4−63:【鑑定】のスキルスクロール
「まあ、何をおいてもまずはコレだよな」
「ですね……」
「………」
【鑑定】と書いた紙の上のスキルスクロールを手に取る。システム音声に『【鑑定】を取得しますか?』と聞かれたが、とりあえず今は『否』と返答しておいた。
ここには幾つものスキルスクロールがあるが、明らかにコレの価値が最も高い。【ウインドブレスⅡ】や【風魔法】も十分希少ではあるものの、【鑑定】には遠く及ばないだろう。
「【鑑定】のスキル……よくあるパターンだと、魔力を対価としてアイテムやモンスターの情報を使用者に教えてくれるスキルだな」
「ファンタジーものの創作物では、まさに定番のスキルですね」
意外や意外、三条さんが俺の話にスッと乗ってくれた。ハートリーさんはともかくとして、三条さんはそういうのには興味が無いものだと勝手に思っていたな。
……そう、ラノベでは定番のスキルで、コレ1つでチート扱いされる作品もあるくらいには有名かつ強力なスキルになる。得られる情報量の程度は作品によって様々だが、その情報が状況の不利を覆す起点となっていることも多い。
それだけ、情報アドバンテージというのは大きいわけだ。情報を制する者が世界を制する、と言っても決して過言ではないだろうな。
「それで、誰がこれを持っていくかなんだが……」
「あ、先に言っとくネ〜。ワタシは要らないヨ〜」
俺が言葉を発する前に、ハートリーさんが【鑑定】のスキルスクロールは要らないと言ってきた……え、どういうことだ?
「え、り、リンちゃん? なんで要らないの……?」
「【鑑定】スキルだけどネ? アメリカに居るチームリーダーが持ってるんだヨ」
「え、そうなのか!?」
なかなか衝撃的な事実が発覚した。あの超希少な【鑑定】スキルを持つ人のことを知っている人が、まさかこんなにも身近に居ただなんてな。
「うん、チームリーダーは超大金持ちだからネ〜。【鑑定】のスキルスクロールがオークションに出た時、『2000万ドルまでなら出してやる』とか言ってタ。それが400万ドルで買えて『安い、安すぎる。まさか偽物じゃないだろうな?』とか言ってたネ。もちロン、ちゃんと本物だったケド」
……ハートリーさんの言葉に、軽く目眩を感じてしまう。
6億円を安いと言えてしまう辺り、アメリカの大金持ちはマジでスケールが違うよな。本当に同じ人間なのか疑いたくなるよ。そも、たかがいちスキルに30億円出そうとする時点でなんかもう色々とおかしいんだけど……なんと言うか、生きる世界が違うって感じだ。
「でネ、いざ使ってみるとコストがかかるって言ってたヨ」
「コスト?」
「そ、コスト。チームリーダーは後衛で魔力多いんだケド、それでも【鑑定】使うとハーフくらい魔力減るって言ってタ」
「ハーフ……50%か」
【鑑定】で消費される魔力の量が、いわゆる定量で消費される仕様なのか割合で消費される仕様なのかは分からない。誰が使っても50%分だけ持っていかれるのかもしれないし、保有魔力量の多寡で使用回数が増減するのかもしれない。
だが、もしも定量消費仕様だったら? ハートリーさんの話が本当なら、【鑑定】のスキルは相当量の魔力を食うみたいだから……仮に魔力量の少ない前衛型探索者が覚えてしまえば、まともに使えるのは相当先の話となってしまうかもしれない。それでは宝の持ち腐れになってしまう。
「それ、例えばミサキに合うカナァ? 使えなかったら、ムダってヤツヨ?」
「うーん……」
……確かに、それは悩むな。本当は三条さんに使ってもらおうと思っていたんだけど、三条さんはあくまでも前衛型のギフト所持者だ。魔力量は決して多いとは言えないので、もし【鑑定】が魔力不足で使えなければスキルを取った意味が無くなる。ハートリーさんも同じ理由で、【鑑定】を覚えるのはリスキーだ。
だが、【鑑定】のスキルスクロールはフレイムデビルを倒して得た物だ。俺が【鑑定】のスキルを取ってしまえば、いくら三条さんとハートリーさんが許してくれても、4人の成果を横取りしているに等しい。
「……では、こうしませんか?」
さて、どうしようかと悩んでいると、三条さんが苦笑しながら手を上げた。
「【鑑定】のスキルスクロールは、恩田さんが使ってください。代わりに他の物は、好きな物を私たちで選ばせて頂きます」
「うん、それが良さそうだネ〜」
「……え、2人はそれでいいのか?」
「はい、それでいいのです。むしろ、恩田さんの貢献度を考えるとこれが適切な配分だと思います」
「ん〜、だけどなぁ……」
「……んもぅ」
俺が渋っていると、三条さんが腰に手を当てて喋り始めた。
「いいですか恩田さん。試練の間を私たちが無傷で突破できた理由、低く見積もっても99%くらいは恩田さんのおかげなんですよ? フレイムデビル戦も直接的な貢献は無かったかもしれませんが、恩田さんが控えてくれていたからこそ私もリンちゃんも全力で戦えたのです。どちらの戦いも、貢献度で言えば恩田さんが一番なんです」
それは、さすがに言い過ぎじゃないだろうか……?
「言い過ぎではありません。ヘラクレスビートルのファイナルアタック、確か岩石落としでしたか? 私はあれを無傷で切り抜けられる気がしません。恩田さんの盾ありきでの攻略だったのだと、後から考えると思うのです。
その後のダイブイーグル・ディザスターイーグル・ワイバーン戦に至っては、恩田さんが居なければ確実に負けていました。厄介な空からの攻撃をほぼ気にせず戦えたことが、圧勝できた最大の要因だと私は思うのです。
フレイムデビルも、ずっと恩田さんとフェルの様子を気にしているようでした。あまり戦いに集中できていなかったがために精彩を欠き、そこを私たちが突く形で勝てたのです」
「そ、そうか……?」
「はい、そうです」
口には出していなかったはずが、なぜか俺の考えていることを読んだうえで、三条さんが一気に熱弁をふるう。
「……とは言え、それでも恩田さんはかなりお気になさるでしょう? なので、これは私からの提案です」
俺が右手に持っている【鑑定】のスキルスクロールごと、俺の手を三条さんが両手で包み込むように握ってきた。
……ヒンヤリしているな。手が冷たい人は心が温かいと聞いたことがあるが、その俗説は正しいのかもしれないな。
……なんて、そんなどうでもいいことを考えていると、三条さんが再び口を開いた。
「たまにで構いませんので、鶴舞ダンジョンまで出張探索に来ませんか? その時に【鑑定】の力を振るって頂きたいのです」
「う〜ん、それは別に構わないんだが……移動手段はどうするんだ?」
「それでしたら、例の第5層ワープを使えませんか?」
「あ〜、あれか。確かに、あれなら徒歩で気軽に行けるか……」
さすがに、リアルだと徒歩で行ける距離じゃないからな。京都から名古屋へ行くならやはり新幹線が一番便利だが、交通費は相当にかかってしまうし、他に玄人好みのルートを選ぶとしてもお金と時間がかかってしまう。
……いくら気にならないくらいには稼げていても、根は小市民なのだ。そんなすぐには生き方なんて変えられないのだよ。
「ねえ、それってアメリカにも来れるノ?」
「アメリカに?」
それは、どうなんだろう……? 亀岡から鶴舞に行けるのだから、普通に考えれば日本からアメリカに行けてもなんらおかしなことではない。距離は相応に遠そうだけどな。
……ただ、仮に行けたとしても色々と問題がありそうだ。下手すると不法入国の温床になりかねないし、それでしょっぴかれても俺は一切反論できない。
「行けるかもしれないけど、リアル側で色々と問題が出てきそうだな」
「うーん……今のプレジデントは、そういうの厳しいからネ。確かニ問題カモ」
現在、アメリカで2期目の大統領職を務めている人は不法移民にめちゃくちゃ厳しい。それで国境に壁を作ったくらいなのだから、行動が早くて豪快で雑で……まあ、良くも悪くもアメリカのイメージそのままな人だ。
……もし、ダンジョンを経由した不法入国が発覚したならば、上を下への大騒ぎになるのは確実だろうな。
「そのうち、ちゃんと正規の方法でアメリカに行ってみたいものだな」
「ぜひ来てヨ、歓迎するヨ〜」
これは、いつかちゃんとアメリカに行かないとな。
「……分かった、それなら【鑑定】は俺が使わせてもらうよ。他の物は自由に分配してくれるか?」
「了解です」
「承知ヨ〜」
そう言って、三条さんとハートリーさんはふんわりと笑った。
……そして、最終的に三条さんが【火魔法】・【突撃】・【羽音】・【ウインドブレスⅠ】を取り、ハートリーさんが【風魔法】・【突撃】・【羽音】・【ウインドブレスⅠ・Ⅱ】を取った。装備珠はランク5の装飾珠をハートリーさんに譲り、後はランク4の装備珠を1つずつ使う形にしたようだ。
ちなみに、なぜか俺も装飾珠ランク4と【風魔法】のスキルスクロールを追加で貰うことになった。本当は【鑑定】だけで終わるつもりだったのだが、三条さんとハートリーさんから熱心に説得 (?)されて受け取ることになった。貰いすぎな気もするが……。
で、余った物は俺預かりの後に売却、またはオークションで換金となり、お金はハートリーさんに全て送ることになった。ハートリーさんに現物を持ち帰ってもらうことも考えたのだが、どうも迷宮関連基本法の中でダンジョン産の品を海外へ持ち出すことが禁止されているらしく、国内での使用または換金が必須となったのだ。
一応、迷宮探索開発機構は金融機関と連携していて、海外に送金することも可能らしいのでお任せするつもりだ。
「さて……」
分配が終わった所で、本来の目的を達成するとしよう。
……すなわち、台地の上に試練の間があるのか否か、を調査することだ。まあ、実はもう見つけてるんだけどね。
「……あるな、試練の間」
大理石のようなものでできた、小さな神殿が台地の端辺りにあった。
「……あれは、間違いなく試練の間ですね」
「局長に報告だネ〜」
【鑑定】のスキルスクロールが衝撃的すぎて、半ば頭から飛んでいたが……本来の目的を達成することができた。
よし、今日はゴブリンジェネラルを倒してから帰るとしようかな。
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