4−51:VSワイバーン・中編
「グォォォオオォォオォッ!!」
――ゴォォォッッ!!!
空を飛ぶワイバーンの口から、灼熱の炎が放たれる。
……またもや真正面からとは、芸が無いな。怒りのあまり、攻撃方法までワンパターン化しているのかもしれない。
「盾展開!」
――ブォン
それを今回は、新幹線車両をまねた似非流線型に防壁展開して受け流す。
……よし、さっきよりも圧力が少ないな。魔力消費量も抑えられてるし、なかなか良い感じだ。
――バヂヂッヂヂヂッ
「……?」
ただ、なんだか少し手応えがおかしい。圧の強弱が変化しているのもそうだが、なんとなく圧を感じる方向も変化しているような……って、まさか!?
「グォォォオオォォッ!!」
炎が晴れると、そこには既に攻撃体勢へと入ったワイバーンの姿が。高速で滑空しながら、左腕を大きく振りかぶっている。ファイアブレスはただの目眩ましで、その後に放たれる爪攻撃が本命だったようだ。
「おいおい、頭に血が昇ってるんじゃないのかよ!?」
――ダッ!!
怒り心頭ではあっても、我を忘れるほど激昂はしていないということか。同じ手を2度使わない、単なる力押しで来ない相手は本当に厄介だな。
今は防壁を張っていて、防壁も含めての完全回避は既に間に合わないタイミングだ。ゆえに次善の策として、爪を真正面から受け止めないために全力で横っ飛びする。
――ブォッ!!
――バヂヂヂヂッ!!
爪攻撃が流線型の防壁に当たり、掠めるようにして後ろに逸らされていく。ワイバーンの必殺の一撃をどうにか受け流すことができたようだ。
ダメージは無く、魔力消費も受け流しが成功して最小限だった。クイックネスを早めに使ったことが、どうやら功を奏したようだ。
――ザザザザザ……
「……っ!」
……それでも、圧力まで完全にいなし切ることはできなかったらしい。爪に押されて軽く吹き飛ばされ、体勢は崩さなかったものの地面を滑っていく。
戦前の予想通り、あの巨体が空を飛んでいるというのはかなりの脅威だ。ゴブリンやグレイウルフなどとは比べ物にならないほどのパワーを持ち、空中という人間が対応できない空間を十二分に使って放たれるワイバーンの一撃は、漏れなく必殺の威力を持っている。まともに食らえば、体の一部は確実に持ってかれるな。
「グォォォオオォッ!!」
俺が無傷で立っているのを見て、ワイバーンが空中で怒りの咆哮を上げている。変わらず血走った目でこちらを見ているが……これは、注意が必要だな。
怒っていても冷静にフェイント攻撃を仕掛けてくるような相手だということが、今の戦闘でよく分かった。こうなると、俺を攻撃すると見せかけて他の3人に殴りかかっていく可能性は十分にある。ヘイトはしっかりと稼いでいかなければな。
「………」
さて、"飛竜と言えばリ◯レウ◯"という勝手なイメージを抱いている俺だが、リ◯レウ◯はシリーズの途中で弱点属性が変わっている。最初は水・氷で、今は雷かな? そのイメージで【雷魔法】を撃ってみたものの、見事に弾かれてしまった。
ならば、次に試すは水か氷か。ポ◯モンだとドラゴンタイプの弱点は氷だから、氷からいってみようかな。
「……"エンチャント・アイス"」
――ピキィン
テンリルワンドを背中にこっそりと回し、氷のエンチャントを施す。この状態で攻撃を当てれば、氷属性のダメージが上乗せされる。
……果たして、氷属性はワイバーンに効くのだろうか?
「グォォォッ!!」
――バサッ!
一瞬ワイバーンが大きく浮き上がった後、翼を広げて滑空してくる。今度は爪ではなく、すれ違いざまに尻尾を叩き付けてくるつもりのようだ。
……チラリと見えたワイバーンの口の中は、電柱さえも噛み砕いてしまいそうなくらい太く鋭い牙がびっしり並んでいたのだが。なぜか噛みつき攻撃をしてくるような気配は無い。もしかしなくても、口の中は弱点なのかもしれないな。
ならば、次にファイアブレスを吐き出すタイミングで口を狙ってみるか? かなりシビアだが、狙ってみる価値はあるだろう。
「グァゥッ!!」
――ブゥンッ!
丸太のような太い尻尾が、勢いよく打ち付けられる。今回は一切のフェイントが無く、真っ直ぐ正面からバットのように振り抜かれてきた。
――バヂヂヂヂッ!
「くっ……!?」
――ズザザザザ……
流線型の防壁をうまく利用して、尻尾を上に弾き上げる。それでも圧力をいなし切れず、弾かれ地面を滑っていく。
……思ったよりもワイバーンの攻撃に対処できているが、この盾が無かったら多分もうやられてただろうな。ヘラクレスビートルといい、ゴブリンキングといい……本当に、この盾には何度も助けられてるな。
「"フリージングボルト"!」
――バチッ!
すれ違いざまに、氷属性を乗せたサンダーボルトを放つ。電撃は特にかわされることもなく、ワイバーンに直撃した。
――パキパキッ!
「グァゥ」
雷撃が着弾した場所から、氷の花が咲き乱れる。ワイバーンの体表に、白く薄っすらと霜のようなものが張り付いた。
……しかし、ワイバーンにダメージはほぼ無さそうだ。『この程度か』という言葉が聞こえてきそうな感じで、相変わらず余裕の表情を浮かべている。
どうもこのワイバーン、防御力に絶対の自信を持っているのか、攻撃後の隙がかなり大きい。というか、隙を消すつもりが無い感じだ。
『ダメージを与えられるものなら、見事与えてみせろ。こっちはわざと隙を晒してるんだからな』……そう言わんばかりに、こちらを侮り見下してくるのだ。俺に対して激怒し超敵視しているというのに、妙に冷静なところがあったり……何とも複雑怪奇で、面倒くさい性格をしたワイバーンなようだ。
しかしまあ、まだ俺たちを侮ってくれているようだな。怒りのボルテージが少し下がってしまったのが気になるが、もしかするとこちらの攻撃が通じないと判断して、怒るのをやめたのかもしれないな。
よし、ワイバーンの冷静さを失わせるためにも、ここらで1発ドーンと顔あたりに攻撃を加えて――
「――"アクアスパイク"!」
――ドシュッ
と、ここでハートリーさんからの援護射撃が飛んでくる。水でできた槍を鋭く飛ばす、ハートリーさんお得意の水属性の魔武技だ。弾速はさして速くないものの、ワイバーンはそちらに全く注意を払っていないのでどこかには当たるだろう。
――バシャッ!
――バギッ!!
「グォォォッ!?」
水槍がワイバーンの左脚後ろ付近に当たり、なんとそこの鱗が剥がれ落ちた。痛みはほとんど無いようだが、ワイバーンがひどく驚いたような様子を見せている。
……となれば、次のワイバーンの行動は自ずと予測できる。
「グォオオォォォッッ!!」
「ワオ、こっち向いた!」
ほらね、やっぱり。絶対下手人の方にヘイトが向くよな。
しかしまあ、余裕綽々だったワイバーンがあれだけ劇的な反応を見せたのだから、ワイバーンにとって相当不都合なことが起こっているに違いない。ということは、だ。
「"サンダーボルト"!」
――バヂッ!
ハートリーさんの攻撃を受けて、鱗が剥がれ落ちた部位……そこが弱点に変わってるんじゃないだろうか?
試しに、さっきは弾かれた【雷魔法】を改めて撃ち込んでみることにした。ちょうどワイバーンがハートリーさんの方を向いているので、鱗が剥がれた部位も俺の方を向いている。
……鱗は灰色だったが、その下は少し赤みがかった白色をしているな。
――バヂヂヂヂッ!
「グァァォォォォッ!?」
よし、今度はちゃんと効いてるな。ワイバーンが明らかに怯み、痺れたのか翼の動きが鈍くなっている。
やはり、鱗が剥がれるとそこが弱点部位になるようだ。そして、そのトリガーは……。
「ワイバーンは水属性が弱点だ! ハートリーさん、ジャンジャン撃ち込んでくれ!」
「ラジャー! いっくヨ〜、"ウォーターショット!"」
――バシュッ!
――ドドドドドド!
「グァォゥッ!?」
ハートリーさんの槍から水の散弾が放たれ、ワイバーンの全身を撃ち据える。さすがにアクアスパイクよりは威力が低いからか、1発で鱗が剥がれ落ちるようなことはなかったが……いくつかヒビが入り、あと一押しで剥がせそうな部位が一気に増えた。
弱点さえ分かれば、後は慎重に押し切るのみ。今回の試練の間は、ハートリーさんがMVPになりそうだ。
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