プロローグ2:ダンジョンに入る前に、なんか色々貰えました
切符を買って中央改札を通り、京都駅の嵯峨野線ホームまでやってきた。
……ある程度予想はしていたが、とにかく外国人の多さが目立つ。ホームに停車している青白帯の列車に、大きなキャリーケースを持って電車に乗り込んでいる人が結構な人数いるのだ。ここだけを見れば、なるほど確かに混雑も激しそうに見える。
ただ、俺も京都在住は長いからな。嵯峨野線のホームがいわゆる頭端式ホームになっていて、前方車両……列車が京都駅から発車した時、先頭車両になる方の車両が空いていることは知っている。ひどい時は、後方車両は立つ場所も無いほど混雑しているのに、前方車両は立ち客0かつ着席率が2割いかないことさえあるのだ。
まあ、普通列車の出発時刻まではまだあと数分ある。ゆっくりと、前の方まで移動しますかね。
◇
進行方向左側の座席を確保し、車窓とパンフレットを眺めながら移動する。先頭車両は予想通り人がおらず、とても快適に過ごすことができた。
旧二条駅舎を遠くに見ながら通り過ぎ、巨大な紫色のロボット?を間近に見ながら通り過ぎ、トンネルを幾つも越え……。
「着いたな」
そして今、馬堀駅に降り立った。
……これも予想通りなのだが、馬堀駅で降りる人はそこまで多くない。保津川下りも嵯峨野観光トロッコも休業期間は明けているが、まだまだ寒いので乗りに来る人があまりいないのだろう。桜のシーズンを迎えたら、ここも混雑地獄になるのだろうけどな……。
――ピヨ、ピヨ……
――チチチ……
「……」
ダンジョンの最寄り駅だというのに、とてものどかだ。改札が南側にしかなく、そちらは閑静な住宅街が広がっているが、反対の北側は自然豊かな風景が広がっている。トロッコ亀岡駅の存在が若干浮いて見えるくらいに、ほぼ緑色しか視界に入らない。本当にここにダンジョンがあるのだろうか……?
「………」
下りホーム上から辺りを見回す。5年くらい前に一度来たことはあったが、線路沿いの綺麗な道ができたこと以外に変わったことは……。
「……もしかして、あれか?」
自然豊かな風景の一角に、周囲に全く馴染めていない灰色の物体があるのを見つけた。
ハロワで貰ったマップと照合すると、位置関係がバッチリ一致した。つまり、あれがダンジョンバリケード―――ダンジョンが出現した当時、その入り口を覆うように造られたコンクリート製の建物であるに違いない。
「よし、行ってみるか」
改札とは反対方向だが、この距離なら徒歩5分もかからないだろう。
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
「線路をくぐる道が見つからなかった……」
線路の向こう側へ抜ける道を探すのに手間取り、目的地へ辿り着くまでに15分近く経過してしまっていた。道は覚えたので、次はもう5分以内でいけるだろうが……なんとも情けない限りだ。
「さて……なるほど、これがダンジョンバリケードか……」
無骨なコンクリート製の建物を見上げる。デザイン性を完全に置き去りにした、ただ危険な何かを急いで囲うために作られた急ごしらえの建物……やはり、どこか違和感がある。
……ああ、なるほどな。窓と呼べるものが1つも無いんだ。
扉も全金属製の重厚そうなやつだし、当時はよっぽどダンジョンの存在が恐ろしかったんだろう。だから未だに"ダンジョンバリケード"なんて通称で通ってるわけか。
ちなみに、正式名称は"独立行政法人 迷宮探索開発機構 亀岡迷宮開発局"らしい。パンフレットには正式名称が書かれていた。長いのでみんな"亀岡ダンジョン"と呼んでいるらしいけど。
よし、早速中に入ってみるか。
◇
金属扉は思いのほか軽く、スムーズにダンジョンバリケード内へ立ち入ることができた。緊急時の避難路にもなるわけだから、そこはきっちりメンテナンスしているのだろう。
「ようこそ、亀岡ダンジョンへ」
「あ、どうも」
中に入ってすぐに受付カウンターがあり、そこで女性が出迎えてくれた。とても落ち着いた様子の人だ。
……おっと。パンフレットにも書いてあったが、忘れずに探索者証を提示しなければ。
「あ、ダンジョン探索者証はどうすればいいですか?」
「はい、こちらのリーダーにおかざしください」
「これですね……」
――ピッ
指定されたリーダーにカードをかざすと、軽快な電子音が1つ鳴る。カウンターに置いてあるモニターを見て、受付の女性がにこやかに頷いた。
「恩田さんですね、探索者証を確認いたしました。ダンジョン探索は初めてですね?」
「はい、そうです」
なるほど、探索者証にいくらか情報が内蔵されているわけか。なかなかハイテク……なのだろうか? 最近のICカードだと、それぐらいの情報は入っていて当然なのかもしれないが。
「それでは、少々お待ちください」
それだけを言い残すと、受付の女性は奥の部屋へと消えていった。
数分後、受付の女性が奥の部屋から戻ってくる。そうして、戻ってきた女性の手には……。
「こちらをお使いください。初探索の方全員にお渡ししている物です」
「これは、珠、ですか?」
赤色、青色、黄色の珠が、それぞれ1つずつ乗せられていた。珠は薄い色のビー玉のような見た目をしていて、中に"1"の数字が浮かぶ不思議な品だった……うん?
今、黄色の珠の数字が一瞬ブレたような?
だが、疑問に思って何度黄色の珠を見返しても、数字は"1"のまま変わらない。うーん、気のせいだったか……?
「これは、ダンジョンでモンスターを倒すと時折落とす"装備珠"です。原理は不明ですが、珠に念じると赤が武器、青が防具、黄が装飾品に変化します。中の数字が大きいほど、性能の高い装備が出るようですね」
「へえ……」
「本人の気質に最も合う装備が出る、と言われています。ランク1の装備珠一式を無料サービスさせて頂きますので、ぜひお使いください」
カウンターの女性から珠を受け取る。珠はとても軽く、まるで羽毛でも持っているかのようだった。
そして言われた通り、3つの珠に向けて一斉に念を送る。
(俺に、モンスターに打ち勝つ力をください。お願いします!)
瞬間、3つの珠がそれぞれ赤色・青色・黄色に輝きだし、俺を眩く包み込む。そのあまりの輝きに、思わず目を閉じてしまった。
……しばらくして、光が止む。目を開けて見てみると、俺は3つの装備品を身に着けていた。
利き腕の右手に持っていたのは、木でできた杖だ。杖の先に白色の宝玉のような物が付いており、一対の枝が絡みつくようにして杖に固定され、一体化している。受付の女性からも説明があったが、これは武器珠 ("赤い装備珠"という呼び方が個人的にしっくりこなかったので、あくまで個人的に"武器珠"と呼ぶことにする)が変化したやつだな。
着慣らした服の上には、黒っぽいローブが覆い被さる。見た目は完全に魔法使いが羽織るような感じのアレで、軽いのはいいが防御力があるのか不安になるほど生地が薄い。これは防具珠 ("青い装備珠"という呼び方が……以下同文)から変化した装備だろう。
ということは、左手の淡く光る盾みたいなものは装飾珠 ("黄色の装備珠"という……以下同文)から変化した装備か。現代ダンジョンにおいては、盾は装飾品として扱われているみたいだな。
……それにしても、不思議な盾だ。金属製の持ち手部分は手のひらサイズしかないのに、そこから出てきた光がちゃんと盾の形をしていて、俺の前面を広くカバーしている。装備重量もほとんど感じないので、この光の部分は重さが0になっているのかもしれないな。
「今まで多くの方の初期装備を見てきましたが、恩田さんは魔法タイプの方の装備であると思われます。恩田さんが得られるギフトも、魔法系統である可能性は高そうです」
「魔法ですか」
ダンジョンで戦う自分を想像してみる。
武器を使って攻撃……無理、自信も運動神経も体力も、何もかも俺には足りていない。敵との距離が近い分、とっさの判断力と行動に移せる機敏さがカギとなるが……心技体どれをとっても、対応できる自信が全く無い。
魔法を使って攻撃……可能、敵との距離があれば猶予が生まれ、猶予があれば冷静に考える時間を持てる。1つ1つの仕事の完成度をじっくり高めていくのが得意だった俺としては、魔法タイプの方が性に合っている気がする。
……頼むから、俺のギフトはちゃんと魔法系統にしてくれよな、ダンジョンさん?
「それでは、ご武運を」
「ありがとうございます」
受付の女性にお礼を言い、その場を離れて建物を見て回る。
外からの見た目はアレだったが、建物の中は思ったよりも綺麗だった。受付の女性がいるカウンターは真新しく、男女別の更衣室にトイレや待合室、良心的な値段の自販機なども用意されているようだ。建物内部全体が暖色系の明かりに照らされていて、少しホッとした心持ちになる。
そして、建物の中心にあたる場所は吹き抜けになっており、その一番下に……。
「なるほど、あれがダンジョンゲートってやつか」
なんとも表現しがたい……見たままを自分なりに言葉にすると、黒魔術的要素を内包した金属製っぽいフレームの内側に紫色のモヤモヤとした何かが膜のように張っている、といった感じだ。あのモヤモヤを通るとダンジョンの中に入れるらしいが……なんだろう、どこかで似たものを見た気がするな。うーん、どこだろう……。
……あぁ、思い出した。あれだ、ガワが黒曜石じゃないだけで、マイン◯ラフトのネ◯ーゲートに雰囲気がよく似ているな。あれも異世界への入り口だったが、用途が似ると見た目も似たものになるのだろうか。
受付カウンターの前にダンジョンゲートへと下りる階段があったので、そこからゲートを目指す。
だが、これが長い。階段を50段ほど降りた所で、ようやくゲートのある下層階に辿り着いた。上から見ると近そうだったが、意外とゲートは標高の低い場所にできていたようだ。
「この先に、ダンジョンが広がっているのか……」
大きく、大きく深呼吸をする……よし、覚悟は決まった。
紫色のモヤモヤを通り、ツプンという不思議な感覚と共にダンジョンの中に入る。風景が一気に移り変わり、洞窟のような場所が視界に入ってきたところで――
――ギフト【資格マスター】が恩田高良に発現しました。
抑揚の無い機械的な音声が、俺の脳内に響き渡った。
「……【資格マスター】?」
(2024.2.19改稿)プロローグを2分割しました。
(2024.5.28改稿)大幅改稿しました
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