4−47:飃嵐大鷲(ディザスターイーグル)・緒戦
「「「「ガァ! ガァ!」」」」
「「ガァァッ!!」」
モンスターの鳴き声と羽ばたき音が、徐々に大きく近くなっていく。無数のダイブイーグルが鳴く声と2体のディザスターイーグルが鳴く声が重なり合い、大変やかましい音を辺りに撒き散らしていた。開けた場所だというのに随分な声量である。
――バサッ! バサッ!
「………」
そんな中でも、ワイバーンは悠々と飛んでいる。羽ばたき音こそ相応に大きいものの、総じて一番静かなのは強者ゆえの余裕なのだろうか?
「グァウッ」
「……ん?」
……と、なぜかワイバーンが途中で止まった。上空からこちらを見下ろしながら、嘲るような声をあげている。
そんなワイバーンの奇妙な行動に、ダイブイーグルもディザスターイーグルも全く反応しない。どうも俺たちのことしか見えていないらしく、特にディザスターイーグルは特殊モンスター特有の憎悪が籠もった眼でこちらを睨みつけていた。
「……動きませんね、ワイバーン」
「もしかして、俺たちを侮ってるのか……?」
第40〜50層に出現するモンスターともなれば、相応に高い知性を備えていてもおかしくない。個々のモンスターがまるで人間のような感情を持っている可能性も、十分に考えられる。
ワイバーンもそうだとすれば、あの個体はこちらを侮っているのかもしれない。明らかに高みの見物といった様子で、かなり遠くに陣取ってこちらを眺めているからだ。
「それはありがたいネ〜」
「だな。全部まとめて相手する余裕は無かったからな」
ダイブイーグルとディザスターイーグルに加えて、ワイバーンまでまとめて相手するのはキツいと思ってたところだ。敵が勝手に油断してくれるのは、こちらとしては非常にありがたい展開だ。
もしかして、メッセージの主もこの流れを予想していたのだろうか。
『な、なぜ戦わぬ!? こら、そんな所で余裕をかますでない! まともに戦えば負けるのはお前の方なのだぞ!?』
「グァゥ」
どこか慌てたような内容のメッセージが浮かび上がるが、ワイバーンに鼻で笑われていた。
……どうやら、メッセージの主にも予想外の行動だったようだ。ワイバーンというモンスターは、性格面でかなりの個体差があるのかもしれないな。
まあ、いずれにせよワイバーンは必ず倒す必要がある。それまで向こうから手出ししないでくれるのなら、俺としてはベストな状況だな。
最後の最後に、余人に邪魔されず総力をもって挑めばいいのだから。ワイバーンにこちらの手の内を学習されてしまう難点はあれども、あんな強いモンスターに横槍を入れられるよりはずっといい。
「……よし、まずは前哨戦といこうか。盾解除、そして盾展開」
――ブォンッ!
「「ガァァッ!?!?」」
ドーム型の防壁を消し、新たに白い防壁を張り直す。今度の防壁は、形自体は単純な長方形だが……とにかくサイズをデカくした。縦にも横にも、だ。
特に防壁の高さは、ダイブイーグルやディザスターイーグルが飛ぶ高さを大きく超えて設定している。そんな巨大防壁を使って、一体何をするのかと言うと……。
「そらっ、食らえ!」
――バヂヂッ!
「「「「ギャァ!?」」」」
「「ガァァッ!?」」
その場で小さくシールドバッシュをかまし、近くまで飛んできていたダイブイーグルにぶつける。防壁に触れてスパーク音が響き渡り、ダイブイーグルもディザスターイーグルもかなり驚いているようだ。
……もっとも、派手な音が鳴っても防壁自体が攻撃機能を持っているわけではない。あくまで軽くて固い壁がぶつかってきただけなうえ、その防壁自体の速度がそれなりなので与えられるダメージもほぼゼロ。実質、防壁でモンスターをひたすら押し退けているだけの状態だ。
防壁に圧力軽減の機能が無いので、モンスターを押すにはそれなりのパワーがいるのだが……飛行型モンスターだから軽いのか、実際にダイブイーグルを押した時の手応えは非常に軽かった。距離があるのに力が要らないとは、力のモーメントがどうなっているのか甚だ疑問ではあるものの……現状で一方的に相手を押し出すことができているのは、俺にとって非常に大きなアドバンテージとなっている。
空中で適切な姿勢を保つ必要がある飛行型モンスターにとって、予想外の方向に力が加わるのは時に致命的な結果を招くからだ。
――バヂッ!
「ガッ!?」
――ヒュゥゥゥ……
――ドッ!
そう、ちょうどこのダイブイーグルのようにな。
ディザスターイーグルはスパーク音に驚いたのか、距離をおいて防壁に当たらないよう警戒しているのだが……ダイブイーグルにそこまでの知能は無いらしく、構わず防壁に突撃しては勝手にバランスを崩し、ボトボトと地面に落ちてくる。周囲の仲間がいくら落ちようともお構いなしに、防壁へ体当たりしては弾かれて落ちてくるのだ。まさに入れ食い状態である。
なので、まずはダイブイーグルから倒していくことにした。数が減れば見通しが良くなるし、ダイブイーグルの特殊攻撃……【ウインドブレスⅠ】で横槍を入れられることもなくなるからな。飛行型+遠距離攻撃持ちは厄介極まりないので、さっさと倒していくことにする。
――バヂヂヂッ!
「「ガァッ!?」」
――ヒュゥゥゥ……
――ドドドッ!
空中でバランスを崩したまま立て直すことができず、ダイブイーグルが次々と落下してくる。地面に落ちたダイブイーグルは再び飛び立とうとするのだが……。
「"風裂刃"!」
「"アクアスパイク"!」
「きぃっ!」
――ゴォォォ!!
「「ギャァッ!?」」
そこを、俺以外の3人が狙い撃って倒していく。ダイブイーグルの耐久力は案外大したことがないので、ラッシュビートルを倒せた遠距離攻撃なら簡単に仕留めることができる。今のところ、地面に落ちてきたダイブイーグルは全て討伐できているな。
「「「ガァッ!」」」
――ヒュッ!
――バヂッ!
「「「ガァ!?」」」
そしてまた、3体のダイブイーグルが空から落ちてくる。いくら大空の王者といえども、地面に落ちてしまえば裸の王様だ。もはや濡れ手に粟状態で、大した苦労も無くダイブイーグルを討ち取っていった。
「ガァッ!」
――ビュオオオッ!
――バヂヂッ!
「おっと、ウインドブレスか」
1体のダイブイーグルがウインドブレスを吐いてきたが、防壁を斜めにして受け流しにかかる。多少は押される感覚もあったが、所詮はランクⅠのブレスなので威力も大したことはな――
――バヂッ!!
「ガァァッ!?」
なんと、斜めに動かした防壁にディザスターイーグル1体が見事ぶち当たった。さすがに落下まではしなかったが、体勢を大きく崩している。
……張った防壁があまりに大きすぎて、特に端っこの方はちょっと振り回すだけでも相当な速度で動くようだ。やはりダメージは無いようだが、ダイブイーグルより飛行能力の高そうなディザスターイーグルでさえ、防壁シールドバッシュで大きな隙ができていた。
「チャンス! 舞い飛べ、"風昇斬"!」
――ヒュッ!
「イケ〜! "アクアショット"!」
――バシュッ!
「きぃっ!」
――パァァァッ!!
もちろん、3人がその隙を逃すわけがない。ダイブイーグルへの攻撃を一旦止め、隙を晒すディザスターイーグルに向けて一斉攻撃を放った。
「俺も撃っとくか、"ライトニング・ホーミング"」
少し余裕があったので、防壁を維持しながら俺も【雷魔法】を放つ。この魔法は威力的にはただのライトニングでしかないが、狙った相手をある程度追尾する機能がある。ディザスターイーグルがあの状態ならさすがに当たるだろう。
――ドゴォォォンッ!
「ギャァァッ!?」
――ザシュッ! バシャァッ! パリパリパリッ!
「グギャァ!?」
弾速の差で、俺の雷撃が最初にディザスターイーグルへと直撃し……ディザスターイーグルが一瞬痺れたところに、3人の攻撃が次々と着弾する。
悲痛な叫び声をあげるディザスターイーグルだが、体勢を更に崩しつつも地面には決して落ちない。さすがは特殊モンスター、ダイブイーグルとは耐久力が桁違いだ。
だが、これでもまだ大空に居続けることができるかな?
「追撃ネ〜、"アイスロック"」
――パキパキパキ……
「ギャッ!?」
体を覆う水が凍り付き、ディザスターイーグルの体が白く染まる。羽毛に染み込んだ水さえもことごとくハートリーさんの手で凍らされ、それが動きを阻害することで羽ばたくことができなくなり……。
「ガ、ガァァッ!」
――ヒュォォォ……
なんと、それでもなお空を飛び続けていた。空中で完全に固まったまま、その場で浮いているように見えるのだが……まあ、実際にそうなのだろう。
先ほどから、薄っすら風の音が聞こえてくる。おそらくは【風魔法】か何かの力で揚力を確保し、翼が凍り付こうとも飛び続けているのだと思われる。羽ばたいて飛ぶより燃費も悪いだろうに、意地でも空に居続けようというのか。
「……やるな」
モンスターながら、絶対に落ちまいとするその意地と誇りには敬意を表する他ないな。
離れた場所から、介入するタイミングを虎視眈々と狙うもう1体のディザスターイーグルも合わせて、な。
まあ、ここはまだ様子見の探り合い……緒戦だ。緒戦で倒れるほど、ディザスターイーグルが甘い相手じゃないのはよく分かった。
さあ、ここからが戦いの本番だ。攻略法も見えてきたし、いっちょかましてやるとしようかな。
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