4−54:横浜ダンジョン・試練の間クリアと報酬
『……試練の間をクリアいたしました。よもや、黒焔獄竜が使い魔になりたがるとは思いもよりませんでしたがね……』
フェルが正式な仲間になった後、明らかに困惑した様子のメッセージが目の前に浮かび上がってきた。まあ、そこに関しては俺も同意だ。
まさか、こんなところで2人目の元モンスターの仲間を得られるとは思っていなかった。しかもどちらも飛行型、かつ得意属性が被っていない (と思われる)ので活躍の機会はどちらにもある。フェルが仲間になってくれて、本当に嬉しいよ。
「ぐぉ♪」
なお、フェルは定位置を俺の頭上に定めたようだ。短くなった両手両足で器用にしがみつき、ウォーターベレーに代わって俺の帽子みたいな状態になっている。体が小さくなると質量も減るようで、今のフェルはとても軽いので首への負担も非常に少なく済んでいる。
「フェルさん、もう馴染んでますね……」
「もしかしテ、ミスターオンダってモンスターたらし?」
「モンスターたらしってなんだよ……」
どちらかと言えば、モンスターホイホイな気がするけどな。別に望んでるわけでもないのに、やたら特殊モンスターと遭遇する率が高いしさ。
……まあ、とにかくこれで俺たちは正式に試練の間をクリアした。既に敵は居ないのだから、当然と言えば当然だがな。
メッセージが言っていた"黒焔獄竜"というのは、おそらくインフェルノワイバーンの正式名称だろう。イメージから連想して付けた名前だったが、わりと正式名称に近い意味合いになったみたいだな。
おっと、そうだった。ここで確認しておかないといけないことがあったな。
「ところで、ワイバーンにはちゃんと勝ったんだからもちろん報酬は増量してくれるんだよな?」
メッセージの主に向けて、努めて強気にそう問い掛けた。
……ただ、そうは言ったもののワイバーンはインフェルノワイバーンへと特殊個体化して、さらに俺の仲間となっている。フェルは元のワイバーンと同じ個体だと言えなくもないので、厳密には倒したと言い切れない状況だ。問い掛けの中で『ワイバーンを倒した』ではなく『ワイバーンに勝った』という表現にしたのも、その辺の事情があったりもするわけだ。
ただし、俺たちはワイバーンをきっちりと追い詰め、トドメの一撃もしっかり入れている。ワイバーンに対して勝利した、というのは事実として確かに存在しているので、そこは強気にいかせてもらうつもりだ。
むろん、そこはメッセージの主も分かっているはず。となれば、返ってくる答えは……。
『それは、さすがに詭弁ではないでしょうかね? ワイバーンは途中で黒焔獄竜に変わっているのですから、倒したとは到底言えないでしょう』
「ははは、そう言うと思ったよ」
さて、ここからは落とし所を見つけていく時間だな……とはいえ、実はそんなに難しい交渉でもないんだけどな。主に俺が欲張らなければ、妥協点は十分探れるだろう。
俺自身、ただ貰いすぎるのは何となく落ち着かなくて嫌になる人間なので、そこは問題ないと思う。
「まあ確かに、勝敗という意味では間違いなくワイバーンには勝ったが、ワイバーンそのものは倒せてないな」
『そうですな、私も同じ考えでございます』
「そうだろうそうだろう……そこで、だ。俺に関しては、専用の報酬を得る権利を放棄しようと思う」
『「「えっ?」」』
今回は特に、プラチナ宝箱なんざ要らんのだ。
「フェルを仲間にしておいて、これ以上求めるのは欲張りすぎだという自覚もあるからな。俺はもうプラチナ宝箱は要らないよ。
代わりにこちらの2人、三条さんとハートリーさん専用の報酬を1つずつ貰い受けたい」
「えっ!?」
「チョット!?」
ワイバーンに勝利してはいるが、倒してはいない。そのワイバーンは、今は俺の仲間になっている。
この辺の微妙な状況を鑑みれば、これが最適な落とし所だと思うがな。さあどうする、メッセージの主よ。
『……なるほど、承知した。それでは罠無しのプラチナ宝箱を2つ用意しよう。いずれも専用アイテムとして用意するゆえ、恩田高良は使用不可となるが本当に良いのだな?』
「ああ、大丈夫だ」
『よろしい、では報酬内容確定だ』
メッセージが大きな1つの白い光玉へと変わり、それが2つに分かれていく。そして、それぞれの小さくなった玉が三条さんとハートリーさんの前に1つずつ下りていき……。
――ゴトンッ!
プラチナ宝箱に変化していく。それぞれの宝箱には"三条美咲"、"リンダ・ハートリー"と名前が書いてあり、一目で専用品が入っていることがよく分かった。
「これが、試練の間の報酬ですか……!」
「キレイな色のトレジャーチェストネ〜。ワタシ、初めて見たヨ」
2人にとっては初となるであろうプラチナ宝箱に、テンションが見るからに上がっていく。
「これが試練の間の報酬、プラチナ宝箱だ。これに罠は無いらしいから、遠慮なく開けてくれていいぞ」
「罠が仕掛けられたパターンもあるんですか?」
「俺が初めて開けたプラチナ宝箱が、まさにそのパターンだった。ダンジョンの壁や床を破壊する化け物が現れて、試練の間を脱出するまで追い回されたよ」
「真紅竜、だったっケ? そんなのがいるダナンテ、ダンジョンはまだまだミステリーで一杯ネ〜」
「……本当に、大丈夫なのでしょうか?」
俺の言葉を聞いて、罠が無いと言われていても不安になったのだろう。ハートリーさんは槍の穂先で、三条さんは刀の切っ先でそれぞれプラチナ宝箱を引っ掛けて開け始めた。
――ギギギ……
鈍い音を立てながら、プラチナ宝箱が2つとも開く。
……そのまま1分ほど様子を見ていたが、何も起こらない。メッセージの主が伝えてきた通り、どうやら罠は仕掛けられていなかったようだ。
「………」
意を決したように、三条さんがプラチナ宝箱の中を覗き込む。そして、その中にあった物をそっと両手で取り出した。
「これは……?」
三条さんがその手に持っていたのは、謎の水晶玉だった。人の頭より一回り小さなそれはガラスのように透明だが、中心部に深緑色のエネルギーのようなものが渦巻いている。見ようによっては、中心部の深緑色の何かを封じているようにも見えるな。
だが、その深緑色の何かからは嫌な感じが全くしない。爽やかに吹き抜ける風のような、心地良い気配をそこから感じるのだ。
「風の魔力、か……?」
なんとなくだけど、この水晶玉は三条さんの魔力にしか反応しない気がする。メッセージの主が三条さん専用と言ったのは、おそらくそういうことなのだろう。
「オゥ、ワタシも水晶玉だったネ〜」
続けてハートリーさんが取り出したのも、やはり水晶玉だった。こちらは玉の中心に、瑠璃色のエネルギー的なものが渦巻いている。この瑠璃色の何かからも、清流のせせらぎのような心地良い気配を感じる。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"っと……2人とも、それに魔力を流し込んでみるといいかもな」
2人にそう声を掛けながらも、徐々に夜のトバリが下りていく試練の間の中でドロップアイテムを回収していく。
……あの夕陽が沈み切った時に、おそらく試練の間は時間制限を迎えるのだろう。戦闘中は夕陽に動きが無かったようなので、ドロップアイテムを回収したりプラチナ宝箱のアイテムを確認したりするのに時間制限がかけられているのかもしれないな。
「では……」
「やってみるネ……」
2人は両手で包み込むように水晶玉を持ち、目を閉じる。
――パァァァァッ!!
「!?」
「ぐぁぅ!?」
「きぃっ!」
瞬間、水晶玉からそれぞれ深緑色の光と瑠璃色の光が溢れ出し、辺りを包み込む。その強烈な光量に俺は目が眩んでしまったが、しかし2人は全く微動だにしない。
……やがて、光が収まる。
目を何度も瞬かせながら、どうにか2人の様子を確認する。既に水晶玉は消えてしまったようだが、代わりに2人の手の中には……。
「……ひゅい?」
「……ざぶぅ?」
4枚の半透明な羽根が背中から生え、それぞれ深緑色と瑠璃色のワンピースを着た、人型の妖精のような存在が居た。
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