4−57:テーブルランド
試練の間に挑戦した翌日は、しっかりと休養日に充てて……そのさらに翌日。
明日に岩守総理の来訪を控え、バタバタと準備に奔走する横浜ダンジョン職員さんを見ながらダンジョンへと入った。今は第5層を、下り階段目指して歩いているところだ。
ちなみに、今日はゴブリンジェネラルを倒した後に第9層を重点的に探索する予定である。
「なんとなく、試練の間が第9層のあの辺にありそうな気がするんだよな」
単なる俺の勘、というわけではない。実は、横浜ダンジョン第9層にはわりと目立つオブジェクト……というか地形があるのだ。
それに見覚えがあったのか、三条さんとハートリーさんが俺の呟きに反応を返してくれた。
「私も見ました。あのような形の山を、テーブルマウンテンと言うのでしょうか?」
「うーん、山というほど高くはないから……強いて言うなら台地かな?」
「それなら"テーブルランド"ネ〜」
平らな頂上を持つ、周囲よりも一段高くなっている場所。地上から頂上までの高さは大体30メートルくらいなので、かなり高いが山と言えるほどのレベルではない。どちらかと言えば、台地と呼ぶのがふさわしいだろう。
明らかに何かありそうな場所ではあるが、その側面はまさにそびえ立つ岩壁……手を掛ける場所も見当たらないほど綺麗な壁面をしていて、ロッククライミングの神様みたいな人でもアレを登るのは厳しいのではないだろうか。
自然界の岩壁ならアンカーが刺さるが、あの台地は丸々全てがダンジョンオブジェクトだからな……真紅竜クラスの化け物でもない限り、そう簡単に穴は空けられないだろう。一応は現地で確認してみるが、俺の予想通りになる可能性は非常に高い。
「あんな地形、亀岡ダンジョンには無かったんだけどな……やたらとデカい巨木が第6層にあったけど」
「ワタシの本拠地ダンジョンにも、テーブルランドは無かったヨ〜。第7層に深い谷はあったケドネ」
ハートリーさんも見覚えは無いらしい。その代わり、というわけでもないのだろうが……亀岡ダンジョンには第6層の巨木があり、ハートリーさんの拠点ダンジョンには第7層に谷があるという。そのどちらも横浜ダンジョンには存在しないので、ダンジョンごとに地形的・オブジェクト的な特徴を持っているのかもしれないな。
「誠にお恥ずかしながら、本拠たる鶴舞ダンジョンで私は第5層以降に立ち入ったことが無いのですが……大きな岩が第5層にいくつか転がっていると聞きました」
「ああ、確かにそんな感じだったな」
鶴舞ダンジョン第5層はくり抜かれた大岩の中に、上り階段が口を開けていたりしたしな。他にもいくつか大きめの岩があったような記憶がある。その岩々が鶴舞ダンジョンの特徴で、それらの中に実は試練の間への入り口があったりするのかもしれない。
なんせ、亀岡ダンジョンでも巨木のふもとに試練の間への入り口があったくらいだしな。それを他ダンジョンに置き換えれば、例えば巨岩の中腹とか谷の中とか台地の上とか……そういう場所に、ひっそりと試練の間への入り口が開いている可能性は十分にある。色々な理由で探索の足が向きにくい場所に、試練の間は存在することが多いからな……。
「「「ガウッ!」」」
「ぐぉぅっ!」
――ゴォォォォッ!
「「「キャウッ……!?」」」
藪から飛び出してきた3体のグレイウルフを、小さな姿のままのフェルが【ファイアブレスⅠ】を吐き出して炎に巻く。その一撃でグレイウルフはあっさり倒れ、魔石へと姿を変えていった。
……実はフェル、俺の仲間になったタイミングでだいぶ弱体化してしまったそうだ。具体的には【ファイアブレスⅡ・Ⅲ】、【ダークブレスⅡ・Ⅲ】が吐けなくなり、身体能力や魔力量も仲間になる前の時と比べて3割程度に落ちてしまったらしい。俺の仲間になってレベル1になってしまったことによる弊害で、レベルを上げればそのうち元の実力を上回るようになるそうだが……聞く限りだと道のりは遠そうだ。
まあ、元が強いので弱体化してもなお強いんだけどな。身体能力が落ちたとて、フェル以外の全員をまとめて空中に持ち上げられるくらいにはパワーがあるのだから。そんな強者と弱体化前に戦わなくて済んだのは、本当に運が良かったとしか言えないな……。
ちなみにフェル曰く、体が小さくなったのは【サイズ変化】というスキルを行使した結果であり、特に弱体化とは関係無いそうだ。
これは魔力を消費して体の大きさを変えられるスキルで、俺の頭に乗るくらいのぬいぐるみサイズから元のインフェルノワイバーンのサイズまで、ある程度の範囲内ならば自由に大きさを変えることが可能なのだとか。サイズが小さくなると体重も軽くなるのだが、それでも攻撃力や防御力、敏捷力なんかは一切変化しないらしい。
……なんでもアリなんだな、スキルって。ギフトもそうだが物理法則を完全に無視している。魔力というリソースを消費して、結果だけを強制的に引き起こしているような……そんな感じがするのだ。
まあ、それがあるからこそ肉体的にはひ弱な人間もモンスターを相手に、互角以上に戦えるのだと思うけどな。科学技術の粋を集めて作られた武器が、ダンジョン内ではまるで役に立たない以上……ギフトやスキル、そしてダンジョン産の武器を駆使して知恵で立ち向かわなければ、身体能力で勝るモンスター相手には絶対に勝てないのだから。
「ぐぉぅっ!」
「よっ、さすが竜王様っ! イカしてるなっ!」
「ぐぉっ!!」
……何を言ってるんだお前は、と言われるかもしれないが俺としては超大真面目に言っている。正直こっ恥ずかしいが、こう言ってやるとフェルがめちゃくちゃやる気になってくれるので恥を忍んで声掛けしているわけだ。俺に厨二病が伝染したわけではないので、そこは安心 (?)して欲しい……って、俺は誰に対して言ってんだろうな?
まあ、それはともかく。ただの宴会ノリにしか見えない俺の煽りが功を奏したのか、フェルのやる気は留まるところを知らず……ここまで全てのモンスター (第4層を含む)をフェルが倒している。
「……きぃ」
「……ひゅい」
「……ざぶぅ」
……だからなのか、3人が凄く暇そうだ。コチは頬を膨らませて不貞腐れてるし、シズクはフェルにジト目を送ってるし……ヒナタは自分が先輩だからと自制しているが、やはり戦いたくてうずうずしているようだ。そろそろ3人にも出番を与えてやらなければならない。
「「「………」」」
俺と三条さんとハートリーさんで、そっと顔を見合わせて頷き合う。
「よし、フェルよ。君の出番はここまでだ」
「ぐぁぅ?」
「そろそろ、他の者にも出番を与える必要があろう? それこそが竜王の務めではないかな?」
「ぐぉぅ……」
フェルがそっと周りを見回す。
「ぐぉっ!」
そうして、力強く頷いてくれた。
「よっしゃ、それでこそ竜王たる者の行動だな!」
「ぐぉぅっ!」
……なんというか、フェルってチョロいな。俺、フェルさんの将来が心配です……とまあ、冗談は置いといて。
「"アイテムボックス・収納"」
グレイウルフの魔石は、忘れずきっちりアイテムボックスに収納しておく。
「うし、ここからはコチとシズクに戦闘を任せようかな。ヒナタは空から偵察だが、遠くのモンスターは倒してしまっても構わないぞ?」
「きぃっ!」
「ふふ、行きますよ、コチ」
「ひゅいっ!」
「ここからはワタシたちのターンだヨ、シズク!」
「ざぶぅっ!」
ようやく出番が訪れて、特にコチとシズクが意気込んでいる。風属性を司る妖精と、水属性を司る妖精……中々その実力を見る機会が訪れなかったが、ようやく実現することができた。
さて、2人の実力を見せてもらおうかな。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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