4−49:飃嵐大鷲(ディザスターイーグル)・終戦
「………」
――スッ
これ見よがしに右手を掲げ、【雷魔法】の基本攻撃魔法の1つを放つ挙動をディザスターイーグルに見せてみる。さて、ヤツはどんな反応を返してくるだろうか?
「グァ!?」
……ライトニングを撃ったとは違う挙動だが、それが魔法を撃つ前の予備動作であることを、ディザスターイーグルは理解しているのだろう。俺の挙動を見て、前方と上方のどちらから攻撃が来ても対応できるよう横に回避行動をとろうとする。
だが、残念だったな。俺のサンダーボルトはそんなに単純な魔法じゃない。【雷魔法】の基本形として位置付けているだけに、変化は自由自在なのだ。
そう、例えば……。
「"サンダーボルト・ツイン"」
――バヂヂヂッ!
ディザスターイーグルの両側面、2メートルほど離れた場所から1条ずつ電撃を放つ。魔力を多めに消費すれば、サンダーボルトは離れた場所から撃つことができるのだ。
本当はもっと近くから放ちたかったのだが、発射点がモンスターに近すぎると魔力消費量が大きく跳ね上がるみたいだ。2メートルほど離せば魔力消費量の上昇は落ち着くので、命中率を上げるため挟み込むように放ってみた。
――バヂッ!
「グァッ!?」
その方法は、どうやら正解だったらしい。
横からの攻撃は想定外だったようで、ディザスターイーグルが電撃をまともに浴びている。真横に滑るようにして回避機動をとったので、自ら電撃に当たりにいくような形となったようだ。
「グァゥ……!」
電撃が体内を駆け巡ったのか、ディザスターイーグルの体勢が見るからに崩れる。両翼も僅かに震えており、ここが攻撃のチャンスだと俺の直感が強く叫んでいた。
「きぃっ!」
――パァァァァッ!!
「ガァァッ!?」
防壁の外に出ていたヒナタが、ディザスターイーグルの隙を突く。側面から【ホーリーブレスⅡ】を浴びせ、ディザスターイーグルの体力を確実に奪っていった。
「"風裂刃"! 恩田さん、私も出ます!」
「"アクアスパイク"! 私も、そろそろ行くヨ〜!」
ここが攻めどころと判断したのだろう。ダイブイーグルに一撃をお見舞いしてから、三条さんとハートリーさんも防壁の外へと飛び出していく。俺の指示が追い付いていないのが申し訳ないが、自身の判断で動いてくれるのは本当にありがたい限りだ。
ならば、俺がやるべきはその補佐と繋ぎだ。それができずして、リーダーは名乗れない。
「"ライトニング・クイックボルト"!」
――カッ!
ディザスターイーグルに雷撃を放つ。ここはとにかくスピード重視、予兆なく高速で雷撃を落とす魔法を使う。
頼む、間に合ってくれ……!!
――ビシャァァンッ!!
「ガァァァッ!?」
「「ギャッ!?」」
よし、当たった! 近くにいたダイブイーグル2体も巻き込んで……あれ、もしかしてこれでダイブイーグルは全滅か?
サッと辺りを見回してみたが、残るはディザスターイーグルとワイバーンが1体ずつのみだ。
「きぃっ!」
――ゴォォォ!
「はぁっ!」
――ヒュッ!
「ヤァッ!」
――バシュッ!
俺の【雷魔法】を皮切りに、3人が一気にディザスターイーグルへと襲いかかる。ヒナタは至近距離からファイアブレスを放ち、三条さんは刀を振って斬撃を飛ばし、ハートリーさんは水で作り出した槍を撃ち出した。
実にワンパターンな戦い方だが、高空を飛ぶモンスター相手に地上からできることは限られる。ヒナタはその点自由に戦えるが、ディザスターイーグルと接近戦を行えば相応に消耗することが分かっているのか、今は遠距離攻撃に徹しているようだ。
……本当の決戦は、まだこの後に控えているからな。その時こそ、ヒナタの力が最も必要になる。
「ギャァァッ!?」
3人が放った攻撃全てが命中し、ディザスターイーグルの体が空中で傾く。決定打にはまだ遠いが、ダメージは確実に蓄積されていってるな。
「"アイスロッ……"」
「ガァ!!」
――バシュウッ!
「……アララ、やるネ~。これでは凍らせれまセンヨ〜」
追撃とばかりに、ハートリーさんが水を凍り付かせようとしたが……ディザスターイーグルが一鳴きすると、その身を強力な風が覆った。あえて名付けるならば、"ウインドバリア"とでも言うべき魔法のようだ。
そのウインドバリアが、体に付いていた水をあっという間に吹き飛ばしてしまう。水分を放置するとマズいことは、先のディザスターイーグルがやられた場面を見て学習していたようだ。
「グァッ!」
そして、ここからディザスターイーグルはずっと風を纏い続けるつもりのようだ。あれほど強い風が渦巻いているとなると、水属性や風属性の攻撃は効果が薄くなるだろう。あるいは某狩りゲーの風を纏う龍のように、飛び道具系の物理攻撃も弾いてしまうかもしれない。
……いや、もしかしたら雷属性も効かないか? さすがに真空遮断できるほど空気は薄くないだろうけど、電撃が風に押し流されていきそうなイメージがある。完全に防げるかと言われれば微妙なところだけどな。
「きぃっ!」
――ゴォォォッ!
それでも、バリアなど知ったことかと言わんばかりにヒナタがファイアブレスを放つ。炎は一直線にディザスターイーグルへと飛んでいくが、どうやら避けるそぶりは無さそうだ。
――ヒュゴォォォッ!!
「きぃっ!?」
案の定、風の勢いが強すぎて炎が散らされてしまう。空気を供給されれば炎は燃え上がるものだが、あれだけ風が優位だと炎の方が負けて吹き消されてしまうようだ。
……ただ、ファイアブレスがほんの少しだけウインドバリアに食い込んでいたのもしっかりと見ている。もう少し火力が強ければ、バリアを突破できそうな気もするな……あ。
いや、よく考えなくても俺がやればいいじゃん。
【ファイアブレスⅠ】でダメなら、【ファイアブレスⅡ】ならどうだろう? それならウインドバリアを破り、ディザスターイーグルにダメージを与えられるかもしれない。
「はぁっ!」
――ヒュッ!
「"アクアスパイク"!」
――バシュッ!
「きぃっ!」
――ゴォォォォ!
「グァ〜!! ガァ! ガァ!」
3人の攻撃がディザスターイーグル目掛けて次々と飛び、風のバリアによって全て弾かれる。だが、それによってディザスターイーグルの注意は完全に俺から逸れており、特にヒナタへと意識が集中していた。
その理由は、見ているとよく分かる。
「きぃっ!」
――ゴォォォ!
「グァッ!? ガァ!」
ヒナタは自分の炎が通じないとみるや、常にディザスターイーグルの顔前を通るように炎を吐きかけるようになった。そりゃ、そんなことをされたらそっちに目が行くよな……もちろん、ヒナタはそれが狙いなんだろうけど。
加えて、ディザスターイーグルからすればヒナタは唯一空を飛べる敵だ。警戒しなければならない相手だと考えているからこそ、特段の注意を払っているのだろう。
「………」
……なので、俺は少しずつ位置を調整していく。防壁も少しずつ小さくしていき、同時に移動もほんの少しずつ、少しずつ……3人が作ってくれたチャンスを、決して無駄にしないために。ディザスターイーグルに、俺の行動が気付かれないように。
細心の注意を払い、少しずつ、少しずつ……2分ほどかけて、ディザスターイーグルにファイアブレスを撃ってもワイバーンに当たらない位置まで来た。当のディザスターイーグルは未だヒナタに夢中で、俺の位置変更に全く気付いていない。
「………」
ファイアブレスを撃つのに、掛け声はいらない。手を上げたり、口を開けたりする必要も無い。
ただ、念じるだけだ。
――バゴォォォォ!!
「グェッ!?」
猛烈な炎の音が聞こえて、ようやく俺の位置が変わっていることに気付いたディザスターイーグルだが……もう遅い。俺が放った炎は、既にディザスターイーグルへと肉薄している。
タイミング的に、回避は間に合わない。
――ゴォォォォォッ!!
「ギャァァァッ!?」
【ファイアブレスⅡ】が風のバリアを突き破り、その内部に侵入する。すると、なんと風に煽られた炎が激しく燃え上がった。
オレンジ色の炎に包まれるディザスターイーグル。火に空気を供給し続ける形となってしまい、更にディザスターイーグルが激しく炎上していく。ある意味で予想通りの結果だが、ここまで派手に燃えるとは思ってもいなかった。
良い攻略法を見つけることができたな。いつか、ディザスターイーグルとまた相見えることがあれば……その時は、風のバリアをこの方法で破るとしよう。
「グァ……グェ……」
――ボフンッ
炎が消え、その中からボロボロになったディザスターイーグルが現れる。
……既に、ダメージが許容量を超えていたのだろう。そのままディザスターイーグルは、ドロップアイテムへと姿を変えていった。
「………」
辺りをそっと見回してみるが、ダイブイーグルもディザスターイーグルももう居ない。あれだけ大量に居た飛行型モンスターの軍団も……残るは、ヤツだけだ。
「……グォォォォオオォォォオオッッ!!!」
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
「ヒャッ!?」
「……きぃ」
悠然と空を飛んでいたワイバーンが、耳をつんざくような激しい咆哮をあげる。ただ、別に怒ったとかそういうようなことではないようで……現に、咆哮を放ったワイバーンはどこか見下したような様子でこちらを眺めている。
どうやら、いい感じに油断してくれているようだ。残り1体になるまで待っていてくれたことと言い、こちらを侮ったまま戦いに入ってくれることと言い……ワイバーンが強敵なのは十分に分かっていることなので、実にありがたい限りだ。
さあ、これが試練の間のラストバトルだ。しっかり勝ち切って、たっぷり報酬を貰うとしようか。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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