4−62:個人的MVP
「ブイッ!」
「ふぅ、なんとか勝てましたね」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
フレイムデビルがドロップアイテムに変わったのを確認してから、4人がそれぞれ笑顔を見せる。ただ、その表情は喜びというよりも、安堵の色がやや強いように思える。
「………」
数的有利があったし、三条さんとハートリーさんの実力は十分に知っている。圧勝とは言わないまでも、優勢を保ったまま勝てるとは思っていた。
それが蓋を開けてみれば、危ない場面はほぼ無く、まさに完勝と言って差し支えない戦い振りだった。4人それぞれが互いをサポートし合い、相手に付け入る隙を与えることなく最後まで押し切ってみせたのはさすがだと思う。
「……どうでしたか恩田さん、私たちの戦いは?」
「いや、まさに完勝だったな。特に三条さんの動きは見事だったと思う」
「あ、ソレは私も同意ネ〜」
「えっ、私ですか!?」
もちろん、ハートリーさんやシズク、コチの働きも相当なものがあったが……俺の個人的MVPを1人挙げるなら、やはり三条さんだろう。
出が早くて避けにくいフレイムスパイクを、三条さんが初見であっさり回避してみせたことが大きかった。あれで"フレイムスパイク"という魔法の存在が明らかになったことで、他の3人は"フレイムデビルに近付きすぎない"ことと"フレイムデビルが少しでも怪しい動きを見せたら、攻撃を潰すか距離を離す"ことを意識し始めたのだろう。結果としてフレイムデビルは攻撃行動の出始めを止められたり、距離を置かれて攻撃を空振らされてばかりだったように思うのだ。
それで打つ手を無くしたフレイムデビルが、強引に攻撃を放とうとして手痛い反撃を食らうパターンが後半だいぶ多かった。最後の【仲間呼び】が空振ったのも大きかったとは思うが、三条さんの最初の働きが最も光っていたのは間違いない。
「あれはそう簡単には避けられんよ。少なくとも俺には無理だ」
「ワタシも無理ネ。ミサキだからできたことヨ〜」
「そ、そうでしょうか……?」
あまり褒められ慣れていないのか、三条さんが頬を赤らめ照れている。
……横浜ダンジョンに来てから1週間ほどしか経っていないのだが、三条さんの探索者としての成長ぶりは特筆すべきものだ。もはや日本国内に、回避型前衛タイプで三条さんの右に出る探索者は居ないのではないだろうか。
「そういえバ、フレイムデビルって最後隙だらけだったよネ? アレ、なんでナノ?」
……そういえばそうだったな。ハートリーさんはなぜフレイムデビルが大きな隙を晒していたのか、その理由を知らないんだったな。
特に大した理由でもないので、俺の推測も交えてハートリーさんに教えておく。それを聞いたハートリーさんは大笑いしていた。
「アハハ、そんなことになってたのネ〜。それなら、フェルの力も借りてたってことナノカナ?」
「ぐぁぅっ!!」
『我が身より溢れ出す闇の波動が』うんぬん……いやまあ、実際そうなんだろうけどさ。デカくなったフェルの威圧感に負けて、ザコモンスターが近寄ってこれなかった可能性は大いにある。【サイズ変化】のスキルは、身に纏う威圧感の大きさまで一緒に変えてしまうのかもしれないな。
「……よし、そろそろお楽しみのドロップアイテム配分に入ろうか。おとといのやつも配分できてないし、ここでまとめてやってしまおう」
「ワクワク、ワクワク……」
「………」
実は、おとといの試練の間で得たドロップアイテムが一部分配できていなかったりする。通常モンスターの魔石はフェルやコチ、シズクに食べさせる分以外は売ったが、大魔石や装備珠、その他スキルスクロールなどは手つかずのままだ。数が数なのであまりに目立ちすぎ、人目に付く場所で分配作業ができなかったのだ。
ここなら絶対に人目に付かないので、まとめて分配作業を済ませてしまうのがいいだろう。フレイムデビルを圧倒した今なら、高ランク装備でも三条さんは受け取ってくれるだろうしな。
「………」
……さて、改めてフレイムデビルのドロップ品を見てみると、どうやらスキルスクロールが2つあるらしい。後は大魔石と、装備珠が2つかな? 中々に豪華なラインナップのようだ。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・一覧"」
フレイムデビルのドロップ品を回収してから、アイテムボックスの中身を確認する。さて、何が出るかな……?
☆
・炎獄悪魔の大魔石×1
・超重殻甲虫の大魔石×4
・飃嵐大鷲の大魔石×2
・装備珠(赤・ランク4)×3
・装備珠(青・ランク4)×2
・装備珠(黄・ランク4)×3
・装備珠(黄・ランク5)×1
・スキルスクロール【突撃】×2
・スキルスクロール【羽音】×3
・スキルスクロール【ウインドブレスⅠ】×4
・スキルスクロール【ウインドブレスⅡ】×1
・スキルスクロール【風魔法】×2
・スキルスクロール【火魔法】×1
・スキルスクロール【鑑定】×1
☆
「うわぁ……」
まあ、おとといはヘラクレスビートル3体とディザスターイーグル2体を倒して、今日はフレイムデビルを倒したからな。ドロップアイテムの大盤振る舞いになっていても、まあ不思議ではない (超重殻甲虫の大魔石が4個あるのは、前に亀岡ダンジョンで倒した分を1個仕舞いっぱなしにしていたからだ)。
……不思議ではないのだが、予想外にとんでもないスキルスクロールが出てきてしまった。
「……どうしたのですか?」
俺が相当凄い顔をしていたのだろう。三条さんが不安そうに尋ねてきた。別に隠すことでもないので、ちゃんと伝えておくことにする。
「【鑑定】のスキルスクロールだ」
「へ?」
「出たんだよ、【鑑定】のスキルスクロールが。フレイムデビルのドロップ品だ」
「オォ、カンテイ……【アナライズ】のスキルのことネ〜。それは確かに貴重ダヨ」
俺の記憶が確かなら、おとといにチラッと確認した時は入っていなかったものだ。それはつまり、フレイムデビルがコレをドロップしたことを意味する。
マジか〜……これ、お値段いくらぐらいになるんだろう? アメリカのどこかのダンジョンで出た時は、確か200万ドルぐらいで取引されたんだったっけか?
それが事実なら、今の為替で日本円に直すと……うん、3億円を超えるね。俺みたいな一般庶民が手にしていい金額じゃないな、確実に破滅するだろう。
「"アイテムボックス・取出"」
とりあえず、分配する分のアイテムを全てこの場に出す。ただ、スキルスクロールはどのスキルも全く同じ色と形をしているので、混ざらないように注意が必要だ。
……うん? ああ、これは使えそうだな。
「"アイテムボックス・取出"っと。え〜っと、これが【鑑定】で、これが【風魔法】で、これが……」
随分前のことのように感じるが、部屋を埋め尽くしていた前職の書類をまとめてアイテムボックスに放り込んだことがあった。いつか捨てようと思っていたのだが……見事に忘れて、未だにアイテムボックスの肥やしと化していた。その紙を裏紙として活用することにしたわけだ。
一応ペンも持ってきてるし、分かるように書いてしまおう。
「……改めて見ますと、もの凄い数ですね」
「スキルスクロールがコンナにたくさん! 初めて見るヨ、こんなノ!」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
三条さんは若干顔を引きつらせているが、ハートリーさん他2名は目をキラキラとさせていた。
「きぃ」
「ぐぉぅっ」
一方で、ヒナタとフェルは落ち着いている。ヒナタはまあ、ゴブリンキング戦やら何やらに参加しているから、この数も決して初見ではないのだが……フェルはなんで反応が薄いんだ?
「……ぐぁぅ」
……あ、違うわコレ。どうやらヘラクレスビートルの大魔石を見て、よだれを垂らしてるだけらしい。他には一切目もくれていない。
一方のシズクとコチはディザスターイーグルの大魔石に、ヒナタはフレイムデビルの大魔石に興味を示している。これは、大魔石の配分は決まったかな?
「みんな、興味を持ってる大魔石が違うみたいだ。数も足りそうだし、好きな物を持っていってもらおうかな」
「きぃっ!」
「ぐぉぅっ!」
「ええ、そうしましょう。コチ、好きな大魔石を食べて頂戴な」
「ひゅいっ!」
「シズクも、好きな魔石を取ってきてヨ〜」
「ざぶぅっ!」
三条さんとハートリーさんには、仲間モンスターの主食が魔石であることは既に伝えた。特殊モンスターの大魔石を食べれば、スキルが得られるかもしれないこともしっかり教えている。
仲間モンスターが思い思いの大魔石を取って食べ始める中……俺と三条さんとハートリーさんは、ほぼ同時にスキルスクロールへと目を向ける。多分だが、3人とも同じ物を視界に捉えているはずだ。
「さて、こっちはこっちで面倒な配分を終わらせようかね」
【鑑定】のスキルスクロール。ある意味で特級呪物ともいえるブツを、果たして誰が持っていくのか。
……まあ、このメンツなら話しがもつれることも無いとは思うがな。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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