4−56:報告、新たなる仲間と共に
「……ふむ、試練の間をクリアした、か」
真っ直ぐダンジョンを出た俺たちは、すぐに持永局長の所へ報告に向かう。その証拠である、フェルとコチとシズクの3人も連れて、だ。
「ぐぉぅ、ぐぉぉ」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅ!」
3人が、各々おそらく挨拶と思われる言葉を返す。
……おそらくと言ったのは、唯一言っていることがちゃんと伝わるフェルが"ほう、我がマスターの更なる上役か。よろしく頼むぞ、持永とやら"と、微妙に上から目線でものを言っているからだ。それが持永局長に伝わっていないのは、ある意味で不幸中の幸いかもしれないな……。
「……ふむ、よろしく頼む。正直なところ、君たち3人とも拠点が横浜ダンジョンでない部分については、思うところが無いわけでもない。しかし、試練の間で得た大量の魔石やドロップ品をここで捌いてくれる以上、それは我らがダンジョンの実績となるからな……試練の間を見つけた経緯もあって、あまり強く言うこともできぬのだ」
「「「………」」」
広いテーブルの上に積み上げられた、山のような大量の魔石……実は、そこにはヘラクレスビートルやディザスターイーグルの魔石は含まれていないのだが、それでもなかなか壮観なものだった。しかし、それを見る持永局長の表情は少し微妙なものだった。
……試練の間の入り口を開けた石板は、第4層の宝箱から得ている。そのきっかけが俺の特異な探索方法によるもので、第4層のモンスターを全滅させなければ宝箱は永久に見つからなかっただろう。
そして、横浜ダンジョンのエースたる嘉納さんと菅沼さんの探索は、深層への挑戦が主な目的だ。のんびりと第10層辺りまでをうろつく俺たちとは、根本的に探索の目的が異なっている。
それゆえ、試練の間への挑戦は留学組の4人だけで行ったのだが……よくよく考えてみれば、持永局長として思うところがあってもおかしくない。その辺の配慮が足りなかったのは、確かにその通りだと思う。
……ただ、横浜ダンジョンでは他に試練の間は見つかっていないそうなので、まだまだチャンスはあるのではないだろうか。
「そうですね……もし俺たちがいる間にそのような情報を得た場合は、次は横浜ダンジョンの方にお譲りします」
なんとなくだが、俺が横浜ダンジョンにいる間にもう1つくらいは試練の間を見つけられるような気がする。横浜ダンジョンに来て最初の探索でポーションを手に入れてるし、思いがけずフェルも仲間にできた。その幸運の揺り戻しがまだまだ続きそうな、そんな気がするのだ。
俺としては、試練の間を見かけるとどうしても気になってしまうので、できれば遭遇したくないのだが……そうもいかないんだろうなぁ、きっと。もしかしたら、俺はそういう星の下に生まれてしまったのかもしれないな。
「……ほう、試練の間を見つける自信があると?」
「確約はできません。ただ、見つかる時は立て続けに見つかるものですので……案外、明後日の探索で見つかるかもしれません」
「……ふむ、明日は休養に充てるのかね?」
「はい、そのつもりです」
持永局長の言う通り、明日1日は休養日にするつもりだ。今日はだいぶ早めに帰ってこれたが、試練の間をこなした疲れは俺もヒナタも間違いなく溜まっている。その状態で無理をするわけにはいかない。
……最後の最後に、超特大級の恐怖体験もしてきたしな。試練の間で陽が完全に沈み、薄暗闇となった草原の遥か向こうから聞こえてきた、あの不気味な嗤い声……声の主とは遭遇しなかったものの、試しに相まみえてみようかという興味本位すら吹き飛ばしてしまうような、異常なまでの威圧感を伴っていた。その圧の強さたるや、真紅竜のそれに勝るとも劣らないレベルだった。
三条さんとハートリーさんは唖然と立ち尽くしていたし、ヒナタやフェル、コチにシズクも完全無言だった。それだけ、あの声の主が圧倒的な強さを持っているということだろう。出くわさなくて本当に良かったよ。
なお、三条さん・ハートリーさんとは事前に休養することを相談したが、俺に合わせて2人も明日は休養日にするらしい。仲間になったばかりのフェルやコチ、シズクとも親交を深めたいところだったから、ちょうどいいかもしれないな。
「……そうか。ぜひ、試練の間を見つけたら情報提供をお願いしたい。もちろん、局長の権限の範囲内で謝礼を出そう」
「分かりました」
タダではない辺り、やはり律儀な人だな。
「……ところで、以前恩田殿から提案があった、ダンジョンライブ配信の件なのだが」
「あ、日取りと参加者が決まりましたか?」
「……うむ」
俺の問い掛けに、持永局長が頷く。色々と柵があると聞いていたので、もう少し調整に時間がかかるかと思ったけど……意外と決まるのが早かったな。
まあ、別に1回だけ撮るとは限らないからな。亀岡ダンジョンでは既に10回近くライブ配信をやってるし、横浜ダンジョンでも複数回配信してもいい。単に、記念すべき1回目の撮影に誰が参加するかの駆け引きでしかないからな。
「……急で申し訳ないが、日時は3日後の午前9時開始予定でお願いしたい。恩田殿が良ければ、先方にはこちらから伝えよう」
3日後……明日が休養日で明後日が普通の探索日だから、その次の日か。ちょうど良いんじゃないか?
「俺は構わないですよ」
「……ありがとう。参加者は、横浜ダンジョンからは嘉納と菅沼、私の3人が参加する。三条殿とハートリー殿、その使い魔の皆にもぜひ参加して欲しいのだが、大丈夫か?」
「はい、私は差し支えありません」
「ワタシも、大丈夫ヨ〜」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅ!」
コチとシズクが手を上げて返事するが、これで自動的にヒナタとフェルも参加することが決まったな。特にフェルは目立つことが好きそうだし、乗り気で出演てくれそうだ。
「ぐぁぅ、ぐぉぉぉ、ぐぉぅ!」
ほら、『遂に我も世に名が知れ渡る時がきたか。我が身に宿る獄炎の力、とくと見せつけてやろう』とか言ってるし。
……でもな、残念ながら一番目立つべきはフェルじゃないんだよ。
「もちろん、そこにスペシャルゲスト的な方が来られるんですよね? どなたが来られるんですか?」
持永局長がまだ言っていない、スペシャルゲスト……まあ、いわゆる大物の存在が残っている。どんな人が来るんだろうな?
「……うむ、それがだな……」
……? なんだ、持永局長の歯切れがなんだか悪いな……そんなにヤバい人なのか?
持永局長は少し言いにくそうにしていたが、やがてその大物の名前を口にしてくれた。
「……政府関係者として、岩守総理が来られる。自衛隊上がりで、ギフトも得たSPも若干名来られるようだ」
「「「!?!?」」」
は、え? 総理……!?
「いやいや、嘘だろマジかよ!?」
「……嘘ではない、マジだ。あと、言葉遣いが素になっておるぞ」
「……おっと、これは失礼しました」
あまりに驚きすぎて、口調がついラフになってしまった。少し落ち着こう……。
「オゥ、プライムミニスターが参加するのですカ〜?」
「……そうだ。恩田殿に自覚は無いだろうが、今や日本を代表する探索者の1人なのだよ、君は。それこそ、総理の耳にも入るほどには有名なのだ」
「へぇ……」
その辺、なんか自分ではやっぱりよく分かってないんだよなぁ。きっかけが亀岡ライブ配信なのは分かるんだが、俺なんてどこにでもいるような凡人だぞ? おっさん1歩手前の平凡な男がダンジョン探索する姿を見て楽しいのかねぇ?
……いや、もしかすると朱音さんや九十九さん、帯刀さんを見るために視聴してる層が多いのか? そのオマケで有名になったのなら納得できるんだがな。
「それにしても、よく数日足らずで調整が付きましたね? 日本国政府の実務トップの方ですよ? 相当先まで予定が詰まっていたのでは……?」
特に、岩守総理は最近辞意を表明したばかりだ。引き継ぎの準備などで相当大変なのではないだろうか?
「……うむ、そこは岩守総理たっての願いでな。72時間ぶっ続けで仕事してでも、自身が総理であるうちにダンジョンへ入っておきたかった、とのことだ。ちょうどそこにダンジョンライブ配信の話を聞いて、ぜひとも参加したいと打診があった。
今までは安全上の理由から止められていたのだが、辞意を表明したのだからもういいだろうと言って押し切ったそうだ」
「………」
……なんか、最近似たような流れを見たことがあるような気がする。具体的には亀岡ダンジョンライブ配信の第1回目で、団十郎さんが急遽の予定変更をゴリ押したのと同じ雰囲気を感じるのだ。
関係者の皆さま、お疲れ様です……。
「……どうも、外遊の際に毎回ダンジョン後進国だと言われるのが相当悔しかったそうでな。次なるエネルギー国策の柱として、ダンジョン探索者には相当期待しているのだそうだ。
ダンジョン関連基本法が無事制定できたのも、岩守総理の強力な推進があったからこそなのだよ。だから、私個人としてはとても感謝しているのだ」
……なるほどな。エネルギー資源の乏しい日本からすれば、ダンジョンはまさに現代に生まれた新たな炭鉱……危険と隣り合わせな点や日本にとって非常に重要なものである点も含めて、両者は大変似通っているわけだ。
それが分かっていて、岩守総理はダンジョン関連基本法の施行を強力に推進したのか。辞意を表明したということは、色々と障害もあったのだろうが……探索者の端くれとして、やはり感謝すべきなんだろうな。
「分かりました、俺も微力を尽くしますよ。絶対にライブ配信を成功させましょう」
「……ありがとう、当日はよろしく頼むよ。準備はこちらで全て整えるから、恩田殿は体調を完璧に整えておいてくれ」
「了解です」
さて、総理を迎えるなら準備は万全に、だな。
そのためにも、仲間になったばかりのフェルとコチとシズクにはたくさん魔石を与えなくては。明後日は少し、気合を入れて探索するとしようかな。
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