4−40:横浜ダンジョンを攻略する4人
試練の間を見つけてから、2日後。
「……ふう、着いたな」
俺とヒナタ、三条さんとハートリーさんの4人は、崩れかけた砦を望む場所に立っていた。奥には目を閉じ、大槍を地面に突き刺して仁王立ちするゴブリンジェネラルが立っている。
「ここが、第10層……」
「ステイツのダンジョント、雰囲気あまり変わらないネ〜」
「ダンジョンの構造は世界共通らしいな」
「そうネ、ホント不思議だヨ。ゴブリンジェネラルがああやっテ動かナイ所とか、石の舞台がアル所とかもそっくりダネ」
うんうん、とハートリーさんが腕を組んで頷く。第10層の基本構造は日本国内のダンジョンのみならず、どうやらアメリカのダンジョンでも同じようだな。
……さて、三条さんにとっては初の第10層となるわけだが。ここまでの戦いぶりを見る限り、彼女の腕前ならゴブリンジェネラルが相手でも何とかなりそうだ。
第7層では、インプを仲間呼びさせずに斬り捨てるという離れ業を演じ。第8層ではゴブリン軍団に真正面から突っ込み、アーチャーが放った矢を【風魔法】で叩き落としながら全滅させるという無双ぶりを発揮していた。既に素のスピードでは横浜ダンジョンの誰も (俺やハートリーさん、ヒナタを含めても)敵わず、クイックネスを使ってようやく互角になれるかどうか、といったレベルだ。
……その驚くべき速度を涼しげな様子で制御しきる辺り、三条さんはマジで天才かもしれない。装備は相変わらず、装飾品1つがランク5なだけで後は全てランク2だが……それもきっと、今日で終わりだな。
「さて、注意点を共有しておこうか。ゴブリンジェネラルの得物はあの大きな槍で、リーチが長くパワーもある。かと言って、油断してると槍を投げてくるから気を付けてくれ。
次にゴブリンジェネラル自身の戦闘スタイルだが、完全なる前衛型だな。全身を金属鎧で覆っていて物理防御力は高いが、足先だけはなぜか覆われていない。そこを狙えば機動力を封じられるから、三条さんには積極的に狙っていって欲しい。
あと、魔法防御力はハッキリ言って紙だ。威力的にやや劣る俺の魔法でさえ、強めの【雷魔法】を3発も食らえばゴブリンジェネラルは落ちてしまう。同時にヘイトも稼いでしまうから足を止めるのは非常に危険だが、俺とハートリーさん、そしてヒナタの3人で分担すれば倒し切れるだろう。槍のリーチにだけ入らないよう注意だ。
……あと、ゴブリンジェネラルは動き出してからしばらく経つまでは無敵状態で、その間に確定で【仲間呼び】を使う。それで呼んだゴブリン種を【鼓舞】のスキルで強化してくるから、そこが一番の要注意点だな。何か質問はあるかい?」
第10層に入ったので、ようやく三条さんにゴブリンジェネラルのことを説明できた。情報封鎖の呪い面倒くさいよ……。
ただ、一息に全部喋ってしまったが果たして聞き取れているのだろうか? 無理なら何度でも話すつもりだが……。
「はい、【仲間呼び】で出てくるゴブリン種にはどのようなものがいますか?」
三条さんから質問が来る。やっぱりそこは気になるよな。
「通常のゴブリン20体組や、アーミー・アーチャー5体組、あとはゴブリンの特殊個体である小鬼強者……俺はホブゴブリンと呼んでいるが、そいつが1体出てくることがある」
「ホブゴブリン……それは、強いのですか?」
「通常モンスターと比べれば、ラッシュビートルよりも明らかに強い。他の特殊モンスターと比べれば格下だが、油断ならない相手なのは変わらないな。ホブゴブリンが出てきた時点で撤退する探索者パーティも多いと聞くぞ」
「なるほど……では、仮にホブゴブリンが【仲間呼び】で出てきたとして、私たちで勝てるのでしょうか?」
現状、考え得る最悪の状況というのがそれだからな。普段は亀岡ダンジョンのメンバーで仮定しているが、今の俺たちの戦力に置き換えて仮定し直すと……。
「……勝てる。油断しなければな」
「では、作戦を考えましょう」
「リョーカイヨ〜!」
「きぃっ!」
こうして、ゴブリンジェネラル戦に向けた打ち合わせを始めた。
◇
「……よし、こんな所か」
「はい、この作戦なら勝てそうです」
「すごいネ〜、こんなにちゃんとシタ指示初めてカモ?」
「きぃ!」
5分ほどの打ち合わせの後、全員で立ち上がり砦の方を見据える。
……ここまで丁寧に打ち合わせをしたのは、このパーティでゴブリンジェネラルと戦うのが初めてだったからだ。もちろん、既に連携ができあがっているパーティならここまで時間をかけなくてもいいのだが……いくら三条さん以外が第10層経験者とはいえど、各々勝手に動いていたら思わぬ落とし穴に嵌ってしまうかもしれない。臨時パーティである俺たちは、そのリスクが非常に高いのだ。
でもまあ、その不安も今のミーティングでほぼ消えた。後はゴブリンジェネラルとやり合うだけだ。
「さあ、ゴブリンジェネラル戦行くぞ」
「はい!」
「燃えてきたヨ〜!」
「きぃきぃ!」
全員で石舞台に向けて移動を始める。さあ、サクッと倒してしまおうか!
『……侵入者、カ。我ガ砦ヲ、侵ストハ。実ニ、愚カ――』
全員が石舞台の上に乗ると、いつもの通りゴブリンジェネラルが起動を始めた。目を開いて腕組みを解き、何やらそれっぽいセリフを口走っている。
……ゴブリンジェネラルのセリフのパターン、結構色々とありそうだな。聞くたびに、毎回微妙に違うセリフを吐いているような気がする。耳にタコができるくらい聞いてるから、もう右から左にほとんど抜けてしまってるけどな。
『――貴様ラノ、屍ヲ、コノ石畳ニ、突キ立テテヤロウ!』
――ズボァッ!!
おっ、セリフが終わって大槍を床から抜いたか。ゆったりと武器を構え、こちらを睥睨している。
ただ、パターン通りならここから……。
『来タレ、我ガ忠実ナル部下ヨ!』
――ズズゥン、ズズゥン、ズズゥン……
……おっと、最悪のパターンを早速引いてしまったか。まあ、俺からすれば最悪というより、余裕を持って多大なリターンを得られる、最高最良のパターンに他ならないんだけどな。
『……オヨビ、カ』
森の奥から、重厚な足音を立てて出てきたのは……予想通り、大柄な肉体を持つホブゴブリンだった。石舞台に上がると、その濁った瞳が俺たち一行を見据える。
通常モンスターであるラッシュビートルを、更に超える圧を放つホブゴブリン。だが、ハートリーさんはもちろん三条さんも、全くもって自然体だった。
「……きぃ〜〜〜」
『グゥ……』
ヒナタ? 今さらこの程度のモンスター相手にビビるわけが無い。むしろ獲物を見つけた捕食者さながらの鋭い目でホブゴブリンを睨んでいるせいか、ホブゴブリンの方が怯んでいる有様だ。
……ここ何日か、ヒナタはだいぶ手持ち無沙汰だったからな。特殊モンスターは全く出ず、それ以外のモンスターは先んじて三条さんが処理してしまうせいで、戦うチャンスがほとんど無かった。それが原因で、久し振りの強モンスターに熱い視線を注いでいるのだろう。
もちろん、その事は最初から分かっていた。【仲間呼び】で出てきたモンスターはヒナタに、ゴブリンジェネラルは三条さんとハートリーさんに任せて、俺はサポートに徹する方針で事前に打ち合わせている。
「よし、ヒナタ任せた!」
「きぃっ!」
――バサッ!
勢い良くヒナタが飛んでいく。最近、更に飛行スピードが速くなったからな……もうグリズリーベアやクレセントウルフ辺りが相手でも、一方的に勝ててしまうのではないだろうか。もちろん、ホブゴブリンでは……な。
『フン、我ガ相手ハ、貴様ラカ? 随分ト、弱ソウダ』
「ふふ、私たちが本当に弱いのか……あなた自身の身で確かめてみますか?」
「侮ってるト、やっちゃうヨ!」
『ヌカセ、小娘ドモガ!』
こちらは舌戦から入ったが、あっさり勝利したようだ。ゴブリンジェネラル、意外と沸点低いんだよな……。
さて、横浜ダンジョンでは初のゴブリンジェネラル戦だ。きっちり勝利して、試練の間攻略に向けて幸先の良いスタートとしたいものだ。
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