2−13:階層境界の長い階段を下り抜けるとそこは……
「……よし、そろそろ行くか」
魔力は既に満タンになっていたが、きっちり5分休んだところで腰を上げる。
パンフレットによると、次の第4層では新しいモンスターは出てこないとのこと。これまで通りホーンラビット・ブラックバット・ゴブリンの3種がメインの敵になるそうだ。
まあ、それなら安全マージンを十分取りつつ、これまで通りに少しずつ探索を進めれば……。
「……へ?」
これまでとは打って変わり、階段を降りた直後がとんでもない大部屋になっていた。後ろこそ壁になっているものの、右、左、前と遮るものが何もなく、視界がかなり開けている。そして---
「「「「キイッ! キイッ!」」」」
「「「「ゲギャギャギャ!」」」」
「「「「ギイィィィ!!」」」」
大部屋をうろつくモンスターの群れ、群れ、群れ。全て合わせて100を超える数のモンスターが、そこら中を闊歩していた。
「げっ!?」
つい出てしまった俺の声に反応したのか、大量の視線が一斉に俺の方を振り向いた。
おいおい、階段降りた直後がモンスターハウスかよ!? 難易度上がり過ぎじゃないのか!?
「"ダークネス"!」
「「「ギッ!?」」」」
「「「「ゲギャッ!?」」」」
咄嗟に黒霧を周囲へばら撒く。これでホーンラビットとゴブリンの動きは牽制できたが……。
「「「「キイィィィ!」」」」
黒霧をものともせず、ブラックバットが突っ込んでくる。壁がある方向を除く全方位から、30ではきかない数のブラックバットが時間差で迫ってきていた。
「無理だろこんなもん!」
急いで階段を上って逃げる。黒霧の中でも俺を追いかけてきたブラックバットは、階段の途中で引き返して……いかなかった。
「!? 嘘だろ、まだ上ってくるのか!?」
さっき休憩していた階段の中ほどを過ぎても、ブラックバットはまだ追いかけてくる。
……もしかして。さっき第3層のブラックバットが遮られていたあの場所が階層の境界で、そこはモンスターが通り抜けることはできない。
しかし、階段上は別に安全地帯でもなんでもない(1つ下の階層のモンスターが入ってくるかもしれない)ってことかよ。
だが幸いなことに、階段という限られた空間にブラックバットが殺到したために、モンスターが来る方向や一度に戦う数を制限させることができた。これならやれるかもしれない。
「"サンダーボルト・チェイン"!」
意を決して足を止める。1体の敵を撃ち据えた雷撃が、他の敵に次々と飛雷していく……そんなイメージで、振り返りざま魔法を唱えた。
「ギッ!?」
「キィッ!?」
「ビッ!?」
先頭切って飛んでいたブラックバットに雷撃が着弾し、そこから放射状に雷撃が飛び火していく。7体ほどのブラックバットを焼き焦がしたところで雷撃は止まった。
しかし、後ろからはまだまだブラックバットが押し寄せてくる。
「"サンダーボルト・チェイン"!、"ライトショットガン・ダブル"!、"サンダーボルト・チェイン"!、"サンダーボルト・チェイン"!、"ライトショットガン・ダブル"!」
「「「「ギィィィィッ!?」」」」
とにかく早口で飛び火する雷を連射し、雷撃をすり抜けてきたブラックバットは2倍増しのライトショットガンで撃ち落とす。魔力がなかなかの勢いで減っていくが、気にする余裕は全く無い。
およそ1分で、どうにか全てのブラックバットを倒しきった。魔石があちこちに散乱し、いくつか装備珠が落ちているのも見える。
集めたいところだが、あと2分もすればダークネスの効果が切れ、次はホーンラビットとゴブリンの集団が階段を上がってくるだろう。ドロップアイテムを拾い集めていては、来ると分かっている敵の大群に備える時間が無くなってしまう。その場合、モンスターが階層境界を越えられないのは分かっているので、第3層に逃げるのが無難な選択肢になる。
ここでドロップアイテムを集めて撤退するか、ホーンラビットとゴブリンに備える---つまり、大群と戦うか。魔力残量は8割くらいあるが……。
「……やるか」
大群とは戦うが、魔力残量が4割を切ったら第3層へ逃げる。そうと決めたら、まごついている暇は無い。
敵を待ち伏せるのなら、やはりトラップを仕掛けるに限る。倒せなくとも動きさえ鈍らせれば、魔法で撃ち抜く時間を長く確保できる。
「"パラライズトラップ"、"パラライズトラップ"、"パラライズトラップ"---」
踏むと弱めの電流が流れ、相手を痺れさせる設置型魔法を階段に仕掛けていく。攻撃力が低いので消費魔力量が少なく、こういう場面ではコストパフォーマンスの良い魔法だ。
30個ほど仕掛けたところで、時間切れになった。
「……来たか」
ダークネスの効果が切れたのだろう、ホーンラビットとゴブリンが一気に階段を上ってくる。見るとホーンラビットの群れが前、ゴブリンの群れが後ろに比較的固まっているようだ。合計で100体くらいはいそうだ。
さあ、トラップ地帯まであと15メートル、10メートル、5メートル……今だ!
「焼き払え、"ルビーレーザー"!」
「「「「ギッ!?」」」」
トラップ地帯に敵の最前列が差し掛かる直前、ルビーレーザーを放つ。2回目のダークネスはモンスター達が慣れてしまっている可能性があったので、ここは貫通力のあるルビーレーザーを選択した。
赤いレーザーが右から左へ一瞬で走り抜け、前列にいたホーンラビットを10体ほどまとめて焼き切る。だが、まだまだモンスターはたくさんいる。
仲間を倒されて怒ったホーンラビットが、一斉にこちらへ突進しようとしてくるが……。
---バチッ!
「「「ギッ!?」」」
「「「「ギィッ!?」」」」
最前列のホーンラビットがパラライズトラップを踏み抜き、体を硬直させる。そこに後続がつっかえて、突進の勢いが完全に削がれていく。
「"サンダーボルト・チェイン"!、"ライトショットガン・ダブル"!、"ルビーレーザー"!」
「「「ガビッ!?」」」
「「「ギィィッ!?」」」
その隙を逃さず、魔法を連射する。サンダーボルトは群れの奥へ飛ばし、ライトショットガンとルビーレーザーで近場の敵をガンガン薙ぎ倒す。
魔力がゴリゴリ削れていくが、目に見えてモンスターの数も減っていく。俺の魔力量が4割を切るのが先か、モンスターが全滅するのが先か……さあ、勝負だ!
◇
「これで最後だ、"ライトショットガン・ダブル"!」
「ギィッ!?」
「ギャッ!?」
最後に、手負いのゴブリンと角が半ばで折れたホーンラビットを仕留め、モンスターの大群をどうにか捌ききった。残り魔力量は4割ちょっと、本当にギリギリだった。
一応は辺りを警戒するが、襲ってくるモンスターはどうやらもういないようだ。
「……………ふう」
残心を解き、その場にへたり込む。
……な、なんとかなったな。正直、生きた心地がしなかったよ。
「………」
第4層の方を見下ろす。キラキラとしたものがそこら中に散らばっており、魔石、武器珠、防具珠、装飾珠、角……実によりどりみどりだ。
……ん?
「……なんか、変なのが混じってなかったか?」
よく分からないが、とりあえず回収だ回収。
「"アイテムボックス・収納"」
落ちているもの全てを指定して、アイテムボックスに収納……したつもりだったのだが。一度では回収しきれず、まだたくさんのアイテムが散らばっている。
「"アイテムボックス・収納"……くっ、まだ入りきらないのかよ。"アイテムボックス・収納"……まだ少し残ってる!?」
結局、4回目のアイテムボックス・収納で全てのドロップアイテムを回収しきることができたが……魔力残量が少し減り、ちょうど4割くらいになってしまった。
もしかしたら、一度に収納できる数に上限があるのではないだろうか。この感じだと50個ぐらいが上限な気がする。
……アイテムボックスの中、見るのが怖いなぁ。とんでもないことになってそうだ。
「………」
まさか、第4層に立ち入った瞬間にあんなことになるとは。軽く手を出していい階層ではなさそうだが、他のダンジョンもこんな感じなのだろうか。それとも、亀岡ダンジョンだけが特殊なのだろうか。
まあ、考えてても仕方ないか。ドロップアイテムの拾い忘れが無いかもう一度確認して、今日はもう引き上げるとしよう。第4層のビューマッピングができていないが、もう一度立ち入る勇気はさすがに無い。
……よし、ちゃんと全回収できているな。階段が安全地帯ではないと分かった以上、長居は無用だ。早足で去るとしよう。
皆様、あけましておめでとうございます。いつも拙作"【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記"をお読みくださいまして、ありがとうございます。
本話の投稿日である2024年1月6日をもちまして、拙作"【資格マスター】な元社畜の現代ダンジョン攻略記"は総合評価20,000ptを頂く事ができました。また、翌1月7日には月間ローファンタジー1位となり、PV数合計も500,000を超えました。☆評価も1300人を超える方々に評価して頂き、頂いたご感想も30件を超えました。
初期から応援してくださった皆様、ブックマークをして頂いた皆様、ご評価を頂いた皆様、ご感想を頂いた皆様のおかげで、遂にここまでくることができました。本当にありがとうございます。
今後も、週二回の投稿ペースを落とさずにいきます。まずは目標としていた10万文字まで、あと少し……!
皆様、本当にありがとうございます。今後とも本小説を、よろしくお願いいたします。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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