4−37:柳に春風
――ヒュッ!
「「「……ギャギャ?」」」
微かな風と共に、三条さんがゴブリン共の向こうに姿を現す。この時点で、ゴブリンは既に……。
「……終わりです」
――ズバッ!
「「「ギャギッ!?」」」
胴体を深く切り裂かれ、ゴブリン3体がその場に倒れ込む。魔石に変わっていくゴブリンを横目に、三条さんが刀を鞘に納めた。
……三条さんが絶好調だ。斬られたモンスターは、斬られたことに気付かないまま次々と倒れていく。俺のオートセンシングはレーザーを使っている関係上、曲がり角の向こう側にいるモンスターは検知できないのだが……三条さんの風は変幻自在、測定可能距離は俺より短いようだが、道の形に関係なくモンスターを検知できる。どちらも一長一短があるのだ。
「ハートリーさん、あそこだ!」
「シィッ!」
――ドスッ!
「キィィッ!?」
そして、ハートリーさん。彼女はまだ水蒸気の扱いに慣れておらず、それを用いたモンスター検知は実用的とは言い難い状態だ。ゆえに、俺と三条さんがフォローする形で隣に付いている。
「うん、コツ掴めてキタヨ〜!」
ただ、第3層にたどり着くまでにハートリーさんの検知能力は確実に向上していた。最初は手の届く範囲程度しか検知できなかったのが、徐々に徐々にその距離を増やしていき……今では、半径3メートル圏内が検知可能範囲となっている。奇襲を防ぐにはまだ距離が足りていないが、ハートリーさんの成長速度を見るにそのうち解決するような気がしないでもない。
それに、思わぬ副産物もあった。水蒸気を操る術を身に付けたためか、ハートリーさんが放つ魔武技の威力や命中精度が明らかにアップしたのだ。ハートリーさん本人も、以前より水を操るのが楽になったと言っているので影響は多分にあったのだろう。
「リンちゃん、いい感じね」
「そ〜ヨ〜! ミスター・オンダには感謝カンシャね〜♪」
「ふふっ、そうね♪」
2人して、意味ありげな流し目でこちらを見てくる。果たして、その視線に乗っているのは単なる感謝の気持ちなのか、それとも……?
「まあ、2人が探索者としてレベルアップしていくのは俺のためにもなるしな。そもそも、強くなれたのは君ら自身の頑張りによるものだ。俺への感謝は不要だよ」
2人が自ら課題に取り組み、自ら探索者として成長していっている以上……そこに、俺の貢献は存在していない。全ては本人たちの努力による賜物であって、俺が成長させているわけではないからな。
それに、どうせパーティを組むんだったら誰しも有能で信用できる探索者と組みたいだろう。俺も三条さんやハートリーさんのように向上心があって、かつ信用できる人とだけパーティを組みたいと考えている。それが実現しているだけでも、俺にとっては十分すぎるのだ。
「……ふふっ、なるほど。これは朱音さん、良き人を捕まえましたね」
「良き人ダネ! ミスター・オンダ!」
おいおい全部聞こえてるぞ、ハートリーさん意味分かってないだろそれ。
……まあ、朱音さんにとっての良き人に俺がなれてるんだったらいいけどな。外行きの顔はやや険しい朱音さんが、俺に対してはちゃんと喜怒哀楽を見せてくれるから今のところ大丈夫……と思いたい。
「ま、そうであるようにこれからも心掛けるだけさ。
……さて、そろそろ第4層が近付いてきた。全員準備してくれ」
「「了解!」」
「きぃっ!」
三者三様に答えが返ってくる。
……今回、第4層については真正面から攻略しようと考えている。道中で三条さんとハートリーさんには軽く説明したが、フラッシュでモンスターの動きを止めた後に遠距離攻撃を連発する攻略方法だ。
2人とも風や水を意識して操り始めたことで、元々使っていた技にも好影響が出始めている。そんな今の内に数をこなし、良い感覚をしっかりと体に覚え込ませるべきではないかと考えて提案したのだが……二つ返事で了承してくれた。
さて、いきますか!
◇
「……皆、準備はいいか?」
「「……はい」」
「……きぃ」
10段ほど上がった場所で、4人固まって待機する。既に準備は整い、後は俺が駆け下りるのみとなっていた。
「……最初の流れは、打ち合わせた通りにいくからな。頼むぞ、2人とも」
「「…… (コクッ)」」
「……ヒナタは、フラッシュ後は遠くのモンスターから狙い撃って欲しい。頼むぞ」
「……きぃ」
「……よしっ!」
一気に階段を駆け下り、フロアに下り立つ。フロア中にいるモンスター共の視線が、一斉にこちらを向いた。
「食らえ、"フラッシュ"!」
――カッ!!
「「「「ギャァァァ!?!?」」」」
「「「「ギィィィィッ!?!?」」」」
「「「「キィィィィッ!?!?」」」」
強烈な閃光を浴び、モンスター共の悲鳴がフロア中にこだまする。もはやルーティンワークと化した流れだが、ここからが少しだけ違う。
「……今だ!」
「はい!」
「行くヨ〜!」
「ヒナタ、頼む!」
「きぃぃぃっ!!」
閃光が止んだタイミングを見計らい、2人を呼ぶ。ヒナタは俺の肩を蹴り、天井付近まで一気に舞い上がった。
「"アクアスパイク"!」
――ビュッ!
――ドドドドドドドド!
「「「「ギャァァァッ!?!?」」」」
「「「「ギィィィィッ!?!」」」」
「"風翔斬"!」
――ヒュッ!
――ズババババババッ!!
「「「「ギャッ!?!?」」」」
「「「「ギィッ!?!?」」」」
「きぃっ!」
――ゴォォォォ!
「「「「キィッ……」」」」
「「「「ギィッ……」」」」
「「「「ギャッ……」」」」
そこからは一方的だった。ハートリーさんの槍から水弾が飛び、三条さんの刀から風刃が舞い、ヒナタの放った炎が踊り……みるみるうちに、モンスターの数が減っていく。
「アハハ、タノシイネ〜〜!!」
特に、ハートリーさんがとてもイキイキとしている。やはり攻めている時が、彼女は一番楽しいのかもしれない。
……まあ、俺も正直なところ第4層でライトニング・ボルテクスを撃った後は、爽快な気分に浸ってるからな。たまには魔力を気にせず、魔法やら何やらを全ブッパしてみたいものだ。
「……お?」
そうこうしているうちに、モンスターの姿がどこにも見えなくなった。大量の魔石や装備珠が床に散らばり、光が反射してキラキラと輝いている。
「では……"コレクトネス・トルネード"」
――ゴウッ!
――ゴロゴロゴロ……
すかさず、三条さんが魔法でドロップアイテムを集めてくれた。アイテムが俺たちの足元まで転がってくる。
……うーん、アイテムボックスを使いたい衝動に駆られるな。今まであまり気にしていなかったが、使えないとなると色んなことが面倒に感じてしまう。
今だって、お昼ご飯やドロップアイテムをリュックの中に入れてきている。探索者歴もそれなりに長くなってきたので、この程度でもうへばることはないが……ドロップアイテムが増えてくると嵩張るし、重さで体力を余計に消耗するのは変わらないのだ。
「………」
探ってみたが、三条さんとハートリーさん以外に人は居ない。探索を始めるにも、深層から戻ってくるにも中途半端なタイミングなのか、横浜ダンジョンでは珍しいことに人があまり居ないのだ。
「……よし、ちょっといいかな」
「……? どうしましたか、恩田さん?」
アイテムを拾おうとしていた三条さんが、手を止めて聞いてくる。
「2人を信用して、俺の秘儀を見せようと思う。"アイテムボックス・収納"」
――ヒュッ
「……え?」
山盛りのドロップアイテムが急に4分の1ほど消えて、三条さんが呆気に取られている。
「"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"、"アイテムボックス・収納"……よし、これで全部入ったな」
「えっ……えっ?」
「消えタ……?」
全てのアイテムを収納する。そうしてから、2人の方へと向き直った。
「アイテムボックス……まさか、無限収納ですか?」
「ああ、そうだ。魔石に装備珠に装備品、食料や水の運搬まで何でもござれだ。時間を止めたり保管温度を調整したりはできないようだから、保存の利かない食べ物だと腐ったりする可能性はあるけどな」
幸いにも腐らせてしまった物は無いが、アイスクリームを入れてしばらくしてから取り出したら、ドロドロに溶けた物が出てきた時は泣けたな……ああ、忘れてたって。
「食事や水はたっぷり用意してあるから、足りなくなったらまた言ってな? あと、このことは内密に頼む」
「は、はい、分かりました」
「……うン、秘密にしまス」
「きぃっ」
とりあえず、釘だけは刺しておく。
「んじゃまぁ、次の階層にささっと行こうか」
第5層の地図も既に押さえてある。第6層にはすぐ行けるだろうさ。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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