幕間5:人間びっくり箱・恩田高良を見る目(1)
(嘉納尚毅視点)
「今日はありがとうございました。それでは、また」
「ああ、またな」
エレベーターに乗る恩田さんとヒナタを、エントランスフロアにて見送る。彼らの宿は横浜ダンジョンビル内に用意してあるので、そちらに向かってもらったのだ。
……ここ横浜ダンジョンビルには、滞在者用の宿泊設備が併設されている。数は男性用30室、女性用30室とそこそこ多いが、夜勤スタッフや宿直スタッフ用の休養室も兼ねているのでこの数になっていたりする。24時間態勢を取るというのは、とても大変なことなのだ。
「……はぁ」
今日だけで、恩田さんには一体何度驚かされたことか。
遠く亀岡は権藤局長からもたらされた、意味不明な報告を持永局長経由でこれまで何度も聞いた。その発信源たる恩田さんが横浜ダンジョンに来ると聞いて、一体どんな人物なのかと身構えていたのだが……実際に会って、よく分かった。
本人は至って常識人なのに、やることなすこと非常識……コホン、発想力豊かで独創的なことが多すぎるのだ。ブルースライムの核を抜き取ったり、透明なモンスターを撃ち抜いたり、第4層のモンスターを全滅させたり……そして、その結果を見ると信じられないようなスコアを叩き出している。
特に驚いたのは、透明なモンスターをいきなり撃ち落としたところだな。目では見えない敵を察知する……魔法で実現しているのだとは思うが、一体どういう仕組みなのか皆目見当も付かない。しかも常時発動型っぽいのに、燃費が良いのか残魔力量の管理に苦労している様子が全く見えなかった。
第4層〜第5層での恩田さんの立ち回りにも驚いたな。第4層では超広範囲に攻撃を仕掛ける【雷魔法】を放っておきながら、第5層ではグレイウルフを【火魔法】連発で一掃していた。ガス欠という言葉を知らないかのような戦いぶりに、遥花と2人苦笑するしかなかったよ。あれで半分も魔力を使っていないと言うのだから、恩田さんの継戦能力はもはや異次元という他ないだろう。
「………」
とは言え、ギフトには必ず短所が存在する。俺の【怪力乱神】に、実は魔法を一切使えなくする効果があったり……遥花の【賢者】に、攻撃魔法以外の魔法の効力を大きく減衰させる効果があるように。恩田さんの【資格マスター】にも、そういった短所がある可能性は高い。
第5層までだと目立たない短所、か……魔法の威力が総じて低いとか、そういう類のものかもしれない。弱いモンスターが相手だと気にならないが、ラッシュビートルのように守りの固い相手だとなかなかダメージが通らないのかもしれないな。
もっとも、恩田さんは戦歴も相当なものがある。変異モンスターを何体も倒してきている以上、そういった弱点もなにかしらの方法で克服していると見るべきだろうな。
「……まあ、いずれにしろ」
恩田さんは、日本における現行トップクラスの探索者だ。それは間違いない。第15層以降の戦いでも通用するだろう。
……できれば、恩田さんの力も借りてダンジョン最深部へアタックしたいところだ。2人ではちょっと厳しくなってきたからな……まさか、強敵より搦め手の方に足止めを食う羽目になるとは思わなかった。俺たちも、サポートができる3人目の仲間を入れるべきだろうか。
その辺り、おいおい考えていかないとな。
◇
(三条美咲視点)
やっと、やっとまた会うことができました。あの時、私たちを助けてくださった方に……!
あの時の私たちは非常に切羽詰まった状況でしたけど、それでも命の恩人の顔を忘れるわけがありません。感謝の念をお伝えすることができず、悔しく思っておりましたが……まさか、横浜ダンジョン留学に来て再会することになるなんて!
「……〜〜〜!」
横浜ダンジョンビルの中、お借りした宿泊スペースの中で1人嬉しさに悶えますが……ここは、この先2週間の夜を過ごす場所。きれいに利用しなければなりませんね。
「………」
それにしても、あの方は恩田高良さんというお名前なのですね。亀岡ダンジョンということは京都の方、萱人さんのご実家がある場所です。これもまた、運命なのでしょうか?
そして、なぜあの時恩田さんが鶴舞ダンジョンにいたのか疑問に思っていましたが……まさか、第5層の藪の向こうが別ダンジョンに繋がっているとは。私では途中で魔力が尽きてしまうので真似できませんが、圧倒的な継戦能力を持つ恩田さんだからこそできることなのでしょう。それで命を助けて頂いたのですから、感謝しかありません。
そして、私にとっては更に嬉しいことに、探索者としてのレベルアップも果たすことができました。しかも、きっかけは恩田さんの一言……これまで魔力を余らせがちだった私にとっては、目からウロコの方法でした。
探索者の強みとは、決してモンスターを打ち倒す能力だけに留まらないのだと……そう、恩田さんから教えて頂きました。ふふ、少しは恩田さんを驚かせることができたでしょうか?
「……恩返し、したいですね」
しかし、私から何をお返しできるのでしょうか? 操は萱人さんに立てていますので、お渡しすることはできませんし……。
……う〜ん、やはり探索者として恩田さんのお力になることしかできないのでしょうか? 現状では一方的に頂いてばかりですので、お返ししきれるのかどうか分かりませんが……なんとなく、恩田さんなら「そんなの気にするな」と言って頂けるような気もします。
しかし、それでは私の気持ちが収まりません。頂いてばかりでは、三条家の一員としての沽券にも関わります。
……時間は、まだあるように見えてそこまで残ってはいません。この留学の間に、どうにかして答えを見つけなければ……!
「……そうだ」
今、おそらく恩田さんはフリースペースにおられるはず。ハートリーさんに勉強を教えるのだとか……。
……なんでしょう、この心のモヤモヤは。
……羨ましい? 確かに、そうかもしれませんね。ならば。
「私が行っても、いいですよね?」
ハートリーさんだけは、ずるいです。
◇
(リンダ・ハートリー視点)
日本に行って、探索技術を学んでこい。
……リーダーからそう言われたのが、大体2ヶ月くらい前のこと。そこから、あれよあれよと言う間にパスポートが準備されて……いつの間にか、私は日本へと飛び立つことになった。
日本という国に、私は元々興味があった。サムライの国、ニンジャの国、ヤ◯ザの国、アニメの国、マンガの国……聞いたことのある単語を繋ぎ合わせても一体どんな国なのか想像できず、かと言ってアニメやマンガに触れられるほど、子供の頃は裕福じゃなかった。なので、私の中の勝手なイメージだけがどんどんと膨らんでいった。
そんな憧れの国に、これから行ける。探索者として一旗揚げ、日本語で作られたアニメやマンガもお金を気にせず見られるようになった私だけど……まだ見ぬ神秘の国に行けるとあって、とても高揚していた。今回行く場所は横浜ダンジョンだけど、もし時間があれば世界初のダンジョンストリーミング配信を実現した亀岡ダンジョンにも行ってみたいと考えていた。
……拍子抜け、とまではいかないけれど、日本は私の想像していた国とはだいぶ違っていた。サムライが刀を佩いて闊歩したりしていないし、ニンジャ……は忍んでいるから分からないとしても、ヤ◯ザがそこらで戦っていたりしない。とても綺麗で、洗練されていて……でも、どこかよそよそしさを感じる国だった。
幸い、ある程度の日常会話ができるだけの日本語は身に付けられていたので、空港から横浜駅近くまではなんとかたどり着けた。前日入りして時差ボケを直した後は、日本国内から来たミズ・サンジョウと一緒に持永局長に挨拶して……。
「はい、持永局長。俺は京都の亀岡ダンジョンから来ました、恩田高良といいます。ギフトは【資格マスター】です、よろしくお願いします」
ストリーミング配信実現の立役者、ミスター・オンダが横浜ダンジョンにいた。あまりに興奮し過ぎて、なんか色々と暴走してしまった気が……。
でも、横浜ダンジョン留学は学びがあるだけでなく、とても楽しくなりそうな……そんな予感がした。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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