4−50:VSワイバーン・前編
「全員、防壁の中に!」
「「はい!」」
「きいっ!」
全員で防壁の中に入り、まずはワイバーンの出方を見ることにする。ワイバーンは相当な巨体ゆえ、その攻撃力はかなり高いはずだから……攻撃のパターンや予備動作など、まずはワイバーンの情報を集めるところから始めようと思っている。
……特殊モンスターは、元になるモンスターの特徴からある程度の攻撃パターンを見積もることができる。元の個体の強化版みたいな攻撃が多いので、初見でもある程度の予測を立てながら戦うことができるわけだ。
だが、ワイバーンは違う。俺の知る限り、ワイバーンは世界で初めて人類が戦うモンスター……その情報は、メッセージから伝えられたものを除いて一切無い。ゆえに、相手がこちらを侮ってくれているうちに行動パターンを把握してしまいたいと考えている。
……なので、魔力残量は十分にあるけど余裕があるとは思っていない。攻撃パターンを割り出すのに、何度も攻撃を防壁で受け止めなければならないことは確定してるからな。果たして何回耐えられるのやら……。
ただ、さすがの試練の間も全く太刀打ちできないようなモンスターを倒せとは言わないはず。うまくやれば、俺の防壁でも数十回くらいは攻撃を止められるだろう。
「グォォォ……」
――バサッ! バサッ!
ちなみに今さらだが、ワイバーンは両腕があるタイプの飛竜だ。リ◯レウ◯のように腕が翼になったようなタイプの飛竜ではなく、ワイバーンは一対の翼とは別に両腕・両脚を持っている。加えて尻尾と長い首を持ち、全体的に太くてがっしりした体格を持っているのがワイバーンの特徴だ。
そのフォルムは非常に攻撃的な形をしているが、反面あまり速くなさそうではある。さて、その答えやいかに?
「グォォォオォォォッ!!」
――ゴォォォゥッ!!
まずは小手調べとでも言わんばかりに、ワイバーンが口から炎を吐く。あのメッセージの内容が正しければ、ワイバーンのこの攻撃は【ファイアブレスⅢ】で間違いないだろう。確かに、ハイリザードマンが最後に吐いてくる【ファイアブレスⅡ】よりも火力は高そうだ。
「き、来ました! ファイアブレスです!」
「ヒエッ!? だ、大丈夫、大丈夫ヨネ!? す、すごく強いヨ!?」
「きぃっ!?」
3人からすれば、今まで見たことが無いような火力の攻撃だろう。ヘラクレスビートルの岩石落としは見ていても、煌々と燃え盛る炎が迫ってくるのを見るのはまた別種の恐ろしさがある。
もっとも、俺の場合は比較対象がアレなので……。
――バヂヂヂヂヂヂッ!!
「……まあ、こんなもんか」
炎の圧は多少感じたものの、放物線の形をした防壁に炎が流されて後ろに逸らされていく。真正面から受け止めたが、思ったよりも魔力消費は少なく済んだ。
……これ、もうちょっと防壁の形を工夫できそうだな。炎の流れも空気の流れみたいなものだと考えれば、新幹線の前面形状みたいにしたら魔力消費を抑えられそうだ。
「お、恩田さん余裕ですね……正直、私は気が気でなかったです」
「この盾、凄い防御力ネ〜。ディザスターイーグルのウインドブレスも軽く弾いてたシ」
「まあ、俺が最初に攻略した試練の間ではもっとヤバいファイアブレスを吐く奴に追いかけられたからな。あれはさすがに受け止められなかった」
こうして、強敵とされるモンスターと対峙する度に思う。威圧感も、攻撃力も、絶望感も……真紅竜は全てが桁違いだった、と。
不壊のダンジョンオブジェクトすら力ずくで破壊する化け物が、大部屋を埋め尽くす猛烈な爆炎でもって攻撃してくる様は恐怖でしかなかった。あれこそまさしくドラゴン、ファンタジーにおける暴力と恐怖の存在が具現化したものだった。
あの時は本気で人生終わるかと思ったが、今は経験しておいて良かったとさえ思う。あれ以上の地獄は、そうそう体験することはないだろうし……実際問題、こうしてワイバーンと対峙していても"あの時よりはマシ"と考えられるから、冷静さを失わないでいられる。
もちろん、2度とあんな体験はしたくない……というのも、俺の偽らざる本音だけどな。
「グォォォッ!?」
炎を防がれたことに苛立ったのか、ワイバーンが目を剥いて唸り声を上げている。ある程度予想はしていたが、随分と沸点が低いんだな、このワイバーンは……。
……よし、これだけ怒りっぽいならヘイトコントロールもラクそうだ。強敵相手にヘイトコントロールは必須、というのはもはや格言みたいなものだからな。ゴブリンキングの時もそうだったが、今回も俺が引きつけた方が良さそうだ。
「みんな、俺がワイバーンを引きつける。みんなは隙を見て、ワイバーンに攻撃を仕掛けてくれるか?」
「わ、分かりました!」
「リョーカイよ!」
「きぃっ!」
「よしっ、防壁縮小」
――ブゥン……
あえて防壁を小さくし、1人離れた場所に移動していく。
「グァウ?」
――バサッ、バサッ……
それを、ワイバーンが空中から怪訝そうに見下ろしている。明らかに目立つ動きゆえ、予定通り俺に注意を向けたようだ。
……そして、ここまでの様子を見る限りではワイバーンというのはそれなりに高い知性を兼ね備えている。どうもこちらの言葉を理解してる節もあるしな。
だからこそ、こういう挑発も効くのだ。
「あ〜あ、あんなショボい火で倒せると思われてんのか? 随分と舐められたもんだ」
「グァゥッ!?」
軽く言葉で挑発してみたが、ワイバーンの反応は劇的だった。更に目を大きく見開いて、俺を凝視している。
よし、もっと煽ってみるか。
「デカいだけのトカゲが調子に乗んなよ? どうせデカすぎて速く飛べないんだろ、だったらあんなデカい防壁も要らないな、お前ごときに無駄なんだよ」
「………」
「おお? なんだデカブツ、図星過ぎて言葉も出ないか? トカゲはトカゲらしく地面を――」
「――グォォォオオォオォオオォッッッ!!!」
「うおっと。へぇ、なかなか良い威圧を放ってくるじゃねえか」
ガチで怒ったワイバーンが、その巨体で滑空しながら急降下してくる。どうやら、このまま俺を踏み潰すつもりのようだ。
でも、狙いが俺1人だけだからどうとでもなる。飛行速度はそれなりに速いが、予想の範疇は超えてないしな。やはり巨体がブレーキになって、速度はそこそこ止まりらしい。
……ただし、ワイバーンのその巨体はそれそのものが立派な凶器だ。大きさも重さも、もはやダンプカーが空を飛んで突っこんでくるのと何ら変わりない。あんなものにまともに当たれば、タダでは済まないだろう。
「"クイックネス"」
――グンッ!
魔力を多めに使い、付与魔法でスピードをアップさせる。
……そして、目前にワイバーンが迫ってきた。
「グォォォォォオオオオオオッッッ!!」
――ジャキンッ!
右手の凶悪な黒い5本爪を閃かせ、ワイバーンが大きく横に振りかぶる。当たれば確実に一発アウト、必殺の威力を持った一撃が俺へと迫り――
「――よっと」
――ビュオッ!
――バキッ!
高速で放たれた爪撃を余裕をもってかわす。巨体が空気を押し退けることで、突風が俺に叩き付けられたが……そこはあえて逆らわず、風に押されて流されるようにしながら体勢を整えた。
ついでに、【杖術】スキルを乗せたテンリルワンドをすれ違いざま黒爪に叩き付けておく。ダメージとしてはほぼ0だが、塵も積もれば山となる……ってね。
「"サンダーボルト"!」
――バヂヂヂッ!
さらに、ワイバーンに向けて雷撃を放つ。爪撃をかわされたワイバーンは俺から離れていっているが、ワイバーンの飛行速度よりも雷撃の飛翔速度の方が圧倒的に速い。
相手がザコモンスターなら、当たっただけで簡単に蹴散らせるような雷撃がワイバーンへと直撃し……。
――パチンッ
しかし、情けない音を立てて弾かれてしまった。ワイバーンの体を覆う鱗には傷1つ付いておらず、焦げ跡なんかも全く見られない。
……どうやら、【雷魔法】はワイバーンに通じにくいようだ。
「グォォォッ!」
ただ、ワイバーンをより怒らせることはできたらしい。もはや俺しか目に入っていないようで、双眸を赤く血走らせながら俺を睨みつけている。
「………」
さて、緒戦は俺たちの戦術的勝利かな? 互いにダメージはほぼ無く、消耗もごく僅か。だが、ワイバーンの方は既に頭に血が昇っている状態だ。
……そして、俺たちはメッセージからヒントを貰っている。サンダーボルトは残念ながら弾かれてしまったが、俺たち4人のうち誰かの攻撃がワイバーンによく効くことは確定している。
さあ、頑張ってその当たりを引き当てようではないか。
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