そうだが……使いこなせれば、私がかつて夢見たアニメやマンガのヒーローのようなこともできるかもしれないな。【空間魔法】の先駆者がちょうどこの場に居てくれて、私としては大助かりだよ」
「ありがとうございます。【空間魔法】に関しては岩守総理の方が確実に上ですので、私では実現できなかったことも総理ならば可能でしょう」
「うむ、実に楽しみだ」
「……さて、そろそろ先に進みましょうか。あまり第1層ばかり映していては、視聴者の皆さんも飽きてしまうでしょうし」
『いや、なんか急に大量の情報を叩き込まれて混乱してるんだが?』
『俺らからしたら、飽きる暇も無いほど怒涛の展開なんだが?』
「それは気のせいでしょう」
『一言でバッサリ斬りおったぞこのオッサンww』
立ち止まって説明していては、いつまで経っても先に進めないのだよ。ほら、ヒナタもフェルもじっと黙っているのに疲れてか、うつらうつらと船を漕いでるし……。
「話は移動しながらさせてもらいますよ。さて、第2層への階段は……あちらですね。行きましょう、岩守総理」
「うむ」
俺の先導で、全員でゾロゾロと第2層に向けて移動していく。
……さて、第1層からいい感じにイベントがあったが、撮れ高はちゃんと確保できただろうか。どうせ第4層は撮れ高0になるのは確定しているので、第2層と第3層でも少し撮れ高を確保しないとな。
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