4−39:試練の間再び……?
――シャララララ……
小川のせせらぎ音を聞きながら、川沿いの道をゆっくりと進んでいく。起伏があってやや歩きにくいが、道幅が思ったよりも広いので視界は良好、モンスターの奇襲をあまり気にせず先へと進めている。
――ブブブブブブ!!
「来たぞ、用意!」
「「はい!」」
「きぃっ!」
――ズブッ!!
――ブブッ!?
ゴブリンやグレイウルフ、ラッシュビートルがたまに道へと躍り出てくるが、いずれもあっさりと倒されていく。ゴブリンやグレイウルフは言わずもがな、ラッシュビートルでさえ三条さんとハートリーさんに処理 (誤字ではなく、本当に"処理"と評して差し支えないくらい余裕で倒)されていくのだから、この階層のモンスターは既にそこまで脅威たりえなくなっている。
……それはつまり、第9層までのモンスターは苦もなく倒せる、ということの裏返しでもあるわけだ。これなら、三条さんを第10層まで連れて行くのも早そうだな。
「さて、白い石板の通りだとそろそろか……?」
川沿いの道を15分ほど歩いた所で、ハートリーさんに聞いてみる。ハートリーさんは白い石板を取り出して、ウンウン唸っていた。
「ウ~ン……多分、この辺カモ?」
「……あれ?」
風で辺りを探っていた三条さんが、川がある方とは反対の藪をじっと見つめる。どうやら、そちらに何かあるようだ。
「三条さん、何か見つけたのか?」
「はい。あちらの藪の中に、どうやら建物があるようです」
「ビンゴだ」
ダンジョンには、特別なオブジェクト以外の建造物や構造物は存在することができない。ブルースライムがその全てを溶かしてしまうからだ。
実際、通信用のケーブルを布設しても半日と経たずに溶かされてしまったそうだ。海底布設用の超強化鎧装ケーブルや、特注の金メッキケーブルを試しても結果は同じだったらしい。
そんな中、ポツンとたたずむ謎の建物……何かがあるのは間違い無い。
「よし、燃えろ!」
――ゴォォォォ!!
【ファイアブレスⅡ】の炎で藪を焼き払う。そこにモンスターはおらず、代わりにやや広めの円形広場と、掘立小屋のようなダンジョンオブジェクトが姿を現した。
……この掘立小屋だが、扉以外は木とトタンっぽい何かでできているのに、扉だけがなぜか石っぽいものでできている。見た目がとてもチグハグで、だからこそダンジョンオブジェクトだとすぐに判別することができた。
それにしても、なんかこの建物って思ったより……。
「ショボいネ〜、こんなのガ試練の間ナノ?」
先に言われてしまった。なんだ、ハートリーさんも同じこと考えてたんじゃないか。
……それでも、この掘立小屋が試練の間であると認めざるを得ない理由がある。
「俺もそう思ったけど、入り口に石板をはめられそうな窪みがあるぞ?」
「あ、本当ですね」
掘立小屋もどきの石扉に、ちょうど白い石板と同じような形――四角形の上に半円を合わせたような形――をした窪みがある。そこに石板をはめれば、きっと試練の間への入り口が開くのだろう。
……ただ、1つ問題がある。
「だけどな、石板をはめたらそのまま試練の間に入るしかなくなるかもしれない」
「エッ、なんデ?」
「俺が前に入った試練の間は、どちらもそういう警告を出してきたからだ。すぐに入らないと後悔するぞ、2度と入るチャンスは訪れないぞ、とな」
以前、俺が試練の間に挑戦した時は2回とも謎の存在からのメッセージが入口で提示された。そして、そのメッセージには遠回しに"今すぐに入らないと試練の間は消えてしまうぞ"と警告するような内容が含まれていた。
加えて、試練の間クリア後は実際にどちらの入口も綺麗サッパリ消えてしまっている。もし入らないという選択をとってしまえば、入口はああやって閉ざされてしまうのだろう。
それを元に判断すれば――
「――扉を開けるのは、準備万端整えてからにすべきだろう。覚悟が決まっているなら、今すぐ始めても構わないし……やはり自信が無いというのであれば、明日以降でも俺は全然構わない。場所はもう押さえたから、次からは簡単に来れるしな。
さて、2人に確認だ。どうする、このまま試練の間に挑戦するか?」
「「………」」
……やはり、2人とも悩んでいるな。ある程度覚悟はしてきたが、直前になってやはり躊躇いが出てきたか。
まあ、散々高難易度だなんだと言ってきたからな。今なら引き返せるとなれば、迷いが出るのも当然だろう。それが取り返しの付くものならともかく、失敗すれば命に関わるのだから、慎重になるのも無理はない。
さて、どんな返答が返ってくるかな?
「……私の勝手で大変申し訳ないのですが、可能であれば第10層を攻略して、かつランク3の装備を揃えてから挑みたいと考えています」
「……ウーン、ナラ私はミサキに合わせるカナ」
「それなら案外早くいけそうな気もするけどな。まあ、了解だ」
既に三条さんの実力は、第10層を突破するに相応しいものがあるだろう。あとは挑戦するのみだな。
「じゃあ、一旦戻ってお昼にしようか。ちょうど良い時間になるだろうし」
「あ、確かにそうですね……分かりました、索敵はお任せください」
「モンスターは任せてヨ!」
「よし、それじゃあ頼む」
三条さんを先頭に、来た道を戻っていく。
……少しだけ振り返り、掘立小屋のような試練の間への入り口を見る。
果たして、この試練の間はどんな難題をこちらに突き付けてくるのだろうか。楽しみであり、不安であり……まあ、楽しみの方が遥かに勝るけどな。
◇
――ブブブブ!!
「はあっ!」
――ズバッ!!
――ブブッ!?
――ズザザザザ……
飛翔突進してくるラッシュビートルを余裕を持ってかわし、すれ違いざまに三条さんが斬りつける。片方の羽をあっさりと斬られ、揚力を保てなくなったラッシュビートルが地面へと着地していった。
「ハァッ!」
「きぃっ!」
――ドドドッ!!
――キラキラキラ!
――バキッ!
――ブブッ!?
動きが止まったそこへ、ハートリーさんの水弾とヒナタのホーリーブレスとが重ねられていく。ファイアブレスだと打ち消し合ってしまうので、ヒナタが自主的に光属性へブレスを切り替えていた。本当に賢い子だよ……。
「しっ!」
――ドスッ!
――ブブッ!? ブッ、ブッ……
ダメージを重ねられ、水弾でさらに羽をもがれ……既に満身創痍だったラッシュビートルへ、三条さんの攻撃が加えられる。
狙いはもちろん、弱点の背中。既に弱っていたラッシュビートルに、それを耐えられる道理も無く……一瞬痙攣した後、白い粒子へと還っていった。
「ふう……ラッシュビートル戦も慣れてきましたね」
「そうだな、もう大丈夫だろう」
危なげない勝ち方だ。羽を落として機動力を奪い、さらに弱点を露出させてそこに集中攻撃を仕掛ける……【風刀士】のギフトを持ち、身軽な三条さんだからこそできる芸当だろう。己の強みを最大限活かした、実に無駄の無い戦い方だ。
「ランク3の武器があれば、もっと楽なのかもしれませんが……今はやめておきます」
「それでいいさ。強い武器に慣れてしまうと、ラッシュビートルよりももっと強くて、ゴリ押しで倒せないようなモンスターが出てきた時に詰みかねない」
「そうですね……はい、私もそう思います」
一応、アイテムボックス内に大量のランク3装備珠があることは三条さんに伝えている。必要ならいつでも譲るとも言ったが、三条さんはあまり乗り気ではなかった。
……やはり、三条さんと俺は考えることが似ている。楽に慣れると考えることを放棄しかねないからだろう。今あるものを最大限活用して、状況を打開するためにはどうすれば良いか常に考えることがリーダーには求められてくるからな。
そういう意味では、アイテムボックスも少しは封印した方がいいのかもしれないな。これこそ便利の極致であり、ある意味で俺の探索者人生の根幹を成すものだが……あまりに便利過ぎて、最近はこれ有りきの探索ばかりしている気がする。
まあ、とりあえず先見の明があったということで、過去の俺は褒めておこう。物資の持ち込みやドロップアイテムの持ち出しがいかに大変なことか、第1層でうろついていた時から予想して動けたからこそ、今こうして俺は恩恵にあずかることができているのだから。
ただ、最悪の事態を想定すると結構マズい状態でもある。万が一俺が倒れれば、全ての物資を一気に失ってしまい……残ったパーティメンバーが、直ちに不利な状況へと追いやられてしまうのだから。
うむむむむ、どうにかならないかな……。
――ブ……ブ……
「……おっと、考え込んでる時間は無いな」
次のラッシュビートルの音が聞こえてきて、思考の海から意識が持ち上がる。うむむ、これは良くないな……気を付けなければ。
「第7層目指して移動しようか。全員、それでいいか?」
「「はい!」」
「きぃっ!」
「よし、行くぞ」
次の大木を目標に、道を進む。地図を作りながらの前進になるが、亀岡ダンジョンの時とは魔力量も慣れも全然違う。
この調子なら、3日後くらいにはゴブリンジェネラルまでたどり着けるだろう。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。